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<イスラム国>東京在住の日仏夫妻、渡航か

毎日新聞 12月29日(月)7時31分配信

 東京都内に住んでいた、いずれも20代の日本人女性とフランス人男性のイスラム教徒の夫妻が11月、トルコに出国後、連絡が取れなくなっていることが政府関係者への取材で分かった。夫妻はトルコの隣国シリアに広がるイスラム過激派組織「イスラム国」の支配地域に向かう意向を示していたとされ、日仏両政府関係者が説得したが「戦闘目的ではない」として渡航を止められなかった。イスラム国では日本人や欧米人はスパイと誤解され、拘束される危険性があり、公安当局はこうした形での出国が相次ぐことを懸念している。【岸達也】

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 ◇政府関係者の説得聞かず

 政府関係者や知人の話によると、夫妻はイスラム教徒で、都内のモスクを頻繁に訪れていた。夫はアルジェリア系フランス人で、外資系金融機関に勤務していたが最近退職。夫妻が都内に借りていたマンションも出国前に解約されたという。

 公安当局は今秋、夫妻が「イスラム国に加わりたい」と周囲に漏らしているとの情報を入手。夫が自身のフェイスブックでシリア関連の情報などを集めていたため、日本政府の関係者らが数回事情を聴いた。夫妻は「シリア内戦で多数の難民や遺児が出ており、人助けがしたい」と説明。イスラム国行きは否定し「(トルコ最大の都市)イスタンブールで活動する」などと話したという。

 政府関係者らは、事前情報からイスラム国支配地域に入る可能性があるとみて渡航を控えるよう要請。フランス大使館にも連絡し、説得に当たってもらったが応じなかったという。

 結局、夫妻は11月上旬に成田空港を出発してトルコに入国。イスタンブールからシリア国境に近いガジアンテップに移動したことが確認されたが、その後の動向はつかめていない。夫妻が事前の説明と異なる動きをしていることや連絡がつかないことなどから、既にシリアに入国し、イスラム国の支配地域に入った可能性があるとみられる。

 イスラム国はイスラム教徒に対し、インターネットなどで支配地域への移住を呼びかけており、公安当局は夫妻が呼応した可能性もあるとみている。

 ◇渡航の自由、憲法で保障 「旅券返納命令」一時は検討

 イスラム国の支配地域は、人道支援活動に従事する非政府組織(NGO)スタッフでさえ人質として拘束され、殺害される様子がインターネットで公開されるなど「日本人にとっても非常に危険な場所」(国際NGOスタッフ)だ。それでも、今回のようなケースで出国を止められないのは、渡航の自由が憲法で保障されているためだ。

 今年10月、北海道大の男子学生(26)がイスラム国への渡航を企てたとして、関係先の家宅捜索を受けた事件では、警視庁は戦闘員になる目的で渡航を準備していた点に着目した。私戦予備及び陰謀容疑を初適用し、学生の旅券を差し押さえて出国を阻止した。

 だが憲法22条では「何人も外国に移住する自由を侵されない」と規定。「戦闘目的ではない」と説明されれば同容疑の適用は難しい。旅券法には「生命、身体または財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」などに旅券の返納命令を出せるとの規定があり、外務省は今回、適用を一時検討した。しかし、夫妻が「シリアには入国しない」と話し、危険地域には行かないとしたことから断念せざるを得なかったという。

 政府関係者は「関係法令を精査したが、出国を止める規定はなかった。渡航の自由は尊重されるべきだが、現地で拘束されれば国の安全保障にも大きな影響を与えかねない」と懸念する。

 同志社大の尾形健教授(憲法)は「シリアには退避勧告が出されており、生命に危険が及ぶ蓋然(がいぜん)性が極めて高いのは公知の事実。夫妻がイスラム国の支配地域に入ろうとしていたのであれば、外務省は旅券の返納命令を出してでも渡航を中止させるべきではなかったか」と指摘している。

最終更新:12月29日(月)8時30分

毎日新聞

 

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