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■125年以上前に定着か

 自生するブナの北限域とされてきた道南の黒松内低地帯周辺からさらに12キロ北で今春、ブナ41本の個体群が見つかった。当時調査にあたった研究グループがその後の再調査で、その4倍の約160本ものブナを確認した。最も古い木の樹齢は推定で125年以上。小さな稚樹も多く、新たな北限のブナは125年以上前にこの地に定着し、今も増殖を重ねていると判断された。

 登山道を登り、さらに背丈を超えるササをかきわけて進むと、間もなく白い樹肌のブナの大木が目に飛び込んできた。

 7月下旬、ニセコ山系で森林総合研究所北海道支所の田中信行・地域研究監らの研究グループが行った現地再調査に同行した。すっくと天をつく木、途中から何本にも枝分かれをした木、えぐられたような斜面を根元からはうように空を目指す木、ササを超えてすらりと伸びようとしている若い木。さまざまな姿のブナが確認された。

 田中氏らは2日間の調査で、約1ヘクタールの範囲に樹高1・3メートル以上の若木~成木約60本、それ以下の稚樹約100本を確認した。前回の調査は残雪期の4月。当時は雪の下に隠れていた個体が今回、多数見つかった。最も太い木は直径67センチ。最大樹齢は125年以上と推定された。

 田中氏は、樹木の種子をエサにするミヤマカケスなどが秋にブナの実を運び、個体群を形成したと推測、「発見地点のブナが貴重なブナ北限個体群であることがはっきりした。今後の変化を追跡したい」と話す。研究グループは「ほかの場所にもブナの個体群は必ずあるはず」と、ニセコ山系の他の山域や積丹半島などで新たな個体群を探したが、まだ見つかっていないという。

■温暖化進行で北進の可能性

 地中に残された花粉の分析などから、最終氷期の最寒冷期(約2万年前)に本州に後退していたブナは、約6千年前に函館周辺から北上を始め、約千年前には黒松内低地帯にブナ林を成立させたとする説が有力だ。

 黒松内低地帯から東に約10キロ、洞爺湖の西にある豊浦町礼文華峠付近の急斜面で近年、39本のブナ個体群が確認され、ここが北限域における「東限」とされている。

 この東限のブナ個体群を見つけた黒松内町ブナセンターの斎藤均学芸員によると、太いもので直径50センチほど、樹齢約百年。大半は30センチ未満の若い木だが、芽生えも確認されているという。最も近いブナ個体群からは3キロほど離れており、ここでもミヤマカケスなどが種子を散布、増殖して小個体群を形成したと見られている。

 斎藤氏は「一方で、伐採時に切り残されたブナが小個体群化した例もあると考えられる。ブナの小個体群の形成過程を考えるのは難しいが興味深い」と話す。

 点在する北限域のブナ個体群では、林の構成の調査やDNA解析など、さまざまな研究が進められている。

 田中氏は「地球温暖化に伴ってブナの生育可能な地域はさらに北進すると予測される。北進する過程をさらに追い、温暖化が自然植生に及ぼす影響と保護区見直しなどの適応策を考えていきたい」と話している。ブナの「北進」最前線から目が離せない。

 (深沢博)