アベノミクスで歴史的な使命を終えた政党
昨日の臨時国会で安倍晋三氏が首班指名を受け、先の総選挙において信が問われたアベノミクスが名実ともに継続されることになった。経済政策に関しては、時計の針が戻ることなく、現政権の間は成長路線に重きが置かれることになる。
この経済政策を考えると、解党したみんなの党は、実のところ歴史的使命を終えたがゆえに消滅したのではないか──と思った。「済んだことをいつまでも論じるな」とお叱りを受けるかもしれないものの、この部分は今後の経済政策を考える上で重要であるほか、私自身、みんなの党に所属したことに関する総括をしたいと思ったので記すことにした。
みんなの党は、秘密保護法、集団的自衛権で一時期は揺れたものの、基本となる行財政改革のほか、経済政策については一貫して成長路線を柱としてきた。入党する前の私見で、みんなの党というのは、元通産官僚の江田憲司氏や同じく堺屋太一さんなど数々のブレーンから、経済産業省のサイドに立った反財務省的な経済政党と思ったことがある。
ゆえに、この政党が崩壊、或いは社会的な使命を終えるのは、財務省VS経産省のバトルにおける経産省が完全に敗北するか、成長路線の否定が要因になると勝手に想像していた。
しかし、そうはならなかったのである。成長路線についてはアベノミクスで逆に弾みがついた格好。実は、党の創設者である渡辺喜美氏が「アベノミクスはみんなの党が打ち出した政策のパクリで、ナベノミクスだ」と言ったことが、崩壊の本質を突いているのではないかと思うのである。
結党当初は、第1次安倍政権の崩壊後、自民党内で小泉改革以降進めてきた成長路線が後退しているとの印象が強くなった一方、分配に重きを置く民主党に政権が移る前夜と言える時だった。その後、民主党政権において成長路線が前面に出ることがなかったために、みんなの党の経済対策の主張は輝きを増す。当時、政権を担う民主党だけではなく、野党に転落した自民党も成長路線を明確に打ち出しているとは言えなかったため、みんなの党が一定の支持を集めたのは当然と言えなくもない。
ところが、野党時代の自民党で再び安倍氏が総裁に就任、その後の総選挙で自民党が政権に返り咲きアベノミクスがスタートしたあたりから、雲行き怪しくなってきた。
私の記憶では、安倍政権誕生前後まで党内で目立った対立は無かったように思う。それから、消滅に至った"与党再編"と"野党再編"の路線が徐々に対立する訳だが、それが決定的になったのが、国会における"ねじれ現象"が解消した昨年の参議院選挙。その後は、大量離党を経て、坂道が転げ落ちるような状況となったのは記憶に新しいところでもある。
トップの「政治と金」の問題もあったものの、これは党の根幹をなす政策に影響を及ぼした訳ではない。消滅前の1年は、渡辺氏をはじめとする与党寄りのグループと、あくまでも野党再編を主張するグループとに二分──感情的なものを一切排除すれば、そこにあるのは与党が進める政策の肯定、否定になろう。
ここでポイントになるのが「アベノミクスはパクリ」であり、経済対策において、みんなの党と与党は進む方向性が同じという点だ。方向性が同じ政策が実行された場合、その政策に対して「それでいいじゃないか」「いやもっと深く追求すべきだ」といった路線対立が生じる、解党の本質はここにあったと私は考える。
解党した時点の構図を記すと、前者は当然のことながら渡辺氏、後者は浅尾慶一郎代表や水野賢一幹事長となる。それに、1年前に離党した江田氏や、同氏が現在代表を務める維新の党も、アベノミクスの方向性は否定していないことからそれに該当するだろう。同党の主張は、アベノミクスの方向性は正しいとしながらも、肝心要となる成長を促すための施策「第三の矢」は不十分としている。
アベノミクスを概念として捉えた場合、方向性を示すだけなら、実際にそれを進める政権が誕生しているだけに、それを新たに示す勢力は不要、反対に、内容を別に提示しようとすれば、別の勢力が必要とみることができよう。
渡辺氏に直接話を聞いていないので、憶測でしかないのだが、氏は与党を指向したのは、もしかしたら与党内で内容について提示しようとしたのかもしれないものの、それならそれで、それを訴えようとする政治勢力は要らない。対して、アベノミクスの方向性はそのままに中身を変えようとするのであれば、そうした勢力が必要となり、それが浅尾・水野サイド、さらに維新の党となるのではないか。
スキャンダルや権力闘争なども絡んだために、わかりにくくなった部分も少なくない。しかし、これらは党消滅を加速させながらも、本質的には大きい要因とは言えず、アベノミクスがみんなの党の歴史的使命を終わらせたと結論づけることができる。
私は以前、今は苦しいが、みんなの党が必要と思われる時が来るので、それまで我慢・・と記したことがあった。それは将来を考えた場合、或いはポスト安倍政権が成長路線の看板を下ろした時に、再び存在感を大きくすると思ったのが理由。安倍政権が長期化しそうな状況となったことで、その願いも虚しく潰えた格好となった。
以上の点を踏まえ、今後、野党再編、政界再編が議論される際には、アベノミクスの中での方法論、或いは成長路線自体を問う形で行われるのか──そのいずれかによって、再編のあり方は大きく変わってくると思っている。