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朝日新聞よ、そろそろ目を覚まして世界と日本の現実見よう

産経新聞 12月29日(月)9時33分配信

 平成26年も余すところ僅かだ。政界のこの1年を振り返ると、消費税率8%実施、集団的自衛権の限定行使容認、衆院選での与党大勝利…といろいろと大きな動きがあった。一方、メディアをめぐる最大の出来事はというと、何と言っても朝日新聞が東電福島第1原発の吉田昌郎所長(当時)の聴取記録「吉田調書」報道と、積年の慰安婦報道の一部を取り消し、謝罪したことだろう。

 特に慰安婦問題をめぐっては、戦後ずっと左派・リベラル系言論の支柱だった朝日新聞の主張の根幹、そのあり方に、疑義が突きつけられたのだ。しかも朝日自身が設けた第三者委員会によってである。

 第三者委の提言は次のように強調している。

 「たとえ、当初の企画の趣旨に反する事実(任意に慰安婦となった者もいたことや、数が変動したこと)があったとしても、その事実の存在を無視してはならず、(中略)事実を軽視することのないよう努める必要がある」

 「自己の先入観や思い込みをなるべくただすと共に、一方的な事実の見方をしないよう努める必要がある」

 第三者委がこんな基本的な指摘をせざるを得なかったのは、朝日新聞の報道にそれだけ事実軽視や思い込み、一方的な見方が多かったということだろう。

 これは、とりもなおさず左派・リベラル系言論の実態を象徴してもいる。戦後の「進歩主義」の特徴はイデオロギー過剰で、歴史も憲法も安全保障問題もあるがままに現実を直視しようとしない姿勢にある。

 第三者委の提言を読み、改めて児童文学「ビルマの竪琴(たてごと)」の作者として知られるドイツ文学者、竹山道雄氏の60年近く前の昭和30年の評論「昭和の精神史」を思い出した。この中で竹山氏はこう戒めている。

 「歴史を解釈するときに、まずある大前提となる原理をたてて、そこから下へ下へと具体的現象の説明に及ぶ行き方は、あやまりである。(中略)『上からの演(えん)繹(えき)』は、かならずまちがった結論へと導く。事実につきあたるとそれを歪(ゆが)めてしまう。事実をこの図式に合致したものとして理解すべく、都合のいいもののみをとりあげて都合の悪いものは棄(す)てる」

 「『上からの演繹』がいかに現実とくいちがい、しかもなお自分の現実理解の方式をたて通そうとして、ついにはグロテスクな幻影のごときものを固執するようになるか−」

 朝日新聞は慰安婦問題を報じる際、社内にまず「旧日本軍は悪」「慰安婦はかわいそうな被害者」という大前提・原理があって、その枠内から一歩も出られなくなったのではないか。

 だから、朝鮮半島で女性をトラックに詰め込んで強制連行したとの「職業的詐話師」(現代史家の秦郁彦氏)、吉田清治氏の証言を何度も記事にしてきたのだろう。吉田氏の話は「荒唐無稽で直ちに真実と思える内容でもなかった」(第三者委の中込秀樹委員長)にもかかわらずだ。

 朝日新聞は吉田証言関連の記事を計18本取り消したが、これだけ繰り返し取材しておいて「おかしい」と気付かなかったという点が、朝日の「角度」(第三者委の岡本行夫委員)の根深さを示している。

 一方の吉田調書報道も同じ構図のはずだ。あらかじめ社内に「東電と原発は悪」「極限事故には作業員は対応できない」という「空気」の共有があったのだろう。だからこそ、ごく少数の記者しか吉田調書を実際に読んでいないにもかかわらず、社説や1面コラムで堂々と東電や政府を批判し続けられたのだ。

 朝日新聞の姿勢とは対極にある竹山氏は、歴史への向き合い方に関してこうも述べている。

 「歴史を解明するためには、先取された立場にしたがって予定の体制を組み立ててゆくのではなく、まず一々の具体的な事実をとりあげてそれの様相を吟味するのでなくてはなるまい」

 「固定した公理によって現象が規定されるのではなく、現象によって公理の当否が検証されなくてはなるまい」

 ちなみに、竹山氏は朝日新聞によって「危険な思想家」だとのレッテルを貼られ、43年に米原子力空母の佐世保寄港に賛意を示した際にはバッシングを受けたこともある。だが、朝日と竹山氏のどちらが日本にとり危険だったろうか。

 「今回の検証記事は、誤報の際に必要な謙虚さが感じられず、むしろ頭が高く上から見下ろすような印象を受けるものであった」

 第三者委の報告書は、朝日新聞が8月5、6日付朝刊紙面に掲載した特集「慰安婦問題を考える」についてこう総括している。

 朝日新聞は長年、自分たちは無謬(むびゅう)の存在であり、常に正しいかのように傍若無人に振る舞ってきたが、その「裸の王様」ぶりが第三者に厳しく指摘されたわけである。そろそろ目を覚まして、世界と日本の現実をきちんと見てほしい。(阿比留瑠比)

最終更新:12月29日(月)9時33分

産経新聞

 

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