(2014年12月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
巨大な煙突の一群と打ち捨てられた工場の陰に、塗料のはげ始めた看板がある。聞喜鋼鉄工業園区への来訪者を歓迎する看板だ。
しかし近くの村では、働ける年齢の男性と多くの女性がよそに出て行ってしまっている。残るのはお年寄りと小さな子供たちだけだ。
「大木を切り倒せば、その周りの小さな木もみんな死んじまう」。69歳になるワン・ペイキンさんは、海鑫鋼鉄集団の経営破綻についてこう話す。同社はかつて中国中部・山西省のこの地で製鉄所を運営していたが、それが先日閉鎖され、繁栄していた周辺地域の経済は壊滅的な打撃を受けている。
「地域全体があの製鉄所に頼り切っていた。今じゃ、若い者は町を出て、国中回ってでも仕事を探さにゃならんのです」
住民の4分の1の生活を支え、県の税収の6割を担ってきた製鉄所
海鑫鋼鉄は、従業員1万人への給与の支払いを6カ月前に停止した。地元の当局の推計によれば、聞喜県の人口40万人のうち、約4分の1の人々の生活がこの製鉄所によって間接的に支えられていたという。
海鑫鋼鉄集団は山西省最大の民間製鉄会社で、聞喜県の税収の60%は同社からのものだった。同社の財務は数年前から厳しい状況にあったものの、そうした事情から地元の政府は同社を破綻させることに消極的だった。
「海鑫鋼鉄はすでに2011年の時点で、死んではいるが死後硬直はまだ始まっていないムカデのような状況だった」。ある当局者は、外国人記者と話をすることが認められていないため名前は出さないでほしいとしながら、こう語る。
「工場は半分以上閉鎖されていた。しかし、代金を前払いしなければ納入業者が原材料などを持ってこないような状況になっても、借金まみれになっても、まだ鉄を作っていた」
今日では、広大な中国のあちこちで同様な光景が展開されている。この国の重工業部門には慢性的な過剰生産能力に苦しむ企業が多々あり、本来は経営破綻すべきなのに、地方政府の支援を受けて生き延びている。
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