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help RSS 境界性パーソナリティ障害の性格行動パターンの特徴と早期母子関係に注目する原因論の移り変わり

<<   作成日時 : 2011/12/21 05:09   >>

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『感情・気分・行動・人間関係・自己アイデンティティの不安定性』を特徴とする境界性パーソナリティ障害(BPD)の人に見られやすい“行動・対人関係のパターン”には、以下のようなものがあります。

1.『自己』と『他者』との境界線(区分)が揺らいでいるため、『適切な距離感』のある人間関係を築くことが難しく、相手に対して不適切な要求を突きつけたり過度の甘えをぶつけたりする。その結果として、相手の要求・甘えに応えきれなくなって疲れきった相手が離れやすくなってしまい、不安感・孤独感に圧倒されてパニック状態に陥る。精神分析的には、自他未分離な幼児期の発達段階まで『退行』しやすい問題として解釈される。

2.精神的ストレスや見捨てられ不安が強まって耐えられなくなった時に、『リストカット・アームカット・根性焼き(タバコの火の押し付け)・オーバードーズ(過量服薬)』などの自傷行動をすることで、自分の追い詰められた心理状態を訴えようとする。

すぐに来てくれないなら死んでしまうかもしれないといった自殺企図をほのめかしたりすることもあるが、自傷行動も自殺企図も『混乱した感情の安定・助けを求めるクライシスコール』になっている。自己否定・将来悲観が過度に強まっていたりパニックに陥ることで、実際に自殺リスクが生じる場合もある。

3.『理想的な恋愛関係(友人関係)』や『望ましい相手の性格・反応』に過度にこだわり過ぎてしまい、ちょっとした意見の対立や相手の想定外の反応に激怒したり非難したりする。

人間関係の理想や永遠に終わらない愛情・友情といった『想像上のイデア・思想性』ばかりをイメージしてしまい、『完全ではない現実の人間関係(離れたり別れたり喧嘩したりの可能性もある関係)』が信用できなくなったり偽者・嘘のように感じてしまうことがある。

4.自己アイデンティティが拡散してしまい、自分が生きる意味や何かをする価値が分からなくなり、今の自分が何をすれば良いのかを判断できなくなり不安・混乱に陥る。その激しい混乱や感覚的な虚しさが高まることによって、『希死念慮』を抱いたり『自殺企図』を実行したりすることもある。

5.『精神的ストレスによる不安感』や『自己アイデンティティの拡散による空虚感』を和らげるために、衝動的・刺激的な行為や依存症的な行動を繰り返しやすい。自分で自分を傷つける結果になる衝動的な行動には、『性的逸脱(安易な性関係)・浪費・危険運転・挑発による喧嘩・自傷行為』などがある。依存症的(嗜癖的)な行動には、『ギャンブル依存・アルコール依存・薬物依存・セックス依存・過食症拒食症・盗癖(クレプトマニア)』などがあり、境界性パーソナリティ障害はさまざまな依存症と重なりやすい問題でもある。

6.人間関係やコミュニケーションが自分の思い通りに進まないと、理不尽な怒りや癇癪(かんしゃく)を爆発させて、相手を酷くこき下ろしたり、激しい口調で罵倒・非難してしまうことがある。『激怒発作・感情制御の困難』とも呼ばれる症状であるが、一方的な怒りや不満を相手にぶつけることで、それまでの人間関係が破綻してしまう原因を作ってしまう。

7.虚無主義的な無力感や人生の無意味感をどうにか回復しようとして、『生きている実感・自分の存在感』をダイレクト(感覚的)に得るために、敢えて危険な行動(リスクテイク)にチャレンジしたり、堕落した乱れた生活(享楽主義のデカダンな生活)をしてしまうことがある。

8.相手の本当の気持ち・考えを試そうとして、『上手くいっている人間関係』を破壊してしまうような『挑発・悪口・批判』を敢えて仕掛けてしまうことがあり、この問題は『試し行為』としても知られている。相手から離れていった『破綻した人間関係』を、どうにかして復活させようと考えて、狂気じみた努力やつきまといをしてしまうこともあるが、その根底には耐えるのが難しいと感じる『見捨てられ不安』の高ぶりがある。

9.他者に対する評価・態度が『理想化(賞讃)』と『脱価値化(こき下ろし)』で極端に変わりやすく、『二分法思考(白か黒か思考)』と呼ばれる認知の歪みの問題が起こりやすい。
相手の人格や行動を客観的に落ち着いて評価することが難しい興奮状態になりやすく、『相手の内心・意図・考え』を自分の推測的な想像で決め付けてしまうことが増えるので(読心術・未来の先読みをしてしまうので)、対人関係における食い違いやトラブルが増えやすくなってしまう。


境界例(ボーダーラインケース)は精神病(統合失調症)と神経症(身体表現性障害・不安障害)の境界領域にある精神状態と想定されていた歴史的経緯もありますが、現在では現実認識能力としての認知が強く障害されるような精神病とは区別して考えることが多くなっています。

統合失調症との相関よりもむしろ、成人期になって分かる発達障害や慢性化したうつ病(気分障害)とのオーバーラップのリスクが高くなっていますが、『発達障害とパーソナリティ障害の症状・問題の類似性』については、両者の疾病概念としての類似性(発達プロセスそのものをパーソナリティの形成プロセスと概念的に切り離すことができない)も関係していると思います。

1960年代にはO.カーンバーグの境界性パーソナリティ構造(BPO)の理論に基づいて攻撃性・自己愛・衝動性などの『先天的な気質』が主な原因とされていましたが、1970年代になるとマスターソンの仮説が注目されて『発達早期の母子関係の問題(子どもの自立を阻害して依存を助長する愛情の与え方や無関心さ)』などが原因とされました。
精神分析には様々な理論的立場がありますが、正統派の自我心理学やM.クラインの対象関係論、H.コフートの自己心理学などは、発達早期の母子関係の愛着やコミュニケーションを重要視するマスターソンの立場に近いものだと言えます。

現在の発達的な原因論では、『乳幼児期(発達早期)の母子関係』に限らない『各年代での発達課題の失敗(対人的・心理的なトラウマの影響)』などがパーソナリティ障害の環境要因になり得るとされています。もちろん、発達的な原因以外にも、脳内ホルモン(セロトニン系)の分泌障害や先天的な遺伝形質が関係する生物学的な原因論というのも科学的な研究では重要なものになっています。







■関連URI
パーソナリティ障害における“問題状況(不適応)のパターン化”と“主観的な悩み・他者への影響”

演技性人格障害の“自己アイデンティティの拡散”と“性的アイデンティティの未成熟”の問題

自己愛障害(自己愛性人格障害)に見られる“自己中心性・承認欲求・脱価値化・カリスマ性”

境界性人格障害の特徴としての『衝動性・依存性・空虚感・不安定さ』と対人関係のトラブル

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