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【原発事故の賠償】「期限付き」は許せない(12月29日)

 経済産業省資源エネルギー庁と東京電力は、福島第一原発事故に伴う営業損害賠償について、原発事故から5年となる平成28年2月で終了する素案を示した。
 原発事故から3年10カ月近く過ぎたが、県民12万人以上が県内外で避難生活を送り、人が住めない避難区域がある。人と土地を失い風評の嵐が収まらない中、頑張る産業関係者にとって、あと1年2カ月での営業損害賠償打ち切りは最悪の施策だ。本県の産業全体の存亡に関わる。国は廃炉までを視野に長期間、賠償を続ける責務がある。
 賠償の対象は農林水産業者を除く個人事業主や中小企業となっている。避難区域内の事業者に対しては、来年3月以降の逸失利益1年分を賠償するとした。避難区域外は、事業者の減収分と原発事故に相当の因果関係が認められた場合、賠償金が支払われる。
 避難区域内の事業者は、避難により営業が困難になったり、避難先で営業を再開しても収入が減ったりした分が賠償の対象となる。避難区域外では、観光客の減少に伴う減収など風評による損害が主な賠償対象となっている。
 説明会に出席した轡田倉治県商工会連合会長は「賠償をあと1年余りで打ち切るとは、到底納得できる内容ではなく怒りを覚えた」と話した。怒るのは当然だ。
 説明会に出席した森本英雄同庁原子力損害対応総合調整官は「素案は決定ではなく来年2月以降、どんな賠償があるのかを説明した。頂いた意見をくみ上げていきたい」と述べた。
 多くの県民が、原発事故が収束し廃炉となるまでの無期限の賠償存続を望んでいるはずだ。県民が一丸となり、強く要求しなくてはならない。国は、他の賠償でも打ち切りや縮小の方針を打ち出している。賠償金は国が肩代わりするが最終的に東電が支払う。打ち切りや縮小に、東電はもちろん東電に融資する金融機関、財務省の意向が働いているのではと勘繰りたくなる。
 原発事故発生当時の経産省事務次官、資源エネルギー庁長官はじめ、事故に対する重大な責任があるはずの複数の高級官僚は東電の大株主である金融機関や原発関連企業などに天下っている。このような関係を許す永田町や霞が関の人々に、国策を決める資格はあるのかと問いたい。
 「福島の復興なくして日本の再生なし」とする安倍晋三首相は賠償の無期限延長を指示すべきだ。この問題にどう対応するか、先の選挙で選ばれた本県の衆院議員の動きにも注目する。(小池 公祐)

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