確かに破格の条件だった。3年総額12億円――ホークスが松坂大輔を獲得するために提示したとされる条件は、他球団を圧倒していた。だから、相場を壊したホークスに他球団からブーイングが飛んでいるという話も耳にした。
冗談ではない。
誠意にカネが含まれないわけではないが、ホークスほどのカネを出せない球団は、どこまで松坂に誠意を示すことができたのだろう。たとえばベイスターズの球団トップが「やれることはやった、あとは選ぶ本人の問題」とコメントしたことが報じられていたが、とてもそうは思えなかった。その昔、横浜高校のエースとして甲子園で春夏連覇を達成、横浜に戻る“大義”に傾く松坂に対し、ベイスターズは彼の心に火をつける言葉を発することができなかったのではないか。古巣のライオンズに至っては、正式なオファーさえも出さない。
損を覚悟でやせ我慢する日本の美徳が通じないアメリカで、松坂が何より欲していたのは、心のやり取りだった。にもかかわらず元メジャーリーガーが求めるものはカネだという先入観を捨て切れず、心に訴え掛ける交渉ができなかったからこそ、松坂を欲していた他球団はホークスの独走を許してしまったのである。
「若い選手のカベになってほしい」という言葉の重み。
松坂がチームを選ぶ際、もっとも大事にしたキーワードは“信頼”だった。彼が大丈夫だと言えば、その言葉を信じて先発のマウンドへ送り出す――今も昔も、それが松坂という男から力を引き出す最善の戦術なのだ。松坂は12月5日、ホークスの入団会見で、こう言った。
「いろんな選択肢がありましたけど、(ホークスは)最初から僕に対して、『獲得したい』という信念にまったくブレがなかった。『お手本になってほしいというのではなく、若い選手のカベになってほしい、そうでなければこのチームに未来はない』と言われました。そこに僕はすごく責任を感じましたし、だからこそ若い選手に乗り越えなければいけないカベなんだと思ってもらえるように、自分はやらなきゃいけないと思いました」
この夏、メジャーリーガーを相手に「今のボールなら打たれない」と自信満々に話していた松坂。アメリカで折れかかった心に火をつけてくれたホークスで、平成の怪物は今、蘇ろうとしている。
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