しかし、サッカービジネスが完全なグローバル競争の最中におり、岡崎慎司や内田篤人のような日本人トップスタアの多くは欧州でプレイし、スポーツファンの注目の多くが欧州に向いている事。一方で日本の経済状況は長期低落状況から抜け切れず、少子化によりパイも減っていく事。さらに、日本人の余暇の選択肢の多様化は華やかで、競合となる娯楽は無数に存在する事。これらを考慮すれば、Jリーグを取り巻く状況は非常に厳しいのは確かだ。サッカーよりも娯楽として先行して社会注目が大きいプロ野球の地上波視聴率の低迷は、娯楽の多様化の現れの典型だろう。そのような、難しい状況下で、日本にもっともっとサッカーが普及し、たくさんの方々がサッカーを愉しむ環境が準備されるならば、プレイオフ導入のような劇薬投入を全否定はしない。ただし、その手段が熟慮されたものであれば。
そして、残念な事に過去幾度も危惧した通り、浅慮の結果としか思えない悲しい日程が発表されてしまった。先日も散々突っ込んだが、シーズンで一番盛り上がるはずの終盤を、Jリーグ及び日本協会当局が、自ら貶めるような行為は、とにかくとにかく悲しい。
せめて、このような悲しい日程にするのだから、それによってJが格段に盛り上がるのならば救われるのだが、肝心の導入責任者のチェアマンの村井氏の歯切れが悪いのだ。
先日の毎日新聞でのインタビューを抜粋する。
サポーターにとっては、1ステージ制が一番分かりやすいし理想だと、僕も理解しています。
ただ、日本のみなさんにアンケートをとると、Jリーグに関心があると答えているのは3割ぐらい。残り7割は、おそらく一つのクラブをずっと熱心に見てくださるような人ばかりではない。そこで前期優勝、後期優勝、チャンピオンシップでの年間総合優勝と、いくつかヤマ場を分散することによって、サッカーに触れる機会が増えると思うのです。
1ステージ制の場合は、いつ、どこの試合で優勝が決まるか分かりません。その点、チャンピオンシップは、間違いなくその試合で年間王者が決まります。そうすれば、その試合に注目してくださる人が増えるのは間違いありません。
国際サッカー連盟(FIFA)ランキング上位50カ国の中で、1ステージ制を行っているのは6割ぐらい。残り4割はシーズンを分けたり、シーズンの後にポストシーズンを設けたりして、ヤマ場を増やしています。例えばアルゼンチンやメキシコも2ステージ制で、最後にポストシーズンで戦っています。
そこで日本も、2ステージ制に再度チャレンジさせてほしいと思い、踏み切りました。Jリーグの選手たちも、短期決戦で一発勝負という大舞台で、最高に緊張感のある試合をしてくれればと思います。
氏は、ここでプレイオフの必然性を説明しようとして、データを持ち出しているのだろう。他人を説得するためには、データを根拠に語る事が必要だ。しかし、データを並べるだけでは十分ではなく、そのデータが論理的説得性を持たなければならない。そして、ここで村井氏が提示しているデータには説得性がない典型例だ。それは最初に「1ステージ制が一番分かりやすいし理想だ」と言い切ってしまっているからだ。最初に負の結論を述べてしまって、「残り7割は、残り4割は」と、いくら語っても迫力は全くない。
どうしても、数字で説得したいのならば、損益計算書でも貸借対照表でも資金繰り表でもよいから、プレイオフを導入する事で「もっと儲かる」と言うに尽きるのだが。
もう1つ。2ヶ月以上前の話だが。10月19日のNHKの日曜日のスポーツニュースに、村井チェアマンが登場し、懇切丁寧にJリーグを批判、糾弾した。曰く「選手が頑張っていない」、「審判が下手くそだ」、「技術レベルが低い」云々。その上で、村井氏は「だから来シーズンからはプレイオフを導入します。」と締めた。大人気なかったと思うが、さすがに腹が立ちtwitterで相当毒づいた。
村井氏の意図を忖度する。公共放送で「Jの改善必要性」を強調し、「プレイオフ導入」の必然性を語りたかったのだろう。そして、ビジネスの世界で、改善提案を周囲に納得させるためには「悪さ加減を明らかにする」のは有効な手段の一つだ。だから、氏は公共放送に出演の機会を活かし、「悪さ加減」を滔々と述べ続けた訳だ。けれども、これが逆効果だったのは言うまでもない。あれを見た一般の方々(サッカーに格段の興味を持たない方々)は、「Jリーグの総責任者であるチェアマンが『つまらない』と言うのだから、Jリーグってつまらないんだ」と思った事だろう。そして、愛するJリーグを愚弄されたのだから、我々サポータは激怒した。
だいたい、商売の総責任者が、公の席で嬉しそうに自分の商材を非難してはいけない。これは商売の鉄則である。「悪さ加減」を語る必要があるのは、内々の打合せにしておけばよいのだ。
つまるところ、村井氏は商人ではないのだろう。
この人の経歴(Wikipediaより)を見ると、リクルートで要職を務めたとの事だが、人事畑が長かったらしい。いわゆる管理系の仕事が得意分野なのだろう。だから、生真面目に「悪さ加減」をデータを用いて語ろうとするのではないか。
トップが管理畑の人である事を示した典型事例が、今シーズン最終節でのアルビレックス対レイソルの大雪中止試合の処置。リンク先のドメサカ氏のコメントがすべてを表している。
(前略)カシマスタジアムが選ばれたのは大方の予想通り、日程と管理体制の面からだそうです。リーグ最終節での自然条件による試合中止。少しでも早く選手たちにオフを提供したい思い、直後に控えるJリーグアウォーズ。現実的には的確な対応だったのかもしれない。けれども、最終節をじっくりと味わいたい両軍のサポータ達に対する営業的配慮は足りなかった。Jリーグを支えるのは、1つ1つの充実した試合のはず。その現場重視の姿勢があれば、ドメサカ氏が語る通り、しっかり事前説明が行われたはずなのだが。
カシマスタジアムは、アントラーズの運営会社である株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーが指定管理者として直接運営管理を行っているので、スピーディな対応が可能だったのでしょうね。
最初からこの理由を明かしていたらもっとよかったと思います。
話を戻そう。
村井氏の今の仕事は管理だけではないのだ。Jの魅力を多くの人々に伝える事も重要なのだ。
たとえば。
地上波のスポーツニュースや一般紙のインタビューにおいては。
「これほど、魅力あふれる組織的サッカーが行われているJリーグは欧州からも尊敬されている。」とか何とか言って、オシム爺さんなり、ベンゲル氏なり、プラティニ氏なりのコメントを添える。その上で「この宝石のようなJリーグの喜びを少しでも多くの人に知って欲しい。そのために、プレイオフを導入させる事とした。」と胸を張ればよい。また「本来は1ステージ制であるべきでは?」と言う質問に対しては、「まだ20年ちょっとの歴史しかないJリーグ、いつか世界最高のエンタティンメントを目指し、今はアルゼンチンやNFLからの学びが重要。特に『スーパーボウルへの道』は勉強になる」とでも答えれば十分だろう。
一方、Jのコアサポータ達には浪花節である。「皆様の気持ちはよくわかる。しかし、霞を食っては生きていけない。皆様の宝物を維持し、ますます発展させるために、今はキャッシュが必要なのだ。皆様の愛する選手の待遇を、もっともっとよくしたい、プロ野球には絶対に負けたくない。悪魔に魂を売り渡した責任はすべて私がとる。」と、まず掴む。その上で「プレイオフ導入により、各クラブはこれだけ儲かるのだ。私は広告代理店から、これだけカネを引っ張ってくる事を約束する。」と堂々とカネの話をすればよい。また「94年のラモスのループシュートの美しい弾道、95年の井原の完璧な守備、99年の沢登の直接FKの美しさ、そして04年のマリノスとレッズの死闘。確かに邪道かもしれない。でも、あのような戦いをまた見たいという誘惑を、どう考えるか。」と言う切り口も有効だろう。サッカーダイジェストやエルゴラッソあたりの専門誌で丹念な説明を行うのも重要だ。その場合、聞き手に大住良之氏や宇都宮徹壱氏のような生真面目な人を選んではいけない。後藤健生氏や大島和人氏のようなリアリズムを好むインタビュアを選択すべきだろう。
ところで。
村井氏はわかっているのだ。Jの集客増は結局のところ、地道な活動の積み上げが必須という当たり前の事を。
たとえば氏は、「ホーリーホックの地道な努力こそ本質」と大本営発表で語っている。さらに、中長期的な本質として「劇場としてのスタジアムを改善、いや改革していく事」の重要性も。一部を抜粋しよう。
部屋の反対側の壁には夢のスタジアムプランが10枚以上貼られている。キーワードは、「駅前、街なか、4面屋根付き、多機能型、フットボールスタジアム」だ。今後、スポーツで地域を元気にしていくためには、その環境整備は重要だ。サッカーに限らず、様々なイベントが開催でき、近隣のショッピングモールやホテルなどとも併設される施設の整備は私の重要なミッションでもある。雨にも濡れず、トイレがきれいで、フードコートが広く、ショッピングモールに近ければ彼女をデートに誘えるはずだ。そんな夢を毎日のように広げている。いや、おっしゃる通りだと思う。
せめて少なくとも、氏が語れば語るほど状況が悪くなる現状は、何とかすべきではないか。氏は営業と言うか広報と言うか、未来を代弁できる幹部を持つべきだろう。たとえば。中山雅史さんはいかがだろうか。