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ぼっち転生記 作者:ファースト

アルの惨殺死体

またも更新時間が遅れてしまい、申し訳ありません!
  ◆◆◆

 用を足した後、アッシュはアル達が待つ路地裏に戻ることにした。

 風系精霊魔法による“超低空”飛行により戻ることにしたのだ。
 あえて、地面から1メートル以下の高さを飛んだ。
 それもかなりの速度を出して。
 街の住民を含めて、様々な“障害物”があるなか、高速超低空飛行を行っているのだ。

 一種の訓練トレーニングでもある。

 動体視力・反射神経を鍛えつつ、精霊魔法による飛行技術も高める訓練トレーニングなのだ。

「GOGO! “スピード”の向こう側へGOっ!」

 アッシュの頭に乗っている仲良し精霊・シィルが囃し立ててもいた。

「疾風伝説 特攻ぶっこみのアッシュ君なのっ!」
「いや、どこにも特攻するつもりはないぞ」

 高速超低空飛行をしつつ、苦笑するアッシュ。

 また、アッシュは風系精霊魔法《姿隠し》も併用して発動させていた。
 ゆえに、アッシュの姿は街の住民たちには見えていない。
 超低空飛行中のアッシュが高速で傍を通り過ぎても、住民たちは“疾風かぜ”が吹いたようにしか認識できていなかった。

 アッシュは、何度もこのような高速超低空飛行を行ったことはある。
 しかし、いまだ“事故”を起こしたことはなかった。
 アッシュの精霊魔法を使用した飛行技術は、相当な技量レベルに達しているのだ。
 人との衝突事故など、そうそう起こりえないほどの飛行技術保持者なのである。

 だが――今回は予期せぬ“不運な事故”が起きた。

 アッシュが超低空による高速飛行中、すれ違った中年男性。
 紳士風のお洒落そうな中年男性の髪が――空に舞ったのだ。

 地毛、ではない。
 人工の髪=カツラだ。

 中年男性のカツラが、空に舞ったのだ。

 かなり美形であったダンディな中年男性はヅラであった。

 高速飛行中のアッシュが傍を通り過ぎた際、疾風が吹き、中年男性のヅラが風に吹き飛ばされ、空を舞ったのだった。
 ヅラは――”踊”るように空を舞ってもいた。

 中年男性にとって、実に”不運”な”事故”であった。
 大通りであり、衝撃的瞬間の目撃者が多数いたことも、中年男性にとって”不運ハードラック”すぎた

「“不運ハードラック”と“ダンス”っちまったの……」

 アッシュの頭に乗る風精霊シィルがキメ顔でそう呟いていた。

  ◆◆◆


「む」
 アッシュが空中で緊急停止した。

「どうしたのアッシュ君?」
「珍しい生物がいた」 
「確かにさっきのオジちゃんは珍しい生物だったけど。ヅラの下に枝分かれした髪の毛が三本だけ生えてあったし! 以前、アッシュ君が教えてくれたオバケのQちゃんみたいだったの! ぷぷぅっ!」

 元は一本だったが、枝毛により三本に分かれていた中年男性の地毛(宝物)を思いだし、吹きだす風精霊。

「シィル。髪のことで他人を笑うのはあまり良くないぞ」
「ご、ごめんちゃいアッシュ君」

 珍しく強い口調で注意してきたアッシュに対して、風精霊シィルは素直に謝る。
 怖いモノ知らずのシィルだが、アッシュに嫌われるのだけは何より怖いのだ。

 ちなみにだが、アッシュは前世、人間関係などのいろんな悩み・ストレスから10円禿げなど薄毛のことで悩んだ事があった。

 それゆえ、転生したいまでも、禿げた人間に対して同情的な面がある。

「反省しているならいいさ」

 そう言いながら、アッシュはある店舗に視線を向けた。

 ペットショップ、それも鳥を中心としたペットショップだ。
 その店には、この辺りでは非常に珍しい“九官鳥”もいた。

 《姿隠し》をしたままそのペットショップに近づくアッシュ。

 鳥かご(ゲージ)に入れられている九官鳥をしばらく見つめる。
 前世でペットとして飼っていた九官鳥の“キュウちゃん”を思い出していた。

「ファックなの!」

 風精霊シィルは、九官鳥に下品な言葉を覚えさせようとしていたのだが、反応はなかった。

「お尻の穴に手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせちゃうぞ、なのっ!」

 めげずに言葉を教えようとする風精霊。

「彼氏のより、ずっと大きいのっ!」

 ロクな言葉を覚えさせようとしていなかったが。
 もし、恋人(彼女)が飼っている九官鳥が、このような言葉を口にしたら修羅場になり破局しかねない。

「サラマンダーより、ずっとはやい!! のっ!」

 本当にろくな言葉を覚えさせようとしていなかった。

「おとなになるってかなしいことなの…………」

 本当に本当にろくでもない言葉ばかり覚えさせようとしていた。

 あいにく普通の鳥に精霊の声は聞こえないので、この九官鳥がシィルの言葉を覚えることはなかったが。

「ど、どうしたのアッシュ君っ!?」

 シィルはビックリしながらアッシュに声をかけた。
 アッシュが、うっすらと涙を浮かべていたのに気付いたのだ。

(ひょ、ひょっとして、さっきの私の言葉が、アッシュ君のトラウマを刺激しちゃったのかなっ!?)

 などと、シィルは不安になった。

(ひょっとして、ひょっとして、アッシュ君、前世で好きな人をネトラれた経験あったりして…………しかも、処女だと思っていた幼馴染の女の子が他の男により“おとな”にされちゃったりして…………あぅぅぅ、可哀想なアッシュ君なの)

 本気で心配と同情をする風精霊。

 もっとも、アッシュが涙を浮かべているのは、全然別の理由であったが。

 アッシュは、かつて飼っていたペットを思いだし、気付かないまま、涙を浮かべていたのだ。

  ◆◆◆

 アッシュは前世、九官鳥を飼っていた。

 “キューちゃん”と名付け、家族のように可愛がっていた。

 九官鳥の寿命が15からせいぜい30年なのに、29年も生きたのは、アッシュが大切に飼っていたからでもあった。

 九官鳥としては非常に長命だった“キューちゃん”

 アッシュがものごころついた時から側にいた――側にいてくれた――大切な存在だった。

 しかし、その“キューちゃん”もついには寿命の限界がきた。

 アッシュは懸命に世話したが、その命の火はもはや尽きかけていた。
 この時、前世のアッシュは、非常に不安定な精神状態でもあった。
 友達も恋人もいなく、また、冤罪により職を失った挙句、家族からも疎遠となり、一人ぼっちで孤独に生きていた前世のアッシュ。

 彼には、ペット達だけが心の支えでもあった。

 しかし、そのペット達も老いや病気、あるいは事故で次々と亡くなっていった。

 動物好きのアッシュは、犬や猫も飼っていたが、立て続けにペットロスに見舞われていたのだ。

 最後まで生き残っていたのは、種としてかなり長い寿命を持つ九官鳥の“キューちゃん”だけだった。

 もし、“キューちゃん”も死に、本当にひとりぼっちになったら、精神の不安定だったアッシュは、それこそ生きる気力すらも無くなりそうだった。

 絶望した目のアッシュが見つめるなか“キューちゃん”は――ある歌の歌詞を口にした。
 非常に弱弱しく小さな声で。

 それは、アッシュが教え、覚えさせた歌の歌詞だった。
 『YOU are love』という曲の歌詞だ。
 『復活の日』という映画の主題歌でもある。

 アッシュが好きな曲であり、落ち込んだ時などはよく聞いていた。

 部屋で飼っていた“キューちゃん”と共に。

 九官鳥の中でも特に言葉を覚える能力に優れていた “キューちゃん”

 この賢い九官鳥は、いつしか、歌詞をほぼ覚えるようになっていた。

 その“キューちゃん”が息絶える寸前、歌いだしたのだ。

 歌い終わったあと“キューちゃん”は、最後にアッシュの名を――前世の名を――呟き、そして………………逝った。

 生きる気力も尽きかけていたアッシュだが、自殺だけは思いとどまった。

 ――愛しい人よ、希望を持ち続けることを…………

 “キューちゃん”がそう言い残していたからだ。

  ◆◆◆

 最後の別れも含めた“キューちゃん”との記憶をまたも思い出し、アッシュは涙を浮かべていたその頃。

 路地裏でアルは、彼女のお父様アッシュを待っていた。
 アルは片手で顔を隠し、スタイリッシュなポーズをとりつつ、奴隷少女サラ相手に得意気な様子で語っていた。
 妄想――脳内設定――を。

「その時、神に最も近い異界の大天使――反逆の熾天使・ルシファーであった私は、《世界の選択チョイス》により“原初の完璧巨神パーフェクトオメガゴッドオリジン”との【究極最終神魔戦争アルティメットハルマゲドン】に突入したのです」
「…………」

 どういう態度をとればよいのかわからず困惑気味の奴隷少女サラ。
 さっきからずっと、アルの妄想話に付き合わされているが、ほとんど理解できていなかった。
 アルの語る妄想は、彼女が思いついた設定や独自の単語・名称をふんだんに盛り込んでいるので、一般人には理解不可能なのである。
 アルはお父様アッシュから教えてもらった、現代地球の神話・伝説・漫画・アニメなどの用語をパクリまくってもいたので、余計に意味不明でもあった。

「∞(無限) × ∞(無限)の超∞(無限)世紀を闘い続け、ついには《神喰いゴッドイート》を成した私ですが、“原初の完璧巨神パーフェクトオメガゴッドオリジン”を“無”に還すことは、《世界の滅亡ジ・エンド》に繋がる“最後の引き金ティロフィナーレ”だったという《真理ヴェリタ》にたどり着いてしまいましたのです」
「は、はぁ」
 困惑しつつも、とりあえず適当に相づちを打つサラ。
「“新たしき真なるゴッドリア”になった私は、《世界の滅亡ジ・エンド)》を“回避”する為に――シッ!」
「え? え?」

 突然、真剣な顔をしたアルに口元を押さえられ、狼狽えるサラ。

 アルはそっと手を放した後、空を見上げ――

「…………“視”て、いやがりますね」

 忌々しそうに呟く。

「あ、あの……」
「シッ! “奴ら”に気付かれますですよっ!」
「え? あ、ご、ごめんなさい」

 わけがわからないままも、サラは謝った。

「あまりこの世界の”法則“を曲げたくはありませんが――」

 なにかを決意したかのように呟くアル。

「封・神・破・邪・霊・殺・滅・魔っ」

 バババババババババババババっ!!!!!!

 複雑な印を次々と手で結びだした。
 毎日練習している成果もあり、かなり堂に入っていた仕草だった。

「――《大封神破邪皇霊殺滅魔結界陣》――」

 アルは己が編み出した《秘印術》の名を呟く。
 中二病小悪魔アルの妄想――脳内設定――における《秘印術》にすぎなかったが。

「……フゥ……」

 アルは(別に汗は掻いていなかったが)自分の額を服の袖で拭う。

「…………」
「危ないところだったのです。
 “管理局”の“エージェント”が“第九異空次元”から“覗”いていやがったのですが、咄嗟に“結界”を“この”次元”を"覆った"のでもう大丈夫ですよ(チラっ)」

 得意気な顔でサラをチラ見するアル

「…………は、はぁ……え、え~と、あ、ありがとうございます?」

 なにがなんなのかよくわからないが、催促された気がするので、一応サラは礼を言った。

「フフ、礼には及びませんですが」
「…………」

 嬉しそうに口をニマニマしているアルは、胸を張り、
「まぁ、もう安心していいのです。
 (大封神破邪皇霊殺滅魔結界陣》を展開している以上、“管理局”の“十大天元老”ですらも、この次元に手出しは――」

 その時、アルとサラの頭上――何もない空間――に、突如、魔法陣が浮かんだ。

 そして、その魔法陣から、黒ずくめの神父姿をした男が1人、姿を現す。

 宙に浮く厳格そうな神父姿の男はアルを見おろし、不快そうに眉をひそめていた。

「【魔法使い】の【使い魔】ではない“野良”悪魔を発見。ただちに駆除する」
「だ、だ、だだだだ、誰なのですかっ!!?? あ、あ、ああああ、あ、貴方は!!!???」

 狼狽えまくるアル。
 今まで妄想設定を垂れ流していただけだったのだ。
 本当に何者かが空から出てきて焦りまくった。

 サラも、目を見開き呆然としていた。

 転移系真正魔法で突如現れた神父姿の男は――《悪魔祓い師エクソシスト》だった。
 【教団】に所属する《悪魔祓い師エクソシスト》である。

 ユーシア大陸西方地域は【教団】の影響力が強い。
 そして真正魔法を至高の“力”とする【教団】は、さまざまな存在を邪悪・異端と認定し、排除していた。
 【教団】にとって、真正魔法以外の”力“を持つ存在は邪魔なのだ。

 精霊を邪悪な存在と断じ、邪精霊と呼びながら封じ、あるいは滅する【精霊封滅士】も【教団】には存在している。

 また、この神父姿の《悪魔祓い師エクソシスト》のように悪魔を駆除する者もいた。
 もっとも【教団】の教義において、精霊と違い、悪魔は別に存在自体が邪悪とされているわけではない。
 【魔法使い】に仕え、使役されている【使い魔】ならば問題ないのだ。

 しかし、主を持たない“野良”悪魔は、駆除対象であった。
 【教団】の教義において、悪魔とは【魔法使い】の“下僕”でなければいけなかったのである。
 悪魔という存在は、【魔法使い】の“下僕”という”身分“に定められているのだ。
 それが【神】の定めた真理であり、教えなのだ。
 ゆえに、【魔法使い】の主を持たない野良悪魔は、この地上に存在することを赦してはいけなかった。

 建前としては、だが。

 実際のところは、【教団】に所属する《悪魔祓い師エクソシスト》でも、危険度の低そうな野良悪魔なら見逃すことはある。

 あるいは、拘束し【収容所】に運ぶだけにする。

 野良悪魔は【収容所】に入れられたとしても、すぐに処分はされない。
 一定期間内に引き取り手――自分の使い魔にしても良いという【魔法使い】が現れれば、処分を免れられる。

 危険度の低い野良悪魔を発見後、その場ですぐに処分=殺害しようとする者は【教団】に所属する《悪魔祓い師エクソシスト》でもごく一部だ。
 一部の原理主義的な信者だけであった。

 だが――今、アルの前に現れた《悪魔祓い師エクソシスト》は、原理主義的な人間だったのだ。
 それも、狂信者といえるほどの。

 《聖典》に『【魔法使い】の主を持たない悪魔は、この地上に存在することを赦してはいけない』と書かれている以上、野良悪魔はなんらの事情も考慮する必要はなく、即刻処分する――それが狂信的な原理主義者にとって”正しい行い”であったのだ。

 アルにとっての不幸は、狂信的な《悪魔祓い師エクソシスト》に発見されてしまったこと。

 また、アッシュが、正体は猫系小悪魔アルプのアルを使い魔として当局に“登録”していなかったこと、であった。

 アッシュは使い魔としてではなく、家族のようにアルと接していた。
 《契約》により主従関係を結ぶだけの【魔法使い】と【使い魔】――そんな関係にはなりたくなかった。

 《契約》によるものではなく、心と心――絆――で、アルとは関係性を保ちたかった。

 そもそも、【魔法使い】としては総魔力が不足しているアッシュでは、悪魔と《契約》を結ぶために必要な真正魔法《使い魔》を発動できない。
 アッシュでは、【教団】の定める正式な意味においては、アルを【使い魔】にすることができなかった。

 登録の為、当局にアルを連れていけば、定められた法律によりアッシュとアルは引き離される。
 ゆえに、アルは未登録の“野良”悪魔でもあった。

「……駆除処分・遂行開始」

 そう呟き、アルにゆっくりと近づく《悪魔祓い師エクソシスト》。
 その目には、狂信的な光が宿っていた。
 しかし、数歩歩いたところでガクンと片手、それに片膝を地につけた。

「び、ビックリしたのです。でも、私の《悪夢ナイトメア》に掛かったようですね」

 ドキドキと鳴っている胸を片手で抑えながら、アルが呟いた。

 人型をとってはいるが、アルの正体は夢魔でもある猫系小悪魔アルプなのだ。
 《夢》を操るのが得意なアルは、対象を即座に眠らせることができる。
 悪夢を見せることもできる。
 それこそ、精神を破壊し、廃人化させられるほどの凶悪な悪夢すらも。

 突如現れ、駆除だの処分だのと言って近づいてきた《悪魔祓い師エクソシスト》に、内心では怯えまくっていたアル。
 しかし、相手がアルの発動させた《悪夢ナイトメア》に掛かったことを知り、余裕と落ちつきを取り戻した。

 アルの方から、《悪魔祓い師エクソシスト》に近づきもした。

「ジャスト1分。悪夢ゆめは見れたかしら、なのです」

 膝をつく《悪魔祓い師エクソシスト》を見下ろしながら得意気な顔で胸をはった。

「クフフフ。《魔女の女王ウィッチクィーン》の血を引きしを私の“邪眼”を見たのが、お前の敗因なのです。クフフフフフ」

 《魔女の女王ウィッチクィーン》の血を引いている事実も、邪眼を持っている事実もないが、アルはドヤ顔で自分の脳内設定をさも事実のように語っていた。

 また、《悪夢ナイトメア》は1分ちょうどで解除してやった。
 脆弱な精神の人間に長く《悪夢ナイトメア》を見せ続けると、本当に廃人化しかねないからだ。
 とはいえ、わずか1分間でも《悪夢ナイトメア》をかけていれば、おぞましい悪夢を見た対象は激しく精神を消耗し、しばらくの間はマトモに動けな――

 ズブッ!!!!

 アルの心臓部に《聖銀の短刀》が突き刺さった。

 《悪魔祓い師エクソシスト》が素早く懐から取り出し、アルの心臓にその刃を深々と突き刺したからだ。
 さらに――《聖銀の短刀》をねじるように回した。
 アルの心臓を抉るために。

「ヒ……ヒィ…………」

 奴隷少女サラは恐怖と驚きのあまり、悲鳴もあげられずその場で尻餅をついた。
 《悪魔祓い師エクソシスト》として厳しい戒律と鍛錬により精神も鍛えられている男は、アルの《悪夢ナイトメア》に掛かってはいなかった。
 油断させるため、かかったフリをしただけだった。

 この男は、《悪魔祓い師エクソシスト》としても魔法使いとしても相当な実力者なのだ。
 《悪魔祓い師エクソシスト》として最高位のAAAトリプルランクでもあった。

「神の名の下に…………駆除処分――完了」

 ニタァァァァァァァ。

 それまで無表情だった《悪魔祓い師エクソシスト》が、至福に包まれているかのような恍惚とした笑顔を浮かべた。
 アルの左胸に《聖銀の短刀》を根元まで埋めながら。

 だが、すぐにまたの無表情に戻った。

「では、これより――悪魔《解体作業》を開始する」

  ◆◆◆

 死亡し、本来の姿である“二又の黒猫”に戻ったアルの身体は、バラバラに解体された。
 素材部位を抜き取ろうとする《悪魔祓い師エクソシスト》の手により、手足も、首もバラバラにされた……のだ。

 悪魔の心臓や肝、目玉、尻尾などは、“素材”となるのだ。
 【教団】に寄進するため、《悪魔祓い師エクソシスト》はアルを解体し、素材の剥ぎ取りを行っている最中であった。

 そこに――アッシュがあらわれた。

 地獄の極炎の如き凄まじい業火に包まれる《悪魔祓い師エクソシスト
 赤き炎は禍々しい“邪竜”の姿をとってもいた。
 焼き尽くされた《悪魔祓い師エクソシスト》は一瞬で骨まで灰になる。
 さらに、烈風が吹き――その灰は跡形もなく吹き飛ばされた。

 アッシュはフラフラとおぼつかない足取りで、アルに近づいた。

 解体途中であった見るも無残な惨殺死体となっているアルに近づき、両手両膝をついて崩れ落ちる。

 アッシュは――泣いた。

 アルの惨殺死体を前にボロボロと涙を零しつづけた。

 また、奴隷少女サラは声をかけらずにその様子を見つめてもいた。

 アルの無残な遺体に、アッシュの瞳から流れ落ちる涙が雨のように降り注ぐ。

 突如。

 アルの遺体が炎に包まれた。
 さきほど、《悪魔祓い師エクソシスト》を灰化させた炎とは――別種の炎だ。
 さきほどのは、怒りと憎しみに駆られたアッシュによる滅びの炎だった。
 だが、今、アルを包み込んでいるのは、まったく別種の炎である。

 さきほどの禍々しい赤き炎は、意識してアッシュが発動させた炎系の精霊魔法でもあった。
 しかし、いま、アルをまるで優しく抱くように包んでいる黄金(金色)の炎は、アッシュが意識して発動させた精霊魔法ではない。

 無意識に発動していた・・・・・・・・・・炎の精霊魔法だ。

 アッシュ自身、呆然としている。

 無残な遺体になっていたアルを包む黄金の焔。
 その金色の炎が――不死鳥の形をとった。
 生命の大精霊であり、不死、そして復活をもたらす不死鳥フェニックスの姿に。
次回からしばらくのあいだ、およそ一カ月間隔で、数回の連続更新を行うことにします。

※ 予定では、12月28日・12月29日・30日・31日の4日連続
※ 目標として、合計文字数は2万~4万

次回タイトル「復活」

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