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【私説・論説室から】

「独裁者」を笑う自由

 北朝鮮の金正恩体制を風刺したソニー米子会社のコメディー映画「ザ・インタビュー」は、チャプリンの「独裁者」に及ばない−。米紙にこんな作品評が載っていた。ヒトラーを笑いのめしたその「独裁者」にはちょっとした思い出がある。

 二十五年前、革命に揺れていた雪のブカレスト。四半世紀にわたって独裁体制を敷いたチャウシェスク大統領夫妻が処刑されたのはクリスマスの夜だった。その数日後、なお銃声響く街中の取材を終え、場末の安ホテルの一室で白黒テレビを付けて驚いた。「独裁者」が放映されているではないか。

 それも、ナチスをもじった仮想国「トメニア」の独裁者に扮(ふん)したチャプリンが「独裁者は自分だけ自由を享受する。隷従を強いられる人民よ、民主主義の下、団結を!」と演説するラストシーンだ。国策情報を垂れ流していたテレビ局を解放した民主勢力が国民に送った自由回復のメッセージだった。

 旧東欧共産圏の中でもチャウシェスク政権は治安部隊による統制が苛烈を極め「体制は盤石」と見られていた。実際にはルーマニア西部のティミショアラで反体制の動きが表面化してから十日ほどで軍部の離反もあり、あっけなく崩壊した。

 ルーマニアの体制崩壊を見て核開発に生き残りをかけた北朝鮮。一般市民が「独裁者」を笑える日は来るだろうか。 (安藤徹)

 

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