2009.01.15 Thursday 00:00
初詣の始まり 正月のしきたり 日本人の心を解明1
初詣はいつから始まったのだろうか？
古来、日本の正月は、家族そろって家にこもり、歳紙と呼ばれる幸福をもたらす神様を祀るものだった。
お正月に家々に迎える歳徳神は、歳神さま、お正月さま、としこしさまなどとも呼ばれた。
「年」は稲の稔りのことで穀物神であり、その根底にあるのは穀物の死と再生。
古代日本で農耕が発達するにつれて、年の始めにその年の豊作が祈念されるようになり、それが歳神さまを祀る行事となり、正月の中心行事となった。
初詣がなかった江戸時代、冬至の主流は恵方参りだった。
恵方とは、その年の幸せを運ぶ歳神様がやってくる方角。
自宅から見てその年の恵方に当る神社や寺に参拝することを、恵方参りと呼び、江戸時代後期の庶民の間で流行し始めた。
恵方参りとは？
毎年、恵方と呼ばれる１年間通しての吉方がある。
恵方は、「明きの方よろず吉」とも言い、すべてのことに大吉であり、何事につけて繁盛する吉方。
恵方は毎年変わるので、恵方に適切なお寺や神社が無い場合もある。
その場合は目的のお寺や神社が恵方になるように、簡単な方違（かたたがえ）をする。
まず目的地が恵方となるような場所へ一旦行く。
そこで２時間ほど滞在し、その後目的のお寺や神社に向かう。
「万人共通、天からのお恵みを受取ることができる」という恵方方位。
気学で使う“九星盤”、その年の盤に、その年の干支（歳徳神）が入る方位は、最もお恵みの「気」が流れていると言われている。（その盤の真北にくるのが「厄年」の人）
どんなご利益があるかというと、�ー�分の気が上あがる。
「気が上がる」というのは、「運気」「チャンス」を逃さない状態。
感覚に磨きがかかっている状態。
��感覚が冴えてくると、遠回りをせずに済む。第六感が働く。
�Ｉ垰弋弔聞�運に見舞われる。
�し段�に行き、自分の「気」をあげると、それを持ち帰った家族にもご利益がある。
どこにいけばいいのかというと、自分の自宅から見て、その年の方位の神社・仏閣に行こう。
ただし遠い方がよりご利益あるので、2Km以上は離れること。
各方位のエリアは30度ある。
この30度を３分割する。
暦の天盤を見ると、恵方または歳徳神と書かれている方角が恵方。
下記の四方向を循環する。
寅と卯の間 ほぼ東北東 西暦の下1桁が4、9の年
巳と午の間 ほぼ南南東 西暦の下1桁が1、3、6、8の年
申と酉の間 ほぼ西南西 西暦の下1桁が0、5の年
亥と子の間 ほぼ北北西 西暦の下1桁が2、7の年
心の中で
「住所 名前 お願い事を一つ」言う。
そしてこう言う。
「天と地をつなぐ神よ、私が恵方だ！
私にチャンスを下さい。
私にチャンスを見つける智慧を下さい。
私にチャンスに乗る勇気を下さい。」
そして、天を片手で指差し、地をもう一方の手で指差す。
これは、天の気と地の気を指で指している状態。
上下の気を、自分の中に吸収している姿となる。
「釈迦が生まれた時に、すぐに歩き出し、天と地を指差した。」
といわれており、お釈迦様のポーズ。
時期は、2月4日 又は、この前後一週間の期間。
↑お釈迦さまは「天上天下 唯我独尊」と言われ、指を天に向かって指している。
近年では節分の日にこの恵方に向かって太巻き(恵方巻)を 丸かじりして食べると良い、という話が全国に普及している。
節分の夜にその年の恵方に向かい、目を閉じて願い事を思い浮かべながら太巻きをまるかぶりするのが習わしとされる。
食べている間は無言でなければならない。
七福神に因んで、かんぴょう、キュウリ、シイタケ、伊達巻、うなぎ、でんぶ等七種類の具を入れて「福を食べる」という意味合いもある。
「福を巻き込む」という説明もある。
九星気学風水とは、古代中国より伝わる天体に基づく学問で、現在、経営者や事業家の間でも人気が高く信頼されている。
私たちが住んでいる地球や宇宙では、ある法則性をもってさまざまなエネルギーが常に循環している。
地球上に住んでいる限り、必ずこのエネルギーの影響を受けている。
宇宙、自然、人など地球上のありとあらゆるものを陰陽、五行、そして９つのエネルギーに分けた。
そのエネルギーの流れを学問としたものが九星気学風水。
宇宙の気（外気）と自分の気（内気）の流れをみていく。
天璋院篤姫が江戸城を去り、時代は明治へ。
日本にも西洋化の波が押し寄せた。
明治５年（1872）新橋〜横浜間に、日本初の鉄道が開業。
庶民が郊外の大きな寺社へ参拝することが可能になった。
例えば川崎大師は鉄道が開通して、元日の参詣客が徐々に増え、1890年頃から元日の参拝が定着した。
当時の賑わいを報じた東京日日新聞 明治18年（1885）1/2。
この時元日に初めて参詣することを“初詣”と呼ぶようになった。
初詣とういう言葉が使われ始めたのは、たった100年前。
↑１号機関車（国指定重要文化財）明治4年イギリス製。
新橋〜横浜間で日本初の鉄道が開業した時の機関車。
↑旧新橋駅
↑旧新橋駅復元
その後鉄道は、参拝客をターゲットにした。
例えば成田山新勝寺（千葉県）の参拝客を狙って、成田鉄道と京成電鉄が誕生。
明治時代にできた成田鉄道は、成田山の住職が発起人の１人に関わっていた。
成田山新勝寺のために作られた鉄道。
京成電鉄も成田山から資金援助がなされていた。
鉄道会社とお寺との関係は、非常に深かった。
鉄道の発展により、信仰心から参拝する「信心参り」から行楽の一環としての参拝へと移り変わっていった。
鉄道会社は新聞広告で、初詣を宣伝し始めた。
京浜電鉄は、川崎大師への初詣を、路線図付で、成田鉄道の広告は成田山の写真付。
しかも汽車賃大割引と、盛大にアピール。
こうして初詣が庶民に浸透すると、国鉄と私鉄が初詣に行く乗客を奪い合う競争が勃発した。
国鉄VS私鉄の仁義なき戦いが始まった。
驚きのサービス合戦とは・・・？
川崎大師へ向う初詣客争奪戦。
京浜電鉄は、国鉄よりも運賃値下げ。
対する国鉄はおよそ１時間かかった新橋〜横浜間を27分に短縮。
さらに乗車券５割引。
国鉄VS私鉄の戦いがさらに熾烈だったのが、成田山に向う国鉄VS京成電鉄。
国鉄は列車の増発、汽車賃も破格な割引、その上お茶を出すサービス。
京成電鉄は、国鉄より25％値下げ、大晦日の終夜運転。
さらに乗客に不動尊像と開運お守りを抽選でプレゼント。
成田山の初詣客は、大正15年（1926）から昭和16年（1941）で10倍に膨れ上がった。
その後各地で鉄道が開業すると共に、初詣も全国的に広がっていった。
初詣の定着は、鉄道会社の企業努力がキッカケといえる。
大昔の一般庶民にとって、参拝は身近なものではなかった。
江戸時代、“寺社詣”が大流行した。
本来の神様への参拝、祈祷は複雑だったが、簡略化によって寺社詣が一般庶民に広まった。
参拝で行う数々の作法は、簡略化された形で現代に伝わっている。
例えば、初詣に行くとまず、境内に入る前に“手水舎”で手を清める。
手を洗い、口をすすぐのは、境内に入る前に自らの体を清める意味がある。
参拝の前に全身を海や川で清めるのが本来の作法だが、初詣の度にここまで本格的に清めるのは大変。
簡略化して手を洗うことで全身を清めたことにしている。
参拝の時に鳴らす鈴。
本来の意味は神様に自分が来たことをお知らせする合図。
鈴を使った“巫女の舞”が本来のしきたり。
この優雅な舞は、正式に行うとたっぷり１時間。
毎回やるのは大変なので簡略化した。
“おみくじ”は神様の言葉。
元々神様のお言葉は、“託宣”と言い、巫女に神様が乗り移って神様の言葉を聞けた。
託宣とは神様が人に乗り移り、神の意思を告げること。
それを簡略化し、おみくじを引くだけで神のお告げがいただけるようになった。
正式な作法が簡略化され、参拝が身近になり、流行するようになった。
参拝する時の作法を簡略化してもよいのだろうか？
日本の神様・仏様は寛容、信心が大切。
簡略化は、寛容な日本の神様だからこそ許されること。
気持ちが大事であり、感謝し祈る気持ちがあれば御利益はある？
↑長門の国、山口県下関市豊北町、夫婦岩注連縄張り。
毎年正月二日、豊漁と海上安全を祈り、地元二見の男たちが褌一丁の裸形になり、厳寒の日本海で身を清め、大注連縄（おおしめなわ 長さ約30m、重さ約120kg）を張り上げる光景は、海に生きる男たちの勇ましさを感じさせる新春の風物詩である。
今も残るお正月のしきたりにも重要な意味がある。
本来のお正月の過し方は、歳神様を祀るために、家族そろって家の中で過す。
歳神様とは毎年正月、各家庭に幸せを運んでくる来訪神。
その名は地域によって異なる。（正月様、恵方神、歳徳様、天歳神、若年さん、年爺さん）
お正月の行事やしきたりは、新年意やってくる歳神様をお迎えするためのもの。
部屋が汚いと、歳神様は家にやってこない。
そのために“大掃除”をする。
１年の汚れと共に心の汚れを払って、真新しい気持ちにリセットする。
“門松”はお正月の歳神様を迎えるための目印。
歳神様は、松のはや竹のように尖った部分が大好き。
門松の尖った部分に宿るとも言われている。
“注連縄飾り”はこの家に歳神様がいるという目印。
“鏡餅”にも歳神様が宿ると言われている。
お正月飾りは、歳神様が宿り、幸福をもたらすという大切な意味がある。
歳神様が宿った鏡餅をお雑煮として分けていただくのを“御魂分け”という。
これが転じて“歳魂”今の“お年玉”に通じていると言われている。
今ではミニ門松、簡易鏡餅、ミニ注連縄飾りなど、コンビニで買えるほど簡略化されている。
天皇家のお正月。
１月１日、皇居において“新年祝賀の儀”が行われる。
天皇陛下が行政や司法の要人から新年の祝賀をお受けになる儀式。
２日、天皇陛下は“新年一般参賀”で国民の前へお出になる。
実は前日、天皇陛下は元日の朝４時から１人で正月の祭祀（四方拝）を執り行っていらっしゃった。
歴代天皇だけが執り行い、いまだかつて誰も目にしたことはない。
四方拝とは、豊作を願う祭祀。
飛鳥時代に始まり、平安時代に正月の祭祀として定着し、現代まで続けられている。
宮中祭祀の中でも最も重要な祭祀の１つ。
天皇のみが知る、平安時代の儀式書。
その内容は『内裏儀式』『江家次第』」に記されている。
大晦日の夜、天皇は体輪をお清めになり、元日午前４時頃、黄櫨染御袍（こうろぜんのごぼう）と呼ばれる天皇のみが着ることができる特別な装束をお召しになり、祭祀が始まる。
この装束は、平安時代から用いられ、日の光が当ると太陽のように輝くと言われている。
四方拝は、代理人が祭祀を行う“御代拝”を認めない。
つまり天皇の体調がすぐれない時などは、中止となる。
平安時代以降、四方拝は、禁裏御所（現在の京都御所）にある清涼殿の東庭で行われた。
その東庭に３つの座が設けられている。
北側には燈台と机が置かれ、机にはお香と花が供えられ、それらを取り囲むように屏風が張り巡らされた。
最初の座で拝むのは「属星」。（干支と北斗七星の７つの星に割り振ったもの、丑年の今年は“巨門星”が属星となる）
お座りになった天皇は、北に向かい、新年の属星を７回唱えられる。
次に深く拝む動作を２回繰り返す「再拝」に続けて呪文が唱えられる。
その呪文は・・・
賊冠之中過度我身
毒魔之中過度我身
毒気之中過度我身
殿厄之中過度我身
五鬼六書之中過度我身
五兵口舌之中過度我身
厭魅呪誼之中過度我身
寓病除愈所欲随心急々如律令
これは様々な国難はわが身を通過しますように、という意味で、国家国民の安泰を祈る厄払いの呪文。
続けて天皇は着たに向って天を再拝される。
次に北西に向って地を再拝、そして東南西北の順にそれぞれの方角を再拝される。
最後に歴代天皇が葬られている天皇陵に再拝を２回重ねる。
「両段再拝」でそれぞれに拝され、祭祀は終了する。
その後明治時代には呪文を唱えなくなり、拝する神社が追加された。
その形を少しずつ変えながらも、現在まで脈々と続けられている四方拝。
現在、四方拝は宮中の“神嘉殿”で執り行われている。
その後“歳旦祭”という祭祀があり、新年祝賀の儀がある。
それを５回行い、翌日国民の前に７回立つ。
初詣、正月３が日人出全国ベスト５。（2008年警察庁発表）
１位：明治神宮 317万人（神社）
２位：成田山新勝寺 298万人（寺）
３位：川崎大師 296万人（寺）
４位：伏見稲荷代謝 269万人（神社）
５位：鶴岡八幡宮 247万人（神社）
初詣は、神社とお寺、どちらに行ったらよいのだろうか？
浅草寺教化部執事、壬生真康さん「初詣は、お寺でも神社でもどちらでも差し支えない。」
大宰府天満宮禰宜、味栖安則さん「神社であろうとお寺であろうと、どちらでも構わない。」
どちらでもよい理由は？
江戸時代までは神様も仏様も、ご一緒だった。
日本の神社の神様というのは、八百万の神、仏教でも神道でも色んな神様を招き入れる。
一般的にキリスト教やイスラム教は一神教だといわれているが、日本古来の神道の神は自然や神話から生まれた八百万の神々。
御利益のある神様なら、どんどん取り入れた。
その際たるものが仏教。
552年百済から仏教が伝来した。
光り輝く仏像の姿を初めて見た当時の人々は・・・
大陸、半島は、日本と比べると最先進国であり、そこの宗教が入ってくるのは、初めてハリウッド映画が日本に入ってきた時のような感覚だった。
６世紀半ば日本に伝わってきた仏教は、言ってみれば1950年代一世を風靡したハリウッドスター、マリリンモンローや、ロックの王様エルヴィスプレスリーに匹敵する強烈なインパクトだった。
しかし仏教に賛成した蘇我氏、仏教に反対した物部氏に分かれた。
その論争を見て欽明天皇は・・・
「この仏様なら、天変地異に効果があるかもしれない。
巷で流行している疫病も治まるかもしれない。
仏教を試してみてはどうだろう。」
すると天変地異や災害が治まった。
そこで仏教を受け入れてみることになった。
その後聖徳太子も熱心な仏教信者となり、594年推古天皇により、仏教は正式に認められた。
日本人のおおらかさが根底にあり、基層文化としての神道に仏教の作法を取り入れて、神仏習合へとつながっていった。
神仏習合とは、仏教と神道がお互いの信仰を取り入れて調和するという考え方。
平安期には日本の八百万の神は、実は仏の仮の姿という思想も広まった。
これは仏教が人々を救うため、日本の神様の姿を借りて現れたという仏教サイドの見解。
例えばスサノオノミコト（素盞嗚尊 建速須佐之男命）は阿弥陀仏如来だったなど。
また神様を仏教で表した絵『神道曼荼羅』も描かれていた。
さらに神社の境内にお寺を建て、“神宮寺”と呼んだ。
徳川家康を祀る日光東照宮は、神社なのに五重塔や鐘楼がある。
京都、乙訓寺（おとくに）は、弘法大師ゆかりの寺だが、鳥居、八幡社がある。
本尊は、“八幡弘法合体大師”。
現在ご本尊の実物は見ることができないので、江戸時代に作られた版画によると、首から上は八幡神（日本の戦いの神）、首から下は弘法大師。
「日本無雙八幡菩薩弘法合體大師」の日本無雙とは、日本に並ぶものない強さという意味。
神仏習合は、江戸時代までは極普通のことだった。
当時は庶民も学者も神と仏を明確に分けず、双方に神と仏を大事にする考え方があった。
神道と仏教を分けるようになったのは、明治時代から。
国家の中心として神道を利用しようと、“神仏判然令”が出された。
神社とは何なのか？
神道は八百万の神々を祀るもの。
これは台風や火山の噴火など、日本列島の風土、地理的条件に由来するもので、自然への畏敬の念から生まれたと考えられている。
自然の中の木や風などに神が宿ると考え、それらを祀る神社が建てられた。
↑山の神様を祀る浅間神社（静岡県）。
↑海の神様を祀る田島神社（佐賀県）。
それだけでなく、古来日本人は台所、便所など、身の回りのあらゆる物にも神が存在すると考えた。
それが数え切れないほど多いため、八百万の神々と呼ばれている。
その後大和朝廷が成立すると、国家的神が必要となり、様々な神々が体系立てて理解されるようになった。
そして出雲大社や伊勢神宮など、多種多様な神社が造られた。
↑天照大御神
↑大国主命
さらに神社の中には歴史上の英雄達を神として祀るものが・・・
↑徳川家康が死後、東照大権現の真言で祀られた日光東照宮。
↑豊臣秀吉を祀る、豊国神社。
↑明治天皇と昭憲皇太后をお祀りする明治神宮。
さらにさらに祟り神を祀る神社も・・・
学問の神様、菅原道真公を祀る、京都の北野天満宮。
平安時代、すぐれた学者、歌人であった道真公は、政敵・藤原時平によって九州の大宰府に左遷され、903年、失意のまま死を遂げた。
するとその死後、藤原一門に急死者が続出。
宮中に雷が落ちるなど、不幸が続いた。
人々は「道真公の祟りに違いない。」と恐れた。
怨霊思想、心のわだかまりが、そういった現象を道真公の祟りとみなした。
祟りを鎮めるため、北野天満宮に道真公を神として祀り、祈りを捧げた。
↑『北野天神縁起絵巻』
京都、上御霊神社は、非業の死を遂げた人々の霊を鎮める御霊信仰の代表的な神社。
奈良時代の皇族、桓武天皇の弟、早良（さわら）親王は、公家・藤原種継暗殺事件で捕えられ、無実を訴えたまま憤死した。
その死後、桓武天皇の長男や妃が病死するなど、不幸が続いた。
それらは早良親王の祟りであるとされ、祟りを鎮めるため、御霊会が開かれ、上御霊神社に祀られた。
乙訓寺は、捕えられた早良親王が幽閉された場所だった。
日本には、神社が約81000、お寺が約75000ある。
全国神社数データによると・・・
１位：八幡 7817
２位：伊勢 4425
３位：天神 3953
４位：稲荷 2970
これは法人化している神社の数で、本社に附属する摂社、末社や小さいものを合わせれば、全国に20〜30万の神社がある。
神社はどのようにして全国に広まったのだろうか？
八幡神社の場合・・・
大分県宇佐神宮が総本社の八幡神社。
御利益は「武運」「開運・厄除け」
応神天皇の神霊が祀られている。
応神天皇の母・神功皇后は、応神天皇を身篭っていながら戦で活躍したという勇敢な女性。
八幡社は戦いの神様として注目されるようになった。
平安時代末期、武士が台頭してくると、八幡神は武芸の神として尊ばれた。
特に京都の岩清水八幡宮は、源氏の信仰が篤く、源義家は、この神社で元服し、「八幡太郎義家」と名乗った。
その４代後、源頼朝は、鎌倉幕府を開くと、神奈川県の鶴岡八幡宮を幕府の守護神とした。
鎌倉時代の武士は各地に荘園を持っていたため、それぞれの土地に八幡神を祀ってゆくことで全国に分社。
八幡神社は武士の勢力拡大によって大ブレークした。
九州や近畿地方に広く分布する天神信仰は、どのように広まったのだろうか？
福岡県の太宰府天満宮には、学業祈願で多くの学生が訪れる。
元々祟り神として祀られた道真公は、どのようにして学問の神様にイメージチェンジしたのだろうか？
天神信仰の起こりは、怨霊信仰からだが、それは京都においてだけ。
周りの地域では、雷になって雨が降り、稲が実るのだから、恵の神（農耕神）だった。
鎌倉時代になると、道真公は至誠の神、誠心を貫いたということで、正直の神として信仰された。
室町時代、道真公は、学問や文芸に優れていたため、和歌や連歌の神として信仰された。
戦国時代の終わりには、平和の神として信仰された。
斉藤道三、小早川隆景は、新しい領地をもらうと、天満宮を立派にした。
そうすると人心が安定する。
「今度のお殿様は平和の神、文化の神でいくのだ。
これで旦那や息子が兵にとられることはない。」
江戸時代、寺子屋ブームが巻き起こった。
「なぜ孔子を拝んで勉強しなければならないのか。日本の神はいないのか。」
「学問の神は菅原道真公で異議なし。」となった。
道真公は、祟りの神→農耕の神→正直の神→連歌の神→平和の神→学問の神へと華麗なるイメチェンを遂げた。
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稲荷神社はどのようにして広まったのだろうか？
京都の伏見稲荷大社。
御利益は「五穀豊穣」「商売繁盛」
キツネの像や赤い鳥居が特徴。
稲荷は「稲が生ること」や「稲光り」が語源。
６世紀頃、稲作で成功した京都の豪族・秦氏の氏神として信仰が始まった。
その後、空海と手を組み全国展開につながった。
空海が天皇から東寺を賜った。
当時、東寺は有名ではなかったので、稲荷信仰とタイアップしようと考えた。
稲荷も国力的なお寺・東寺と結びつき、大きくなろうと考えていた。
国家的な保護を得たい稲荷と、稲荷の大衆人気が欲しい空海、互いの利害が一致し、両者のタイアップが成立。
空海の真言宗が布教され、お寺が建てられると、鎮守としてお寺にお稲荷様を祀るようになり、稲荷信仰も一緒に広まっていった。
多くの人が集まり、御利益があれば、真言宗に限らず様々なお寺が稲荷を迎え、稲荷信仰は益々広まっていった。
江戸時代、大奥でも稲荷イベントが開かれていたという。
若年寄が城内にあるお稲荷様に参詣。
その後御台所が女中達にお菓子や細工物をまいて、大騒ぎになるのを面白がって見たという。
稲荷信仰は広まり、江戸の町だけで5000〜6000もの稲荷神社があった。
江戸は稲荷信仰が盛んな所で、多い物のたとえで「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われた。
銀座にも今日まで信仰されている、稲荷がある。
表通りを外れると、豊岩稲荷神社、宝童稲荷神社、幸稲荷神社、あづま稲荷神社など・・・
豊岩稲荷神社（銀座7-8-10)は江戸初期から祀られていて、明智光秀の家臣安田作兵衛が祀っていたものと言われ、火防神、縁結神として信仰されている。
宝童稲荷神社(銀座4-12-3)辺りは弥左衛門町と言われていた。
弥左衛門は江戸城内で使えた侍で、隠居後に銀座に屋敷を賜り、江戸城内にあった、宝童稲荷大明神の御神霊を分けてもらい、今日まで子育神、火防神、縁結神、開運神として信仰されている。
屋上にある稲荷としては、越後屋の銀座稲荷は銀座に町人が移住した時から祀られている稲荷。
そのほか、松坂屋のかく護稲荷神社、新橋会館の金春稲荷神社、三越の三囲神社などがある。
↑『流行御利生〈ごりしょう〉けん』
嘉永元・2年（1848・49）頃、江戸では、内藤新宿正受院の奪衣婆〈だつえば〉、日本橋四日市の翁稲荷〈おきないなり〉大明神、出羽湯殿山のお竹大日如来（両国回向院で出開帳があった）を参詣することが流行し、これらの神々を描いた浮世絵が数多く出版された。
この絵に描かれているのも、それらの流行神三体であるが、お竹の身なりや髪型が高貴な風体であるため、お竹は、当時大奥で権勢を振るっていた「御本丸御年寄姉小路」を意味していると、大評判になった。
３人が行っているのは狐拳というもので、狐、庄屋、狩人がジャンケンのような強弱関係になっており、それぞれを身振りで表現して勝負を決める。
当時、江戸で大流行していた。
どのようにして稲荷神社を地元に建てたのだろうか？
民衆が地元に稲荷神社を建てたい場合、稲荷神社側に願書を届けて礼金を支払うと、稲荷側からご身体と認可証書が授けられ、正式な稲荷神社を建てることができた。
誰でも希望すれば“勧請”（分霊を他の神社に移して鎮祭すること）して頂くことができた。
元々総本社の伏見稲荷で勧請の申請を受け付けていたが、江戸時代になると、神道を広めた吉田家、白川家でも申請を受け付けるようになった。
さらに王子（東京）、妻恋（東京）、笠間（茨城）などの稲荷神社でも、勧請の申請を受け付けるようになった。
窓口が多くなり、より簡単に稲荷神社を建てられるようになった。
申請する窓口が増えたといっても、地方の場合、わざわざ歩いて京都まで神様を受け取りに行くのは大変。
そこで“勧請取次ぎ”が誕生。
お稲荷様が地元にいながら建てられるようになった。
申請書も雛形を用意し、名前を書くだけでよかった。
そして“飛脚”が御神体を届けてくれた。
日本人が祟りと共に恐れる厄。
厄に隠された日本人の謎とは？？？
多くの人にただならぬ事が起きている厄年とは何か。
人生には節目節目がある。
病気になりやすい時期、色んなものが変わる時期、それらを全部含め、節目を厄年とする。
厄年を気にする日本人は、神社で厄払いをする。
さらに厄除け大師、厄除け地蔵がある。
厄払いは、仏様でも神様でもどちらでもよいのか？
佐野厄除大師副住職・旭岡靖人さん「神社でもお寺でも気持ちがあれば良い。」
厄とは何か？暦である？
陰陽五行？
陰陽五行とは、広辞苑によると・・・
「古代中国に起源を持つ哲理。
一切の万物は陰陽二気によって生じ、五行中、木、火は陽に、金、水は陰に属し、土はその中間にあるとし、これらの消長によって天地の変異、災祥、人事の吉凶を説明する。」
陰陽五行説とは陰陽説と五行説という二つの哲学的な思想が合体したもの。
・陰陽説：「易」に由来する陰陽説は宇宙生成論の一種と言える。
万物を能動的・昂進的状態である「陽」と受動的・沈静的状態である「陰」の二つに大別し、それらが和合・循環することで万物の生成・消滅といった変化が発生すると考える。
この分類は絶対的なものではなく、万物の置かれている状況に応じて、相対的に変化する。
古代中国では宇宙の最初は天地・陰陽が分かれていない混沌とした状態（太極）だと考えられていた。
「易経」の言葉に「易に太極あり、これ両儀を生ず。両儀四象を生じ、四象八卦を生ず」とあるようにこの状態から相反する陰陽二つの状態（両儀）に別れ、その二気の消長と循環によって万物の事象を理解、しいては未来の予想を行うことに発展した。
陰陽二気が森羅万象の変化を司るのならば当然人間の行動や社会の動向にも影響を及ぼすはずと考えるのは自然なことで、さまざまな考えを理論に組み入れることで自然・人間・社会といった諸現象を幅広く説明するように発展していった。
太極図：勾玉型の白い部分が「陽」を、黒い部分が「陰」を表す。
上昇する「地（陰）」の気と下降する「天（陽）」の気が象徴されており、この流動が万物を生じる。
・五行説：自然界や人間社会の諸現象など森羅万象の生成・変化を説明する原理で、木・火・土・金・水という五つの要素を考える。
「木」とはいわゆる木そのものを指すのではなく、草木の生長・発育を行う不思議な力を指している。
そういった力を「気」と呼んでいる。
他の要素も同様に考え、これらの気が循環することで森羅万象の生成・変化が行われるという考え。（五行の「行」という字には「巡る・運行」という意味がある）。
●木(木気)：木が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として曲がったり真っ直ぐになったりすることがあげられる。（樹木が生長する様子）。
春を象徴。
●火(火気)：火が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として明るく熱く燃え上がることがあげられる。
夏を象徴。
●土(土気)：土が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として実のあるものを持つことや作物を植えたり取り入れたりすることがあげられる。
季節間の推移を象徴。
●金(金気)：金属が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として冷たく硬いことがあげられる。
秋を象徴。
●水(水気)：水が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として冷たく潤いがあり流れ下ることがあげられる。
冬を象徴。
五行（五気）は循環する。
この循環の仕方に３種類ある。（相生と相剋と比和）
●相生：相順応する関係。「相性がよい」
●相剋：相手を剋する関係。「相性が悪い」
●比和：同気が重なる関係。
そのためにその気がますます盛んになる。
それが良い方になる場合にはますます良くなり、悪い方になる場合にはますます悪くなる。
陰陽五行は、初めは四季の変化を説明するのに使われた。
この世の初めは何も区別できない混沌とした状態（太極）だったが、その中から軽く澄んで暖かい気（(陽気)が上昇して「天」に、重く濁って寒い気（陰気）が下降して「地」になり、この陰陽二気は一年という周期をもって消長し、その間に木・火・土・金・水という五つの気が生じ、これらも消長することで四季の別ができる、と考えた。
陰陽五行説とは、古代中国で確立され、宇宙の原理を解明し、世の中を把握しようとする論理体系。
その論理は、星の動きや月の満ち欠けなどの天体観測をベースに、太陽系の惑星に対応させた、木火土金（ごん）水の５つの要素の中に万物を振り分け、さらにそこに陰と陽の２つを組み合わせ、世の中の吉凶や変異を判断する論理体系。
聖徳太子が豪族や役人の地位を区別した冠位十二階の冠の色も、陰陽五行説に由来している。
陰陽五行思想で方位や時間を示すのに使っていた“羅針盤”には干支が書かれている。
干支も陰陽五行の思想に由来している。
↑China 24 cardinal directions
古代日本に伝来した陰陽五行説が、日本独自の発展を遂げた論理体系が“陰陽道”。
日本文化として確立された陰陽道こそが、神や仏と共に、日本人の生活に深く根付いていった。
陰陽道による天体観測や干支の組み合わせで知ることができるとされた。
これから起こりうる災難や災い、それらを総称したものが“厄”。
“厄払い”はこれから起こりうる災難や災いを取り除くためのもの。
現在神社や寺などで行われている年中行事（どんと焼、雛祭、端午の節句、節分、七夕、七五三・・・）も陰陽道の厄払い行事だった。
↑辟邪絵〈毘沙門天〉平安時代
（へきじゃえ）（びしゃもんてん〉
邪（じゃ）を辟（さ）ける、すなわち様々の悪鬼（あっき）を退治する善神（ぜんしん）を集めた絵巻であった。
由来は様々で、陰陽道（おんようどう）など仏教以外の神も含むが、漠然と、六道絵の一種として作られたのではないかとも考えられている。
毘沙門天：仏教の代表的な護法神であるが、ここでは『法華経』の持者を擁護することが表される。
山中で持経者が思惟するところに、鬼神が飛来して悩まそうとするとき、毘沙門天が現れ、弓矢で退治するという。
陰陽道は、日本文化の中で、どのように定着し、広まったのだろうか？
陰陽道は東寺の最先端科学だった。
古代日本でも、中国同様、天体観測などは行われていた。
しかしそこから論理的に先を読むことはできず、突如として起こる自然の振る舞いは、人々にとって常に脅威だった。
そこで注目されたのが陰陽道。
“渾天儀”と呼ばれる天体を観測する道具や、干支が書かれた羅針盤など、見たこともないような道具を駆使する“陰陽師”の言動は、どんなものでも驚きだった。
“陰陽寮”という機関が設置され、朝廷専属の技術として取り入れられた。
陰陽寮の主な役割は、暦を作る、天体や気象を観測する、時刻を計測することだった。
さらも占いも行っていた。
国家の行事や貴族の生活に至るまで、その吉凶を陰陽寮が占っていた。
↑『山王霊験記』（日枝神社 所蔵）
鎌倉時代 弘安11年(1288)
此の絵は、叡山側の呪詛のため病に伏した関白師通の平穏を祈る描写である。
御幣をたてた祭壇の下に「板立絵馬」らしきものが立てられている。
詞書(ことばがき)には霊験ある諸社の神馬を勧請したと記されており、神馬に替えて絵馬を奉納したことがうかがえる。
衣冠束帯の人が神鏡を拝しているのも興味ぶかい。
↑映画『陰陽師』
陰陽道を定着させた大陰陽師・安倍清明は、超人的な力を持ち、紙などに命を吹き込んだ。
式神と呼ばれる鬼を自在に操ったと言われている。
清明の超人的な力は、政治だけでなく、貴族の私的生活にも多く用いられていた。
藤原道長は特に清明を重用し、不思議なことが起こると常に清明に意見を求めた。
↑『泣不動縁起』室町時代 初期 狩野永納筆 清浄華院蔵・重文
安倍清明の祈祷
三井寺の智興内供が重病に苦しんでいたとき、陰陽師の安倍晴明に占したところ、寿命には限りがあるので如何ともしがたいが、もし弟子の中で身代わりをするものが有れば、代わるように祈ることはできると言う。
この時智興には多くの弟子があったが、すぐには誰も身代わりを申し出なかった。
ところが、最も若い証空が、自分が代わりになりましょうと申し出、80歳になる老母に訳を話したいのでと言って帰郷する。
家に帰った証空は、驚く母に事情を説明する。
母は止めようとするが、今となってはしょうがない、師と約束したことだからと言って、証空は泣く泣く師のもとに帰っていく。
↑清明神社
寛弘2年(1005)に安倍晴明が亡くなると、一条天皇は晴明の遺業を賛え、晴明は稲荷神の生まれ変わりであるとして、寛弘4年(1007)彼の屋敷跡に晴明を祀る神社を創建した。
↑一条戻り橋（右は現在の一条戻り橋）
一条戻り橋の下は、今では水は枯れて木々、雑草がいちめんと生い茂っている。
平安時代は、この辺りは、なにも無く、うっそうとしていた。
当時、この橋の手前側は、この世で橋の向こう側はあの世とされていた。
伝説� О打楡玉世�呪術の際、式神よく使用していたが、この橋の下に式神を普段、隠していて、そのつど、呼び出していた。
伝説�◆П箚�18年（1918）、三善清行が死に、その子淨蔵が紀州熊野から急いで京に帰り、この橋の上で父の葬列に出会った。
淨蔵は棺にすがり、悲しみにくれながら神仏に祈ったところ、寸時ではあったが、父は生き返り、父と子は語り合うことが出来たという。
これが、戻り橋のゆえんと言われている。
※安部清明がライバルの蘆屋道満（あしやどうまん）に父・保名を殺されて、その父を呪法を駆使して生き返らせたのが、この橋の上だったという説もある。
伝説��・・江戸時代には、斬首刑の罪人は、一度、この橋の上で、「餅と花」をそえられて、説諭（説教）をされたとのことです。
伝説�ぁΑ�戦時中、出生兵士はこの橋から出生すると無事帰還できる。
今では、アベックでこの橋を渡ると別れてしまうとの言い伝えがある。
伝説�ァΑκ唇損�代、この橋の付近で鬼が出るといううわさがあった。
ある夜、源頼光の使者として、渡辺綱が一条戻り橋にやってくると、その橋のたもとに20歳位の美人が立っていた。 「五条に急用があるのですが、夜道ゆえ、こころ細くてなりません。 どうか、御一緒させていただきませんか？」
それを聞いた渡辺綱は、「よろしいでしょう。 私も、そちらに向かうところです。」と快諾したのだが、にわかに、美女は変化して、おそろしい鬼の姿に！！ ドロドロドロン！！ 綱の胸倉を掴んだ鬼のウデを「エイッヤアッ」と名刀髭切のさえをみせ、たたき切ったのだ。
「ギャ〜」という悲鳴とともに鬼は、愛宕山方面に飛び去った。
「鬼は、必ずや、腕をとりもどしに来るであろう。
７日間の間、家より一歩も外に出てはならぬ。
そして、誰が尋ねてきても決して戸をあけてはならぬ。」
安倍清明にそう言われた綱は、鬼の腕を箱に封印をして、自宅に閉じこもって、ひたすら呪文をとなえていた。
その綱のもとに７日目の朝、トントンと戸をたたくものが、「わたしだよ、あけておくれ・・・」
摂津に住む養母がたずねてきた。
「はて、これはまた異なことだが・・・」と綱。
養母は綱の家に上がり込むと話し込み、お茶を一息グイッと飲むなり「フウーッ、しかし、その話、聞けば聞くほどおもしろい話じゃないか。
私にその鬼の腕とやらを一目みせておくれ。」とせがむ養母。
綱は、気が引けながらも心を許し、箱の封印をといて「どうぞ」と差し出した。
すると養母は、おそろしい鬼（茨木童子）の姿に変化して、「ワハハハハッこの腕は、われの腕なり。」と言うが早いかムンズと鬼の腕をわしずかみにして、屋根を突き破り暗雲がかかっている空の高くへ、飛び去っていってしまった。
この話は『平家物語』『源平盛衰記』『太平記』にみられる。
しかし陰陽道にも時代の波が押し寄せた。
京という都が崩れてゆくと、陰陽道も完全に管理することが難しくなってきて、一気に露出していった。
政治的権力や貴族の生活の中で欠かすことができない存在だった陰陽道。
藤原氏の力が弱まり、政治の中枢が貴族から武士へと移ってゆくと同時に、陰陽道も権力に付随する形で朝廷から流出。
それが結果的に陰陽道の真似事をして生計を立てる民間陰陽師を生み出した。
政治の乱れから、現世への不安を抱えた人たちの需要もあり、民間陰陽師の数はどんどん増えていった。
しかし中には曖昧な鑑定で恐喝まがいのことをしていた民間陰陽師もいた。
民衆は、ちゃんとした陰陽道を行ってもらうことを望んでおり、そのニーズに応えたのが神社や寺だった。
こうして神社やお寺に陰陽道の行事や習慣が入り込むことになった。
【今も残る陰陽道行事】
●祓い：人形に厄を移して川に流す。
雛祭の原点。
平安時代、食べ物もろくになく、医療も発達していなかった。
小さな子供は大人になる前に死んでしまう可能性が高かった。
そこで子供の無病息災を祈り、雛人形に厄を移して川に流すという陰陽道行事が行われていた。
川岸などにひっかかり、うまく流れずにいると、妖怪になって戻ってくるという伝説もあった。
●節分：元々は来襲してくる鬼と陰陽師の戦いだった。
生命力の象徴である豆を鬼に投げつけ、厄を払っていた。
陰陽道で悪い方角とされる北東を、羅針盤で見ると、鬼門・丑寅と書いてある。
だから鬼は丑の角に寅のパンツ。
退治に同行する申、酉、戌は、鬼門と対角に位置する。
旧暦（太陽太陰暦）では基本的に立春年初。
今の新暦２月４日が旧暦元旦だった。
そうすると新暦２月３日の夜には“鬼門”が発生する。
ここで鬼を排除する必要（追儺）が生じる。
春は五行では木気に配当され、木気が苦手とする物が金剋木の理から金気。
そこで金気を 封じるために金気を剋する物、 つまり火剋金の理から火気の性質の行為または呪物が求められる。
節分に使われる豆は金気に配当され、その豆をまず火で煎るという行為が発生し、煎られた豆を投げつける、つまり痛めつけるという行為が生まれたと考えられる。
神でも仏でもないが、年中行事から民話まで、様々なところに根付く陰陽道。
現在の日本から陰陽道を取り除くと、日本文化さえ崩壊してしまいかねない。
“仏滅”も元々“物滅”と書き、陰陽道だった。
［なぜ、大晦日に除夜の鐘を打つのか］
時間の「鬼門」封じではないかと推察される。
12月は「丑」の月、そして１月は「寅」の月。
ということは、12月31日の大晦日の夜から１月１日の元旦にかけては時空における「鬼門」が発生する。
この時空の「鬼門」である大晦日の夜を除きとるための呪術が除夜の鐘であろう。
何故、除夜の鐘なのか？
鐘=金気、そして金気は金剋木で木気をいためつける。
春は木気に配当されるので、新春を迎えるにあたってはそれを妨げる要因を潰す必要があり、なにか金気のものを傷めつけることがもとめられる。
この金気を傷めつけることが、鐘を打つということにつながったのかもしれない。
［なぜ、丑満(うしみつ)時にお化けが現れるのか］
「草木も眠る丑満時」はお化けの出現する時間として有名だが、これも１日のなかで発生する鬼門の時間。
昔の時刻は午前零時を中心にして前日の午後11から午前１時までを子の刻、以降午前１時から午前３時までを丑の刻・・・というように配当していた。
となると、丑の満る午前２時から寅の刻が始まる午前３時にかけて鬼門が発生することになる。
［なぜ、丙午（ひのえうま）の迷信は起こったか］
丙（ひのえ）は火の兄であり陽の陽であり、その上午も陽の極に位置する。
丙午は陽そのものであり、この年に生まれる子供は陽気が強いということになり、男児であれば陽で問題ないが、女児ならば陰なので男まさりの子になると思われたのだろう。
それが男をくってしまうという風になってしまったと思われる。
古来、日本の正月は、家族そろって家にこもり、歳紙と呼ばれる幸福をもたらす神様を祀るものだった。
お正月に家々に迎える歳徳神は、歳神さま、お正月さま、としこしさまなどとも呼ばれた。
「年」は稲の稔りのことで穀物神であり、その根底にあるのは穀物の死と再生。
古代日本で農耕が発達するにつれて、年の始めにその年の豊作が祈念されるようになり、それが歳神さまを祀る行事となり、正月の中心行事となった。
初詣がなかった江戸時代、冬至の主流は恵方参りだった。
恵方とは、その年の幸せを運ぶ歳神様がやってくる方角。
自宅から見てその年の恵方に当る神社や寺に参拝することを、恵方参りと呼び、江戸時代後期の庶民の間で流行し始めた。
恵方参りとは？
毎年、恵方と呼ばれる１年間通しての吉方がある。
恵方は、「明きの方よろず吉」とも言い、すべてのことに大吉であり、何事につけて繁盛する吉方。
恵方は毎年変わるので、恵方に適切なお寺や神社が無い場合もある。
その場合は目的のお寺や神社が恵方になるように、簡単な方違（かたたがえ）をする。
まず目的地が恵方となるような場所へ一旦行く。
そこで２時間ほど滞在し、その後目的のお寺や神社に向かう。
「万人共通、天からのお恵みを受取ることができる」という恵方方位。
気学で使う“九星盤”、その年の盤に、その年の干支（歳徳神）が入る方位は、最もお恵みの「気」が流れていると言われている。（その盤の真北にくるのが「厄年」の人）
どんなご利益があるかというと、�ー�分の気が上あがる。
「気が上がる」というのは、「運気」「チャンス」を逃さない状態。
感覚に磨きがかかっている状態。
��感覚が冴えてくると、遠回りをせずに済む。第六感が働く。
�Ｉ垰弋弔聞�運に見舞われる。
�し段�に行き、自分の「気」をあげると、それを持ち帰った家族にもご利益がある。
どこにいけばいいのかというと、自分の自宅から見て、その年の方位の神社・仏閣に行こう。
ただし遠い方がよりご利益あるので、2Km以上は離れること。
各方位のエリアは30度ある。
この30度を３分割する。
暦の天盤を見ると、恵方または歳徳神と書かれている方角が恵方。
下記の四方向を循環する。
寅と卯の間 ほぼ東北東 西暦の下1桁が4、9の年
巳と午の間 ほぼ南南東 西暦の下1桁が1、3、6、8の年
申と酉の間 ほぼ西南西 西暦の下1桁が0、5の年
亥と子の間 ほぼ北北西 西暦の下1桁が2、7の年
心の中で
「住所 名前 お願い事を一つ」言う。
そしてこう言う。
「天と地をつなぐ神よ、私が恵方だ！
私にチャンスを下さい。
私にチャンスを見つける智慧を下さい。
私にチャンスに乗る勇気を下さい。」
そして、天を片手で指差し、地をもう一方の手で指差す。
これは、天の気と地の気を指で指している状態。
上下の気を、自分の中に吸収している姿となる。
「釈迦が生まれた時に、すぐに歩き出し、天と地を指差した。」
といわれており、お釈迦様のポーズ。
時期は、2月4日 又は、この前後一週間の期間。
↑お釈迦さまは「天上天下 唯我独尊」と言われ、指を天に向かって指している。
近年では節分の日にこの恵方に向かって太巻き(恵方巻)を 丸かじりして食べると良い、という話が全国に普及している。
節分の夜にその年の恵方に向かい、目を閉じて願い事を思い浮かべながら太巻きをまるかぶりするのが習わしとされる。
食べている間は無言でなければならない。
七福神に因んで、かんぴょう、キュウリ、シイタケ、伊達巻、うなぎ、でんぶ等七種類の具を入れて「福を食べる」という意味合いもある。
「福を巻き込む」という説明もある。
九星気学風水とは、古代中国より伝わる天体に基づく学問で、現在、経営者や事業家の間でも人気が高く信頼されている。
私たちが住んでいる地球や宇宙では、ある法則性をもってさまざまなエネルギーが常に循環している。
地球上に住んでいる限り、必ずこのエネルギーの影響を受けている。
宇宙、自然、人など地球上のありとあらゆるものを陰陽、五行、そして９つのエネルギーに分けた。
そのエネルギーの流れを学問としたものが九星気学風水。
宇宙の気（外気）と自分の気（内気）の流れをみていく。
天璋院篤姫が江戸城を去り、時代は明治へ。
日本にも西洋化の波が押し寄せた。
明治５年（1872）新橋〜横浜間に、日本初の鉄道が開業。
庶民が郊外の大きな寺社へ参拝することが可能になった。
例えば川崎大師は鉄道が開通して、元日の参詣客が徐々に増え、1890年頃から元日の参拝が定着した。
当時の賑わいを報じた東京日日新聞 明治18年（1885）1/2。
この時元日に初めて参詣することを“初詣”と呼ぶようになった。
初詣とういう言葉が使われ始めたのは、たった100年前。
↑１号機関車（国指定重要文化財）明治4年イギリス製。
新橋〜横浜間で日本初の鉄道が開業した時の機関車。
↑旧新橋駅
↑旧新橋駅復元
その後鉄道は、参拝客をターゲットにした。
例えば成田山新勝寺（千葉県）の参拝客を狙って、成田鉄道と京成電鉄が誕生。
明治時代にできた成田鉄道は、成田山の住職が発起人の１人に関わっていた。
成田山新勝寺のために作られた鉄道。
京成電鉄も成田山から資金援助がなされていた。
鉄道会社とお寺との関係は、非常に深かった。
鉄道の発展により、信仰心から参拝する「信心参り」から行楽の一環としての参拝へと移り変わっていった。
鉄道会社は新聞広告で、初詣を宣伝し始めた。
京浜電鉄は、川崎大師への初詣を、路線図付で、成田鉄道の広告は成田山の写真付。
しかも汽車賃大割引と、盛大にアピール。
こうして初詣が庶民に浸透すると、国鉄と私鉄が初詣に行く乗客を奪い合う競争が勃発した。
国鉄VS私鉄の仁義なき戦いが始まった。
驚きのサービス合戦とは・・・？
川崎大師へ向う初詣客争奪戦。
京浜電鉄は、国鉄よりも運賃値下げ。
対する国鉄はおよそ１時間かかった新橋〜横浜間を27分に短縮。
さらに乗車券５割引。
国鉄VS私鉄の戦いがさらに熾烈だったのが、成田山に向う国鉄VS京成電鉄。
国鉄は列車の増発、汽車賃も破格な割引、その上お茶を出すサービス。
京成電鉄は、国鉄より25％値下げ、大晦日の終夜運転。
さらに乗客に不動尊像と開運お守りを抽選でプレゼント。
成田山の初詣客は、大正15年（1926）から昭和16年（1941）で10倍に膨れ上がった。
その後各地で鉄道が開業すると共に、初詣も全国的に広がっていった。
初詣の定着は、鉄道会社の企業努力がキッカケといえる。
大昔の一般庶民にとって、参拝は身近なものではなかった。
江戸時代、“寺社詣”が大流行した。
本来の神様への参拝、祈祷は複雑だったが、簡略化によって寺社詣が一般庶民に広まった。
参拝で行う数々の作法は、簡略化された形で現代に伝わっている。
例えば、初詣に行くとまず、境内に入る前に“手水舎”で手を清める。
手を洗い、口をすすぐのは、境内に入る前に自らの体を清める意味がある。
参拝の前に全身を海や川で清めるのが本来の作法だが、初詣の度にここまで本格的に清めるのは大変。
簡略化して手を洗うことで全身を清めたことにしている。
参拝の時に鳴らす鈴。
本来の意味は神様に自分が来たことをお知らせする合図。
鈴を使った“巫女の舞”が本来のしきたり。
この優雅な舞は、正式に行うとたっぷり１時間。
毎回やるのは大変なので簡略化した。
“おみくじ”は神様の言葉。
元々神様のお言葉は、“託宣”と言い、巫女に神様が乗り移って神様の言葉を聞けた。
託宣とは神様が人に乗り移り、神の意思を告げること。
それを簡略化し、おみくじを引くだけで神のお告げがいただけるようになった。
正式な作法が簡略化され、参拝が身近になり、流行するようになった。
参拝する時の作法を簡略化してもよいのだろうか？
日本の神様・仏様は寛容、信心が大切。
簡略化は、寛容な日本の神様だからこそ許されること。
気持ちが大事であり、感謝し祈る気持ちがあれば御利益はある？
↑長門の国、山口県下関市豊北町、夫婦岩注連縄張り。
毎年正月二日、豊漁と海上安全を祈り、地元二見の男たちが褌一丁の裸形になり、厳寒の日本海で身を清め、大注連縄（おおしめなわ 長さ約30m、重さ約120kg）を張り上げる光景は、海に生きる男たちの勇ましさを感じさせる新春の風物詩である。
今も残るお正月のしきたりにも重要な意味がある。
本来のお正月の過し方は、歳神様を祀るために、家族そろって家の中で過す。
歳神様とは毎年正月、各家庭に幸せを運んでくる来訪神。
その名は地域によって異なる。（正月様、恵方神、歳徳様、天歳神、若年さん、年爺さん）
お正月の行事やしきたりは、新年意やってくる歳神様をお迎えするためのもの。
部屋が汚いと、歳神様は家にやってこない。
そのために“大掃除”をする。
１年の汚れと共に心の汚れを払って、真新しい気持ちにリセットする。
“門松”はお正月の歳神様を迎えるための目印。
歳神様は、松のはや竹のように尖った部分が大好き。
門松の尖った部分に宿るとも言われている。
“注連縄飾り”はこの家に歳神様がいるという目印。
“鏡餅”にも歳神様が宿ると言われている。
お正月飾りは、歳神様が宿り、幸福をもたらすという大切な意味がある。
歳神様が宿った鏡餅をお雑煮として分けていただくのを“御魂分け”という。
これが転じて“歳魂”今の“お年玉”に通じていると言われている。
今ではミニ門松、簡易鏡餅、ミニ注連縄飾りなど、コンビニで買えるほど簡略化されている。
天皇家のお正月。
１月１日、皇居において“新年祝賀の儀”が行われる。
天皇陛下が行政や司法の要人から新年の祝賀をお受けになる儀式。
２日、天皇陛下は“新年一般参賀”で国民の前へお出になる。
実は前日、天皇陛下は元日の朝４時から１人で正月の祭祀（四方拝）を執り行っていらっしゃった。
歴代天皇だけが執り行い、いまだかつて誰も目にしたことはない。
四方拝とは、豊作を願う祭祀。
飛鳥時代に始まり、平安時代に正月の祭祀として定着し、現代まで続けられている。
宮中祭祀の中でも最も重要な祭祀の１つ。
天皇のみが知る、平安時代の儀式書。
その内容は『内裏儀式』『江家次第』」に記されている。
大晦日の夜、天皇は体輪をお清めになり、元日午前４時頃、黄櫨染御袍（こうろぜんのごぼう）と呼ばれる天皇のみが着ることができる特別な装束をお召しになり、祭祀が始まる。
この装束は、平安時代から用いられ、日の光が当ると太陽のように輝くと言われている。
四方拝は、代理人が祭祀を行う“御代拝”を認めない。
つまり天皇の体調がすぐれない時などは、中止となる。
平安時代以降、四方拝は、禁裏御所（現在の京都御所）にある清涼殿の東庭で行われた。
その東庭に３つの座が設けられている。
北側には燈台と机が置かれ、机にはお香と花が供えられ、それらを取り囲むように屏風が張り巡らされた。
最初の座で拝むのは「属星」。（干支と北斗七星の７つの星に割り振ったもの、丑年の今年は“巨門星”が属星となる）
お座りになった天皇は、北に向かい、新年の属星を７回唱えられる。
次に深く拝む動作を２回繰り返す「再拝」に続けて呪文が唱えられる。
その呪文は・・・
賊冠之中過度我身
毒魔之中過度我身
毒気之中過度我身
殿厄之中過度我身
五鬼六書之中過度我身
五兵口舌之中過度我身
厭魅呪誼之中過度我身
寓病除愈所欲随心急々如律令
これは様々な国難はわが身を通過しますように、という意味で、国家国民の安泰を祈る厄払いの呪文。
続けて天皇は着たに向って天を再拝される。
次に北西に向って地を再拝、そして東南西北の順にそれぞれの方角を再拝される。
最後に歴代天皇が葬られている天皇陵に再拝を２回重ねる。
「両段再拝」でそれぞれに拝され、祭祀は終了する。
その後明治時代には呪文を唱えなくなり、拝する神社が追加された。
その形を少しずつ変えながらも、現在まで脈々と続けられている四方拝。
現在、四方拝は宮中の“神嘉殿”で執り行われている。
その後“歳旦祭”という祭祀があり、新年祝賀の儀がある。
それを５回行い、翌日国民の前に７回立つ。
初詣、正月３が日人出全国ベスト５。（2008年警察庁発表）
１位：明治神宮 317万人（神社）
２位：成田山新勝寺 298万人（寺）
３位：川崎大師 296万人（寺）
４位：伏見稲荷代謝 269万人（神社）
５位：鶴岡八幡宮 247万人（神社）
初詣は、神社とお寺、どちらに行ったらよいのだろうか？
浅草寺教化部執事、壬生真康さん「初詣は、お寺でも神社でもどちらでも差し支えない。」
大宰府天満宮禰宜、味栖安則さん「神社であろうとお寺であろうと、どちらでも構わない。」
どちらでもよい理由は？
江戸時代までは神様も仏様も、ご一緒だった。
日本の神社の神様というのは、八百万の神、仏教でも神道でも色んな神様を招き入れる。
一般的にキリスト教やイスラム教は一神教だといわれているが、日本古来の神道の神は自然や神話から生まれた八百万の神々。
御利益のある神様なら、どんどん取り入れた。
その際たるものが仏教。
552年百済から仏教が伝来した。
光り輝く仏像の姿を初めて見た当時の人々は・・・
大陸、半島は、日本と比べると最先進国であり、そこの宗教が入ってくるのは、初めてハリウッド映画が日本に入ってきた時のような感覚だった。
６世紀半ば日本に伝わってきた仏教は、言ってみれば1950年代一世を風靡したハリウッドスター、マリリンモンローや、ロックの王様エルヴィスプレスリーに匹敵する強烈なインパクトだった。
しかし仏教に賛成した蘇我氏、仏教に反対した物部氏に分かれた。
その論争を見て欽明天皇は・・・
「この仏様なら、天変地異に効果があるかもしれない。
巷で流行している疫病も治まるかもしれない。
仏教を試してみてはどうだろう。」
すると天変地異や災害が治まった。
そこで仏教を受け入れてみることになった。
その後聖徳太子も熱心な仏教信者となり、594年推古天皇により、仏教は正式に認められた。
日本人のおおらかさが根底にあり、基層文化としての神道に仏教の作法を取り入れて、神仏習合へとつながっていった。
神仏習合とは、仏教と神道がお互いの信仰を取り入れて調和するという考え方。
平安期には日本の八百万の神は、実は仏の仮の姿という思想も広まった。
これは仏教が人々を救うため、日本の神様の姿を借りて現れたという仏教サイドの見解。
例えばスサノオノミコト（素盞嗚尊 建速須佐之男命）は阿弥陀仏如来だったなど。
また神様を仏教で表した絵『神道曼荼羅』も描かれていた。
さらに神社の境内にお寺を建て、“神宮寺”と呼んだ。
徳川家康を祀る日光東照宮は、神社なのに五重塔や鐘楼がある。
京都、乙訓寺（おとくに）は、弘法大師ゆかりの寺だが、鳥居、八幡社がある。
本尊は、“八幡弘法合体大師”。
現在ご本尊の実物は見ることができないので、江戸時代に作られた版画によると、首から上は八幡神（日本の戦いの神）、首から下は弘法大師。
「日本無雙八幡菩薩弘法合體大師」の日本無雙とは、日本に並ぶものない強さという意味。
神仏習合は、江戸時代までは極普通のことだった。
当時は庶民も学者も神と仏を明確に分けず、双方に神と仏を大事にする考え方があった。
神道と仏教を分けるようになったのは、明治時代から。
国家の中心として神道を利用しようと、“神仏判然令”が出された。
神社とは何なのか？
神道は八百万の神々を祀るもの。
これは台風や火山の噴火など、日本列島の風土、地理的条件に由来するもので、自然への畏敬の念から生まれたと考えられている。
自然の中の木や風などに神が宿ると考え、それらを祀る神社が建てられた。
↑山の神様を祀る浅間神社（静岡県）。
↑海の神様を祀る田島神社（佐賀県）。
それだけでなく、古来日本人は台所、便所など、身の回りのあらゆる物にも神が存在すると考えた。
それが数え切れないほど多いため、八百万の神々と呼ばれている。
その後大和朝廷が成立すると、国家的神が必要となり、様々な神々が体系立てて理解されるようになった。
そして出雲大社や伊勢神宮など、多種多様な神社が造られた。
↑天照大御神
↑大国主命
さらに神社の中には歴史上の英雄達を神として祀るものが・・・
↑徳川家康が死後、東照大権現の真言で祀られた日光東照宮。
↑豊臣秀吉を祀る、豊国神社。
↑明治天皇と昭憲皇太后をお祀りする明治神宮。
さらにさらに祟り神を祀る神社も・・・
学問の神様、菅原道真公を祀る、京都の北野天満宮。
平安時代、すぐれた学者、歌人であった道真公は、政敵・藤原時平によって九州の大宰府に左遷され、903年、失意のまま死を遂げた。
するとその死後、藤原一門に急死者が続出。
宮中に雷が落ちるなど、不幸が続いた。
人々は「道真公の祟りに違いない。」と恐れた。
怨霊思想、心のわだかまりが、そういった現象を道真公の祟りとみなした。
祟りを鎮めるため、北野天満宮に道真公を神として祀り、祈りを捧げた。
↑『北野天神縁起絵巻』
京都、上御霊神社は、非業の死を遂げた人々の霊を鎮める御霊信仰の代表的な神社。
奈良時代の皇族、桓武天皇の弟、早良（さわら）親王は、公家・藤原種継暗殺事件で捕えられ、無実を訴えたまま憤死した。
その死後、桓武天皇の長男や妃が病死するなど、不幸が続いた。
それらは早良親王の祟りであるとされ、祟りを鎮めるため、御霊会が開かれ、上御霊神社に祀られた。
乙訓寺は、捕えられた早良親王が幽閉された場所だった。
日本には、神社が約81000、お寺が約75000ある。
全国神社数データによると・・・
１位：八幡 7817
２位：伊勢 4425
３位：天神 3953
４位：稲荷 2970
これは法人化している神社の数で、本社に附属する摂社、末社や小さいものを合わせれば、全国に20〜30万の神社がある。
神社はどのようにして全国に広まったのだろうか？
八幡神社の場合・・・
大分県宇佐神宮が総本社の八幡神社。
御利益は「武運」「開運・厄除け」
応神天皇の神霊が祀られている。
応神天皇の母・神功皇后は、応神天皇を身篭っていながら戦で活躍したという勇敢な女性。
八幡社は戦いの神様として注目されるようになった。
平安時代末期、武士が台頭してくると、八幡神は武芸の神として尊ばれた。
特に京都の岩清水八幡宮は、源氏の信仰が篤く、源義家は、この神社で元服し、「八幡太郎義家」と名乗った。
その４代後、源頼朝は、鎌倉幕府を開くと、神奈川県の鶴岡八幡宮を幕府の守護神とした。
鎌倉時代の武士は各地に荘園を持っていたため、それぞれの土地に八幡神を祀ってゆくことで全国に分社。
八幡神社は武士の勢力拡大によって大ブレークした。
九州や近畿地方に広く分布する天神信仰は、どのように広まったのだろうか？
福岡県の太宰府天満宮には、学業祈願で多くの学生が訪れる。
元々祟り神として祀られた道真公は、どのようにして学問の神様にイメージチェンジしたのだろうか？
天神信仰の起こりは、怨霊信仰からだが、それは京都においてだけ。
周りの地域では、雷になって雨が降り、稲が実るのだから、恵の神（農耕神）だった。
鎌倉時代になると、道真公は至誠の神、誠心を貫いたということで、正直の神として信仰された。
室町時代、道真公は、学問や文芸に優れていたため、和歌や連歌の神として信仰された。
戦国時代の終わりには、平和の神として信仰された。
斉藤道三、小早川隆景は、新しい領地をもらうと、天満宮を立派にした。
そうすると人心が安定する。
「今度のお殿様は平和の神、文化の神でいくのだ。
これで旦那や息子が兵にとられることはない。」
江戸時代、寺子屋ブームが巻き起こった。
「なぜ孔子を拝んで勉強しなければならないのか。日本の神はいないのか。」
「学問の神は菅原道真公で異議なし。」となった。
道真公は、祟りの神→農耕の神→正直の神→連歌の神→平和の神→学問の神へと華麗なるイメチェンを遂げた。
稲荷神社はどのようにして広まったのだろうか？
京都の伏見稲荷大社。
御利益は「五穀豊穣」「商売繁盛」
キツネの像や赤い鳥居が特徴。
稲荷は「稲が生ること」や「稲光り」が語源。
６世紀頃、稲作で成功した京都の豪族・秦氏の氏神として信仰が始まった。
その後、空海と手を組み全国展開につながった。
空海が天皇から東寺を賜った。
当時、東寺は有名ではなかったので、稲荷信仰とタイアップしようと考えた。
稲荷も国力的なお寺・東寺と結びつき、大きくなろうと考えていた。
国家的な保護を得たい稲荷と、稲荷の大衆人気が欲しい空海、互いの利害が一致し、両者のタイアップが成立。
空海の真言宗が布教され、お寺が建てられると、鎮守としてお寺にお稲荷様を祀るようになり、稲荷信仰も一緒に広まっていった。
多くの人が集まり、御利益があれば、真言宗に限らず様々なお寺が稲荷を迎え、稲荷信仰は益々広まっていった。
江戸時代、大奥でも稲荷イベントが開かれていたという。
若年寄が城内にあるお稲荷様に参詣。
その後御台所が女中達にお菓子や細工物をまいて、大騒ぎになるのを面白がって見たという。
稲荷信仰は広まり、江戸の町だけで5000〜6000もの稲荷神社があった。
江戸は稲荷信仰が盛んな所で、多い物のたとえで「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われた。
銀座にも今日まで信仰されている、稲荷がある。
表通りを外れると、豊岩稲荷神社、宝童稲荷神社、幸稲荷神社、あづま稲荷神社など・・・
豊岩稲荷神社（銀座7-8-10)は江戸初期から祀られていて、明智光秀の家臣安田作兵衛が祀っていたものと言われ、火防神、縁結神として信仰されている。
宝童稲荷神社(銀座4-12-3)辺りは弥左衛門町と言われていた。
弥左衛門は江戸城内で使えた侍で、隠居後に銀座に屋敷を賜り、江戸城内にあった、宝童稲荷大明神の御神霊を分けてもらい、今日まで子育神、火防神、縁結神、開運神として信仰されている。
屋上にある稲荷としては、越後屋の銀座稲荷は銀座に町人が移住した時から祀られている稲荷。
そのほか、松坂屋のかく護稲荷神社、新橋会館の金春稲荷神社、三越の三囲神社などがある。
↑『流行御利生〈ごりしょう〉けん』
嘉永元・2年（1848・49）頃、江戸では、内藤新宿正受院の奪衣婆〈だつえば〉、日本橋四日市の翁稲荷〈おきないなり〉大明神、出羽湯殿山のお竹大日如来（両国回向院で出開帳があった）を参詣することが流行し、これらの神々を描いた浮世絵が数多く出版された。
この絵に描かれているのも、それらの流行神三体であるが、お竹の身なりや髪型が高貴な風体であるため、お竹は、当時大奥で権勢を振るっていた「御本丸御年寄姉小路」を意味していると、大評判になった。
３人が行っているのは狐拳というもので、狐、庄屋、狩人がジャンケンのような強弱関係になっており、それぞれを身振りで表現して勝負を決める。
当時、江戸で大流行していた。
どのようにして稲荷神社を地元に建てたのだろうか？
民衆が地元に稲荷神社を建てたい場合、稲荷神社側に願書を届けて礼金を支払うと、稲荷側からご身体と認可証書が授けられ、正式な稲荷神社を建てることができた。
誰でも希望すれば“勧請”（分霊を他の神社に移して鎮祭すること）して頂くことができた。
元々総本社の伏見稲荷で勧請の申請を受け付けていたが、江戸時代になると、神道を広めた吉田家、白川家でも申請を受け付けるようになった。
さらに王子（東京）、妻恋（東京）、笠間（茨城）などの稲荷神社でも、勧請の申請を受け付けるようになった。
窓口が多くなり、より簡単に稲荷神社を建てられるようになった。
申請する窓口が増えたといっても、地方の場合、わざわざ歩いて京都まで神様を受け取りに行くのは大変。
そこで“勧請取次ぎ”が誕生。
お稲荷様が地元にいながら建てられるようになった。
申請書も雛形を用意し、名前を書くだけでよかった。
そして“飛脚”が御神体を届けてくれた。
日本人が祟りと共に恐れる厄。
厄に隠された日本人の謎とは？？？
多くの人にただならぬ事が起きている厄年とは何か。
人生には節目節目がある。
病気になりやすい時期、色んなものが変わる時期、それらを全部含め、節目を厄年とする。
厄年を気にする日本人は、神社で厄払いをする。
さらに厄除け大師、厄除け地蔵がある。
厄払いは、仏様でも神様でもどちらでもよいのか？
佐野厄除大師副住職・旭岡靖人さん「神社でもお寺でも気持ちがあれば良い。」
厄とは何か？暦である？
陰陽五行？
陰陽五行とは、広辞苑によると・・・
「古代中国に起源を持つ哲理。
一切の万物は陰陽二気によって生じ、五行中、木、火は陽に、金、水は陰に属し、土はその中間にあるとし、これらの消長によって天地の変異、災祥、人事の吉凶を説明する。」
陰陽五行説とは陰陽説と五行説という二つの哲学的な思想が合体したもの。
・陰陽説：「易」に由来する陰陽説は宇宙生成論の一種と言える。
万物を能動的・昂進的状態である「陽」と受動的・沈静的状態である「陰」の二つに大別し、それらが和合・循環することで万物の生成・消滅といった変化が発生すると考える。
この分類は絶対的なものではなく、万物の置かれている状況に応じて、相対的に変化する。
古代中国では宇宙の最初は天地・陰陽が分かれていない混沌とした状態（太極）だと考えられていた。
「易経」の言葉に「易に太極あり、これ両儀を生ず。両儀四象を生じ、四象八卦を生ず」とあるようにこの状態から相反する陰陽二つの状態（両儀）に別れ、その二気の消長と循環によって万物の事象を理解、しいては未来の予想を行うことに発展した。
陰陽二気が森羅万象の変化を司るのならば当然人間の行動や社会の動向にも影響を及ぼすはずと考えるのは自然なことで、さまざまな考えを理論に組み入れることで自然・人間・社会といった諸現象を幅広く説明するように発展していった。
太極図：勾玉型の白い部分が「陽」を、黒い部分が「陰」を表す。
上昇する「地（陰）」の気と下降する「天（陽）」の気が象徴されており、この流動が万物を生じる。
・五行説：自然界や人間社会の諸現象など森羅万象の生成・変化を説明する原理で、木・火・土・金・水という五つの要素を考える。
「木」とはいわゆる木そのものを指すのではなく、草木の生長・発育を行う不思議な力を指している。
そういった力を「気」と呼んでいる。
他の要素も同様に考え、これらの気が循環することで森羅万象の生成・変化が行われるという考え。（五行の「行」という字には「巡る・運行」という意味がある）。
●木(木気)：木が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として曲がったり真っ直ぐになったりすることがあげられる。（樹木が生長する様子）。
春を象徴。
●火(火気)：火が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として明るく熱く燃え上がることがあげられる。
夏を象徴。
●土(土気)：土が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として実のあるものを持つことや作物を植えたり取り入れたりすることがあげられる。
季節間の推移を象徴。
●金(金気)：金属が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として冷たく硬いことがあげられる。
秋を象徴。
●水(水気)：水が持つ形態や性質を観念化したもの。
一例として冷たく潤いがあり流れ下ることがあげられる。
冬を象徴。
五行（五気）は循環する。
この循環の仕方に３種類ある。（相生と相剋と比和）
●相生：相順応する関係。「相性がよい」
●相剋：相手を剋する関係。「相性が悪い」
●比和：同気が重なる関係。
そのためにその気がますます盛んになる。
それが良い方になる場合にはますます良くなり、悪い方になる場合にはますます悪くなる。
陰陽五行は、初めは四季の変化を説明するのに使われた。
この世の初めは何も区別できない混沌とした状態（太極）だったが、その中から軽く澄んで暖かい気（(陽気)が上昇して「天」に、重く濁って寒い気（陰気）が下降して「地」になり、この陰陽二気は一年という周期をもって消長し、その間に木・火・土・金・水という五つの気が生じ、これらも消長することで四季の別ができる、と考えた。
陰陽五行説とは、古代中国で確立され、宇宙の原理を解明し、世の中を把握しようとする論理体系。
その論理は、星の動きや月の満ち欠けなどの天体観測をベースに、太陽系の惑星に対応させた、木火土金（ごん）水の５つの要素の中に万物を振り分け、さらにそこに陰と陽の２つを組み合わせ、世の中の吉凶や変異を判断する論理体系。
聖徳太子が豪族や役人の地位を区別した冠位十二階の冠の色も、陰陽五行説に由来している。
陰陽五行思想で方位や時間を示すのに使っていた“羅針盤”には干支が書かれている。
干支も陰陽五行の思想に由来している。
↑China 24 cardinal directions
古代日本に伝来した陰陽五行説が、日本独自の発展を遂げた論理体系が“陰陽道”。
日本文化として確立された陰陽道こそが、神や仏と共に、日本人の生活に深く根付いていった。
陰陽道による天体観測や干支の組み合わせで知ることができるとされた。
これから起こりうる災難や災い、それらを総称したものが“厄”。
“厄払い”はこれから起こりうる災難や災いを取り除くためのもの。
現在神社や寺などで行われている年中行事（どんと焼、雛祭、端午の節句、節分、七夕、七五三・・・）も陰陽道の厄払い行事だった。
↑辟邪絵〈毘沙門天〉平安時代
（へきじゃえ）（びしゃもんてん〉
邪（じゃ）を辟（さ）ける、すなわち様々の悪鬼（あっき）を退治する善神（ぜんしん）を集めた絵巻であった。
由来は様々で、陰陽道（おんようどう）など仏教以外の神も含むが、漠然と、六道絵の一種として作られたのではないかとも考えられている。
毘沙門天：仏教の代表的な護法神であるが、ここでは『法華経』の持者を擁護することが表される。
山中で持経者が思惟するところに、鬼神が飛来して悩まそうとするとき、毘沙門天が現れ、弓矢で退治するという。
陰陽道は、日本文化の中で、どのように定着し、広まったのだろうか？
陰陽道は東寺の最先端科学だった。
古代日本でも、中国同様、天体観測などは行われていた。
しかしそこから論理的に先を読むことはできず、突如として起こる自然の振る舞いは、人々にとって常に脅威だった。
そこで注目されたのが陰陽道。
“渾天儀”と呼ばれる天体を観測する道具や、干支が書かれた羅針盤など、見たこともないような道具を駆使する“陰陽師”の言動は、どんなものでも驚きだった。
“陰陽寮”という機関が設置され、朝廷専属の技術として取り入れられた。
陰陽寮の主な役割は、暦を作る、天体や気象を観測する、時刻を計測することだった。
さらも占いも行っていた。
国家の行事や貴族の生活に至るまで、その吉凶を陰陽寮が占っていた。
↑『山王霊験記』（日枝神社 所蔵）
鎌倉時代 弘安11年(1288)
此の絵は、叡山側の呪詛のため病に伏した関白師通の平穏を祈る描写である。
御幣をたてた祭壇の下に「板立絵馬」らしきものが立てられている。
詞書(ことばがき)には霊験ある諸社の神馬を勧請したと記されており、神馬に替えて絵馬を奉納したことがうかがえる。
衣冠束帯の人が神鏡を拝しているのも興味ぶかい。
↑映画『陰陽師』
陰陽道を定着させた大陰陽師・安倍清明は、超人的な力を持ち、紙などに命を吹き込んだ。
式神と呼ばれる鬼を自在に操ったと言われている。
清明の超人的な力は、政治だけでなく、貴族の私的生活にも多く用いられていた。
藤原道長は特に清明を重用し、不思議なことが起こると常に清明に意見を求めた。
↑『泣不動縁起』室町時代 初期 狩野永納筆 清浄華院蔵・重文
安倍清明の祈祷
三井寺の智興内供が重病に苦しんでいたとき、陰陽師の安倍晴明に占したところ、寿命には限りがあるので如何ともしがたいが、もし弟子の中で身代わりをするものが有れば、代わるように祈ることはできると言う。
この時智興には多くの弟子があったが、すぐには誰も身代わりを申し出なかった。
ところが、最も若い証空が、自分が代わりになりましょうと申し出、80歳になる老母に訳を話したいのでと言って帰郷する。
家に帰った証空は、驚く母に事情を説明する。
母は止めようとするが、今となってはしょうがない、師と約束したことだからと言って、証空は泣く泣く師のもとに帰っていく。
↑清明神社
寛弘2年(1005)に安倍晴明が亡くなると、一条天皇は晴明の遺業を賛え、晴明は稲荷神の生まれ変わりであるとして、寛弘4年(1007)彼の屋敷跡に晴明を祀る神社を創建した。
↑一条戻り橋（右は現在の一条戻り橋）
一条戻り橋の下は、今では水は枯れて木々、雑草がいちめんと生い茂っている。
平安時代は、この辺りは、なにも無く、うっそうとしていた。
当時、この橋の手前側は、この世で橋の向こう側はあの世とされていた。
伝説� О打楡玉世�呪術の際、式神よく使用していたが、この橋の下に式神を普段、隠していて、そのつど、呼び出していた。
伝説�◆П箚�18年（1918）、三善清行が死に、その子淨蔵が紀州熊野から急いで京に帰り、この橋の上で父の葬列に出会った。
淨蔵は棺にすがり、悲しみにくれながら神仏に祈ったところ、寸時ではあったが、父は生き返り、父と子は語り合うことが出来たという。
これが、戻り橋のゆえんと言われている。
※安部清明がライバルの蘆屋道満（あしやどうまん）に父・保名を殺されて、その父を呪法を駆使して生き返らせたのが、この橋の上だったという説もある。
伝説��・・江戸時代には、斬首刑の罪人は、一度、この橋の上で、「餅と花」をそえられて、説諭（説教）をされたとのことです。
伝説�ぁΑ�戦時中、出生兵士はこの橋から出生すると無事帰還できる。
今では、アベックでこの橋を渡ると別れてしまうとの言い伝えがある。
伝説�ァΑκ唇損�代、この橋の付近で鬼が出るといううわさがあった。
ある夜、源頼光の使者として、渡辺綱が一条戻り橋にやってくると、その橋のたもとに20歳位の美人が立っていた。 「五条に急用があるのですが、夜道ゆえ、こころ細くてなりません。 どうか、御一緒させていただきませんか？」
それを聞いた渡辺綱は、「よろしいでしょう。 私も、そちらに向かうところです。」と快諾したのだが、にわかに、美女は変化して、おそろしい鬼の姿に！！ ドロドロドロン！！ 綱の胸倉を掴んだ鬼のウデを「エイッヤアッ」と名刀髭切のさえをみせ、たたき切ったのだ。
「ギャ〜」という悲鳴とともに鬼は、愛宕山方面に飛び去った。
「鬼は、必ずや、腕をとりもどしに来るであろう。
７日間の間、家より一歩も外に出てはならぬ。
そして、誰が尋ねてきても決して戸をあけてはならぬ。」
安倍清明にそう言われた綱は、鬼の腕を箱に封印をして、自宅に閉じこもって、ひたすら呪文をとなえていた。
その綱のもとに７日目の朝、トントンと戸をたたくものが、「わたしだよ、あけておくれ・・・」
摂津に住む養母がたずねてきた。
「はて、これはまた異なことだが・・・」と綱。
養母は綱の家に上がり込むと話し込み、お茶を一息グイッと飲むなり「フウーッ、しかし、その話、聞けば聞くほどおもしろい話じゃないか。
私にその鬼の腕とやらを一目みせておくれ。」とせがむ養母。
綱は、気が引けながらも心を許し、箱の封印をといて「どうぞ」と差し出した。
すると養母は、おそろしい鬼（茨木童子）の姿に変化して、「ワハハハハッこの腕は、われの腕なり。」と言うが早いかムンズと鬼の腕をわしずかみにして、屋根を突き破り暗雲がかかっている空の高くへ、飛び去っていってしまった。
この話は『平家物語』『源平盛衰記』『太平記』にみられる。
しかし陰陽道にも時代の波が押し寄せた。
京という都が崩れてゆくと、陰陽道も完全に管理することが難しくなってきて、一気に露出していった。
政治的権力や貴族の生活の中で欠かすことができない存在だった陰陽道。
藤原氏の力が弱まり、政治の中枢が貴族から武士へと移ってゆくと同時に、陰陽道も権力に付随する形で朝廷から流出。
それが結果的に陰陽道の真似事をして生計を立てる民間陰陽師を生み出した。
政治の乱れから、現世への不安を抱えた人たちの需要もあり、民間陰陽師の数はどんどん増えていった。
しかし中には曖昧な鑑定で恐喝まがいのことをしていた民間陰陽師もいた。
民衆は、ちゃんとした陰陽道を行ってもらうことを望んでおり、そのニーズに応えたのが神社や寺だった。
こうして神社やお寺に陰陽道の行事や習慣が入り込むことになった。
【今も残る陰陽道行事】
●祓い：人形に厄を移して川に流す。
雛祭の原点。
平安時代、食べ物もろくになく、医療も発達していなかった。
小さな子供は大人になる前に死んでしまう可能性が高かった。
そこで子供の無病息災を祈り、雛人形に厄を移して川に流すという陰陽道行事が行われていた。
川岸などにひっかかり、うまく流れずにいると、妖怪になって戻ってくるという伝説もあった。
●節分：元々は来襲してくる鬼と陰陽師の戦いだった。
生命力の象徴である豆を鬼に投げつけ、厄を払っていた。
陰陽道で悪い方角とされる北東を、羅針盤で見ると、鬼門・丑寅と書いてある。
だから鬼は丑の角に寅のパンツ。
退治に同行する申、酉、戌は、鬼門と対角に位置する。
旧暦（太陽太陰暦）では基本的に立春年初。
今の新暦２月４日が旧暦元旦だった。
そうすると新暦２月３日の夜には“鬼門”が発生する。
ここで鬼を排除する必要（追儺）が生じる。
春は五行では木気に配当され、木気が苦手とする物が金剋木の理から金気。
そこで金気を 封じるために金気を剋する物、 つまり火剋金の理から火気の性質の行為または呪物が求められる。
節分に使われる豆は金気に配当され、その豆をまず火で煎るという行為が発生し、煎られた豆を投げつける、つまり痛めつけるという行為が生まれたと考えられる。
神でも仏でもないが、年中行事から民話まで、様々なところに根付く陰陽道。
現在の日本から陰陽道を取り除くと、日本文化さえ崩壊してしまいかねない。
“仏滅”も元々“物滅”と書き、陰陽道だった。
［なぜ、大晦日に除夜の鐘を打つのか］
時間の「鬼門」封じではないかと推察される。
12月は「丑」の月、そして１月は「寅」の月。
ということは、12月31日の大晦日の夜から１月１日の元旦にかけては時空における「鬼門」が発生する。
この時空の「鬼門」である大晦日の夜を除きとるための呪術が除夜の鐘であろう。
何故、除夜の鐘なのか？
鐘=金気、そして金気は金剋木で木気をいためつける。
春は木気に配当されるので、新春を迎えるにあたってはそれを妨げる要因を潰す必要があり、なにか金気のものを傷めつけることがもとめられる。
この金気を傷めつけることが、鐘を打つということにつながったのかもしれない。
［なぜ、丑満(うしみつ)時にお化けが現れるのか］
「草木も眠る丑満時」はお化けの出現する時間として有名だが、これも１日のなかで発生する鬼門の時間。
昔の時刻は午前零時を中心にして前日の午後11から午前１時までを子の刻、以降午前１時から午前３時までを丑の刻・・・というように配当していた。
となると、丑の満る午前２時から寅の刻が始まる午前３時にかけて鬼門が発生することになる。
［なぜ、丙午（ひのえうま）の迷信は起こったか］
丙（ひのえ）は火の兄であり陽の陽であり、その上午も陽の極に位置する。
丙午は陽そのものであり、この年に生まれる子供は陽気が強いということになり、男児であれば陽で問題ないが、女児ならば陰なので男まさりの子になると思われたのだろう。
それが男をくってしまうという風になってしまったと思われる。