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【宮家邦彦のWorld Watch】
中東情勢 激変の兆し 「アラブの春」は何だったのか
ブッシュ政権の最大の失敗は、近代市民社会のような政治的成熟のない国に欧米型の「自由化」による「民主化プロセス」を求めたことだろう。部族的権威主義が色濃く残る中東で自由化だけを進めれば、専制以外に統治手段を知らない政治エリートたちの統治能力を逆に減じイスラム勢力の台頭を許し結果的にそれまで機能していた国家統治システム自体を破壊することになる。その典型例が今のエジプト、リビア、シリアだ。
それだけではない。現在の流れは米国が1978年以降一貫して維持してきたCDA体制の核心、すなわちイスラエル・エジプト平和条約とイスラエル・シリアの事実上の停戦、を揺るがしかねない。仮に今後エジプト国内が不安定化しイスラエルとの関係を再考したり、シリアの新政権がイスラエルとの対決姿勢を鮮明にすれば、事態は容易に急変するだろう。
同様のことは、湾岸地域にも言える。これまでイランからの脅威・圧力を米国との同盟関係でバランスしてきたサウジアラビアなどGCC諸国にとって、最近の米国とイランの急接近は一種の「裏切り」と映っただろう。このままGCC諸国の頭越しに米・イラン和解が進めばGCCは対米関係を再考し、独自の核開発の道を模索しかねない。