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亀井氏の正しい日銀批判

意外とわかっているかも

 日本は過去10年近く、デフレとそれに伴う不景気に悩まされてきた。でも、真面目な対策はほとんど見られなかったし、また各種メディアも、デフレの害をまともに報道も解説もせず、逆にデフレがよいものだなどと大真面目に述べて、一部の心ある人々(不肖このぼくも含む)は深い絶望にとらわれていた。だが、それが2009年11月ごろから、はっきりと風向きが変わりはじめているようだ。

 それを感じたのは、中央線のなかで流れていた『日経』の経済用語解説でデフレの意味とそのマイナス面が説明されていたことだ。その後間もなく、いまをときめく勝間和代が菅直人にデフレの害を直々にご注進。その数日後には、政府の月例経済報告のなかで公式にデフレ宣言。そしてその前後で各種の既成メディアでも、デフレの害についてのまともな説明が載るようになり、またしばらく前の『アエラ』では、民主党内にリフレ研究会なるものができて、それが菅直人にリフレ政策を提言しているとの報道も。さらにモラトリアム法案ではミソをつけた亀井静香が公然と日本銀行批判を行ない、意外とわかっているかも、というほのかな期待も与えてくれた。

 こうした動きを見ると、本当に隔世の感がある。

 ちなみに冒頭で、デフレが10年続いていると書いた。今回の政府のデフレ発表は、3年強ぶりではある。でも実際には、石油や食品の価格は相場や収穫に左右されやすくて、本当の価格の動きをゆがめる。それにいまの計測方法だとインフレ率は実際より1パーセントくらい高めに出てしまう。その影響を除くと、じつはかなり長期にわたって日本はデフレが続いてきた。

 デフレだと待っていれば値段は下がる。だから個人も企業も買い物をなるべく先送りしようとする。すると経済全体で売り上げが落ちる。するとみんな、その分経費節減に走る。それがさらに経済全体の活動を引き下げ、不景気になる。そして経費削減の一環として人件費を下げるべく、企業は非正規雇用に走り、新人採用を抑える。

 すでに資産や所得が確保されている人は、お金の使いでが増えるから嬉しい。でもそのしわ寄せは若者や失業者に行き、もてる者ともたざる者の格差と恨みは広がる。ここ1年ほどの社会経済問題がほぼすべてここに凝縮されている。

本丸陥落まであと数年?

 さて、この処方箋は簡単だ。インフレ期待を起こせばいい。これほど簡単なことはない。日本銀行がお金をいっぱい刷り、これからも当分そうしますよ、といえばいい。いままでの日銀による金融緩和は、お金はとりあえず刷るけれどすぐやめますからね、と言い続けていたのでインフレ期待はまったく上がらなかったのだ。

 べつにかつてのジンバブエ状態にしろというんじゃない。3パーセント前後の軽いインフレだ(ちなみにジンバブエは半年前に自国通貨を廃止したので、すでにハイパーインフレではなくなり、逆にデフレに苦しんでいる。じつは日本はすでにジンバブエ状態なのだ)。それで経済のすべての問題が解決するわけじゃない。でも、すべての問題の前提条件を変え、足掛かりにはなる。

 が、日銀はいまだにこの単純な政策を否定する。いまや白川総裁は、自分が何もしない理由を強弁するだけの存在で、円高はいい面もあるとか、金融政策でインフレは起こせないとかいう趣旨の発言を繰り返し、現状肯定に終始するあまり中央銀行の役割自体を自己否定している。やれやれ。

 むろんいまのデフレに対する危機感の増大が、すぐに日銀の金融政策を動かすとはぼくは思っていない。インフレ期待を高めて景気を回復しろ、デフレはまずいぞ、という理論をメジャーにしたのは2008年ノーベル賞を取ったポール・クルーグマンだ。それをいち早く日本に紹介したのは、ぼくの人生の数少ない自慢の1つだ。でもそれがいまの認知度に到達するまで10年以上かかっている。本丸陥落まであと数年はかかるかもしれない。それまで日本の苦しみは続く。

 それでもぼくは希望を捨てていない。捨てるものですか。だって少しずつでも、状況はよくなっているじゃないか。かつてデフレ悪者説やインフレ期待論を、笑止千万な邪説扱いしていた人々が、だんだん考えを改めてくれている。政治家たちも、そろそろ何か変だというのを理解しはじめ、日銀に文句をつけはじめている。もう少しこの考え方が普及すれば、ようやく何かが本当に変わるかもしれない。

 というわけで、読者諸賢におかれましては、とにかくデフレはよくないもので、日銀がその気になればすぐに解決できるんだということだけでもこの一文から読み取っていただければ幸甚。願わくばそれが、世の議論のバランスを覆す最後の一石となりますように。

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