政府が地方創生戦略と経済対策を閣議決定した。

 創生戦略は東京一極集中の是正を掲げ、「地方から東京圏への転入を現状より年に6万人減らし、東京圏から地方への転出は4万人増やす」といった数値目標をちりばめた。さらに、全ての自治体に数値目標付きの総合戦略づくりを求めている。

 自治体への財政支援の柱が、経済対策に計上した新しい交付金だ。「自由度が高い」とうたい、創生戦略の目玉でもある。

 ただ、実際に交付する際には、自治体の総合戦略を国が審査する。地域での消費を支えるための交付金も別に用意したが、こちらも商品券の発行や灯油購入の補助など、国が使い方を例示する。地方に任せきりにはしない姿勢は相変わらずだ。

 政府の心配も、わからなくはない。四半世紀あまり前、竹下内閣が当時3300あった市町村に一律1億円を配った「ふるさと創生」事業では、必要性に乏しい施設が各地に作られ、金塊の購入など首をかしげざるをえない使い方が散見された。

■カギは地方の知恵

 しかし、あのころとは比較にならないほど、地方を取り巻く状況は厳しさを増している。少子高齢化はいやおうなく進み、集落の維持すらままならない自治体があちこちにある。

 ここは思い切って地方に任せ、それぞれの置かれた環境や特徴に応じた知恵に期待してはどうか。人材が乏しく、自力では政策づくりが難しい小さな自治体は、国に尋ねるのではなく他の自治体に学べばよい。

 国が旗を振り、おしりをたたくやり方から、自治体自身が考え、連携しつつ挑戦する――。そんな発想の転換が必要だ。

 そう考えさせる取り組みが、島根県雲南市にある。東京23区の広さに匹敵する中山間地域に4万人余りが住むが、高齢化ぶりは全国平均の25年先を行き、人口の減少が止まらない。苦悩する自治体の一つである。

 話は、「平成の大合併」で六つの町村がひとつになった10年前にさかのぼる。

 地域社会を支える自治会の機能は、少子高齢化で着実に弱っていた。市が直接個々の集落を支えることは、財政的にも人手の面でも不可能だ。

■新たな住民組織作り

 ヒントになったのが、合併に加わった旧掛合町だった。82年に島根県で開かれた国民体育大会で相撲会場になった同町は、町民あげて全国から選手や応援団を受け入れたことがきっかけで、住民活動が活発だった。

 自治会を生かしつつ、消防団や農業関係の組織、学校のPTAなど地域のさまざまな団体を一つにまとめ、統廃合が進む小学校区ごとに地縁に根ざした新たな組織へと作り直す。その活動拠点として公民館を交流センターに格上げし、交付金を出して、生涯学習だけでなく防災や福祉、まちづくりなどさまざまな活動を後押しする……。

 こんな構想を打ち出し、今では市全域に約30の地域自主組織ができた。地区でただ一つの商店が撤退した後、旧小学校舎を使って住民管理でミニスーパーを営んだり、住民が水道検針を受託して各戸の見回りを兼ねたりと、全国から視察が相次ぐ活動が生まれている。

 雲南市は自ら旗を振り、地域自主組織の全国的な推進組織を来年2月にも発足させる。数十の自治体が参加するという。

■任せて支える役割に

 小さな自治体が、なぜ全国的な組織づくりにまで踏み込むのか。ここに、地方創生を巡る本質的な問題が潜んでいる。

 自主組織が活動の幅を広げ、販売や作業受託などで収益を得るようになると、法人格が不可欠になってきた。雲南市は、地縁に根ざす新たな法人制度を実現しようと、歴代政権が導入してきた特区制度に挑戦する。

 が、中央省庁の壁は厚かった。地方自治法上の認可団体、NPO法人、公益法人など、さまざまな制度をいくつかの省庁が所管しているが、どれも自主組織にはそぐわない。既存の制度のほうを自主組織に合わせてもらうこともかなわず、役所の間をたらい回しにされるばかりだったという。

 住民の安全・安心をゆるがせるような提案でない限り、自治体の責任で実行してもらう。そして、成功のカギや失敗の原因を自治体間で共有し、次のステップにつなげる。「地方発」のそんな循環を後押しすることこそが、国の役割ではないか。

 創生戦略にはこんな施策も並ぶ。地方で就職する大卒者の奨学金返済を免除する。本社機能を移す企業を税で優遇する。国のどんな機関がほしいか、自治体に手をあげてもらう。

 これらは「東京から地方に移す」という従来型の発想に基づくが、しょせんは東京と地方の分け合い・取り合いだ。

 地方が挑戦し、国が支える。そうして新たな価値を生み出し、国全体の活力を高める。地方創生の目標はそこにある。