村井満チェアマンが描く「2ステージ制」からのJの未来

2014年12月19日

Jリーグの今後の構想を語る村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影
Jリーグの今後の構想を語る村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影

 今季のサッカー・J1リーグは、ガンバ大阪が9年ぶりの優勝を果たして幕を閉じた。シーズン終盤の逆転劇に盛り上がりを見せたJ1は、来季からリーグ戦を前期と後期に分ける「2ステージ制」を採用し、ポストシーズンには「チャンピオンシップ」を行って年間王者を決める方式に改める。一部の熱心なサポーターだけでなく、世間から広く関心を呼ぶための戦略である一方、明快だった1ステージ制からの変更には、多くの反対の声も上がっている。就任から1年がたとうとするJリーグの村井満チェアマンが毎日新聞の単独インタビューに応じ、Jリーグの将来に向けた戦略や思いを語った。【岡部恵里】

 ◇2ステージ制でサッカーに触れる機会を増やす

 −−サポーターから反対の声がある中、来季のJ1は2ステージ制が復活します。

2ステージ制の導入などについて説明する村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影
2ステージ制の導入などについて説明する村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影

 村井チェアマン Jリーグは20年が過ぎて、大きな転換点にあると認識しています。ここ数年、J1の平均入場者数は、なだらかな減少傾向でした。2014年のシーズンは、ほぼ下げ止まったのか、昨年と同等の入場者数に着地しました。また今シーズンは、クラブの財務基準に関しても、いい結果が出ています。3年連続の赤字がなくなり、全51クラブ、債務超過から脱出しました。経営環境は決して良いわけではありませんが、ずっと難しい状態だったのが、やっと転換点に来たのだと思っています。

 サポーターにとっては、1ステージ制が一番分かりやすいし理想だと、僕も理解しています。

 ただ、日本のみなさんにアンケートをとると、Jリーグに関心があると答えているのは3割ぐらい。残り7割は、おそらく一つのクラブをずっと熱心に見てくださるような人ばかりではない。そこで前期優勝、後期優勝、チャンピオンシップでの年間総合優勝と、いくつかヤマ場を分散することによって、サッカーに触れる機会が増えると思うのです。

2015シーズン以降のJリーグチャンピオンシップトーナメント表
2015シーズン以降のJリーグチャンピオンシップトーナメント表

 1ステージ制の場合は、いつ、どこの試合で優勝が決まるか分かりません。その点、チャンピオンシップは、間違いなくその試合で年間王者が決まります。そうすれば、その試合に注目してくださる人が増えるのは間違いありません。

 国際サッカー連盟(FIFA)ランキング上位50カ国の中で、1ステージ制を行っているのは6割ぐらい。残り4割はシーズンを分けたり、シーズンの後にポストシーズンを設けたりして、ヤマ場を増やしています。例えばアルゼンチンやメキシコも2ステージ制で、最後にポストシーズンで戦っています。

 そこで日本も、2ステージ制に再度チャレンジさせてほしいと思い、踏み切りました。Jリーグの選手たちも、短期決戦で一発勝負という大舞台で、最高に緊張感のある試合をしてくれればと思います。

 −−新しい大会方式は、複雑で分かりにくいという意見が多くあります。

 村井チェアマン 来季からのJ1の2ステージ制は、すごく独特なんです。年間勝ち点1位のクラブには自動的にチャンピオンシップの出場を認めるなど、プライオリティー(優先順位)を置いています。また年間勝ち点2位や3位のクラブにも、ポストシーズンの出場権が与えられます。だからファーストシーズン、セカンドシーズンの優勝だけでなく、1年間通して勝ち点を増やしていく戦い方もありだということです。日本なりの新しい戦い方を見ていただければと思います。

 ◇サポーターと一緒に変えていく

 −−今季のJ1では、浦和レッズがシーズン序盤に、一部のサポーターによる差別的な横断幕を掲げた問題で無観客試合の処分を受けるなど、人種差別問題がクローズアップされました。

 村井チェアマン サッカースタジアムが特別、差別の温床だったり、暴力や反社会的なものにあふれたりしている、ということは全くありません。ある意味、サッカースタジアムが日本社会全体の縮図なのかと。FIFAでは差別撲滅を訴え続けています。そういった動きに合わせて、日本サッカー協会も規定を改定しました。Jリーグもやはり、厳しい態度で臨まなくてはなりません。サッカーを通じて、日本社会の意識改革を行っていこう、という思いで制裁を行いました。

 浦和レッズは制裁後、サポーターと積極的に話し合いを進めています。浦和はサポーターと共に、新しく生まれ変わったように見えますね。

 (一部のサポーターがバナナをかざす差別的な行為をした問題で)横浜F・マリノスも、サポーターと一緒に人権研修を行っています。これからは、クラブがサポーターを管理するのではなく、サポーターと一緒にスタジアムの雰囲気を変えていくものだと思いますね。

 ◇ライセンスはないがしろにできない

各スタジアムのイメージ図。村井チェアマンが指し示しているのは、2015年秋に完成予定のガンバ大阪の新スタジアム=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影
各スタジアムのイメージ図。村井チェアマンが指し示しているのは、2015年秋に完成予定のガンバ大阪の新スタジアム=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影

 −−J2では、ギラヴァンツ北九州がJ1のクラブライセンス(スタジアムの設備や財務状態などの基準を定めたもの)を持っていないため、リーグ戦で5位に入ったにもかかわらず、J1昇格プレーオフに出場できませんでした。「厳しい」という声があります。

 村井チェアマン Jリーグは主な理念として、日本のサッカー水準の向上や普及、豊かなスポーツ文化を広げていきたいと掲げています。例えば、地域に密着したホームタウン活動。調べてみたら、昨年度40クラブが年間4000回ぐらいホームタウン活動を行っていました。小学校を訪ねたり、お年寄りの健康を促進するストレッチ講座を開いたりするなど、いろいろな地域で触れ合い活動が行われているのです。

 本来ですと、こうした活動は全てコストとなり、収益を生まない可能性があります。ですが、地域に根ざすクラブにとっては大切な活動です。だから、ライセンス制度の中でも義務付けられています。

 Jリーグは12年に、リーグへの参加資格を決める「クラブライセンス制度」を導入しました。目的は、サッカーが日本で健全に発展していくためです。

 例えば、ライセンス制度の施設基準では、より快適に観戦できるスタジアムの基準を示しています。サッカーは前後半45分の試合をして、合間の15分でトイレに行きますよね。もしスタジアムのトイレの数が少なかったら、大行列になり、後半が始まっているのに、試合が見られなくなってしまいます。サポーターの皆さんに心からサッカーを楽しんでもらうためには、細かい話ですが、トイレの数も重要なのです。他にも、雨にぬれないよう屋根の建設を求めるなどの基準を設けています。

 財務基準にしても施設基準にしても、高いハードルなのですが、クリアしていった先には、サッカーが地域に愛されたスポーツとして、皆さんの身近な存在になっていただけるのかなと思います。だからクラブライセンス制度を、ないがしろにすることはできません。

 ◇J3はこれから

 −−今季はJ3リーグも始まりました。

ツエーゲン金沢−SC相模原の試合中、金沢のゴール裏で旗を振る子供たちを撮影した画像に見入る村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影
ツエーゲン金沢−SC相模原の試合中、金沢のゴール裏で旗を振る子供たちを撮影した画像に見入る村井チェアマン=東京都文京区のJFAハウスで、岡本同世撮影

 村井チェアマン 今の日本で、例えば2000人といった規模の人々が、隔週で他都道府県から集う機会って、なかなかないと思うんですよね。地域ににぎわいを持たせる一つのコンテンツとして、J3は熱望されていたのだと分かりました。しかし、J1やJ2のクラブから見ると、どうしてもJ3は見劣りがします。J3のスタジアムは照明設備もあまりそろっていませんし、座席がなく芝生席で応援することもあります。ですが、初めてJリーグで戦うチームを迎える地域側は、とても歓迎しています。J3もこれからだと思います。

 J3の全11クラブを回ってみて、とくに思い出深かったのはブラウブリッツ秋田です。スタジアムまでお年寄りに足を運んでもらうため、ハーフタイムにグラウンドゴルフ大会の表彰式を行っていました。またスタジアムのアナウンスや選手紹介が秋田弁で、一気にスタジアムが温かくなりました。秋田がいろんな世代の人々に支持されているという話を聞くと、なるほどと思いましたね。

 今季J3優勝のツエーゲン金沢に優勝シャーレ(銀皿)を渡しに行った時のことも印象深いです。ゴール裏のサポーターの最前列が、みんな子供だったのです。サッカーの試合で、あんなにゴール裏に子供たちがいる風景って、なかなか見かけないですよね。旗を持って応援しているのも子供たちでした。フレッシュなリーグだからこそ見られる風景って、たくさんあるのだなと思いました。

 ◇U22選抜は試合勘が身につく

 −−J3には「JリーグU22(22歳以下)選抜(以下、J22)」が参加し、日本サッカー協会の新たな試みとして注目が集まりました。

 村井チェアマン J22の選手は、ある程度の段階で日本代表として選ばれています。若い時から年代別の、それぞれのカテゴリーで日本代表を経験しています。そのサラブレッドのような選手たちが集まっているのが、J22なのです。一方で、対戦するJ3のクラブにはアマチュア選手もいれば、社会人チームで戦っていた人もいる。J1、J2でプレーしていた選手もいます。高い才能に恵まれた選手たちと、言い方は変ですが、雑草軍団みたいなチームとの戦いですよね。

 ですが、サッカーというのはおもしろくて、個々の力が高く、その時々で招集される選手たちよりも、本気でチームワークを意識して戦う選手たちの方が勝つのですね。チームとして機能していないと、勝てないということです。

 今年、U20ワールドカップ(W杯)の予選を兼ねたU19アジア選手権がありました。勝てば4大会ぶりのU20W杯出場が決まるという準々決勝で、日本は北朝鮮に負けました。敗れてはしまいましたが、U19日本代表の中には、J22で戦ってきた選手たちが多く選ばれていました。J22を通じて試合勘が身についた選手は、今後活躍してくれると期待しています。

 ◇数値化して世界と比較

 −−村井チェアマンの考える、日本サッカーの強化法とは。

 村井チェアマン 今年、「チェアマンの3つの約束」と題して、「笛が鳴るまで全力でプレーする」「スムーズなリスタート」「選手交代の時間短縮」を掲げて取り組んできました。例えば試合中、審判に執拗(しつよう)に文句を言ってゲームを遅らせる、痛くもないのに簡単な接触で転がるなど、そういった行為はやめよう、と言い続けてきました。

 今季のアクチュアルプレーイングタイム(実際にプレーしていた時間)は、J1では約30秒ほど延びました。また異議や遅延行為も減少傾向にあります。ブラジルW杯で目にしたようなスピーディーな試合を展開できるよう、今後もJリーグの選手らに向けて、三つの約束を訴え続けていこうと思います。

 さらに来年度から、J1全ての試合に「デジタルトラッキングシステム」を導入します。個々の選手の走行距離やトップスピードといったデータを、試合観戦中、その場で皆さんに還元できる準備を整えております。またチームとして、どれくらい走ったのか、どれくらいのスピード競争に勝てたのかなど、新たな観戦の楽しみ方を提供する予定です。

 その数値を元に、世界の強豪クラブの戦い方と比較して、日本のサッカーレベルはどこまできているのか、分析できればと考えています。具体的に数字として出せれば、日本サッカーを強くしていくこと、アジアの中で高いレベルになっていくことにつながると思っています。

 ◇プロフィル

 むらい・みつる 1959年、埼玉県生まれ。早大法学部卒。リクルートに入社後、執行役員などを務める。2008年からJリーグ理事となり、14年1月から現職。

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