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help RSS 境界性パーソナリティ障害(BPD)の形成と“母子間の愛着障害・嗜癖の依存性の要因”:2

<<   作成日時 : 2012/09/28 23:15   >>

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幼少期からの親子関係の問題や愛情剥奪、守られている感覚の欠如などによって、『親や過去の記憶から与えられた自己像(その視点からの世界観・人間観)』に強く束縛されてしまい、自由な物事の認知や行動の選択ができなくなっているのがBPDの人格構造なのである。そのため、他人からの愛情や関心を失う事を恐れて異常なほどの執着心やしがみつき、つきまといをしてしまう事があったり、反対にわざと相手に迷惑や負担を掛けるような『拗ね・いじけ・攻撃性』を見せて自分への関わりを求めようとする事もある。

親の価値観や期待を受け入れて内面化しただけの『偽りの自己』から、自分独自の価値観や方向性、存在意義に支えられている『本当の自己』へと成長する過程を支援するような接し方が、カウンセリング(心理療法)における基本的な態度とも重なってくる事になる。偽りの自己を反省してその長所と短所を明らかにし、自分の将来にとって役立つ長所を残しながら、『現在の自分の生活・仕事・人間関係』にスムーズに適応できるような本当の自己を作り上げていくことが、BPDの人格構造の段階的な改善では重要なのである。

BPDの人は表面的に怒ったりいじけたり、挑発的な行動を取ったりしていても、心の底から本当に相手を嫌って切り捨てようとしている事は滅多にない。その『表面的な言動・迷惑な態度』と『深層的な愛情欲求・寂しさ』との違いを理解した上で、相手の本音に寄り添った配慮的なコミュニケーションできるかどうかが、境界性パーソナリティ障害の基本的な治療戦略と関係している。

それはBPDの人の周囲にいて少しでも問題が改善して欲しいと願っている家族や恋人、友達に、非常に強い忍耐力と共感性、感情の割り切り(嫌な事や迷惑行為をされても引きずらないという感情制御)を要求するものになる。家族や恋人がBPDに対して治療的な関わり合いをしようとするならば、『相手の激しい感情や要求、攻撃に巻き込まれない事』『相手の表面的な言動と本音の傷ついている感情との違いを理解した上で接する事』との二点が重要になってくる。

境界性パーソナリティ障害(BPD)は、オットー・カーンバーグカール・メニンガーといった精神分析家が臨床的に関わっていた時代には、精神病(統合失調症)と神経症(異常性格)の中間領域にある精神状態の『境界例(borderline case)』として理解されていた。

だが、その後の研究では、BPDは現実認識能力が障害されて幻覚・妄想が現れる『統合失調症(精神病)』よりも、気分の波が激しくなって情動を制御できなくなり、人間関係にトラブルが起こりやすい『気分障害・感情障害(うつ病・双極性障害)』との相関が指摘されるようになった。

境界性パーソナリティ障害の発症要因(性格形成過程の原因)も、一般的な精神疾患の発症過程と同じく『素因‐ストレスモデル』で捉えられており、BPDになりやすい遺伝的・気質的な素因があってそこにトラウマティックなストレス状況が重なる事で、思春期までに段階的にBPDの性格構造が形成されていくと考えられている。基本的な図式としては『遺伝的要因+環境的要因』であり、その環境的要因の代表的なものとして、『母子関係の愛着障害』『乳幼児期から思春期に至るまでの長期間の分離・ネグレクト』がある。

乳幼児期に母親との安定した信頼できる『愛着(アタッチメント)』が形成されないと、乳児期の発達課題である『基本的信頼感』が獲得できずに、自分は誰からも愛されず大切にもされないという『孤独感・疎外感(被害妄想的な他者との懸隔感)』が生じやすくなる。安定した精神構造を作り上げた人は、内面に安定した自分を守ってくれる他者のイメージ(表象)である『対象恒常性(object constancy)』を形成しているのだが、境界性パーソナリティ障害(BPD)や自己愛性パーソナリティ障害(NPD)、社交不安障害の人は幼少期からの成長プロセスの中で、この対象恒常性を確立できなかった事が発症(性格形成)の要因になっているのである。

境界例を研究した精神分析家のO.カーンバーグやマスターソンらは、マーガレット・マーラーの考案した『分離・個体化理論(早期発達理論)』に着目して、境界例の発症原因を『母子分離段階での子どもの寂しさ・孤独感(母親に愛され保護されていないという主観的実感)』に求めたが、これも1〜3歳頃に現れる『再接近期』における愛着障害として理解できる。愛着障害というのは、乳幼児期の愛情喪失(母性剥奪)体験や見捨てられ体験によって起こる問題であるが、その発症の初期には、周囲に対して無感情・無関心になりやすく誰にも愛着を形成できなくなるという問題が出てきやすい。

3〜5歳の幼児期になると愛着障害の子どもは、それまでの無感情・無関心とは打って変わって、自分に優しい言葉を掛けてくれたり楽しく遊んでくれるような相手であれば、誰にでも懐きやすいという反応を見せやすくなる。そして、自分に優しくしてくれる相手がいなくなっても、また別の自分に関心や愛情を注いでくれる相手がいればその相手に依存するようになり、絶えず『依存・愛情の対象』を求めて寂しさ(孤独感)を訴えるようになっていく。

このように愛着障害の対人欲求としがみつき(依存性)の強さは、思春期以降の年代のBPDの人の対人関係のパターンと非常に似ている要素があり、『自分に興味関心・愛情を見せてくれる人』であれば誰でもいいというような“刹那的・享楽的な人間関係”に依存症的にはまってしまう問題も出てくる。

そして、セックスだけの魅力で異性を誘ったり引きとめようとしたり、金銭(利害)だけのつながりで相手が自分から離れないようにコントロールしたりといった、『本質的に自己破壊的(自虐的)な人間関係』に落ち込んでしまうリスクがBPDでは有意に高まってしまうのである。それはBPDの人が自分で自分を大切にすることがなかなかできない、自分に対して大切にしたいと思うような自己評価を培う事ができないという問題とも重なっている。どのような形や手段であれ、『他者から認められる事・愛情や保護を与えられる事』をとにかく最優先してしまい、その結果、自分で自分を傷つけて貶めてしまうような自滅的で不毛な関係を続けやすくなるのである。

この記事は、『境界性パーソナリティ障害(BPD)の形成と承認不全を生む“家庭環境・親子関係の要因”:1』の内容の続きになっています。






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アダルトチルドレンの認識とマーシャ・リネハンの“不承認環境”がもたらすパーソナリティへの影響
境界性パーソナリティ障害(BPD)が形成される環境的要因には、アダルトチルドレンの成育家庭や幼少期の愛着障害をもたらす母子関係が関係している事もあるが、BPDの性格構造が形成されやすい家庭環境としてマーシャ・リネハンは『不認証環境』というものを定義している。『不認証環境』というのは簡単に言えば、子どもの存在価値や能力・成績、感情・気分などを肯定的に承認して上げる事が殆どない環境(親子関係)の事であり、子どもが勉強を頑張ったり思いやりのある行動をしたり、家族の手伝いなどをしても褒めてあげず認... ...続きを見る
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