【M&D Lab.連載コラム01-6
今宿晋作の未承認新規抗がん剤シリーズ Part3

第26回

ボサトリア,
メポリズマブ


Bosatria,mepolizumab

  抗インターロイキン(IL)-5モノクローナル抗体である。この抗体を投与すると、血液中の好酸球を著しく減少させることが出来る。インターロイキン(IL)はサイトカインの一種で、そのなかにはIL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-12、IL-18など生体機能に関与する多くのILが知られている。なかでもTh2サイトカインといわれるものにIL-4とIL-5がある。IL-4はB細胞を介して肥満細胞の分化に働き、肥満細胞からヒスタミンロイコトリエンを遊離放出させ、一方、IL-5は好酸球と好塩基球の分化に必要なサイトカインとして働き、特に好酸球の分化に働いて好酸球から細胞障害性物質を放出させ、これらは相まっていわゆる1型アレルギー(喘息)の発症に関与する。

  好酸球が増える疾患の代表的なものにはアレルギー、寄生虫などが知られるが、それ以外に原因のよく判らないものは従来、好酸球増多症候群(Hypereosinophilic syndrome; HES)として分類されていた。HESと定義されたのは好酸球増多(1500/μl以上が6ヶ月以上続く)、好酸球が増えることにより種々の臓器異常(皮膚、心臓、消化器、中枢神経系など)を来たすというものである。従来、HESに対する治療はステロイドであった。近年、このHESについての異質性が次々に明らかにされ、あるものは骨髄細胞系の異常で、FIP1L1/PDGFRAというキメラ遺伝子異常によりチロシンキナーゼの過剰発現を伴う慢性好酸球性白血病(CEL)であり、治療にはグリベックという慢性骨髄性白血病(CML)に有効なチロシンキナーゼ阻害剤が著効することが明らかになった。一方、Gleich症候群(FIP1L1/PDGFRAは陰性)に分類されるものがあり、こちらはリンパ球系の異常でIL-5の過剰産生によることが明らかにされ、このIL-5過剰産生をどのように治療するか?という過程で生まれてきたのが抗IL-5モノクローナル抗体(メポリズマブ)ということになる。同時にこのモノクローナル抗体はGleich症候群のみならず、重篤な喘息、好酸球増多を伴う鼻ポリープ(nasal polyposis)、好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis)などにも適応を有する。

  メポリズマブは1バイアル750mgの靜注用製剤である。特にHESに対しては二重盲検多施設の第3相試験がUSAやEUで施行されてきた。臨床像がHESに類似するChurg-Strauss 症候群に対する治験も行われている。これらの治験での焦点はメポリズマブを併用することで、どこまでステロイドを減量できるか、であり、いずれも有効性が確認されている。NEJM(2008年3月20日号)に掲載された論文では85例のHES症例がメポリズマブ靜注群43例、プラセボ群42例にランダム化され、計8週間の治療でステロイド減量の効果が比較された。メポリズマブ750mgあるいは生食を週に1回靜注、計8回靜注する試験であった。メポリズマブ群ではステロイドの減量はより高率に、また好酸球の減少もより有意に見られた。副作用はメポリズマブ群7/43、プラセボ群5/42で差がなかった。副作用には喘息、HES増悪、肺炎、腎不全、気管支炎、心停止、肝炎、膵炎、発熱、脊椎圧迫骨折などが報告されている。

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