課外授業 ようこそ先輩「心でとらえた音を俳句に〜俳人 長谷川櫂〜」 2014.11.21


(男子)「古池や蛙飛びこむ水のおと」。
今日の先輩は…みんなで名句を鑑賞…と思いきや今日の授業の主役は…。
音から俳句を考える授業始まります。
今回の舞台は熊本県の中央に位置する宇城市。
母校小川小学校を訪れるのは長谷川さんおよそ30年ぶり。
早速一句出来たようです。
(長谷川櫂)いいですか?「少年の我と太陽…」。
私と太陽が露の中にいる。
露の玉の中にいるみたいだっていう。
さっき通学路の所で歩いてて太陽と2人露の中に入ってるような露の中をのぞくと自分の小さい頃がいるようなそういう感じがしたんで。
名句だね。
アハハハハ。
さあいざ5年生29人が待つ教室へ。
こんにちは。
(一同)こんにちは!お〜元気がいいね。
君たちの大先輩というか大々先輩にあたるんだ。
名前は長谷川櫂といいます。
俳句って聞いた事ある人手を挙げる。
お〜みんな聞いた事がある。
じゃあ俳句と聞いて何か浮かぶ人?え〜っと君。
何ていう句を覚えてる?「閑さや岩にしみ入」それ誰の句だ?何々芭蕉。
何々芭蕉。
何とか芭蕉さんだね。
よく覚えてるね。
じゃあほかに何かほかの俳句知ってるって人?じゃあ君はい。
はい。
これは誰の句ですか?松尾芭蕉です。
日本人なら誰もが知る松尾芭蕉の有名な俳句から授業は始まりました。
質問です。
じゃあこの句は意味はどういう事だろう。
はい。
はい。
古池にカエルが飛び込んだ時の水の音。
古池があってそこにカエルが飛び込んで水の音がした。
そういうのを芭蕉が見て詠んでいるという事だ。
だけどそれは実は違うって話をこれからします。
芭蕉は単に見た風景を詠んだのではない。
ここで長谷川さん子どもたちにある音を聞かせました。
(音声)はいじゃあ君。
はい。
え〜っと雨水が何かポチャン…。
あっ雨の滴が。
もう一回いいですか。
(音声)えっ何?実はこの音はカエルが水に飛び込む時の音です。
だからある時芭蕉が部屋の中で俳句を作ってたらカエルが飛び込む水の音が聞こえてきたと。
今みたいな音が聞こえてきた。
それでこの句が出来ちゃった。
最初は「蛙飛びこむ水のおと」ここだけ出来たんだよ。
で後でさ「古池や」というふうに置きました。
そうするとじゃあこの「古池や」というのは何か?芭蕉の心の中にあった。
…という事ですね。
芭蕉が思い浮かべた句であると。
「古池や」と後で想像力で付け加えた芭蕉。
弟子の記録から長谷川さんはその創作過程を読み解きました。
僕がずっとやってる芭蕉の問題あるいは「古池」の句の問題これは全部音なんですよね最初から最後まで。
音っていうのは音が耳の中の奥深く入っていって心がどこにあるかっていうと脳にある訳だから脳の辺りで震える訳です音っていうのは。
だから脳をすごく刺激してつまり…音が心を表すとは一体どういう事なんでしょう?長谷川さん再び音を聞かせます。
(音声)お〜何だ?すごい音がする。
分かった人?牛の鳴き声だと思います。
牛の鳴き声だ。
牛じゃないんじゃないかっていう人?じゃあ君いこうか。
牛蛙だと思います。
よく分かったね。
これ牛蛙の声です。
この牛蛙の声を聞いてですねこの牛蛙が何と言って鳴いてるかそれを想像してくれる?つまり悲しいとかうれしいとかいろいろあるよね。
気持ちがね。
(牛蛙の声)はい。
泣いてる感じだ。
悲しくて?水が干からびて?ああ水が無くなっていくとカエルというのは生きていけないから。
気持ちがよくて鳴いていると思います。
そうすると気持ちがいいというのはどういう事だろう。
何で気持ちがいい?雨が降って気持ちいい。
体調が悪くて。
体調が悪いのか。
どこの体調が悪い?えっと体の…。
体の体調が悪いの?それで何かちょっと「きついなきついな」っていうそういう感じの声?実は先生がこの牛蛙の声を聞いて作った句があってそれは君たちが言ったこれのどれとも違います。
読んでみると「億万年ねむしねむしと牛蛙」っていう句で。
先生がこれ聞いた時は牛蛙がずっと何億年も眠たいっていうふうに「眠たい眠たい」というふうに言ってるように聞こえました。
君たちは同じ声を聞いてさそれぞれ違うふうに感じる訳だ。
その声の感じ。
これが君たちのそれぞれの個性です。
これはとても大事。
面白い俳句ですよ。
長谷川さん次はちょっと変わった俳句を取り出しました。
五七五の七五はある音を詠んでいます。
「あああああああおおおおお」。
この音から上の句の5文字に入るものを想像します。
何かちょっと小さい田んぼあるじゃん?そこの所に「あああああああおおおおお」。
土手から田んぼに駆け下りた時の声?こちらは試合を応援する声かな?「あああああああおおおおお」。
発声練習的な。
歌ってる姿ね。
「幸せだ」。
「幸せだあああああああおおおおお」。
音は人々の心の奥底に眠る記憶を呼び起こす大きな鍵。
音によって子どもたちの心の世界が引っ張り出されてきたのです。
「青空があああああああおおおおお」。
おかしいだろ。
班の代表の人に自分たちが作ったのを読み上げてもらうから。
「幽霊が」。
「幽霊が」。
「あああああああおおおおお」っていうのは幽霊がそういうふうに言ってる訳?追いかけてくる。
追いかけてくるんだ。
あとは?「青空が」。
これはいいね。
「青空があああああああおおおおお」っていいですね。
何か秋の青空が広がってるみたいなね。
「叫んでる」。
「叫んでる」。
「扇風機」。
「扇風機あああああああおおおおお」というのはこれどういう事だろう?扇風機の前で「ああああ」って言ったら「ああああ」って…。
聞こえる訳だ。
では答えをこれから言います。
いいですか?答えが君たちが言った事の中に1つあるんだよ。
これを剥ぐと答えが書いてあります。
あっ!何だ?扇風機。
うそだろ?当たっちゃったね。
お〜すごい。
長谷川さんが俳句を作り始めたのは中学生の時。
現代詩人でもある国語の先生と出会い言葉の面白さに目覚めます。
大学卒業後新聞社に勤め俳人としても活躍。
事実を伝える仕事と創造の世界の探求を続ける日々。
そして46歳で俳句に専念する道を選びました。
俳句がなぜ一番面白いと思ったかというとやっぱり短いからですよね。
一つの言葉が花なら花石なら石って言葉が単に石や花を指すだけじゃなくていろんなその周りに絡まってるその人の…2時間目子どもたちを外に連れ出した長谷川さん。
到着したのはふるさとの川砂川。
河原で音を探します。
上あがってもいいです。
コスモスがいっぱい咲いてるから。
下りてもいいですか?下りてもいいんだ。
水の音が聞こえるかも。
いろんな音があるからその音をですねまず見つける。
見つけるというか耳で捕まえる。
それをノートにちゃんと書いて下さい。
自分の気になる音を見つけスケッチブックに書き留めていきます。
ふだん遊び場としてなじみ深い河原。
でも音を探すのは初めての体験です。
何の音を見つけたのかな?鳥の鳴き声に耳を傾けていたのはパキスタンから日本に来てまだ9か月のサルマン君。
日本にもたくさん鳥がいて同じように鳴いてますね。
何て聞こえた?「ガッ」。
「ガッ」って聞こえた?大きい鳥だじゃあ結構。
こちらは何の音を見つけたのかな?
(男子)おっいい音。
「ボトン」「ボチャン」。
ポトンポジャンポトン。
たくさん書いたね。
砂の音がするんだ。
砂の音に耳を澄ませていたのは勇舞君。
どういうふうに違うの?ぬれてる所と乾いてる所。
ここはザワザワしていてあっちは何かシャリシャリしている。
乾いてるとこはね。
あ〜音の違いが分かるんだな。
そっか。
ぬれてる所はザワザワって音がするんだ。
音から気持ちを想像した子もいます。
鳥は旅に出たいと言ってるのか。
心に語りかけてくる音は人によって全く違います。
花が笑ってる?どの花?コスモス。
コスモス笑ってた?笑ってた?あなたにだけ見えたのかもしれないね。
あなたが見た時だけ笑ったかもしれないね。
いいですか?みんな書き終わったらもう一回さっきの場所に集まって下さい。
音探しが終わったらいよいよ俳句作りです。
スケッチブックにはたくさん音が書いてある。
いろんな音を聞いてその音は聞こえる音であったり実は聞こえない音であるかもしれない。
自分が心で感じた音。
それを基にこれから君たち俳句を作ってもらうから。
長谷川さんは心で感じたままを句にしてほしいと伝えました。
俳句らしく作ろうとか季語をどうしようとか言わないでただ入ってくるものを受け入れてるとそれは目に見えるものだけじゃなくて耳に聞こえるものだけでもなくていろんな声が聞こえてたり昔の風景が見えたり自分の姿が見えたりするから。
そういうのを何か言葉で捕まえる。
要するに自分が何を感じてるかってそれを気付く事が大事だと思うんだよね。
そうすると俳句はこれを詠めばいいんだっていうのが分かってくるから。
風に揺れるコスモスの声を聞いたのは慶太君。
(慶太)まだコスモスが芽を出して今寒いけど早く春になってほしいとかいっぱい春になって遊びたいっていう話が聞こえました。
空を仰ぎ音を探していた晃生君。
鳥たちのさえずりが会話のキャッチボールに聞こえました。
止まってた鳥が「ヒュヒュヒュヒュ」って鳴いてそしたらあっちのあそこ森の所の鳥が「ヒョヒョヒョヒョヒョ」って何かめっちゃ言って。
音をきっかけに自分の心の声に耳を澄ました子どもたち。
「砂の声ジャリジャリ…」あっ歌ってるんだ砂は。
よく出来た。
しかしその一方で教室で想像した時のような自由な発想が少なくなっていました。
外に行った途端に現実に引っ張られて彼らの想像力が衰えてしまったというかおとなしくなってしまった。
つまりあそこへ行く事によって…子どもたちにうちに帰ってもう一度音を思い出し俳句を作ってくるよう宿題を出しました。
いよいよ俳句作りも仕上げの段階に入りました。
「ジャリジャリと砂…」。
砂と雪が混じってる感じ。
混じってる感じを言いたいと。
何とかの音というふうになると君が言いたい事がよく分かる訳だ。
いっぱい作ってきた子もいました。
この3つだ。
どれにしようか。
こびとにするか妖精にするか巨人にするか。
どれがいいですか?平仮名を習得したばかりのサルマン君。
「こんにちはすわっていいととりかぜに」。
お〜どういう事だろうね。
鳥だ。
これは鳥を詠んでるんだね。
鳥が…。
話は鳥と風。
あっ鳥が風に話をしてる訳?いい句だね。
「こんにちは座ってもいい?」って鳥が風に聞いてるんだ。
ここにクエスチョンマーク。
要するに小鳥が風の中で鳴いてるだけなんですよ現実は。
それにその小鳥の声を彼が一人の人間として解釈してて。
でそれが彼の心の表現になっていると思う。
「こんにちは」って挨拶をして「すわっていい?」って遠慮深げな言い方がやっぱり外国から来ていて日本の中で一つの位置を見つけようとしているそういう子どもの気持ちがちょろっと出てしまってる。
そういう句だと思うんですよ。
みんなの作品のお披露目の句会開催です。
それぞれ好きな俳句に投票しました。
選ばれた句には花がつけられます。
「太陽はみんなを守るせいぎだよ」。
お〜4つになりました。
「ザクザクと音がにてるよ雪と砂」。
次は「チンパンジーバナナだいすきぼくもすき」。
なんとチンパンジーまで登場。
石を投げた時の水音から川に落ちたチンパンジーを想像したんだそうです。
僕はいいところはこの作者の人の自分の事も書いているところがいいと思います。
つまり「チンパンジーはバナナ大好き」というんだったら当たり前だけど「僕も実はバナナ大好きだったんだよ」って言ったところがいいと。
作者誰ですか?はい拍手。
「かき氷ジャリジャリけずる楽しいな」。
砂を踏み締めるジャリジャリという音からかき氷を思い浮かべたのは悠暉君。
僕はかき氷が好きだから家もかき氷屋さんの近くにあったからかき氷の音と似ているなと思って。
家の近くにかき氷屋さんがあるんだ。
次はね「砂の音小さなようせいいるみたい」。
あっこれ5つになった。
同じ砂の音から妖精が軽やかに歩く姿を想像した子も。
そして亡くなった人を思い出した句も。
ひいおばあちゃんの笑い声を詠んだのは雅さん。
この句の作者は誰ですか?はい。
おばあちゃんの笑い方覚えてる?ずっと病気だったから笑い方覚えてないんだ。
だけどじゃあ何でほほえんでるみたいに感じたんだろう。
天国に行って癒やされて病気もよくなってそこで笑ってるような気がしたって事ですね。
これだから実際行ったのはああいう河原の草が生えてたり鳥が鳴いてたりするとこだけどこういう大きな世界を想像したっていうのはとてもいいと思いました。
耳で聞こえてる音っていうのは例えば君たちが聞いた鳥の声とかあと虫の声とか水の音とか砂の音とかそういう実際耳に聞こえる音がたくさんあります。
そのほかに耳で聞こえない音っていうのがたくさんあって。
つまり心の耳で聞かないと聞こえない音っていうのも耳を澄ますと聞こえてきます。
例えば友達の中にいつもあんまりつきあわない黙ってる人がいたらその人の声も分かる。
これはこれから君たちが生きていく上で長い人生の中でとても大事な事です。
それはきっと君たちの人生の助けになるはずです。
で2日間にわたった授業を終わります。
音を聞き想像する事は心の世界を開く事。
子どもたちが長谷川さんから受け取った大きな贈り物でした。

(ノックアウトくん)高橋さん。
はい。
2014/11/21(金) 19:25〜19:50
NHKEテレ1大阪
課外授業 ようこそ先輩「心でとらえた音を俳句に〜俳人 長谷川櫂〜」[解][字]

現代俳壇を代表する俳人・長谷川櫂。俳句における音の意味を考えてきた。今回の授業の舞台熊本県宇城市立小川小学校では、どんな音からどんな俳句が生まれるだろうか。

詳細情報
番組内容
俳人・長谷川櫂。新聞記者を経て46歳から俳句に専念して現代俳壇の旗手。『古池に蛙は飛びこんだか』で音こそ名句誕生の鍵だったと芭蕉研究に新風を起こした。音が心の世界を開くと俳句における音の意味をみつめてきた。今回の授業の舞台は、熊本県宇城市立小川小学校。近くの砂川の岸辺に子どもたちを連れ出し、音から俳句作りに挑戦することになった。子どもたちは川原でどんな音を発見し、どんな俳句を作るだろうか。
出演者
【出演】俳人…長谷川櫂,【語り】中嶋朋子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – その他
趣味/教育 – その他
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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