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このままだと中国の「思うつぼ」…TPP「来年5月合意」逃せば交渉は「中断」

産経新聞 12月27日(土)18時0分配信

 安倍晋三政権が成長戦略の柱に据える環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は今年も終止符を打てなかった。日本政府内では遅くとも来年5月までに合意できなければ、交渉は事実上の中断が避けられないとの見方も強まっている。通商交渉は長期化するほど暗礁に乗り上げかねず、このままでは日米主導の新たな通商秩序の構築を牽制(けんせい)したい中国の「思うつぼ」と危ぶむ声も上がる。

■早くて来年3、4月

 「今後の交渉は米国の政治日程をにらみ、時間との勝負になる」。日本の交渉筋はこう焦燥感を募らせる。

 TPP交渉は今年11月に中国・北京で開かれた参加12カ国による首脳・閣僚会合で、日本が合流した昨年に続いて年内の大筋合意が断念された。12月7〜15日には米ワシントンで首席交渉官会合が開かれ、難航分野の着地点を模索したが、大きな進展はみられなかった。このため、12カ国は年明けにも再度、首席交渉官会合を開き、大筋合意の舞台になる閣僚会合の開催につなげる方向で調整する。

 ただ、米国内の事情を踏まえると、確かに12カ国は悠長に構えていられない。

 米国は来年夏以降、2016年秋の次期大統領選に向けた動きが本格化し、オバマ政権のレームダック(死に体)化が加速する。そうなれば、TPP交渉は“旗振り役”である米国が身動きをとれなくなる恐れは大きい。日本政府内で合意期限は「来年5月」とささやかれる根拠もここにある。

 米国は来年2月には合意にこぎ着けたい意向を各国に伝えている。だが、交渉は「最終局面」(安倍首相)にあるとされるものの、残されているのは難題ばかり。日本の重要農産品の関税をめぐる日米協議の決着はつかず、知的財産など難航分野の米国と新興国の対立も解けていない。

 「合意は早くても来年3月か4月」。日本の政府高官はこう指摘する。

■権限一任が鍵

 合意に向けて鍵を握るとみられるのが、オバマ大統領が大統領貿易促進権限(TPA)法案を成立させ、議会から交渉権限の一任を取り付けられるかどうかだ。権限がないと、合意しても議会の反対で覆される懸念があり、これまでの交渉でもオバマ政権の足かせとなっていた。

 権限一任には、野党・共和党よりもむしろ、TPPに慎重な労働組合などを支持基盤とする与党・民主党の反対論が強い。オバマ氏は反対派の説得に及び腰だったが、ここにきて説得に乗り出す意欲を表明。日本政府内では「TPAが通れば、米国は本気で交渉のまとめに入り、難航分野の決着もしやすくなる」との期待も強まる。

 もっとも、米議会でTPA法案の審議に入れるのは来年1月の新会期開始からで、別の法案が優先される可能性もある。反対派の説得に手間取れば、「5月合意」に黄信号が点りかねない。

 合意に達しないまま交渉が来年夏までもつれ込めばどうなるか。

 日本の交渉筋は「交渉は中断し、参加国は次期大統領が決まるのを待つしかなくなる」と表情を曇らせる。

 次期大統領次第では交渉が“仕切り直し”となる恐れもあり、先進国と新興国の対立で事実上暗礁に乗り上げた世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の二の舞いとなりかねない。

■中国封じ込め

 そもそも、TPPには日本にとって経済的恩恵に加え、安全保障上の意義がある。

 経済面では、参加国内の関税の撤廃・削減が進めば、企業の輸出競争力が増す。消費者にとっても、輸入品の値段が安くなるのは朗報だ。関税以外のルール分野でも、公共事業など政府調達市場の開放は鉄道や発電所などのインフラ輸出を後押しする。外資規制の撤廃・緩和も新興国市場の開拓には追い風だ。

 高い関税で守られてきた国内農業が打撃を受ける懸念はあるが、日本は人口減による市場の縮小が避けられず、企業も農業もアジア・太平洋地域の成長を取り込まなければ、じり貧は免れない。

 安全保障面でも、日米同盟を強固にするだけでなく、他の参加国とも経済的な相互依存関係を通じて結束を深められる。

 交渉を主導する日米にはTPPにより経済、安全保障の両面で中国の野放図な勢力拡大を封じ込めたい思惑がある。中国もこれを意識しており、交渉の進展には神経をとがらせている。

 裏を返せば、交渉の“漂流”はTPPの果実を得られないだけでなく、「中国をいたずらに喜ばせるだけ」(政府高官)の結果に終わることを意味する。地域の安定を確保するためにも、交渉の決着はもはや待ったなしだ。(本田誠)

最終更新:12月27日(土)18時0分

産経新聞

 

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