(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第9号 2008年11月26日)
「武田信玄の遺訓」に主将の陥りやすき三大失観というものがあります。最近、良く売れている阿川弘之著「大人の見識」の中にも出てきますので既にご存知の方もおられるでしょう。
その三大失観とは
(1)分別あるものを悪人とみること
頭に立つと自分の意を汲んでくれる人がほしくなる、逆に反対や意見を言う人を嫌う。
これが長く続くと頭に立つ人に苦言を呈する人がいなくなる。
頭に立つ人は自分の思うように仕事ができていると信じる。
頭に立つ人が長く同じ位置にいると必ず起こる。
(2)遠慮あるものを臆病とみること
遠慮や謙遜をする人を自信がないのだとか臆病なのではないかと思ってしまうこと。
あるコンサルタントから聞いた話ですが、日系のコンサルタント会社は、営業担当とコ
ンサル担当は分けるが、欧米では分けない場合も多いそうです。日本人の場合、コン
サルタントが自らを非常に有能であると高く売りつけるような行動は取り難いし、クライ
アント側もあまり信用しない。それで営業担当が非常に優秀で実績もあるAコンサルを
付けますとセールスした方が上手くいくそうです。
(3)軽躁なるものを勇豪とみること
(2)と逆に、大きな声の者や俺が俺がと出しゃばる人をリーダーシップや実行力がある
と勘違いしてしまうこと。
知識や能力がある人ほど、物事が良く見えるので無責任な安請け合いはできないので
慎重になる傾向があります。
政治家も出たい人より、出したい人と言いますが、現実には、出たい人の方がどうして
も多くなる傾向があるようです。
上に立つものが、これらに気が付きもせず繰り返せば、その組織は凋落していくことでしょう。あの武田信玄でさえ多分何度も犯してしまった間違いに対する自省なので、凡人には非常に難しいことですが、上に立つ人は、常に心しておくべきことでしょう。
漢書(かんじょ)『霍光伝(かくこうでん)』に「曲突徙薪無恩沢 焦頭爛額為上客耶」という故事があります。「曲突(きょくとつ)、徙薪(ししん)は恩沢(おんたく)無く、焦頭爛額(しょうとうらんがく)を上客(じょうかく)となすや」と読むようです。
ある家で、かまどの煙突が突き出していて、そのそばに薪(たきぎ)が積んであった。これを見た旅人が煙突を曲げて薪は別な所に移したほうがよい、そうしないと火事になるだろうと忠告したが煙たがられ、その後その指摘通り火事が起こってしまった時に、頭を焦がし額を爛れさせながら懸命に消火活動をした旅人には多大な感謝ともてなしがあったという意味です。火災の予防策を献ずる者は賞を与えられず、火災が起きた時に頭を焦がし額を爛(ただ)れさせて救った者には賞を与えられるということで、根本を忘れて瑣末(さまつ)なことだけを重視することの例え話です。マッチポンプと言って、自分で火をつけておきながら、そ知らぬ顔で消火し、活躍を売り込む輩も世の中にはいますのでご用心です。
コンサルタントの仕事は、問題が起こってしまってからの事後保全よりも、正に分別ある助言であり、軽躁ではない予防保全の提案が最高のものでしょう。しかし仮にクライアントの最高責任者の判断や行動に最大の問題があった場合に、それを指摘できるかと問われれば、皆さんはどう答えるでしょうか。
(文責 坂)
★掲載された記事の内容を許可なく転載することはご遠慮ください。