発光ダイオード(LED)の量産に欠かせない容器「イリジウムるつぼ」。希少性の高い貴金属イリジウムの確保が難しいことなどから、製造するのは世界にわずか3社しかない。その一角を占めるのが貴金属加工のフルヤ金属だ。使用済み製品のリサイクル網の整備などで原料の安定調達体制を構築。高品質な製品の供給を続け、顧客からの信頼を勝ち得ている。
「希少原料の調達と製造ノウハウの積み重ね、リサイクル体制の3つを自社でそろえた企業は他にない」。フルヤ金属の大石一夫取締役はイリジウム製のるつぼを主力製品にできた理由をこう分析する。
るつぼで製造するのはLED基板の素材であるサファイア結晶。るつぼの中で原料をセ氏1000度以上で加熱する必要があり、こうした高温に耐えられる容器としてイリジウムをバケツ状に加工した「るつぼ」が採用された。
イリジウムは2400度の高温でも溶けず、他の物質に触れても溶け出しにくい特性がある半面、硬くてもろく加工が難しいという弱点も持つ。製品にわずかな不純物が混入しただけでひび割れの原因となるなど、取り扱いも難しい。
フルヤ金属ではこうした点に対応するため、つくば工場(茨城県筑西市)の溶解炉に5000度のプラズマを原料にかけることができる装置を導入。不純物を蒸発させて取り除き高純度のイリジウムを精製できる体制を整えた。精製し圧延したイリジウムをるつぼ型に加工するのは全て職人の手作業。1000度以上の高温でないと溶接できないため、高精度が求められる部位の加工は10年以上の経験を積んだ熟練工が担う。
フルヤ金属がイリジウムるつぼを開発したのは1981年。外国製るつぼの補修業務を担っていた同社に電子部品メーカーから国産化の要望が寄せられたことがきっかけだった。迅速な不良品対応や保守管理で評価を高めるとともに技術力も磨き、世界大手の座を獲得した。
30年間に培ったのは製造技術だけではない。イリジウムの年間産出量はわずか6トン。約9割が南アフリカ共和国に偏っている。このため南アの鉱山会社との資本提携を通じて安定調達先を確保してきた。るつぼ需要の拡大からイリジウムの取引価格が1年で2倍に急騰した2011年には南ア最大の貴金属鉱山の販売窓口を務める田中貴金属工業とも資本提携。現在は大手3社から調達できるようになった。
使用済み製品を回収し原料に再生するリサイクル網も整備。4月に本格稼働した土浦工場(茨城県土浦市)の新型の溶解炉はるつぼだけでなく触媒に含まれる微量のイリジウムも取り出せる。
「イリジウムの使い道はまだまだ広げられる」と大石取締役。LED関連の増産は一服したが、新たにスマートフォンの電波ノイズ防止部品の素材生産向けにるつぼの需要が高まっている。有機ELなど新規用途の開拓にも取り組んでおり、デジタル製品の生産現場の黒子役として存在感を増している。(荒尾智洋)
≪フルヤ金属の概要≫
▽本 社 東京都豊島区
▽事業内容 工業用貴金属製品の製造、販売
▽設 立 1968年
▽従業員数 264人(2013年6月末)
▽売上高 263億円(2013年6月期)