遊戯王GX-漆黒のパペットマスター- (スターリン)
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前回のあらすじ。

日本に来日しました。
クロノスとデュエルしました。当然のように勝ちました。
十代と会いました。
現在、アカデミアで始業式が始まりました。←今ココ

それでは、本篇をお楽しみください



Turn.2 「元プロの実力 万丈目VSエルシャドール」

「――で、あるからして。諸君には――」
「長いぞ、ハゲ」
「おうふっ!?」

時は過ぎて4月1日。本島、デュエルアカデミアの体育館にて。
今日はデュエルアカデミアの始業式、私は壇上に立ってバカのように長話を続ける鮫島のつるっつるの頭をひっ叩いた。いつ私の話になるのか舞台袖でずっと待機していたのだが、いつまでも終わらんので出てきてしまった。

「クロウリー先生、もう少し。もう少しで終わりますのに……」
「20分近くぶっ続けでつまらんトークショーしておいてまだ話すか。いい加減にしろ」

このハゲ……鮫島はこのデュエルアカデミアの校長で、しかも、サイバー流の初代師範にあたる偉人だ。だがしかし、いつまでもこんな眠いだけのくだらん話を聞かせるのは頂けん。
ここに居る全員を代表して、私は言ってやった。

「さっさと私の紹介をして解散させろ。特に1年生は今まで船旅をしてきたのだ。休ませるのが先決だろう」
「む、むぅ……わかりました」

少し眉をしかめて、鮫島は再び壇上から生徒達を笑顔で見下ろした。

「えー、今年から、このデュエルアカデミアに新任の先生が入りました。クロウリー先生、どうぞ」
「うむ」

マイクからどいたのを確認し、私は鮫島が立っていた位置に来た。すると、その下に居たアカデミア生たちが一斉にざわめきだす。ニュースで私がここの教師になることは大々的に発表されているから知ってはいると思うのだが、やはり有名人の私がここに突っ立っていることがいまだに信じられんのだろう。……五月蠅いな。
ダンッと両手で思い切り壇を叩きつけ、黙らせる。

「今年からここの教師になった、エルシャドール・クロウリーだ。担当科目はデュエル基礎学全般および実技、そして選択科目の物理学だ。よって1年生から3年生まで幅広く見ることになる。また同時に、デュエルアカデミア女子寮の寮長も担当することになった。詳しい授業内容については明日の授業で説明をする。以上だ」
「クロウリー先生、ありがとうございます。諸君、拍手でお迎えしてください」

パチパチパチパチ……。
簡単な自己紹介が済むと、この場に居た全員が私に拍手を送ってくれた。……私のアカデミア教師の就任に関して拒絶する者はいないと見た。
少し安心して、私は壇上から立ち去ろうと歩き出す。……が。

「さて、先程の話の続きですが――」
「クソハゲジジイ、いい加減にしろ。全員、解散だ!」

まだ懲りてないらしいハゲに代わって、私が全員に解散を言い渡す。
とりあえず、鮫島には一発ハゲ頭に拳骨を喰らわせておいた。


――――・――――・――――・――――


「ダメだ!」

夕方……というよりももう夜に差し掛かろうとしている時間帯。
校舎内を適当に歩いて、校舎内部の構造とどこになにがあるかを確認していた私がブルー専用のデュエル場前を通りかかると、デュエル場から大声が聞こえた。なにごとだ? もう少しで歓迎会が始まるというのに。
気になり、私はデュエル場の中へ足を運んだ。


――――・――――・――――・――――


「別にいいじゃねぇか、減るもんじゃなし」
「ダメだダメだ! ここはオベリスクブルー専用のデュエル場だぞ!」
「落ちこぼれのオシリスレッドが立ち入って良い場所じゃあない!」

デュエル場にて。
遊城十代とその後ろに隠れているメガネの少年――丸藤翔の2人は、2人のブルー生徒と対峙していた。といっても、後ろに隠れている翔は十代に「移動しよう」と何度も声を掛けているのだが、十代が「スペースが空いているんだから、別にいいじゃないか」と言って聞かないのだ。
その様子を面倒くさそうに眺める1人のブルー生徒がいる。
奇抜な髪形をしている少年の名は万丈目(まんじょうめ)(じゅん)。中等部の実技筆記ともに優等生だったエリート中のエリート生だ。そして、さっきから十代たちと相手している2人は、この万丈目の取り巻きたち。

「(ふん。聞きわけの無いガキどもだ。ここはブルー専用のデュエル場だと何度も言っているのに……)」

正論を言っているのは紛れもない、万丈目たちだ。
ここは正真正銘ブルー生のためのデュエル場であり、そのことを十代たちに説いている。しかし、融通が利かないところがある。自分が誇り高いエリートと思いがちなブルー生はそれ以下の寮生、特に劣等生の集いであるオシリスレッドの事を見下しており、そして、レッド生に自分達の領土に足を突っ込まれたくないという変なプライドまで持っている。だから今は空いていて、十代がいてもいなくてもさほど問題ないデュエル場を頑なに貸し出さないでいるのだ。

「……なんの騒ぎだ? 大声が廊下まで響いているぞ」

そんななんとも大人げない喧嘩の中に、1人のピリッとした女の声が響いた。

「! あ、あなたは!」
「エルシャドール・クロウリープロ!」
「クロウリー先生だ。それに私はもうプロデュエリストではない」

銀色の髪をなびかせながらスーツをピシッと着こなし、全身真っ黒なコートで身を包んだ長身の女性、デュエルアカデミア新任教師ことエルシャドール・クロウリーの登場に、この場に居た全員が反応した。

「おっ、久しぶりだなアンタ! すげぇな先生だったのか」

そんな彼女の雰囲気に全く動じない十代は、構うことなく彼女に話しかけた。

「遊城十代、か。よくここに来たな。あとアンタじゃない、クロウリー先生だ」

冷やかな、しかしどこか優しげなエルシャドールの言葉に。

「あ、あのクロウリープロ」
「そ、そのレッドとはどういう……」
「…………」

取り巻き2人と万丈目が、十代とエルシャドールのやりとりに反応した。

「む? こいつとは入学試験の時に知り合ってな。別に深いことはなにもない。あと、クロウリー先生だ」
「そ、そうですよね……」

眼鏡の方の取り巻きがホッと胸を撫で降ろす。万丈目ももう1人の取り巻きも同じような反応を見せた。

「ただ……こいつはあのクロノスの試験用でないデッキ相手に勝利したと聞いている。よって、今、私が注目している生徒ではあるな」
「「!?」」
「な!?」
「えぇ!?」

そのエルシャドールの言葉は取り巻きだけでなく、万丈目、そして翔をも驚かせた。なぜみんなが驚いているのか解っておらずに首を傾げているのは、十代だけだ。
辛口評価をすることで有名な『デュエルモンスターズ界の御意見番』のエルシャドール・クロウリーが「今、注目している」と言い切ったのだ。それも、成績トップで通過した三沢でも、中等部からのナンバーワンの万丈目でもなければ、ブルー生でもない。万丈目たちが「落ちこぼれ」として見下しているレッド生に向かってだ。
彼女の発言力は大きい。
彼女が「つまらん」と評価したプロデュエリストはすぐにメジャーリーグから姿を消し、逆に「見所がある」と評価した一般人がすぐにメジャーとして現れるほどだ。

「なぜだ……なぜ貴女が、そんな奴を評価する……?」

信じられないと言った表情を浮かべながら、万丈目はエルシャドールに聞く。
そしてエルシャドールもまた、「?」と疑問符を浮かべていた。

「私が誰をどう注目するかは私自身で判断する。レッド生だからといって私が評価してはいけないというルールはない。なにか、問題でもあるのか?」
「大ありです! 貴女はそんな底辺に居る落ちこぼれなんかを評価するべきではない! 貴女のイメージが幻滅するだけです!」

万丈目の言うことは真摯だ。
自分が抱いているイメージのエルシャドール・クロウリーとは、漆黒で身を包み漆黒を操る孤高のデュエリスト。弱者を容赦なく叩き、強者を讃えて未来へ送りだす。正にエリートの自分にとっては神にも等しい人物なのだ。そんな彼女がエリートである自分を置いておいて、格下相手に評価するのを見て、耐えられないのだ。
まさにエリート志向の体現者、万丈目らしい言い分だった。
しかしエルシャドールにとって、そんなことは関係ない。

「イメージの押し付けは良くないな、万丈目準。おまえのことは知っているぞ。中等部での堂々の成績トップの実力者。デュエルしている映像も勝手ながら拝見させてもらった。まだまだ進化の余地のある、良いデュエルだったと思うぞ」

その言葉を聞いた万丈目は、心底嬉しく感じていた。
あのエルシャドール・クロウリーが自分の名前を認知し、褒めてくれた。それだけのことが、この万丈目にとってどれだけ誇れるものだったか。
だからこそ、許せない。
だからこそ、怒りが込み上げてくる。

「おい! そこの落ちこぼれ! 貴様どうやってクロウリープロを誑かした!?」

万丈目はふつふつと沸き上がる怒りを十代にぶつけた。そしてそんな謂れもない理不尽をぶつけられた十代は溜まったものではない。

「誰が誑かすか! 俺はなにもしてねぇ! 先生が自分で判断したって言ってるだろうが!」

激怒した十代には流石の万丈目も怯ませる。しかし、自らの考えを通そうとする万丈目たちも黙ってはいられないのだ。
再び緊張した状態がデュエル場を包みこむ。

「五月蠅いぞガキども、黙っていろ!」

そして、その雰囲気を破壊するような恐ろしい声が響き渡る。声の主はエルシャドールだ。

「そこまで気に食わないか万丈目。私が遊城を評価していることに」
「……はい」
「そうか。……なら、万丈目。折角だ、デュエルでもするか?」
「! なん……ですと?」

エルシャドールからの突然の提案に、万丈目は目を見開く。

「もし私を認めさせるデュエルが出来たならば、おまえを評価してやる」
「え……?」

さらに追撃の発言がエルシャドールの口から出た。
なんと自分を「評価する」と言いだしたのだ。
一見迫力がないが、さっき説明した通りエルシャドールの発言力はかなり大きい。間違いなく、評価された暁に万丈目はプロデュエリストになれる。
しかも条件が簡単過ぎる。
「勝利する」ではなく「認めさせる」だ。用は、勝たなくとも、彼女が納得できる内容を見せるだけでもいいのだ。エリート街道まっしぐらの万丈目にとって、魅力しかない提案だった。そしてなにより……。

「(あのクロウリープロとデュエルできる!)」

デュエリストなら1度は相手したい人物の10本の指にも入るエルシャドールとデュエルできる興奮も、万丈目の心の中でかけずり回っていた。

「……どうやら、もう遅いみたいね」

エルシャドールとは違う、呆れたような女の声。その声の主は、1人の長い金髪を流したアカデミア女子生徒だった。

「て、天上院くん!? どうしてここに……」

彼女は天上院明日香。
デュエルアカデミア中等部の女子成績ナンバーワンの、アカデミアの女王だ。そして……万丈目の想い人でもあった。
「やれやれ」と欧米人のように、明日香は手を挙げる。

「騒がしかったから来てみただけよ。もう少しで歓迎会が始まるから忠告しようと思ったけど止めたわ。あのクロウリープロのデュエルが見られるのだから、付き合うわ」

そう言って、明日香はデュエル場に設置されていたベンチに座った。
もう万丈目のやる気は急上昇中である。

想い人にアピールできる。
憧れの人物とデュエルできる。
認められたらプロになれる約束。

自分にとって都合のよい展開がこれでもかと言わんばかりに、波のように万丈目に押し寄せているのだ。そしてこの波を、自分に来た流れだと感じた万丈目は。

「是非、受けさせてください!」

エルシャドールに頭を下げ、誘いを受けた。それを見てエルシャドールは薄く笑った。
のちに万丈目は気付く。自分が感じた波は確かにビッグウェーブだったのだが、自分が思い浮かべていたものとは全くの別物だったことに。その波は激流葬のような凄まじいトラップだったことに、まだ若い万丈目は気付けなかった。
もうとっくの通り、各寮の歓迎会が始まっているが、ここに居る者全員はそんな物を置いといて今から始まろうとしている2人のデュエルに注目していた。

「じゃあ、行くぞ」
「はい! お願いします!」
「「決闘(デュエル)!!」」

たがいに確認し合い、デュエルディスクを構えた。

「先攻はくれてやる。好きに回せ」
「では頂く! オレのターン、ドロー!」

万丈目
手札5→6

「オレは『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を召喚!」


地獄戦士(ヘルソルジャー)
効果モンスター
☆4/闇属性/戦士族/攻1200/守1400
(1):このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、
この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。


「先攻は攻撃できない。リバースカードを2枚出し、ターン終了!」

まずは小手試しと言ったところか、堅実と言ったところか、攻撃力の低い特殊能力モンスターを出しただけで終わった。


万丈目
LP 4000
手札 3
場 モンスター
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  魔法・罠
  セット
  セット

エルシャドール
LP 4000
手札 5
場 モンスター 無し
  魔法・罠  無し


「私のターン、ドロー」

エルシャドール
手札5→6

「スタンバイフェイズからメインフェイズへ移行。私は『マスマティシャン』を攻撃表示で召喚」

エルシャドールがカードをデュエルディスクにセットすると、まるで博士のようなモンスターが「えっへん」と言って登場した。


『マスマティシャン』
効果モンスター
☆3/地属性/魔法使い族/攻1500/守 500
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。
(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。


「『マスマティシャン』のエフェクト発動。召喚成功時、デッキから☆4以下のモンスターカードをセメタリーへ送る。私は『シャドール・リザード』をセメタリーへ」


『シャドール・リザード』
リバース・効果モンスター
☆4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守1000
『シャドール・リザード』の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードがリバースした場合、
フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから『シャドール・リザード』以外の『シャドール』カード1枚を墓地へ送る。


エルシャドールはデッキの中から『シャドール・リザード』のカードを見せて墓地に送る。するとすぐに、墓地に送られた『シャドール・リザード』のカードが光り出した。

「セメタリーに送られた『シャドール・リザード』のエフェクト発動。カードエフェクトによってセメタリーへ送られた場合、デッキから『シャドール』と名の付いたカード1枚をセメタリーに送る。デッキから『シャドール・ビースト』をセメタリーへ」


『シャドール・ビースト』
リバース・効果モンスター
☆5/闇属性/魔法使い族/攻2200/守1700
『シャドール・ビースト』の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードがリバースした場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
その後、手札を1枚捨てる。
(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。


そして今度は、墓地に送られた『シャドール・ビースト』が同じように光る。

「同じように『シャドール・ビースト』のエフェクト発動。デッキからカードを1枚ドローする」

エルシャドール
手札5→6

「……ここまでカード効果を連発して手札が減っていない」

ボソリと、観戦していた明日香が呟いた。
そう。
エルシャドールはここまでモンスターを召喚し、墓地を溜めるために効果を使用したはずにも拘らず手札が1枚も減っていない。『マスマティシャン』1枚からここまでのデッキ圧縮と手札調整を完璧にこなしているのだ。

「メインフェイズ終了、バトルフェイズへ移行する。『マスマティシャン』で『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を攻撃! 『バトル・カリキュラム』!」

攻撃命令が下った瞬間、『マスマティシャン』は持っていた杖から数式と思われる無数の文字の羅列を放ち、それが当たった『地獄戦士(ヘルソルジャー)』は爆発した。

万丈目
LP4000→3700

「ぐっ! だが、ここで『地獄戦士(ヘルソルジャー)』の効果発動! 自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手に与える!」
「承知だ」

エルシャドール
LP4000→3700

「バトルフェイズ終了、メインフェイズ2へ移行。カードを1枚セットして、ターン終了」
「ターン終了時! オレはトラップカード、『リビングデッドの呼び声』を発動!」


『リビングデッドの呼び声』
永続罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


「オレの墓地の『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を特殊召喚!」

万丈目のトラップカードによって、先程戦闘で破壊された『地獄戦士(ヘルソルジャー)』が再びフィールドに生き帰る。

「まだだ! 『地獄戦士(ヘルソルジャー)』の特殊召喚に成功した時、もう1枚のリバースカードオープン! 『地獄の暴走召喚』!」

万丈目が伏せていたもう1枚のカードがオープンされた。


『地獄の暴走召喚』
速攻魔法
(1):相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に
攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から
全て攻撃表示で特殊召喚する。
(2):相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。


「自分の攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、オレはそのモンスターを、相手は自身のフィールドのモンスター1体を指定して、それと同名のモンスターをそれぞれデッキ・手札・墓地から可能な限り特殊召喚する! 現れろ! 『地獄戦士(ヘルソルジャー)』!」

地獄戦士(ヘルソルジャー)
攻撃力1200
地獄戦士(ヘルソルジャー)
攻撃力1200

「ふむ。私のフィールドには『マスマティシャン』しかいないな。『マスマティシャン』を選択して、デッキから2体の『マスマティシャン』を守備表示で特殊召喚する」

マスマティシャン
守備力500
マスマティシャン
守備力500

「今度こそ、ターンエンドだ」


万丈目
LP 3700
手札 3
場 モンスター
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  魔法・罠
  「リビングデッドの呼び声」(「地獄戦士(ヘルソルジャー)」装備中)

エルシャドール
LP 3700
手札 5
場 モンスター
  「マスマティシャン」
  「マスマティシャン」
  「マスマティシャン」
  魔法・罠
  セット


「オレのターン、ドロー!」

万丈目
手札3→4

「オレは装備マジック『ヘル・アライアンス』を『リビングデッドの呼び声』が装備されていない『地獄戦士(ヘルソルジャー)』に装備!」


『ヘル・アライアンス』(アニメ効果)
装備魔法
(1):装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
(2):フィールド上に表側表示で存在する装備モンスターと同名のモンスター1体につき、
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。


「装備モンスターの攻撃力を800ポイントアップさせ、さらに装備モンスターと同じ名前のモンスターの数だけ800ポイントアップする! 攻撃力2400ポイントアップ!」

地獄戦士(ヘルソルジャー)
攻撃力1200→3600

地獄戦士(ヘルソルジャー)』に禍々しいオーラが纏わりつき、一気に体格が巨大化した。

「う、うわぁ、攻撃力3600のモンスターなんて……」

その光景を見た翔が絶望したような声を漏らし、万丈目の取り巻き2人は自分のことではないのに自慢気な顔をしていた。

「バトルだ! 攻撃力が上がった『地獄戦士(ヘルソルジャー)』で、攻撃表示の『マスマティシャン』に攻撃! 『ヘル・アタック』!」

地獄戦士(ヘルソルジャー)』がその手に持っていた奇妙な形の剣で『マスマティシャン』を斬りかかる。

「トラップカード発動。『堕ち影の蠢き』」


『堕ち影の蠢き』
通常罠
(1):デッキから『シャドール』カード1枚を墓地へ送る。
その後、自分フィールドの裏側守備表示の『シャドール』モンスターを、
任意の数だけ選んで表側守備表示にできる。


「! それは、あの時の……」
「知っているようだな、勤勉で結構だ。デッキから『シャドール』と名の付いたカード1枚を選択してセメタリーへ送る。私はデッキから『シャドール・ドラゴン』をセメタリーへ」


『シャドール・ドラゴン』
リバース・効果モンスター
☆4/闇属性/魔法使い族/攻1900/守 0
『シャドール・ドラゴン』の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードがリバースした場合、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合、
フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。


「くっ、『シャドール・ドラゴン』のモンスター効果は――」
「この瞬間、『シャドール・ドラゴン』のエフェクト発動。カードエフェクトによってセメタリーに送られた場合、フィールド上のマジック・トラップカード1枚を破壊する。対象は『ヘル・アライアンス』だ」

墓地から『シャドール・ドラゴン』の頭部だけ出現し、万丈目の装備マジックカード『ヘル・アライアンス』を破壊した。
すると、装備されていた『地獄戦士(ヘルソルジャー)』の体がどんどん小さくなっていき……

地獄戦士(ヘルソルジャー)
攻撃力3600→1200

元の攻撃力に戻ってしまった。

「なにもないのなら、ダメージ計算に入るぞ」
「くそっ!」

装備カードの恩恵がなくなり、元の大きさに戻った『地獄戦士(ヘルソルジャー)』はその状態のまま『マスマティシャン』に特攻。当然打点で負けている『地獄戦士(ヘルソルジャー)』は『マスマティシャン』によって返り討ちにされ、再び同じ魔法を喰らって爆死した。

万丈目
LP3700→3400

「ぐぁああああ! だが、『地獄戦士(ヘルソルジャー)』はただでは死なない! 俺が喰らった戦闘ダメージと同じダメージを与える!」

エルシャドール
LP3700→3400

「まだだ! 残り2体の『地獄戦士(ヘルソルジャー)』で、守備表示になっている2体の『マスマティシャン』を攻撃!」

攻撃力では勝っている『マスマティシャン』だが、守備力では敵わない。大人しく2体の『マスマティシャン』は『地獄戦士(ヘルソルジャー)』達に両断された。

「『マスマティシャン』のエフェクト発動。戦闘によって破壊された時、カードを1枚ドローする。今、2体の『マスマティシャン』が戦闘破壊された。よって、2枚のカードをドローする」

エルシャドール
手札5→7

「……くそっ! なんでオレのターンなのにあっちの方が動いてるんだ……!」

表情を崩さずに冷静に対処するエルシャドールに、万丈目は心底悔しがっていた。
こっちはあの手この手で必死になっているのに、向こうは冷静沈着に効率良くデッキを回していることに。しかも自分相手ターン関係無しに、好き勝手にモンスター効果を連発させて確実にアドバンテージを得ていることに。
まるで自由に物事を進めていく人形遣いのようだと、万丈目は感じた。

「どうした? おまえのターンだぞ?」
「わかっている!」

悔しさから来る怒りで、エルシャドールに対して素で敬語を使うのを忘れてしまった万丈目。

「カードを1枚伏せ、ターン終了!」


万丈目
LP 3400
手札 2
場 モンスター
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  「地獄戦士(ヘルソルジャー)
  魔法・罠
  「リビングデッドの呼び声」(「地獄戦士(ヘルソルジャー)」装備中)
  セット

エルシャドール
LP 3400
手札 7
場 モンスター
  「マスマティシャン」
  魔法・罠  無し


「……すげぇ」
「万丈目くんの攻撃を最低限のカードでカバーしながら全て凌ぎきってるっス……」
「手札7枚……次のターンで8枚。場と手札を合計して6枚の万丈目くんに対して、合計9枚のカードからスタートですって!? しかもそのうちの8枚は自由に使えるカードばかり! アドバンテージの差が激し過ぎる!」
「ま、万丈目さん……」
「…………」

観戦していた5人は全員驚愕していた。必要最低限のカードや相手のカードを全て利用してアドバンテージを優先し、確実に相手の一歩も二歩の上を行くような戦術で持って蹂躙するエルシャドールのシンプルかつ恐ろしい戦法に。しかもなにより。

「先生……無駄なことをしてねえ。プレイングミスを全くしてねえ!」

十代が叫ぶ。そう、それだ。
エルシャドールの恐ろしいところは、まるで機械のように一切のミスを犯さないことなのだ。それによって、自分の持っている知識と経験をフルに使った正確でぶれない無機質な、機械的な、人形的な、しかしどこか堂々とした、彼女独自のプレイングスタイルを編み出している。

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズからメインフェイズに移行」

そんなエルシャドールの丁寧な口癖も、十代たちにはただの機械のようにしか聴こえなくなってしまっていた。

エルシャドール
手札7→8

「さて、私のセメタリーには、『シャドール・リザード』『シャドール・ビースト』『シャドール・ドラゴン』と、闇属性モンスターが3体のみ存在するな」
「? それがどうしました?」

突然のエルシャドールのその確認の言葉に万丈目は首を傾げる。しかし。

「!? ま、まさか……ッ」
「そ、そんな……」

明日香と翔は違った。その確認の意味を理解し、一気に顔を青ざめる。

「え? なんだ? どうしたんだ2人とも?」

理解できていない十代が2人に聞く。
2人が答える前に、エルシャドールが解説を入れた。

「勉強が足りんな、遊城。このデュエルモンスターズ界には、特殊な召喚方法を持ったモンスターが何体も存在する。今から私が召喚しようとしているモンスターも、その特殊な召喚方法に則って召喚されるモンスターだ」

涼しい笑顔でやんわり答えるエルシャドールに、十代は「へぇ……」と納得したような顔を浮かべた。

「……ん?」
「墓地に闇属性モンスターが3体……?」

なにか心当たりがあるらしい万丈目の取り巻きたちがポツリと、先程エルシャドールが確認した事を繰り返す。

「……んな!? そ、そんなバカな!!」

漸く万丈目は気がついた。
明日香と翔が酷く動揺していた理由を。

――あったのだ。デュエルモンスターズ界にただ1体だけ、その召喚条件によって特殊召喚されるモンスターが……!

「私のセメタリーに闇属性モンスターが3体のみ存在する時、手札のこのカードを特殊召喚できる」

エルシャドールは8枚の手札の内3枚のカードを取り出して、一斉にデュエルディスクに召喚した。


「『ダーク・アームド・ドラゴン』、3体特殊召喚」


瞬間、エルシャドールのフィールド上に3つの黒炎が立ち、その中から3体の闇のオーラを纏ったドラゴンが出現した。


『ダーク・アームド・ドラゴン』
効果モンスター
☆7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。
(1):自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。


「ば、バカな!」
「『ダーク・アームド・ドラゴン』だと!?」
「しかも3体……!!!」

十代以外の全員が目を見開いて驚いた。
当然だ。
このカードは数百カートンに1枚しか存在しないと言われている超レアカード。1枚数百万は下らないと言われるほどの究極のレアカードの1枚。それを3枚も使われているのだ。
万丈目にとって夢のような、しかし地獄のような光景だ。地獄デッキを使っている万丈目が地獄と感じるとはこれいかに、なんて冗談を言っている暇もない。
『ダーク・アームド・ドラゴン』。
簡単な召喚条件に加え、恐ろしい能力を持った邪龍だ。

「『ダーク・アームド・ドラゴン』のエフェクトは、セメタリーに存在する闇属性モンスターを1枚除外し、フィールド上のカード1枚を破壊する。このエフェクトは1ターンに何度でも使用可能だ」

そう、今、万丈目の前に立ちはだかっている3体のドラゴンの能力は、「破壊」。
墓地のモンスターの魂を生贄に、今を生きるカード達を片っ端から容赦なく殲滅する圧倒的「破壊」能力だ。

「『ダーク・アームド・ドラゴン』のエフェクト発動。セメタリーの『シャドール・リザード』を除外し、『リビングデッドの呼び声』を破壊する。『ダーク・ジェノサイド・カッター』、第一打!」

バチンッとエルシャドールが指を鳴らすと、左側に立っていた『ダーク・アームド・ドラゴン』の背中の突起がまるでブーメランのように高速で回転しながら『リビングデッドの呼び声』を破壊し、自身の肩に戻って再び装着された。
『リビングデッドの呼び声』が破壊されたことによって、連動されていた『地獄戦士(ヘルソルジャー)』も一緒に破壊される。

「続いて、セメタリーの『シャドール・ビースト』を除外し、『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を破壊する。『ダーク・ジェノサイド・カッター』、第二打!」

今度は右側に立っていた『ダーク・アームド・ドラゴン』が能力を発動し、『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を破壊する。これで万丈目のフィールドにモンスターがいなくなってしまった。

「ラストだ。セメタリーの『シャドール・ドラゴン』を除外し、そのリバースカードを破壊する。『ダーク・ジェノサイド・カッター』、第三打!」

最後の一撃は真ん中に立っていたドラゴンが放ち、万丈目のフィールドに唯一残されていたリバースカードを破壊した。

「『ヘル・ブラスト』か。危ないな。エフェクトを使わないと大ダメージだったぞ」

無表情で「危ない」と言っても全然緊張感が感じない。
万丈目は呆然とした。
自分が必死で並べたフィールド。今の自分における最高の戦術を使っていたはずだ。それなのに、なんだこの有様は。
自分の戦略はいとも簡単に破壊されてしまい、最後には何も残らない荒野と化したフィールドだけが広がっていた。

「メインフェイズ終了、バトルフェイズに移行。『ダーク・アームド・ドラゴン』3体でダイレクトアタック! 『ダーク・アームド・ヴァニッシャー』三連打!」

3体の黒い邪龍が咆哮を挙げ、一斉に万丈目に真っ黒な炎を浴びさせる。

万丈目
LP3400→-5000

「ぐ、ぐぁああああああああああああああ!!!!!」

当然、そんな攻撃を受けた万丈目は無事なわけがない。
3400なんてライフを余裕で上回るダメージが襲いかかり、万丈目に無慈悲な敗北を告げた。
オーバーすぎるダメージを負い、がくりと膝を折った万丈目に終始表情を変えず余裕そうだったエルシャドールは、問いかける。

「どうだ? これが、一昔前のプロの実力だ」

それを聞いた万丈目は目を見開く。
あれが、プロデュエリスト。しかも一昔前のと来た。決して無駄な動きをせず、プレイングミスをせず、常に冷静で、しかも最後にはドンとパフォーマンスを入れる。
本来、『ダーク・アームド・ドラゴン』を3体も召喚する必要はない。
1体だけ召喚して効果を3回使い、生き残っていた『マスマティシャン』と攻撃していても勝っていたのだ。
それをあえてせずにわざわざ3体並べて皆を驚かせる豪快さと鮮やかさは、エルシャドールのプレイングに反しているが、過去5年間、観客を驚かせ、楽しませるエンターテイナーであるプロデュエリストとしては当然のことだったため、少々のオーバーキルをしたりすることが癖になってしまっていた。
自分の名に傷がつくかもしれない万丈目とのデュエル。しかし、エルシャドールはそんなことを全く気にせずに自分の戦い方を貫いた。しかも、あんな大々的なことをしておきながら、まだ手札は5枚も残っている。まだまだ全然、余力を残している。
完敗。
万丈目にとって、これはあまりにも辛い完全なる敗北だった。

「(……くそっ! オレは遊ばれていたのかッ! しかも今のが一昔前だと!? なら今のプロたちのレベルはどうなってるんだ!)」

万丈目は痛感した。
今、自分たちが目標としているプロデュエリストという地位がどれだけ高い境地に居るのか。今のデュエルではっきり理解してしまったからだ。ただ強いだけでなく、さらにそれを使って観客を「あっ」と言わせなければならない強烈なプレイング。
無理だ。
今の自分ではとてもそこまで手を回すことが出来ない。

「さて、先生らしく、1つ忠告しておこうか」

エルシャドールは右手人差し指をピンっと伸ばして万丈目を見据える……と。さっきまでの表情に、少し怒りの感情を入れた紅の瞳をギンッと万丈目に向けた。


「その程度のつまらん実力のままで、プロデュエリストになれると思うなよ、ひよっこデュエリストが」


「ッッッ!!!!!」

肩を震わせる万丈目。
エルシャドールのその台詞は、忠告と言うよりも喝に近かった。
ああ、そうだ。
今の自分では到底なれることなんてできない。それはもう充分理解した。そして、先程までチャンスだと考えていた自分を恨めしく感じた。もともとエルシャドールは、自分を評価する気などなかったことに気がついたからだ。

「……天上院、だったか?」
「は、はい」

突然名前を呼ばれて目を合わせられ、思わず声が上がってしまう明日香。

「女子寮に帰るぞ。もう歓迎会が始まっている。元寮長が心配しているだろうからな」
「は……はい、一緒に行きましょう……」

もうさっきの恐ろしい顔ではなくいつも通りの無表情になっているエルシャドールは、明日香を呼んで帰ろうとする。

「ではな諸君。明日また、教室で会おう」

持ち前の長い銀髪をなびかせ、エルシャドールは明日香と共にデュエル場から離れていった。


――――・――――・――――・――――


「すまないな天上院、折角呼びに来てくれたのに結局付き合わせてしまった」

女子寮へ戻る帰り道、私は天上院に謝罪した。
現在7時10分。歓迎会の開始時刻は7時ジャストだ。
私だけでなく、彼女まで歓迎会に遅刻させてしまった。教師として、生徒を遅刻させるとは笑い話じゃ済まない。

「いえ、構いませんよクロウリープロ。良いものを見させていただきましたから」
「プロじゃない。クロウリー先生だ。それと、あの程度のデュエルならこれからいくらでも見られるぞ」
「え?」

天上院は意外そうな顔をした。

「なにを驚く。私は体育館で言ったはずだぞ、実技も担当するとな。つまり、私がデュエルすることもあるということだ。……ああ、私が負けることを考えているのか? 私が負けたら不敗伝説に傷がつくと、そんなつまらんことを考えているのか?」
「…………」

黙り込む天上院。……図星か。

「負けることを恐れてデュエルなんか出来るかバカ者が。そんなどうでもいいことを気にする必要はおまえにない」

勝つときもあれば負けるときもある。それがデュエルの面白いところだろうが。その醍醐味を忘れるほど私は落ちてなどいない。むしろ忘れていないから、私はプロを引退したのだ。

「おまえら学生は全力でかかってくればいい。もう進化せずに、成長することを止めた私などデュエリストとして何の価値もない」
「価値がないって……」
「実際にそうだろう? 『御意見番』などと呼ばれてはいるが、所詮はただのクレーマーだ。過去5年間、最強のプロデュエリストの地位に立っていたからこそもてはやされているだけだ」

まぁ、それのおかげでやりたいことが出来たのだがな。解説者・評論家としての仕事は非常にやりがいのある有意義なものだった。

「しかし、先生はあんなに見事なデュエルが出来るじゃないですか。今からでもプロに復帰されても――」
「持ち上げ過ぎだ、天上院。そもそも私に、今のプロに戻る資格はない。なぜなら、私はプロデュエリストとしての誇りを全て捨てたのだからな」

今のプロデュエリストは、ハッキリ言ってただのパフォーマーだ。
観客を楽しませることだけに全力で取り組んで、自分のデュエルというものが全然できない。個性を潰して金を稼ぐだけのなんの価値もない連中だと心の中で見下している。
正直、プロデュエリストに復帰するくらいなら賞金稼ぎのカードプロフェッサーになった方がはるかにいい。あちらの世界はプロよりシビアだが、その代わりに自分の個性を目一杯生かせる。観客の眼なんて関係無しのプレイングはプロ以上に輝いていると思う。解説者になった理由に、カードプロフェッサーたちのデュエルを見たかった、というものもあるほどだ。実際、彼らのデュエルは個性的で見所が多くあった。
私はプロデュエリストも、そうあるべきだと思っている。
未来の金の卵であるここの生徒達が、観客が全てのプロデュエリストの現状を変えて欲しい。そんな自分勝手な願いもあったから私は、ここの教員を引き受けたのだ。

「私の時代はとうの昔に終わっている。これから輝くのはおまえたちなのだぞ天上院。おまえたちがこれからのデュエルモンスターズ界を率いていくのだ」

天上院の肩をポンっと叩きながら、私はニッと笑ってやった。すると天上院は僅かに頬を赤らめていた。? どうした。

「……わかりました。クロウリープ……クロウリー先生がそうおっしゃるなら、それでいいです」
「うむ、そうか」

ま、なにはともあれ納得してくれたのならいいのだ。もうあんなつまらん質問してくるんじゃないぞ。……っと。

「おっと着いたな、女子寮だ」

気がついたら城のような女子寮に到着していた。さて……。

「天上院、先に行っていろ。私はやることがある」
「え?」
「いいから行け。食い物がなくなるぞ」
「は、はぁ。じゃあ先に行ってますね先生」

私が促すと、天上院は若干困惑しながらも素直に寮に走っていった。

「さてと」

私は携帯電話を取り出してある人物に連絡する。

「――ああ、私だ。予定通り、やるぞ。……あ? 今日はゆっくりしたいだと? ダメだ。折角のサプライズを台無しにするつもりか。……ったく、あーあ仕方ないなぁ。折角土産に天上院吹雪の中等部時代の写真集を持ってきたんだがなぁ。……ん? どうした?……そうか。やるのか。じゃあ準備してろ。それじゃあな」

ピッと、携帯を切った。
全くあいつは。教師の身でありながらなぜいち学生のファンクラブなんぞに入っているのだ。しかもその学生が今は行方不明らしいじゃないか。
そういえば天上院、そいつと同じ名字だったな。なにか、関係しているのか?

「まぁいい。さて、少しイメチェンでもしようか」

私は寮に入り、自室である寮長室に向かった。


――――・――――・――――・――――


明日香がエルシャドールと別れてから10分後。
それまでの間、明日香たち女子生徒は何気ない話などで盛り上がり、食事を楽しんでいた。

「はいはーい、注目!」

元寮長で今まで静観していた教員、鮎川恵美がパンパンと手を叩きながら注目させる。

「さーて、今日は新1年生の歓迎会でもあるんだけど、新しい寮長の歓迎会でもありまーす。もうみんなは知っているだろうけど、彼女を寮長として迎え入れたいと思っているわ。――入ってきて」

バタンッ。
鮎川の声と共に会場の巨大な扉が開かれ、そこからエルシャドール・クロウリーが入ってきた。
先程の教員紹介の時とは違い、ストレートに流していた銀色の髪は後ろに纏めて少し短めのポニーテールにしており、真っ黒なスーツとコートは相変わらずだが、その上には女子専用のブルーの制服が引っ掛けられている。
エルシャドールは鮎川の所まで来ると……。

「久しぶりだな、恵美。相変わらずミーハーだな。約束の代物は部屋に置いてあるぞ」
「うっふふ、エル、貴女こそ相変わらず荒療治が過ぎるわね。天上院さんから聞いたわよ? 万丈目くんと遊んできたらしいじゃない?」

鮎川のことを下の名前で呼び、鮎川もまたエルシャドールを愛称である「エル」と呼んだ。

「あ、あの……2人は一体どういう?」

不審に思った明日香がエルシャドールと鮎川に問いかける。

「ああ、こいつと私は古い親友だ。どうして知り合ったのかは本人希望で教えんがな」

普段テレビなどでは絶対に見られない笑みをこぼしながら、エルシャドールは簡単に答える。

「みんな、彼女が新しい寮長のエルシャドール・クロウリー先生よ。少し厳しくて口が悪いけど、いい先生……だと思うから、宜しくしてあげてね」
「随分な紹介だな。まぁいい。私がエルシャドール・クロウリーだ。クロウリー先生と呼べ。絶対にプロとは呼ぶなよ。私はもうプロではないからな。呼んだら10点減点だ。相談事なら基本的に乗ってやるが、下らん質問には一切答えんからな」
「……あなたの方が酷いと思うけど?」

どっちもどっちである。

「さて、みんな。先生は今日で寮長はやめるけど、いつも通り寮長室に居るわ。クロウリー先生はたまにテレビ出演のオファーが来るから、その時には私が寮長代理という形で仕事するわ」
「ふん、折角1人でくつろげると思ったんだがな。おまえとのルームシェアなんぞ聞いてなかったぞ、恵美」
「まぁまぁそんなつれないことは言わず、ね」

鮎川がウィンクすると、エルシャドールは「チッ」と舌を鳴らす。

「して、恵美。デュエルディスクとデッキは持ってきたな?」
「もちろんよ。ほら」

少し体をくねらせると、背中からすとっと出てきたデュエルディスクを左腕に付け、ポケットから取り出したデッキケースからデッキを抜き取って装着する鮎川。それを見てエルシャドールは苦笑した。

「……その無駄に奇抜なところも相変わらずだな」
「手厳しいわねぇ。でも、いいでしょ?」
「ああ。問題ない」

エルシャドールも腰に付けていたデッキケースからデッキを取り出し、それを自前のブラックデュエルディスクに装着した。

「今日は諸君に、サプライズプレゼントがある。――これより私と恵美、新旧寮長によるデュエルを実施する」
『え、えぇぇえええええええええええええええええええええッッッ!!??』

ざわっ。ざわわっ! がやがや!
そのエルシャドールの言葉に、女子生徒達は全員驚き、目をパッチリ開ける。
教員同士のデュエルなんてなかなか見られないし、しかもあの『デュエルモンスターズ界のご意見板』と、今の3年生ですらデュエルしている姿を見たことない元寮長の鮎川のデュエルだ。
エルシャドールの言う通り、サプライズプレゼントとしては豪華すぎる内容だった。

「うっふふ、久しぶりねエルとデュエルできるなんて」
「こっちも久しぶりに熱いデュエルが出来そうだ」

2人の教師の間に火花が舞っていた。

「さぁ、移動しようか。デュエル場にな。学生諸君、見たければ私達に着いて来るがいい」

エルシャドールと鮎川が移動し始め、それに続くようにその場に居た女子生徒全員が移動を開始した。




     ――To be continued…


「ダムド三連打ァ!」がやりたかったのでやりました、反省も後悔もしていません。

今回登場しました、「ヘル・アライアンス」はOCG化されているものではなく、アニメ版です。あっちは自身も含めて攻撃力が上がります。よって、少なくとも800のバンプアップカードになるのですね。強い……のか? 「団結の力」でいいような、おっと誰か来たようです。

あと、主人公の現在のプロについての見解と自分の思いを語りました。

「私の時代はとうの昔に終わっている(キリッ」。今まさに暴れてるんですがそれは……。
まぁ、シンクロもエクシーズもないのでまだまし……なのかな?
しかし、これからもデュエルしていきますよクロウリー先生。

さて、今回はここまでです。
次回はデュエルですので、少し長くなります。ご了承ください。
また明日の0時にお会いしましょう。

ご愛読、ありがとうございました。
それでは今日はここまでです。


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