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Danas je lep dan.

2014-12-28 この夜が明けるまであと百万の祈り

[]ほんとうのことは,いつだって人と人との間にある――最近『幻想再帰のアリュージョニスト』第3章

 ごめんなさい,わたしの目が節穴でした。

 わたしは前回の記事でこう書きました。「ちょう面白かったです」「わたしはまだぐるぐる目になりきっていないので無理にお薦めはしませんが」と。嗚呼,なんと浅はかな考えだったことでしょう!

 アリュージョニスト,ちょう面白いとかそういうレヴェルじゃないです。稀に見る傑作です。神作です。もう読んだひとは幸福です。この素晴らしい作品を堪能することができ,語り合うことができるのだから。まだ読んでいないひとは幸福です。これからこの素晴らしい作品をなにも知らない状態で堪能することができるのだから。あれ,おじさん,今宗教の勧誘をしてたんやっけ? 以下のツイートに完全同意ですわ。

 正直に言って第2章までを読んだ段階では,「なるほどこれは確かに面白い。だが多くの百戦錬磨の読み手たちが目をぐるぐるさせてステマ布教に勤しむほどだろうか?」と失礼なことを思っていましたが,第3章を最後まで読み終えて確信しました。これは不世出ネット小説だと。実際,某魔王のひとも同じ経路を辿ったようですし。

私のアリュージョニスト感想の変遷

1章:指根さんめちゃくちゃ面白いの書いてるなー。これだけ書ければ運なしで普通にデビューできるのでは。わたし遅読だけどこれは好みドストライクだからするする読めて嬉しい。ゆらぎネタにやにや。

2章:あっ ちょっと えっ んー、想定外なくらいめちゃくちゃ面白いし、ネタの拾い方やまとめ方、バランス感覚等プロでもなかなかいないレベルな気がする、ぶっちゃけ今の埋もれてる状態がかなり勿体ないと思うのだけど、これって身内視点の色眼鏡かしら。身内誉めで変なこと言っても逆に作品に傷が付くだけだし、あんまり大騒ぎしないように気をつけよう(知り合いからこのレベルの作家が出てくる偶然が信じられない状態)。

3章:ギャー! 色眼鏡とかそういうレベルで片付く話やない控えめに言って天才やこれ! プロかアマチュアかとの次元やのうて一章に何人出逢えるかってレベルのオールタイムベスト作家やがな! 個人的オールタイムベストのサガ、ひぐらしうみねこ、胎界主の並びに今アリュージョニストが加わりました! 宣伝、宣伝せな!(目玉グルグル)

4章:そういえばもう3ヶ月くらい他の小説読んでない(呆然)

http://h.hatena.ne.jp/Erlkonig/316618028545043073

 個人的オールタイムベストとは言わないけれども,いやホント,これ無料で読めていいの?(震え) みたいな感じです。ところでこれはウェブ上の「お約束」を共有して読むとさらに面白くなって,つまりはリアルタイムで読むのが一番面白いので,今,読み始めることを強く推奨します。ほらもうすぐ2014年終わっちゃうじゃないですか! じゃいつ読むか? 今でしょ!

 あとこれ読むと「はてな村奇譚」がよりよく理解できるようになります。プロ漫画家による壮大な内輪ネタという衣を被った壮大なアリュージョニストステマじゃねえか! いやもちろん小島アジコさんは何度もアリュージョニストについて言及しておられますがまさかあんな作品中にダイレクトにアリュージョニストのステマが入っているとは読むまでわからなかったです。「イェツィラー」とか完璧に融血呪だしシロクマ先生はサイリウスじゃないですかー! 本来の意味でのステマなのではこれは。グーグル先生からサジェストされるだけのことはある。

 ……と思ったら本業の方でもステマをされていたらしく。

 買わなきゃ(使命感)

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 物語としての先の読めなさはホントすごいというか,だいたい急展開の度にこんな気分になります。

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 というか一読すると

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という気分になるんですが,読んでると次第に世界観が体得できて,全部この世界の理の中に綺麗に収まっているように思えて。破天荒でありながら枠にはまっていて,なんというかともかくすごい。そして分量もすごい。

 でも一回沼にハマればそのままズブズブと沈んでいけますよ!

 だから,みんなも素晴らしいアリュージョニストの世界を,

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 以下ネタバレ&長文引用。だいたい自分用メモです。

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「だろうな。だがこういう記述が含まれた呪文という可能性もあるぞ。たとえば『この記述は論証できない』というような。論証不可能なのが定義だから、論証した瞬間に定義した呪術ではなくなってしまう。ゆえに、たとえば科学的な分析によって君の左手を把握し、その神秘性を零落させようとしても、それは適わないというわけだ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『もうひとつの左手』

 いきなりゲーデルですよ。数学と呪術って親和性高いんやな!(ぐるぐる目)

「あなたたち【夜の民】がコピーアンドペーストで呪文を構成するのはそういう種族特性だから仕方無い。そうではなくて、もっと語群の選択をよく考えて配列するの。適切な引用は呪文の完成度を高める――コピーの切り貼りだからって創造性が生まれないわけじゃない」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-3 半熟英雄

 なんだこの世界観。なんなんだほんと(茫然)。好きすぎてつらい。

「落としたパンは必ずバターやジャムが塗ってある方が下になるし高価な絨毯は汚れてしまうの」

 さも含蓄深そうに言うハルベルト。

 振り返りもせずにミルーニャが鼻で笑った。

「はあー? ちゃんと統計とったんですかぁ? 認知バイアスですよねそれ? 頭のネジがちゃんとあるかどうか確かめた方がいいですよ?」

「どこかのポンコツみたいな事を――これだから杖使いは。無駄に文明人ぶって、それも呪術的思考の一つだと気付かない」

「はーい出ましたー、呪文使い特有の相対主義の濫用。逃げる時にはそれ使えばいいから楽ですよね。ていうか呪文使いって何か生産的な活動したことあるんですかー?」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-4 天の鴉と月の兎

 なんすかこの特定クラスタ狙い撃ちネタは。

 彼らは魂無き抜け殻だ。「いたぞ、侵入者だ!」「捕縛して拷問しろ!」「火にかけて塩を振れ!」「調理したら食事休憩だ!」正気の目で語る彼らの振る舞いは、彼らの内部では社会性の表れだと見なされている。

 哲学的ゾンビ

 魂無き抜け殻である彼らは物質的にはなんら人間と変わりないが、外界とは異なる環境下――つまりは迷宮に適応した結果として異常な振る舞いを見せるようになる。それは、霊体や魂を取り払ってしまえば人はいつでもあのようになり得るのだというおぞましさの具現であった。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-4 天の鴉と月の兎

 こんなヴィジュアルの哲学的ゾンビが出てくる小説を俺は寡聞にして聞いたことがない。そしてそれへの救済もまた,実にこの世界らしいやり方で。

「哲学的ゾンビは杖的には『生きている』けど邪視的には『死んでいる』。なら、私たちは呪文使いとして、その溝を埋めて、断絶を繋ぎ直す。視点をひっくり返す言葉遊びだけが、私たちにできることだから!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 かっこよすぎて濡れる。

「貴方たち呪文使いは不死とみるとすぐにこれです。細胞の管理プログラムを改変して、プログラム細胞死を強制的に引き起こそうとする。えーと、この呪文式がアポトーシスの誘発で、こっちがテロメラーゼの不活性化ですか。まあ定石ですよね。定石って事は、こっちも想定してるってことです――おいで、マクロファージ

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-6 魔女と英雄

 こんな風に「マクロファージ」を使ってくる小説なんて僕にとっては『スワロウテイル』以来だしもうどういう顔すればいいかわからないの。そしてこれですから。

「生物分類学における領域(ドメイン)を四分する古典的な種。すなわち真核生物、真性細菌、古細菌、そして疑似細菌。摸倣子の働きによって細胞の構造を成り立たせているこの呪術生命は、極微な呪力の運動によって機能するいわゆる天然の呪術微細機械(マイクロマシン)――君たち夜の民はその集合体だ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-17 無造作な死

「それが事実だ。それだけが事実。アズーリア・ヘレゼクシュの事実。知能無き疑似細菌に心は宿らない。魂などない。外側から見ればそれらしく見えるだけの、仮構された人格だ。一人称の記述? 人間味のある言動? それは『人類』の証明にはならない」

 人の心は神聖不可侵などではない。

 脳という臓器の活動、それを解体して精査すればいかようにでも説明が可能。

 ガルズは死霊使い――邪視によって実体の無い霊魂を知覚し、杖によって物質的な死体を操作する複合呪術師だ。

 そんな彼が内面化しているのは、無機質で杖的な思考。

 ガルズ・マウザ・クロウサーは空虚なる杖の世界観であらゆる呪文を否定する。

 心などない。魂など無い。

 あるとすればそれは脳という複雑な系の内側に生起されるだけのもの。

 それを摸倣しただけの代物には心は宿らない。

 ゆえにそれは『人類』ではないのだと断定する。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-17 無造作な死

 『スワロウテイル』の世界観が好きな人間にとってはこの上ない設定と言うほかなくて。

 そしてミルーニャがいい味出してるんですよこれが。

「そういえば、ちょっと気になってたんですけど、みんなお幾つなんですか? 私は三十二歳なんですが」

 食事の後、これもまたハルベルトが用意していたロクゼン茶を飲みながら私は言った。強い甘味が口の中に広がっていき、身体に活力が戻ってくる。何故か、メイファーラが激しく咳き込んでいた。お茶が間違って気管に入ったとかかな?

「いや嘘でしょそれ。いくら【夜の民】が見た目で歳がわかりづらいからって」

 メイファーラは目を剥いてそう言ったが、すぐに何かに思い当たって落ち着きを取り戻す。

「――って、そっか、【夜の民】は巡節で数えるのか。びっくりした。要するに十六歳ってことだよね。あたしは十八歳だから、二つ違いかな」

「あ、ごめんなさい。そういう数え方が一般的なんだった。えっと、今まで通りにメイって呼んでいい?」

「うん。変に先輩風とか吹かせるの得意じゃないし、お互い気を遣わずにやっていこ?」

「はーい、ミルーニャはぁ、二十六歳でーす」

「はいはい十三歳ね」

「いえ、巡節数えだと五十二歳ですぅ」

 時が凍り付いたと思う。

 え? 何、どういうこと?

「きゃー、アズーリア様ったらミルーニャと一回りも違うんですね! 可愛い! 抱きしめたい! 鎧姿も凛々しいけどやっぱり黒衣ちびコマ激可愛い!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-4 天の鴉と月の兎

 ミルーニャさん,こんな感じの中々痛々しいいい感じ(意味深)のキャラだと思わせておいて実はすごいキャラ付けがなされていたという。

「ああっ、見られてる、ミルーニャの恥ずかしい爪の中、全部見られちゃってる!」

 私はかつて全裸で現れたアキラを変態と呼んだ。しかし今ではそれが不適切な評価だったと思える。本当に変態と呼べるのは、例えば目の前で悶えているミルーニャみたいなのだろう。

「アズーリア様の侮蔑の視線が辛気持ちいいですぅ♪ もっとミルーニャを蔑んで! ああ、でも駄目、嫌いになって欲しくないですー!!」

「大丈夫だから、嫌いにならないから。いいから早くその槍っぽいのをメイに渡そう? そのつもりで出したんだよね?」

「はい、あの――その」

「なに?」

「後で罵って貰っていいです?」

「さっさとやれこの露出被虐趣味の変態雌豚」

「きゃぁぁぁぁん♪」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-6 魔女と英雄

 でもまさかこんな変態描写がミルーニャという人格にとって大きな意味を持っているとは思いませんでしたよ。

「お願いです、どうか私に、理不尽な困難を乗り越えられる強さを下さい」

「では、苦痛を快楽だと感じるようにしてやろう」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-7 言理の妖精語りて曰く

 ミルーニャちゃんのファンになります。というか,ミルーニャのキャラが良すぎるでしょ。

 やっぱり、彼女は優しい。自分が理想的な優しさを持っていないこと。その理想と現実との隔絶に苦しんで、自分を醜いのだと規定してしまう。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-7 言理の妖精語りて曰く

 左手の中指、生爪を一気に引き剥がす。

 常人よりも高い治癒力を持つ彼女であっても、その痛みは耐え難かった。

 激痛、泣き叫びたい、ぎゅっと瞑った目から零れる涙。

 もう痛みしか無い。苦しさしかない。こんな苦痛は二度と味わいたくない。

 けれど、その苦しみがなによりも愛おしい。

 強く、ただ一人の事を想った。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『言震(ワードクェイク)』

『いずれ、この世界(ゼオーティア)もこうなります。予測された結末に対して、どうしようもない答えしか用意できなかった私には、はじめから四魔女の資格なんてなかったのかもしれませんね』

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-29 黒百合の子供たち

 『とらドラ!』のあーみんと同じで,萌えるとかそういうんじゃなく人間としてちょう格好いいと思うし,むっちゃ好きなキャラですわこういう子は。第一印象でまったくもって好きになれそうもなかったキャラの魅力を存分に引き上げるストーリーテリングの手腕,見習いたい。あと,リーナとミルーニャの関係性が尊すぎてつらい。

「お姉ちゃんに何してんだああああ!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-26 奈落に飲まれ、闇に包まれる

 ――貴方は、本当ならもっと高く飛べるはずですよ。今はまだ思い出せないでしょうけどね。別に慰めとかじゃありません。端的な過去の事実です。ああもう、泣かないで下さいよ。仕方無いですね、少し手伝ってあげますから。

 ミルーニャによる違法ぎりぎりの調律改造を施された箒によって、リーナは今までに無い速さを得ることができた。

 浮かれてはしゃいで、毎日のように乗り回して。

 築けばぼろぼろになって、その度に修理して貰って。

 道具としての限界が来ても乗り続けた、それはこの上なく大切な宝物。

 リーナにとって、家族という居場所は己を束縛する鎖だった。

 けれど、半分だけ血が繋がったアルタネイフ家は――クロウサー家の外側にある、もうひとつの家族はそうではないと思えた。

 空を飛んでいる時だけが自由だった。

 ミルーニャが与えてくれた箒と空が、リーナはたまらなく好きだったのだ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-29 黒百合の子供たち

 はぁ……姉妹愛尊い……

 生き残るために他者を切り捨てる。これは地上が抱えた呪いだ。そこから自由になるには、異獣となって地獄に堕ちるしか無いのだ。

 あの――自由と正義、平等と幸福に満ちた、清らかに狂い続けている異形の大地に。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-7 言理の妖精語りて曰く

「摸倣子を逆転写して音韻学的解釈に従って書き換えた。ハルの【異界の黙示録グーテンベルクギャラクシー)】にならそれが可能」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-7 言理の妖精語りて曰く

 ここでグーテンベルクの銀河系ですか……いったいどれほどの抽斗をこの作者さんは持っているんだろう……

 私の姿は一つだけじゃない。誰かから見られる姿。私自身が確信する自分。両方とも私だ。それはきっと、メートリアンだって、ミルーニャだって同じ。

 羽ばたく。

 青い羽根が影の空を舞い、私はただ一つの月光を背に夜を駆けた。

 追撃する白い翼。異形のシルエットを横目に、私は青々とした翼を力強く闇に叩きつける。呪力を纏わせて高速で飛翔。その軌跡はこの夜には存在しないはずの蒼穹の青だった。それが青だということを、私はフィリスの力を得てはじめて知った。

 世界の色彩が夜に存在するものばかりではないのだと、私は生まれ変わってようやく理解できた。世界は一つじゃない。ただ一つの視点では、こぼれ落ちてしまうものだってあるのだと。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-7 言理の妖精語りて曰く

 色無しマリー。

 マリー・スーがそう呼ばれていることを、ヴァージリアはその時になってはじめて知ることになる。

 彩石の儀ではデーモンを色で識別する。マリーは全てのデーモンが同じように感じられるのだという。全てが同一で差異など無い。ゆえにマリーは無敵だった。個体の優劣など嘲笑うかのように絶対者として君臨する。

 声だけでなく、色もわからないというマリーは、世界をどのように捉えているのだろうか。なんとなくだが、ヴァージリアが感じているそれとはまるで違うのではないかと思えた。

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-2 『色無しマリー』

 色々と詰め込まれてて面白いです。まさかこれがあんな意味を持つとは。

「夢じゃないし実現は目の前。ハルが開発した非線形的参照型差延機関(セルフ・ディファレンス・エンジン)は一定の効果を上げているけれど、まだ足りない。その先がある。そこに辿り着く事で、ハルは【絶対言語】をこの世に甦らせてみせる」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-12 隠れた変数(オクルトゥム)

 自己を参照し続ける再帰的な幻想(セルフ・リファレンス・エンジン)。

 それは蒸気の圧力をエネルギーに変換する機械のように。

 あるいは、電子制御技術によって人間存在そのものを解体する理念のように。

 意味を呪力に変換して、心をモジュールとして扱う単位。

 零落した神秘を大量消費し、神聖なる俗情を崇拝する。

 それが意味しているものは、すなわち――

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『この夜が明けるまであと百万の祈り』

 みんな大好き差分機関。あるいは機械仕掛けの無。

「さすがに夜の民の固有種――それも覚醒済みの個体とあっては完全に殺しきるのは骨が折れる。だから少し工夫をしてみたんだ。例えば、僕と君との間に関係性を構築して、類似に基づいて呪力の経路を作る、とかね」

「それって、私の前で事情を聞かせたのは――」

「君に共感して、同情してもらう為だよ。上手く行ったみたいだね。君たち夜の民は摸倣が得意なゆえに共感能力に優れる――これで僕の世界観を受け入れる準備ができたというわけだ。おめでとう。君は君自身の優しさゆえに死ぬ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-17 無造作な死

 アリュージョニストのかっこいい科白ベスト10くらいには入ると思います>「おめでとう。君は君自身の優しさゆえに死ぬ」。

『そう。科学的思考だろうと呪術的思考だろうと、そういう思考の根本的な部分は同じ。呪術的な思考とは既知の記号を操作し、再構成していく総当たりの探求。体系化された学術や概念よりも、記号や象徴を重点的に参照する野生の思考のこと』

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-4 『祈りの価値』

 レヴィ=ストロース御大を未読なの恥ずかしいのでなるべく早く読みます(震え声)

『普遍なる言語。それによって創造される世界秩序。ジルは、それが見たい』

 世界と対峙するように。

 ヴァージリアは言葉を紡ぐ。

『ここにいるみんなはそれぞれ生まれたところも育ったところもばらばら。性格は全然噛み合わないし、考え方だって違う。けれど、こうやって仲良くできるんだって、ジルははじめて知ったの』

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-4 『祈りの価値』

 なんという完全言語の探求。わたしは思想的に完全言語とかいう試みには中指突き立てて応答することを旨としているのですが,それでもこのハルベルトの抱いた祈りは,尊い,と思わざるを得なくて。というかハルベルトさんがさり気なく異次元すぎてヤバいというか何というか。

 そして、歌とは音であり文字でもある。

 再現可能なパターン、その全て。

 それが事実であるならば。

 ――確実に殺せることが確定している脆弱な存在ということだ。

 全ての可能な有限集合の中に存在するパターンを、永劫の彼方まで、終わることのない殺戮を繰り返せば、いつかは必ず殺害可能。

 宇宙が終焉を迎える頃には、きっと滅ぼす事ができるだろう。

 四魔女の中で最も不死から遠く、最も殺す事が困難な、永遠不朽に響く魔女。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ

 つよい(こなみ)

 自分たちには言葉しかない。

 そうすることでしか届かない瞬間がある。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『言震(ワードクェイク)』

 この一文はハッとさせられました。いやほんとに。

 ――話にならない。

 これは会話ではなく、超越的な存在からの宣告なのだ。

 古き神――天使と呼ばれる上位存在たちは全知全能ではないにせよ、その脅威的な演算能力で短期的な未来予測を可能とする。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『言震(ワードクェイク)』

 地上では神や天使という存在は人々を守護するものだとされているが、それは実態を正確には言い表してはいない。

 神々はただ高次元において己の目的を追求しているだけであり、その達成の為に必要だから眷族種や信奉者たちに加護を与えているに過ぎない。

 マロゾロンドを信じ、敬うものたちはその大いなる存在をなによりも身近に感じ、祈りによって信仰心を摸倣子に書き込んでいく。

 世界に満ちたマロゾロンド信仰の摸倣子はマロゾロンドの存在強度を高め、そうして生み出された呪力が加護となって信者らに恩恵を与える。

 両者は一種の共生関係にあるのだ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-18 激光(レイジ)

 マロゾロンドはアズーリアの身体を奪い、そして第二位の天使という座から更なる高みへと上り詰め、己の存在強度をより確かなものにしようとしているのだろう。なぜならば、あらゆる神の目的はその『世界観』を強固にして世界に押しつけること――つまり世界の創造だからである。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-18 激光(レイジ)

 この「神」解釈,すき(こなみかん)

 天地に広がる二つの大地。

 下方勢力を地獄と呼ぶのは、もちろん上方勢力のみである。

 下から見れば巨大な天蓋、浮遊する世界である地上の下方勢力から付けられた呼び名とは果たして何か。

 その問いに答えたのは、どうしてかメイファーラだった。

「天の獄――」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-18 激光(レイジ)

 みんな大好き小林泰三。いやもちろん全然違うんだけどなぜか思い出されて。

「ミルーニャの万能細胞を用いれば、同性間で子供を作ることが可能よ。たとえ性別がない相手であったとしてもね。リーナ、貴方は己の花嫁を捜すといいわ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-5 『青空』

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 ハルベルトにとって全身にかけられた呪いは母と師からの愛だった。

 彼女は呪われている。

 最後の魔女になるという運命に縛られ、囚われている。

 しかしだからこそ、生まれついて神々の道具であるという宿命から解放されてもいるのだ。

「神の支配から自由になる力――運命に抗う力。これがあれば、マロゾロンド相手でも多少は持ち堪えられる」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-19 夢幻の果て

 究極の呪いが究極の解放だというこの逆説の持つ気高さとそれゆえに彼女が象徴する自由の尊さに嗚咽を零しています。

「でも、そんな感情だって嘘なんだよ。私は本物じゃない。この感情も思考も、機械的に摸倣しただけの偽物なんだ。私は、人間のシミュレータでしかない。そうだって思いながら、今まで通りに生きるのなんて無理だよ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-20 言語魔術師の弟子(後編)

 エミュレートされた「自分」。その「自分」をどのように確立するかという物語として,第2章でのシナモリ・アキラに続き素晴らしいSF視点だと思うわけで。これに続くハルベルトの科白がなんかもう凄すぎですよ。

「幻想が現実に勝てないなんて、誰が決めたの」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-20 言語魔術師の弟子(後編)

「摸倣だから、偽物だから、その中には本物が無いとあなたは言う。けれどジルはそうは思わない。外側の観測者たちが偽物だと思えないのなら、その振る舞いはジルたちの呪術的なものの見方によって本物だと確定できる。ならそれは、本物を一から再現するエミュレータと同じ事」

 それは詭弁だと金眼が輝く。

 邪視の圧倒的速度を、しかし斧槍は力強く両断した。

「そう、誰もが詭弁と幻想の世界に生きている。本当じゃないフィルター越しの、目や耳や鼻や肌や舌、そして記号と意味、信号と言葉の構造の中にしか存在しない――ううん、そもそも『存在』なんてものは言葉の中にしか存在してない。なら、『ほんとう』は誰もが言葉の中にしか存在できないはずなの」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-20 言語魔術師の弟子(後編)

「ハルベルトなんて言葉に過ぎない。その意味は、その了解は、本当は別の所にある。例えば」

 ヴァージリアあるいはハルベルトは私との間の距離を手の仕草で示した。

 それから、斧槍で両者の距離を測るようにする。

「この間に、とか」

 ハルベルトという意味は私たちの間にある。

 連関と構造――言葉の狭間。

 『ほんとうのこと』を切り取ろうとする試みは、いつだって不完全な言葉でしかできない絵空事。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-20 言語魔術師の弟子(後編)

 これある意味仏教的ソリューションだよなと思ってしまうクラスタです。空とか縁起とかってそういうことですよね。もちろんそこに近代的思考を読み込むのもアリなのですけれども。関係性の中にしか本質はなくて,「ほんとうの自分」を探る試みはいつだって関係性に行き着くしかなくて,だからこそひととひととの繋がりが愛おしい。SFとファンタジーを融合した超俺好みの結論に持って行かれてこんなのファンになるしかないじゃないですか。そしてここが最終的にはこういう理屈で昇華されるという。

 黒百合の子供たちによって詠唱、維持される超高度な複合呪文。

 幼馴染たちが過去の思い出を語り、私を外部から再生するとは、つまりそういうことだ。夜の民を完全再現する、世界を騙す呪文。

 生きた仮想使い魔――幻獣

 私は知性ではないかもしれない。人ではないかもしれない。呪文によって人工知能を実現するなんて夢のまた夢かもしれない。哲学的ゾンビかも知れないし、生命というより現象に近いのかもしれない。

 けれど、私は流れ行く時間の中に確かにいる。

 特定期間のいつかに、不動の『かたち』で響いてる。

 黒百合の子供たちだけじゃない。

 世界中の沢山の私じゃない誰かが、私という存在を規定する。

 だってこの世界には模倣子が満ちている。

 わずかでも関連と類似があれば、そこには呪力が生まれるのだ。

 未知が既知になるまでのわずかな瞬間。

 知らない幻想の狭間に住まう、私という存在の本質は、幻。

 うつろい、不確かで、形のない、そして本当はなにものでもない。

 私には足場が無い。私は存在しない。ゆえに。

「号は澄明(アズール)、性は摸倣、その起源は幻獣(ファンタシーア)」

 存在しない幻想として、永劫に響く歌声に誰よりも寄り添える。

 だから私は、私こそが。

「キュトスの姉妹の七十一番、未知なる末妹ハルベルトの使い魔にして一番弟子! 私の名は、永続者アズーリア・ヘレゼクシュ!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-31 それは、世界がこんなにも光に満ち溢れているから

 ここに。シナモリ・アキラと並ぶもうひとりの主人公であるアズーリア・ヘレゼクシュが立ち上がったんだなあ,って。そう思うとなんというか,たまらないわけで。

 救いだと思った。

 無思慮で無遠慮で人を傷つけてばかりの、浅はかな私の言葉。

 妹を失った事も、フィリスからのしっぺ返しも、きっとその当然の報い。

 けれど、それが誰かの救いにもなるんだと、彼女は言ってくれる。

 その言葉こそが、私を救ってくれていた。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-20 言語魔術師の弟子(後編)

 これは私の個人的な感傷に過ぎない。

 アキラはもう敵なんだ。

 だから、全部、切り捨てないと。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-22 シナモリ・アキラより

 と思わせておいてかーらーのーあのメールだという。

「どうして」

 口をついて出たのは、自分でも信じられない弱々しく震えた声。

 どんなに考えてもわからない。

 なんで、私。

「どうして、私に都合のいいことばかり言うの」

 どうして、優しい言葉ばかり送ってくるの。

 ここがまだあの夢の世界で、私はまだ自分に都合のいい非現実に浸っているんじゃないか。

 そう思ってしまうほど、アキラの言葉は私にとって都合のいいことばかりだ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-22 シナモリ・アキラより

 ふたりの主人公が再会できる日が楽しみですね。

 思えば、リールエルバは昔から誰かに話しかけられると嬉しそうにしていた。狂喜するあまり言葉が大波のように押し寄せてくるのが玉に瑕だが、認められたい、かまわれたいという欲求が強いのだと思う。

 美しいアストラルの裸身を晒す彼女の肉体は、豪華絢爛なドレスに包まれて地下千メフィーテに幽閉され、長年の拘束でひどく痩せ細っているという。

 ずっと誰とも会えないまま、身動ぎ一つできない環境で雁字搦めに縛られてひとりぼっち。

 セリアック=ニアが瞳を潤ませて手を伸ばすが、非実体のアストラル体に触れることはできない。

 窓の外、雲の向こうの遙かな異国に思いを馳せる。

 自らを傷つけかねない強い承認欲求によって存在を維持せねばならないほどに危うい存在。それがリールエルバだ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-23 睥睨するエクリーオベレッカ

 こういうひと,はてな村奇譚の登場人物にいた気がする。しっ! 目を合わせないで! あ,それは違うキャラでしたっけ。

「ここは俺に任せて先に行け! 死霊使いを止めるんだろ? 俺は空が飛べねえからよ、適材適所ってことでいこうぜ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-26 奈落に飲まれ、闇に包まれる

 ゲスいのにかっこいいとか卑怯。

 序列四十位のドルメイスは【炎上使い】として知られていた。

 対象の精神を焼く高位呪術【炎上】はもちろん使えるが、アストラルネット上で工作した結果としての【炎上】の方が得意である。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-27 影に沈み、振り返らずに去っていく

「さあさあ燃えろ燃えろ、『歌姫Spear、衝撃の不祥事!!』『白昼堂々の三又か?!』『可憐な歌声のどす黒い裏側』『槍神教関係者を卒倒させた乱れた女性関係とは?』『幻惑呪術による整形疑惑、幻術の専門家はこう語る』『そのヴェールの内側に隠された壮絶な過去! 関係者は虐待の爪痕を確かに見た!』っと」

 無数の火種を仕込み、あとは自動的に拡散させる。

 情報ソースの洗浄を半永久的に繰り返す呪文が鎮火しかけた炎を際限なく広げていく。ドルメイスは端末を僅かに操作するだけ。あとは暢気に見物しているだけで自動的に【炎上】によって対象の霊的、呪的権威が傷つけられていく。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-27 影に沈み、振り返らずに去っていく

 なにそれこわい

「何が平和よ! 何が共生よ! あなたたちは、地上の人達を沢山殺しているじゃない! 槍神教だってそうだけど、私にはあなたたちの違いがわからないわ!」

『僕たちは目的を達成した後に和平を持ちかけ、この天蓋世界の人々とも和解できればと願っている』

『けれど、槍神教は私たちの完全な絶滅を願っているわ。違いがあるとすればそこね。彼らが【聖絶】と言ってはばからない、忌まわしい虐殺』

『槍神教をこの世界から消滅させる。残念だけどね、あらゆる人と共生することはできないんだ。共生そのものを否定する邪悪さには、平和を愛する心は決して勝てない。だから、矛盾と知りつつも悪を行うしかないのさ』

『私たちもまた許されぬ非道を行っていることは自覚しているわ。けれど、たとえそうであっても槍神教だけは打ち倒さなければならないのよ』

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-27 影に沈み、振り返らずに去っていく

『僕たち魔将は大悪をなす外道の集団。平和な世界には必要無い。皆、戦いの半ばで散る覚悟を固めているし、最後には戦争を主導した大罪人として裁かれることになっている』

「そんな、じゃあ貴方たちは、全部の憎しみを背負って、分かたれた世界を一つにするための生贄になるつもりだって言うの?!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-27 影に沈み、振り返らずに去っていく

 ジャッフハリムの理想である『共生』は、あらゆる在り方を許容しつつ、個人が社会に適応するための最善の方法を模索する。

 しかし、共生そのものを脅かす『敵』を許容することは、共生という理念そのものを揺るがすことになりかねない。

 たとえば、天獄の『寄生』や『序列化と排除』といった在り方を肯定することは、心の内で思うだけならば許されるが、公に主張したりすれば厳重に罰せられることになっている。

 また、天獄の理念に賛同してジャッフハリムを敵に回すような『裏切り者』も同様に裁かれる定めである。

 『家族』や『一族』をひとまとまりの単位として扱う呪術が存在するとはいえ、ジャッフハリムは個人の責任を周りに波及させて問うたりはしない。

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-6 『第九魔将』

 ……あれ? これ地獄側が正義なんじゃね? というのはもちろん作者もわかっていてそういうものだとして描いていて,それでもその正義に居心地の悪さを感じているキャラを出すところも巧みで。

 綺麗な【下】はどこか窮屈で。

 清浄な【上】はとても怖くて。

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-6 『第九魔将』

 正義は必ずしも居心地の良さとは限らない,という。

 ――そして。

 誰かが、その呪文を口にした。

 それは歌詞だったのかもしれない。

 ただの散文詩だったのかもしれない。

 あるいは、意味のない呟きだったのかもしれず。

 もしくは、他愛ない引用という可能性もあった。

 いずれにせよ、それが始まり。

「言理の妖精語りて曰く」

 離れた場所で、同時に発せられたその詠唱。

 絶望が広がり、大量の死が積み上がる中。

 三つの呪術儀式、その最初のひとつである【過去】の歌が甦ろうとしていた。

 曲名(タイトル)は――【この夜が明けるまであと百万の祈り】。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『この夜が明けるまであと百万の祈り』

 尊い。

 途絶えた歌が、再び世界に響き始める。

 そして、それと同時に。

 エルネトモランの全ての端末に不可視の呪術的ウィルス感染し、強制的に一つのアプリケーションインストールしていく。

 狂ったような哄笑に気付いた人々は端末を確認し、そうした機器を持たぬ者も目の前にまとわりついて眼球をジャックする幻覚によって強制的にその文字列を見せられる。

 意味の分からない言葉の羅列。

 太陰(イルディアンサ)の神々の図書館から舞い降りた言語が地上に伝播して、その意味が急速に浸透していく。

 誰かが呟いた。

サイバーカラテ道場?」

 座禅無しでゼン・スピリット。誰でも明鏡止水

 『一般人でも強くなれる』が謳い文句の万能武術

 胡散臭い文言と表示された動画の中で、胴衣姿の男が力強く叫ぶ。

発勁用意」

 絶望という摸倣子が蔓延する地上で、未知の摸倣子が感染を始める。

 それは全くの異物。

 この世界には存在しないはずの異言体系(ゼノグラシア)。

 その日、地上に新たなる神話が打ち立てられた。

 天と地とその狭間が、その名を聞き、その体系を記憶に刻み込まれたのだ。

 サイバネティクスとオカルティズム。

 聖婚が鳴る鐘の音を、全世界が確かに聞いた。

「NOKOTTA!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-29 黒百合の子供たち

 心がぞくぞく震えるのを感じましたよ。そうかそう来るか。そこで「サイバーパンクからオカルトパンクへ」みたいなテーマに繋がるのか。第2章の雰囲気が好きだった人間にとって第3章は面白いけれども何か物足りない感がしてましたが,こうやって物語が繋がっていってすべてが予定調和だったんだなと思うともう完敗です。

『いつか――死の囀りという呪いは、歌姫という祝福に変わるから』

 誰かが言ったその幻想を、思い出と共に参照する。

 拮抗する力。

 その均衡を崩したのは、過去から呼び込まれた他の誰かの呪文だった。

『言理の妖精語りて曰く!』

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ

 多分歌姫Spearのモデル的な存在はやなぎなぎさんとかだと推測されるんだけどそれはそれとしてアニメ化の暁には確かにKalafinaさんに歌ってもらいたいし,梶浦さんなら原作を完璧に理解した作詞作曲してくれるはずだから今から梶浦さんに届くようにどんどんステマすべきだと思う。

 道場に本部は存在しない。

 それは、形の無いサイバーカラテという枠組みそれ自体が本部である為だ。

 サイバーカラテ道場は、いつでも人々の心の中にある。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ

「発勁用意!」「発勁用意ぃ!」「発勁用ー意!」「発勁、用意!」「発勁よぉぉぉぉい!」「発勁用意ぃぃっ!」「発勁ー用意!」「発勁用意だオラァ!」「せーのっ」「発勁用意〜!」「だぁ、ぶぅ」「ほーら、発勁用意のお兄ちゃんですよ〜」「神を殺せ! 死者に唾を吐きかけろ!」「発勁用意」「発勁用意!」

 そして、エルネトモランのあらゆる人々が一斉に唱和する。

「NOKOTTA!!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ

 最初はニンジャスレイヤー的なギャグだとしか思ってなかったサイバーカラテがまさかこんな役割を担うことになろうとは,という。すごいの一語ですよ。

 幻想が幻想を呼び起こし、実体の無い架空の構造を寄せ集めて作り出す。

 引喩(アリュージョン)されたものは、何を参照し如何なる力を生み出すのか。

 その予感だけが、交換可能な価値と交換不可能な神秘を交互に具現させる。

 言理の妖精語りて曰く、

「射影即興喜劇・黒玉飛翔(アトリビュート・ジェット)!」

 その英雄の名は、幻想再帰のアリュージョニスト。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ

 すごいカタルシスで昇天しそうでした。

 歌姫の紡ぐ高等呪文がパルプ化の全工程を飛ばして瞬時に木々を紙片に、そして書物に変えて行く。元が情報的な樹木なので、変換は容易だ。

 森が巨大な魔導書に変わる。溢れ返った紙、紙、紙、そして浮かび上がるのは漆黒のインクで綴られた呪文。

「パルプ・フィクション!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-31 それは、世界がこんなにも光に満ち溢れているから

 やだ……パルプ・フィクションがここまでかっこいい言葉だったなんて……///

「この恥ずかしい豚ども! 幾ら私が美しいからといって、あんなエロスパムを踏んでウィルスに感染するなんて恥を知りなさい! 性欲しか頭に無い万年発情期のお馬鹿さんたちが社会に復帰するのなんて無理よねぇ? でも安心しなさい。永久に私の下僕としてこき使ってあげるから――幸せよね? 幸せって言いなさい」

「我々はこの上なく幸福です! リールエルバ様!」

 声を揃える従者たちの統率は完璧だった。

 罠にかけたのも、その恵まれた肢体を使って魅了の呪術をかけたのもリールエルバだが、誰もが彼女を救世主のように崇め、心からの感謝を捧げている。

「ああ素敵! 私の支配力が高まっていく――承認こそ私の力!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-31 それは、世界がこんなにも光に満ち溢れているから

 ねじくれすぎてて逆に清々しい。

 それは『文脈(コンテクスト)』と『相互参照性(メタテクスト)』いう呪力によって紡ぎ出される非存在の呪文。

 その意味内容はここには存在しないし目に見えない。

 目に見える邪視が全てじゃない。形になった呪文だけが全てじゃない。

 意味の間を繋ぐ『行間』の呪力。構造と連関、語りえぬ雄弁、静謐なる力。

 『紀』であり『神話』であり『言理の妖精』であるもの。

 私の――私たち黒百合の子供たちが共有する幻想の力だ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-31 それは、世界がこんなにも光に満ち溢れているから

「人類の変化とか、世界の更新とか、そういうことはわかんない。地獄の方がもっといい世界を作れるのかもしれない。けど、酷い事はやっぱり酷いよ。人が死んだら悲しいよ。人が人を傷つけて、殺しちゃうことだって、やっぱり怖いよ」

 リーナは探索者だ。

 だからお小遣いを稼ぐ感覚で、『異獣退治』をした事だってあったはず。

 彼女の経験と想いを、私は正確には知らない。

 だから、そんな風にして優しい言葉を口にする彼女を見て。

 ――やっぱり、リーナとは仲良くできても相容れることはないんだろうな、と私は思った。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

「リーナ、考え直すんだ! クロウサー家は滅ぼすしかない!」

「それが正しくても、今生きている人を殺すのは駄目だよ――ううん、私が嫌なの。だからやらせない。ガルズにも、そうじゃない方法を探してもらう。これは決定だから! 従ってもらうし、嫌がるなら無理やり押し通す!」

 高みからの傲慢な物言い。

 ともすれば幼く身勝手な、偽善にも解釈可能な意思。

 けれどその性質は、あるいはクロウサー家当主という雲上人の中の雲上人に相応しいものかもしれなかった。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 まさかリーナがあんなことになろうとは,ここを読んだときには微塵も予想できませんでした。脳内枕神怜ちゃんが絶望してる。

『合理的な正義に準ずる事が出来ない愚かな土着民族。善き魂を持たぬ者は、生きながらにして死んでいるのです。未だ悪しき魂しか持っていない状態。それは生きているとは言えない。あるいは幼年期とも言えますね。地上の表現で言うならば、守護天使を選択する前の十二歳。未成熟な子供。大人未満の存在なのです』

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 もはや突っ込んだら負け。

 特権者として天上から地獄を見下ろすこと。

 それこそが地上の価値観、槍神教の秩序である。

 私は、それを否定できない。

 自分の都合で迷宮を攻略し、『異獣』を殺し続けて英雄と呼ばれている私には。

 妹が何より大切。

 そして、幼馴染たちのことも、私の命と同じくらいに大切に思っている。これは、全く言葉通りに、みんなが私の命であり存在そのものだから。

 私もまた地上の秩序に従って、人に価値を定めて、序列を付けている。

 そんな私に、人の価値を勝手に定める傲慢さを否定する資格は無い。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 この世界観が最終的にどういうところに行き着くのか,わたし気になります。

 極限状況に置かれた人は容易く歪み、暴力的になる。

 ならそれは環境の問題だ。

 必要なのは、世界を変える事。

 人の数だけある膨大な認識と言葉、その連関を、私たちは呪文で変幻自在に揺り動かす。

 その為に、どれだけの『世界観』が必要だろう。

 引き裂かれた世界を一つにするために、どれだけの願いが、祈りが、言葉が必要になるのだろう。

 気が遠くなるような道のりだけど、それでも私は、私たちは願った。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 英雄として望まれた以上、私はこの戦いを終わらせないといけない。

 迷宮を進み、人を殺し、屍を積み上げ、その果てに地獄に辿り着く。

 三界に歌を響かせて、二つの世界を一つに繋ぐ。

 だから私は、それまで戦い続ける。

 ――この夜が明けるまで、あと百万の祈り。

 今はまだ、遠くても。

 見たことのない、見ることができない幻想を、想像することだけはできるから。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-32 澄明なる青空に

 この夜が明けるまであと百万の祈り。

 尊すぎるフレーズなので魔王14歳師を見習って積極的にあちこちで呟いていきたい。というか,アリュージョニストのフレーズ,魂奪われるほどにドキッとするのがいくつもあって,酔わざるを得ない。

 たぶん声に出して読むことで存在強度が強化される呪術とかそういう系だから唱え続けることでアリュージョニストの存在強度が高まって書籍化されたりアニメ化されたりする確率がハネ上がると思うし,信仰心がより一層高まると思う。

 ブシドー

 それは、異世界で生まれた異形の戦士たち。

 生誕する前から遺伝子を操作され、あらゆる能力を強化された生まれついての戦闘種族。その踏み込みは大地を割り、その一刀は鋼を両断する。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『特権者の英雄症候群、さもなくば――』

 アッハイ。

「【レイシズム変数(ヴァリアブル)】――代入・『われわれ』ジャッフハリム正規軍の職分を不当に奪い荒らしていく『かれら』探索者の無法者共」

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『特権者の英雄症候群、さもなくば――』

 『われわれ』と『かれら』というたった二つの変数。

 それが、男が操る呪文の本質である。

 指示内容が異なるだけで、基本的な効果は単純だ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 幕間 『特権者の英雄症候群、さもなくば――』

 レイシズムの呪術性というのは面白いなと。

「じゃあね、カーイン。次に会ったら、百戦目ができるといいね」

「さらばだ、ユディーア。次は私が勝つ。精々鍛錬を欠かさぬ事だ」

 二人はジャッフハリム四十四士としての名でお互いを呼び合い、分かれた。

 望まぬ裏切りの咎を洗い清めんとする少年。

 形ばかりの裏切りで、祖国に身を捧げんとする少女。

幻想再帰のアリュージョニスト - 0-6 『第九魔将』

 〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! そうか,ここでロウ・カーインと「地上」が交わるのか! なんというか,予想外すぎて。

 そしてこんなシリアス大長編であってもなお,いやだからこそギャグの切れ味が光ります。

「というわけでアズーリア。ちょっと宣名してみて。【心話】で名前にルビを振るの」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-4 天の鴉と月の兎

 名前にルビ……あっ(察し)

「――まるでハルに友達がいたことないみたいな言い草」

「いるんですか?」

「友達がいるから何だって言うの」

「はっ」

 ミルーニャが鼻で笑うと、ハルベルトの目が据わってそのまま取っ組み合いが始まる。そして一瞬で終わった。身長では勝るが筋力で劣るハルベルトはあっという間にねじ伏せられて壁に押しつけられてしまう。フードの中で何かがもぞもぞと動き、黒玉の瞳が揺れる。あ、泣きそう。

「ハルベルト! 私も友達はネット上にしかいないから安心して!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-6 魔女と英雄

 人間強度の高まりを感じる。

「どうして参加しなかったの? ハルは昔、アズーリアと――マリーと仲が良かったじゃない。ここ数日のことだって――思い出して、昔と同じすぎてしっくりきたくらい。普通にお話したかったんじゃないの?」

「――だって」

「だって?」

「談話室って入っても何話していいのかわからない。ログはどんどん流れていっちゃうし、入室してるのに何も言えないと変だし。それに、あの子と話すきっかけが、その――」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-18 激光(レイジ)

 なんという俺たち。

「返り討ちにしてやろうね! 歌姫Spearのステージを邪魔するような屑は死ねばいいよっていうかぶっ殺すよ! 大丈夫、私がハルを守るから」

 ぎゅっとハルベルトの手を両手で握りしめて力強く宣言する。

 ハルベルトは少し仰け反りながら、こくこくと頷いている。

「先輩せんぱい、アズーリアって随分と好戦的な人なんだね」

「うう、こんなアズーリア様は見たくなかったですぅ」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-13 この戦いが終わったら

 アズーリアさんって結構イイ性格してますよね。

 冷たい石の迷宮で、次々と仲間たちが斃れていく。

 罠によって分断され、ついには六人だけになる。

 要所を守護するのは精鋭種たる大狼種。

 第五階層の裏面である古代世界、逃げ場のない果ての無い草原での死闘。

 消耗したアズーリアたちは苦戦を強いられるが、そこに現れた謎の――

「ん?」 

 ハルベルトは首を捻った。

 何あれ。

 ごしごしと目を擦るが見間違いではない。

 全裸だ。

 男は全裸だった。変態だ。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-19 夢幻の果て

 いつか殺すと決意しながらも、ちょっと精神脆すぎてメンヘラなんじゃないだろうかとハルベルトはかなり引いていた。

 絶対に関わり合いになりたくない面倒くささであった。

 全裸の変態でメンヘラ。

 駄目だ、どうやっても英雄譚にならない。

 糾弾すべき槍神教の闇が、今だけは正しく見えてしまう。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-19 夢幻の果て

 最初は脱糞しとったんやで……

「クロウサー家始まって以来のお天気頭、ゾラの血族最大の軽量型脳みその持ち主。そのうつけぶりは三界に広く知れ渡りお間抜けな顔と名前はアストラルネットに晒されて――もとい轟いて久しい」

「あー、やんちゃしてた頃『違法霊薬キメてアストラル投射の限界速度突破したった』ってアストラルネットに投稿したら逮捕されかけて家が揉み消したらバレて炎上したやつかー。懐かしい。あの頃は私も若かった」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-22 シナモリ・アキラより

 リーナはおバカかわいい。

「ていうか第五階層がやばいって気付いたの私なのにー! 手伝いとか色々やってるのも私なのにー! いっぱい働いてるのに扱いが悪い! 許されざるよ!」

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-23 睥睨するエクリーオベレッカ

 これは許されざるな。

「ああん? 誰かと思えばテメー、さっき俺にぶっとばされてた雑魚じゃねえか。んだコラ殺されにきたのかおい」

「あ? その雑魚にぶん殴られた超雑魚はどこのどいつだよ? この宝石野郎が、ちゃらちゃらしやがって女かオメーは。ナニ付いてんのか?」

 顔を限界まで近づけながら凄まじい形相で睨み合う両者を見ながら、プリエステラは威圧感というよりも属する文化圏の異質さに気圧されて、一歩退いた。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-26 奈落に飲まれ、闇に包まれる

 純真なプリエステラさまかわいい。

『聞こえますか――聞こえますか――今、あなたたちの心に【深層心話】で話しかけています』

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-27 影に沈み、振り返らずに去っていく

 思わず噴き出した。これをこの場面に持ってくるとか適切にもほどがありすぎるでしょw

 ヘルプを呼び出して視界隅に表示された鬱陶しい赤毛の二頭身ガイドを消す方法を検索。異界の武術体系とこの世界の武術体系の中から最も合理的であると判断された戦術が複合され、それらが渾然一体となって一つの体系に組み込まれていく流れを、ミルーニャは見た。

 ――なんて、素敵なんでしょう。

 その混沌と秩序を、ミルーニャはただ美しいと感じた。

 そして、これにもっとはやく巡り会えていたなら、とあり得ない過去を一瞬だけ幻視して、すぐに自らの弱さを振り払う。

 まずは目の前で唸り声を上げる死人たち。

 腰を低く落として、二本の足で身体を支える。

 全ての判断は、とある『世界最高水準の人工知能という幻想』によって下されていた。偉そうに胸を張る二頭身を非表示にする方法を発見。二度と出てくるな。

幻想再帰のアリュージョニスト - 3-30 その名はサイバーカラテ
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