遊戯王GX-漆黒のパペットマスター- (スターリン)
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前回のあらすじ。

鮎川先生に勝利しました。おわり。

……うーん、この。
内容は濃かったはずなのに書く事がないと虚しくなりますね。

それでは、本篇をお楽しみください。



Turn.5 「初授業と覗き少年」

ふぅ、なんとか勝ったか。
まったく、こいつとのデュエルは本当に疲れる。レフィキュルだけでここまで追い詰められるのだからな。

「あーあ、負けちゃったわ」

欧米人のように手を広げて間の抜けた声を漏らす恵美。
デュエルの腕はこんなにいいのに、なぜ評価されない。あのとき私は、何回も大会のお偉いさんにそう詰め寄っていたな。
本人はまったく気にしていないらしいが、私はそれが悔しい。

「正直、危なかった。おまえのドロー次第では、負けていたぞ」
「そんなこと言っちゃって。手札はあんなにいっぱいあったじゃないの」
「見るか? 私の残りの手札を」
「……いえ、遠慮しとくわ」

性格悪い奴め。
いや、実際に私の手札には対抗手段は無かった。
3枚目の『ギフトカード』や『運命の分かれ道』とかを引かれていたら間違いなく負けていた。

「ま、久しぶりに楽しめた。これから始まる教師生活の準備運動にもなれたしな」
「あら、クロノス教諭と万丈目くんともデュエルしたじゃない」
「クロノスはともかく、万丈目なんぞただのひよこだ。体操する前のただの深呼吸で倒せる」
「手厳しいわね。さすがデュエルモンスターズのご意見板さん。辛口評価も的を射ているわね」
「ふん、おまえこそ手厳しい奴だ。……さて、諸君どうだった? これが教員同士のデュエルだ。プロの世界のレベルも大体こんなもんだ」

にやりと笑ってそう言い放つ。
そう。こんなデュエルはプロの世界で何度でも見れる。そして、何度もこういうギリギリのデュエルで競い合うのだ。

「明日から授業だ。全員身体を休めて万全な状態で授業に臨むように。そして、私と恵美のサプライズプレゼントを見てどう感じたか、各自考えて今後役立てるように。――以上、解散だ」

パンッと叩くと一瞬生徒全員がびくりと肩を振るわせ、おどろおどろとこのデュエル場から立ち去って行った。

「私達も戻るぞ、恵美。明日から私は教員だ」
「うっふふ、そうね。貴女のことだから大して心配はいらないと思うけど、まぁ、頑張ってね」

笑いながら言う恵美。失敬な。私だって若干は緊張しているのだぞ。
解説者をしていたから教えるのが上手いと思うが、それをわかりやすく、簡単に教えるとなるとだいぶ変わる。
私の実況は主にプロリーグのメジャー全般。
高レベルのデュエリスト達の前だから多少難しい表現や専門用語を使っても問題は無かったのだが、明日から私が解説するのは、殻が割れて生まれたばかりのひよっこデュエリストだ。難しい表現を使っても「?」となって終わりだ。
生徒達にわかりやすく教えるための方法はたくさんあるが、どれが一番適しているのかは正直なんとも言えない。誰もがみんな、同じやり方で理解してくれるはずがないのだからな。

「恵美、悪いが少し相談に乗ってくれ」
「ご意見板から相談を受けるなんて鼻が高いわ」
「そう言ってくれるな。付き合え」
「はいはい」

私たちはその後、どのように教えればいいか風呂で徹底的に議論した。
2時間の末結局、「私がやりたいようにやる」で集結した。はっきり言おう。無駄な時間だった。


――次の日


「授業だ。全員いるな、席に着け。出席表を配るぞ、受け取ったら後ろに回すように。それから、この授業は必修科目『初等デュエル学』だ。教室を間違えた者は速やかに退出するように」

明朝9時。
最前列に座っている生徒達にある程度の出席表を渡し、私は壇上に立つ。ふむ、ここから見る景色はなかなか良いな。こうして生徒全員を見渡すことが出来る。
どんな表情で、どんな態度で、どんな覚悟で授業を受けようとしているのかよくわかる。
大体の人間は真剣だが、遊城は結構余裕そうな顔をしている。……あいつ、確か筆記試験110位だよな?

「初回ということで、1限はチュートリアルのみ行う。説明終了後、各自自由行動を許可する。好きにするがいい。――ただし、今の時間で問題行動を起こした場合は即座に減点する。よく注意して聞くように。なに5分ぐらいで話は終わる」

まずは私の話を聞くようにしなければな。今から言うことは重要なことなのだ下手したらこれを聞かないだけで欠格点を取ることになる。そんなにバンバン落としたいわけではないからな。
ほとんどの者が聞く姿勢を整え、メモを取ろうとペンを握ったところで私は話し始める。そうしない者がいる? 知らんそんな奴は。勝手に落ちろ、時間の無駄だ。

「さて、まずは自己紹介だな。エルシャドール・クロウリーだ。クロウリー先生と呼ぶように。改めて確認するが、この授業は必修科目『初等デュエル学』だ。間違いはないな? 1年生全員とその他落第生は強制的にこの科目を受講してもらう。授業は毎週月曜日の1限と2限だ。よって、2つ連続した授業となっている。ま、それだけ重要な授業だということだ」

正直、この授業を2つ連続にしたのは正解だな。
チェーン処理・スペルスピード・「時」と「場合」の違い・「強制」と「任意」の違い・「チェーンブロックを作る特殊召喚」と「作らない特殊召喚」の違い・「コスト」と「効果」の違い・バトルフェイズの一連の処理など、厄介な基礎知識を目一杯ここで覚えてもらわなければならない。

「成績は原則、最終期末試験と実技試験によって決定する……が。それでは少々厳しいものになると思うので、授業中に平常点を設ける。よって、この授業は加点減点方式で行う」

よく聞いておけよ。私の授業は楽だが厳しいぞ。

「まずは加点。この授業中、私は誰か1人に質問し、答えられれば5点加点する。答えられなくても減点はしないし、間違えていても怒らないからリラックスしながら答えろ。それから、授業中の有意義な質問をした生徒にも5点加点する。とにかく質問しろ。私の授業は質問すればするほど点数が加点されて行くぞ。そして出席点。出席1回につき3点の加点をする」

まぁ、出席点は質問しない引っ込み思案な奴への救済手段だ。全部出席して、減点されなければ落第はあり得ない。

「次は、減点だ。これはたった1つだけだ。――授業中の問題行為。居眠り、雑談など授業妨害とみなされる行為、そして忘れ物と遅刻をした場合はその時点で減点する。シンプルだろう? 肝心の減点数だが……1回につき20点だ」

ざわっ……。
20点。
この巨大な減点数を聞いた生徒達は全員目を見開く。良いリアクションだ。

「覚悟しておくことだ。私はおまえたちの顔と名前は事前に頭に叩きこんである。舐めてかかると落第させるからな。以上だ」

厳しく言っているように聞こえるかもしれないが、当然のことだろう。
妨害するようなはた迷惑な奴にやる点は減点しかないし、遅刻・忘れ物などやる気の無いことをする奴にもやる点は無い。
無断欠席は別に何もしない。サボりたきゃ勝手にサボればいい、加点も減点もせん。最終期末試験の点だけで判定を出すだけだ。

「安心しろ。授業を真面目に出て、筆記・実技ともによほど酷い点数を取らない限り落第はあり得ない。まぁ、気軽に話を聞きながらメモを取ってもらえればいい。続いて、授業の方針だ。全員、教科書は貰っているな? 机の上に出せ」

私が教科書を出すように指示を出すと、全員教科書を取り出した。……ふむ、全員持ってきているようだな。

「私の授業は教科書に沿って行う。毎回授業の終わりにやった単元の確認テストを行うが、その点数が何点であろうとも一切加点減点はしない。あくまでも、『確認』テストだからな。授業内でどれだけ理解できたかを確認しながら取り組むように。それからもう1つ、諸君には非常に申し訳なく思っているが、時々私は解説者として仕事に出る時がある」

解説者としての仕事は一応まだ続けさせてもらっている。
時々試合を見て、どんな環境なのかを見たいからな。しかもありがたいことに、そのことにはペガサス様も海馬社長も了承していただいている。

「なるべく授業とは違う日に出かけることにするが、どうしても駄目な場合は臨時としてクロノス教諭が授業を担当する。また、実技試験は毎月第1月曜日の1・2限目にフリーデュエル場で行う。遅刻せぬよう気をつけるように。――チュートリアルは以上、よって授業はこれで終わりだ。出席表を私に提出したら、残り時間は好きにするがいい。それから2限目は普通に授業をするから、時間になったら席に着いていること。いいな?」

この後。
職員室に戻った私は、教頭であるナポレオンに「授業をたったの5分で終わりにするなんて、どういうことなのデアール!」と叱られた。そんなの知らん、私の匙加減だろうが。2限はしっかり授業をやるし別にいいだろ、サービスだ。それに私は今から今日の分の確認テストを作らねばならんのだ、話しかけるな。というかデアールデアール五月蠅い。おまえは某影探偵の怪盗か。
まったく。なぜ、この学園の教師はどいつもこいつも癖のある奴ばかりなんだ。海馬社長の人選ミスか?


――――・――――・――――・――――


キーンコーンカーンコーン……

「うむ、時間だ。席に着け」

2限目。
全員この教室から出なかったらしく1限目と同じ席に座っていた。……ふむ、開幕堂々とサボろうとしている者はいなくて結構だ。

「教科書9ページだ」

今日のやるところは……これか。

「項目、『カードの種類』だ。基本中の基本ではあるが、少しでも理解に欠けると痛い目を見る重要な項目だ。この授業でしっかり身につけるように」

さて、早速だが質問してみようか。そうだな……あいつでいいか。

「遊城十代」
「え、ええ!? 俺!?」

名指しされた遊城は驚きながらガタッと席から起立する。

「そう困った顔をするな、簡単な質問だ。――デュエルモンスターズのカードは、大きく分けて3種類ある。なんだ?」
「……あ、ああ、そんなことか。『モンスターカード』『魔法カード』『罠カード』の3種類だぜ」
「うむ、その通りだ。座って良し」
「は、はぁ……よかったぁ……」

遊城は安心したようにホッと胸を撫で下ろし、席に着いた。私は手に持っていた名簿の「遊城十代」の段に+5と記入する。

「デュエルモンスターズのカードは大きく分けてその3つだ。そしてそのカード達によってデッキが構成され、千差万別の戦術を生み出す。基本的にモンスターが5割、マジックカードが3割、トラップカードが2割の割合で構成されたデッキが、最も安定すると言われているな。――それでは質問だ。……三沢大地」
「はい」

黄色の制服を着た男子生徒を名指しすると、そいつはいい声で立ち上がった。
あいつは三沢大地。
高等部からの入学試験で筆記満点の堂々の1位通過した秀才だ。デュエルタクティクスは実にスタンダードな堅実型で、まさに基本を抑えたしっかりしたものだった。

「なぜ、この比率が最も安定すると言われている? 少し難しいが答えられるか?」
「はい。モンスターは相手モンスターを倒したり、相手にダメージを与えられやすいカードであり、自分の勝利を引き寄せるカードです。ですから半分ほど入れて確実に戦闘を行える状態にする必要があります。そしてそれらをサポートしたり、妨害したりするのが魔法カードと罠カードです。しかし、罠カードはあくまでも相手の妨害専用のカードが多いため、自分のカードをサポートする魔法カードの方に軍配が上がり、結果的に5:3:2の比率が最も安定すると定義されるからです」
「……ほう」

驚いたな、見事な回答だ。流石、筆記試験1位の名は伊達ではないということか。
私は彼に対して軽く拍手をした。

「素晴らしい。よく、答えられた。座って良し」
「はい! ありがとうございます!」

三沢は私に褒められたことが嬉しいのか、少し大きな声で礼を言ってきた。……教師なら、良く出来た生徒に対して素直に褒めるのは普通のことだと思うのだがな。

「大方の説明は三沢の言う通りだ。教科書には次の項目の『デッキ構成』で記述されているから、次回授業でもう1度確認するように。さて、まずはモンスターカードについて説明していこうか。モンスターは、『通常モンスター』『効果モンスター』『儀式モンスター』『融合モンスター』の4つに分類される。特に理由が無い場合は効果モンスターを使うのが望ましいと言われているが……では――」

こんな感じで授業を続けていった。
そしてこの日の夜、とある事件が起こった。


――――・――――・――――・――――


「……おまえたち、なにをしているのだ?」

夜9時半頃、見回りで女子寮周辺を歩いていると、天上院とその取り巻き2人が、遊城の舎弟である眼鏡の少年をロープでぐるぐる巻きに縛るというなんとも奇妙な光景に遭遇した。あいつはたしか、丸藤翔。帝王(カイザー)と呼ばれている丸藤亮の実の弟だったな。

「あっ、先生!」

取り巻きの1人……枕田ジュンコが、反射的に私の名前を結構大きな声で呼ぶ。すると縛られている丸藤は「終わった……」と諦めたように顔をしょぼんとさせる。……ふむ、この状況はズバリ。


「見るからに草食系の男子を拉致した挙句、縛りあげて青○プレイに興じようとしていたのか」


「「「「ぶっ!?」」」」

私の名推理に何故か天上院たちは吹きだしてしまうが、まぁ無視だ。今はこの天上院のけしからん行為に喝を入れなければな。
私は腕を組んで説く。

「天上院、枕田、浜口。おまえたちにそんな趣味があったとは知らなかったぞ、青春だな。だが、○姦プレイはやめておいた方がいい。他人に見つかるかもしれないというスリルに興奮する気持ちはよく解るが、それでもやはり誰かに見つかった場合は大変だ。ああ、そうか。だからおまえら3人交代で周囲の様子を張ろうとしていたのか。頭いいな。だがそれでも、それでもだ。青○プレイはあまりムードも良くない上に、夜風に当たって体を壊すかもしれないというリスクまで付く。私も旦那と1回だけヤッたことがあるのだが、次の日には見事に2人仲良く風邪を引いてしまったものだ、うむ。おっと、話が逸れてしまったな。いいか? つまり私が言いたいのはな――」
「ストップストップ! 先生ストップ!」
「なんだ?」

折角私が青○プレイの恐ろしさというものをレクチャーしているというのに、なぜ止める天上院。

「違います先生! そ、そのあ、あ、あ、あ、青っ……じゃないんです!」
「なんだと?……ふむ、どうやら私の名推理は外れてしまったようだな」

結構自信があったのだがな。

「では一体どうしたのだ?」
「それは――」
「覗きですわ!」

天上院に変わってもう片方の取り巻き、浜口ももえが丸藤を指差して言う。…………。

「ほう」

ギロッと私は丸藤を睨むと、そいつはびくりと肩を震わせた。

「なるほど、ここから少し向こうに行ったところには風呂場があったな。それが目当てだったのか、青春だな。――しかし、この私が寮長をしている女子寮でそのような行為をした場合どうなるか……解っているよな?」
「ち、違うっス! 僕は!」
「ほう、なにか言い分でもあるのか。言ってみろ」

なにやら言いたいことがありそうな顔で訴えて来たから、私は丸藤に話すように促す。しかし、丸藤は身体を強張らせて固まってしまった。

「……なにも言わないのか? ならばそういうこと(・・・・・・)で報告させていただくが、それでもいいか?」

丸藤はさぁっと顔を青くさせ、なぜか失神してしまった。これでは調書は取れんな。

「まったく、大人しそうな顔に似合わずわんぱくなガキだ。明日にでも校長に報告して処分を下してもらうとしよう」

私は丸藤を担ぎ、天上院たちの方を向く。

「こいつは私がレッド寮に運んでおく。もうこんな時間だ、おまえらは自分の部屋に戻って寝支度でもしていろ」
「あ、あの……そのですね」
「――翔!」
「む?」

気のせいかここに居ない筈の少年の声が聞こえ、その方を見ると、そこには1人ボートを漕ぎながら女子寮に向かってきている赤いジャケットを着た少年の姿が。……遊城か。

「翔! 助けに来たぞ!」

遊城はボートを岸に止めて降りると一直線でこっちに走ってきた。すると、丸藤を担いでいる私を睨みつけて来た。……ほう。教師である私にガンくれるとは、いい度胸じゃないか。

「あんたまで共犯だったのか!」

……は?

「なんのことだ」
「とぼけるな! 見ろよ、これ!」
「む?」

私は遊城が見せつけて来た学生手帳(携帯機能付き)を見る。そこにはメールで『翔は預かった。返して欲しければ女子寮までこい』と書かれている。……ほほう。

「天上院、こいつは一体どういうことだ?」

私は丸藤を降ろし、天上院たちの方に振り向く。彼女たちは「あちゃー……」と手を顔に当てながら面倒くさそうな顔をしている。

「見事に食い違っているぞ。丸藤が自主的にここに覗きに来たというのなら、こんなメールを遊城に送る必要はあるまい?……まさか。本当に青――」
「違います! 断じて違います! 訳をちゃんと説明しますからもうその単語を言うのをやめてください!」

顔を真っ赤っかにし、手を振りながら必死で訴える天上院。なんだ? なんか変なことを言ったか、私。
その後、天上院がどうしてこんなメールを遊城に送ったのかを事細かく聞かせてくれた。
要点だけ纏めると、丸藤が自主的にここに来たのは本当だが、それは天上院から貰った手紙に導かれたからという正当な理由だった。事実、丸藤の服のポケットからそれらしい手紙があった。しかし、その手紙を書いた張本人であるはずの天上院には全く心当たりがなかった。だから、これは誰かが丸藤に仕掛けた罠だということに気付いたが遊城とデュエルする口実としては丁度いいと考え、利用することにした。そのメールを送った直後に私が来て、こんなややこしいことになったということか。全くお騒がせな奴らだ。
それにしても誰だ、丸藤にこんな嘘っぱちラブレターを送ったのは。いたずらにしては度を越しているぞ。だが丸藤も丸藤だな。年頃の女子がこんな汚い字を書くわけ無かろう、明らかに野郎の字ではないか。……まぁいい。

「そういうことならば丸藤に罪は無いな。こんな時間にここに来た時点で処罰の対象だが多めに見てやろう。遊城もまた、正当な理由があってここに来た。無断侵入に関しても不問とする。しかし――」

ジロッと睨むと、天上院は覚悟していたような顔をする。ふむ、私に見つかった時の覚悟も承知だったようだな、いい度胸だ。

「――天上院、おまえは別だ。おまえには処罰を下す」
「ちょっと待ってください!」
「なぜ明日香様を……というより、なぜ明日香様だけなんですか!?」

枕田と浜口が、天上院のみに処分を下そうとしている私に反抗の視線を向ける。

「おまえたちは丸藤を痴漢と思ったから縛ったのだろう? ならばそれは正当防衛だ。理由がどうあれ紛らわしい行為をしていた丸藤にも非があるからな。だが天上院は違う。丸藤を縛っただけでなく、それを利用して私の許可も得ずに、こんな時間に遊城を私情でここに招いたことは列記とした規則違反だ。それに少しやり方が卑劣だな。騙されたとはいえおまえの為にやってきた丸藤に注意する権限はあれど、利用する権利は無い。そこらも踏まえて、女子寮寮長である私は公正な処罰を与えねばならん義務がある。なにか、間違ったことを言ったか?」
「う……」
「そ、それは……」

2人は私の言葉に縮こまり、なにも言えないでいる。

「言い返せんのなら黙っていろ。今、私は天上院と話をしているのだ」
「は、はい……」
「わかり、ました……」

天上院になにもフォローできずに悔しいのか、2人は肩を落として後ろに1歩下がった。引き際の良い、空気の読める奴らだ。良い友を持ったな天上院、大切にしろよ。
私は天上院の方に向き直る。

「さて、天上院。処罰の内容は――」

まっすぐ私を見る天上院との視線から、心配そうに私達とのやりとりを見守っている遊城のほうに視線をスライドさせ、ビシッと遊城に指を差した。いきなり指を差されて、遊城は自分の人差し指を向けて「お、俺っ!?」と驚いている。


「――今この場で、遊城とデュエルをしろ」


「「「「えっ!?」」」」

私が下した処分に、気絶している丸藤を除いた全員が目をまんまるにして驚いていた。だが私はそれをスルーし、背を向ける。

「以上だ。ではな」
「あ、あのクロウリー先生?」

処罰を与えられた当事者である天上院が立ち去ろうとする私に問いかけて来た。なんだ。

「い、いいんですか? 処罰がそれで……」

ん? ああ、そんなことか。私は悪戯な笑みを作って振り向く。

「もしおまえが、遊城に勝ったとしてもおまえにはなんの利益も無いだろう? 優等(ブルー)生がただの劣等(レッド)生に勝利した、それだけで片付けられる。だが……もしおまえが遊城に負けたとすると、おまえの1年女子のトップという称号に傷がつく。ハイリスクノーリターンなデュエルだ。これを罰と言わずになんと言う?」

「まぁ、最も」と私は続ける。

「おまえにその称号をどうでもよいものだと考えているとするならば処罰にならんから、別のものにしなければならないが……天上院。おまえは、その称号にプライドがあるよな(・・・・・・・・・・・・・・)?」
「!……は、はい……あります」
「ならば言うことに従え、口応えは許さん」
「……はい! わかりました」

さっきまでの緊張した顔はどこに言ったのか、天上院は笑顔で了承の返事を返した。全く、少しは苦しそうな演技をしろ。

「ではな諸君。今夜は冷えるからしっかり暖を取って寝るように」

私は今度こそ見回りの為に天上院たちに背を向け、右腕を振りながら歩き出した。
少し離れたところで、湖の上でソリッドヴィジョンらしき光が見えたような気がするが知らんな。季節外れの蛍かなんかだろう。




     ――To be continued…


はい、キケンな内容をなんの躊躇いもなく言いながらもキザなことを言うクロウリー先生。ギャップがすごいです。しかも真顔で言っていますからねアレ。

それから、「なぜ、この学園の教師はどいつもこいつも癖のある奴ばかりなんだ」←おまえが言うな。

さて、ここらへんで主人公の設定を明かします。

・長身痩躯でかなりスラッとした体型をしている。良く言えばスレンダー、悪く言うなら……なんでもありません
・銀色の髪は入学試験の時から少々伸びたため、後ろに縛ってポニーテールにしている
・若干ハスキーな声で、ほとんど男言葉で喋る
・服装はとにかく「黒」一色で、女子専用の制服の上着が引っ掛けている
・「シャドール」を主に使用するが、もう1つ別のデッキを所持している
・デッキは気分によって構築を毎回変えている(「純シャドール」「白黒シャドール」「AFシャドール」etc…)
・デュエルは丁寧に順序を踏まえ、勝手に進めない(「~~を発動していた!」とかはやらない)
・良くも悪くも真面目な性格をしていて、これまた良くも悪くも言いたいことはズバッと言うタイプ
・生徒に対しては少し甘い部分を持っている。しかし教員やプロになると一転して厳しいものになる
・デュエルモンスターズの精霊を見ることができる
・既婚者で、子供が2人いる
・家事は忙しいため大体夫に任せっぱなし。たまに作る料理が最高においしいと夫が言っているあたり、料理は出来るらしい。なぜか洗濯にトラウマを持っている
・性知識が豊富でキャラブレイクが起こることがある
・???

こんな感じです。最後に1つだけ謎設定がありますがこれは後に判明します。
洗濯にトラウマ……デュエリストならば1回は経験したことがあるのではないでしょうか? アレです。

さて、今回はここまでにしましょう。
質問・感想等はコメント欄にて受け付けますので気楽にどうぞ。
また明日の0時にお会いしましょう。

ここまでのご愛読、ありがとうございました


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