どこか憎めない存在の蛭子さん

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 浮き沈みが激しいテレビ界で30年以上も生き延びている漫画家・蛭子能収(67)は、ある意味“謎の存在”だ。時折、とっぴな言動で視聴者を笑わせてくれるが、決してテレビタレントとして特別な才能があるようには思えない。なぜこんなにも、人から必要とされるのだろうか。何度目かのブレークを迎えている今、あらためて分析してみた。

 蛭子さんが最近テレビによく出ているのは、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」(テレビ東京系)のヒットと無関係ではない。

 2007年から年3回のペースで放送されている同番組は現在第18弾まで続いており、たびたび視聴率が13%を超える“お化け番組”だ。目的地にたどり着けなかったり、蛭子さんが駄々っ子になったりとハプニング満載の珍道中がとにかく見る者を飽きさせない。

 蛭子さんとともに旅をするリーダー役の太川陽介(55)も先月、「ルイルイ仕切り術〜人生も会社も路線バスの旅も成功に導く40のツボ」(小学館)という初の著書を出すくらいにノリノリだ。

 とはいえ、小太りで見た目もみすぼらしい冴えないオヤジが、生き馬の目を抜くテレビ界で生き延びているのはなぜなのか、一体どんなスペシャルな能力を持っているのだろうか?

「蛭子さんって猫背だし、要するに『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくるねずみ男なんですよ」と笑いながら解説してくれたのは、「芸能人に学ぶビジネス力」(マイナビ新書)などの著書を持つ作家の山田隆道氏。

 言われてみれば、ルックスもねずみ男に似ているような気もするが、どんな意味?

「ねずみ男って欲にくらんで鬼太郎の敵方につくことがありますよね。人間の心には善と悪が混在していて、誰しも人をねたんだりうそをついたりすることがあると思うんです。目の前に財布が落ちていて、1万円くらいならパクってしまおうかと思うくせに、1億円が落ちていたら盗むのが怖くなって警察に届けてしまう。蛭子さんも巨悪を成し遂げるほどの器ではなく、しょせん、“小悪党”だから視聴者の共感を得られるんです」

 山田氏は放送作家時代、蛭子さんと一緒に仕事をする機会があり、番組収録中にこんな事件が起こったという。

「もう10年以上前の話ですが、深夜番組の中でギャンブル系のゲームをしたんです。勝った人には本当に賞金10万円が贈られるとわかったら、蛭子さんは番組を盛り上げることも忘れてゲームに集中し、揚げ句の果てにイカサマ未遂が参加者にバレてしまいました。で、『何やってんですか!』ってみんなに突っ込まれたとき何て言ったと思います?『へへへっ』て笑ってごまかしたんですよ(笑い)」

「いい年した大人が何やってんだか」と思わずにはいられない。しかし、同時にどこか憎めない存在であるのは、蛭子さんが笑顔を絶やさないことが大きい。

「笑顔の力はすごいですよね。あと、『お前ってバカ(=関西ではアホ)だなぁ』って言葉には愛情がありますが、『バカのくせに…』というのは完全にけなし言葉。その違いはどこからくるかと言うと、当人がカッコつけているかいないかという部分なんです。蛭子さんはよく自然体と評されますが、より厳密に言うと、カッコつけようとしていないことが視聴者にきちんと伝わっているということだと思います」

 確かに、蛭子さんはテレビ番組でもみじんもカッコつけていない。「路線バス乗り継ぎの旅」では、弱音を吐くのは当たり前。太川にバスルートを探させている間にたぬき寝入りしたり、ボロボロの靴で参加したうえに太川に接着剤を使って靴底を修理してもらったりと、とにかく自然体で、それが視聴者にとって最大の魅力になっているのだ。

「考えてみれば、『こち亀』の両さんも、ドラえもんの道具を勝手に持ち出すときののび太もねずみ男と同じような小悪党です。日本人がこうしたキャラクターを愛してきたのは、決して大きな悪事に手を染めるのではなく、ちょっと欲に目がくらんだときに悪いことをしてしまう人間としての弱さなのではないでしょうか?」