民間主導の自律的な経済成長は、アベノミクスの恩恵を受けた一部の家庭と企業が消費や投資を増やすだけでは難しい。偏る富を広く行き渡らせ、全体を底上げするために、税制の「再分配」機能を生かす視点が欠かせない。

 そう考えると、政府・与党が決めた税制改革には疑問符をつけざるをえない。

 まず、贈与税の非課税枠の拡大だ。

 13年度に創設され、「孫への贈与」と話題になった教育資金贈与の期限の延長に加え、結婚や出産、子育て向けの新たな非課税枠を設ける。住宅資金用の特別枠も大幅に広げるという。

 社会の一線を退きつつある世代がため込んだ資産を、何かと物入りな現役世代に移せば、消費を増やし、足元の経済の活性化にはつながるだろう。

 しかし、こんな富の移転では豊かな家族とそうでない家族の差は広がる。国民全体を支える政策の財源を確保するという税本来の目的にもそぐわない。

 企業への課税も心配だ。

 安倍首相の強い意向を受けて、企業の利益に課税する法人税(国税)を中心に実効税率を2・5%強、1兆円規模で減税する。それをある程度穴埋めするため、法人事業税(地方税)の外形標準課税を強化する。

 外形標準課税は、利益ではなく人件費の総額や資本金など「企業の大きさ」に基づいて負担を求める仕組みだ。現在は全法人の1%、資本金1億円超の企業が対象だ。赤字でも税金を納めることになるため、赤字法人課税と言われる税制である。

 今回の改革では、対象は広げずに外形課税を強める。法人税の減税と合わせれば、利益を出している企業の負担は軽くなり、稼げていない企業は負担増となる。

 企業にも、社会の一員として損益にかかわらず負担を求めることは必要だ。ただ、来春の統一地方選を意識して中小企業への適用拡大が検討すらされないなど、全体像を欠いた小手先改革の感が強い。

 足元では、輸出型製造業など一部の大企業に利益が偏っていることが課題なのに、それを助長することにならないか。

 安倍政権は、減税によって経済を活性化させようとする姿勢が強い。しかし、持てる家庭や企業からしっかり税金をとり、さらには予算編成を通じて、再分配を意識した政策運営を心がけることも大切だ。

 それが国民の暮らしを支え、経済全体を成長させるのではないか。