イライザ・サリバンさん(左)と母親のレベッカさん BOSTON BABY PHOTOS

 それは一晩で起こったかのように感じられる子育ての節目だ。わが子の身長が突然、自分より高くなっていることに気付くのだ。

 成長期の訪れは早まっており、子供は早いと11歳ないし12歳で親の身長を抜く。この見た目の変化は年末のイベントや写真撮影で家族が集まる際に話題になる。それは多くの家族にとって「心の節目」にもなる。子供に自信(またはうぬぼれ)を与える一方で、親のアイデンティティーや権威に対する意識に微妙な変化をもたらすからだ。

 イライザ・サリバンさん(11)は現在、約157センチ。もうじき母親のレベッカさんの身長を抜く。レベッカさんは昨秋、友人からもらったお下がりの服を見ていたときにそれを認識した。レベッカさんは娘が「子供サイズでなくなること、他の子からお下がりをもらえなくなること、そしてもらうとしたらそれは自分からになること」に気が付いた。ボストンでPR会社を経営するレベッカさんの身長は約160センチだ。

 イライザさんは母から洋服が借りられるようになるのはうれしいが、母とハグするときは小さくなれれば良いのにと思うと言い、母の身長に「もう届きそうで、変な感じがする」と話す。レベッカさんは「あなたはずっと私の小さな娘なのよ」と娘に言い聞かせるために、「いまだに抱き寄せるようにしている」という。

 カリフォルニア州バークレー在住のマーシー・モリコーニさんが最初に娘のエマさんに身長を抜かれそうなことに気付いたのは数年前、娘が13歳前後のときだった。マーシーさんは台所で娘と並んで朝食を作っていた。それはマーシーさんにとって胸にこたえる瞬間だった。「エマは本当にかわいらしい子だった。こんなに大きくなったのを見て、小さいときにもっと抱きしめておけばよかったと後悔した」と話した。マーシーさんは165センチで、今は娘より11センチ小さい。一緒に出掛けるときは「自分があまりに小柄だと感じないように」、5センチのヒールを履くという。

 近年、成人の身長はそれほど変わっていない。ダートマス小児病院小児内分泌科のトップを務めるサミュエル・カセラ氏によると、米国男性の平均身長は過去1世紀で4~5センチ伸びて178センチに、女性は1.3~2.5センチ伸びて162センチ強になった。

 しかし、メイヨー・クリニック小児センターの小児内分泌科の医師、シボーン・ピトック氏によると、子供が大人の身長に達する時期が早まっている。同氏は、思春期を迎える時期が数カ月早まっている傾向があると指摘し、そのため成長期が早く始まっていると述べた。

 ミネソタ州ロチェスター在住のエリック・ソレンソンさんの息子トムさんは、数週間で父親の身長を抜いたと母親のクリスティンさんは話す。息子が14歳のときに2カ月違いで撮った2枚の家族写真を見てそれに気付いた。最初の写真では、息子が父親(175センチ)より5センチほど低く見えた。2枚目の写真を撮るまでの間に、息子は父親を抜き去った。クリスティンさんは「彼があんなにも早く大きくなることにただ驚いていた」と話した。トムさんは現在20歳。身長は188センチだ(ちなみにクリスティンさんは150センチで、息子が10歳のときから見上げている)。

 子供の身体的な成長の速さは、心身面や認知面の発達の速さを上回る場合が多い。心理学者のナタリー・ボナ博士は、不機嫌になると「文字通り、身長は183センチもあるのに、3歳児のように泣く」ティーンもいると話す。親の中には子供に圧倒される人もいる。ボナ博士は限度を設定し、それを守らせ続けることを勧め、ユーモアを使うのも手だと指摘し、「椅子の上に立って『私の方が大きい』」と言うのも良いと述べた。

ジェニファー・ベリーさん(左)と息子のジョバンニさん Berry Family

 男子は成長するにつれて自信をつけることが多い。インディアナ州の広告代理店ボーショフのクリエーティブディレクター、ジェニファー・ベリーさんによると、息子のジョバンニさん(14)は身長が183センチ近くになってからは「いつもニヤニヤしている。みんなを見下ろせるからだ」という。ジェニファーさんは息子の成績が上がり、自尊心が高まったことをうれしく思っている。一方のジョバンニさんは183センチほどの父親を抜くまでは満足できないと話し、「そうなれば、何かを達成したように感じられると思う」と述べている。

 サンディエゴ州立大学のジョセフ・サビア准教授(経済学)などが論文を執筆した2009年にティーン1万4250人を対象に行った研究によると、背の高い男子は低い男子よりも自尊心が高く、うつの確率が低い傾向にあることが分かった。同准教授は理由の一つとして、背の高い男子が「仲間からリーダーだと認識される可能性が高い」ことがあるのかもしれないと述べた。

 女子は背が高いことに伴う、力や存在感の増大から恩恵を受ける可能性があるが、女性がパートナーや配偶者より大きいことに対する否定的な固定概念にも直面する。

 家族セラピストのシェリ・グルコフト・ワン氏は、ティーンの反応を決める上で親の果たす役割は大きいと指摘する。同氏は「子は親からシグナルを受け取る」と述べ、思春期によってもたらされる変化を恐れる親の子は「内気で反抗的」になり、変化を受け入れる親の子は「流れに順応できる」ようになると話す。同氏は古いイメージや子供にこうなってもらいたいという考えを捨て、「そのままのあなたで良いのだ」という姿勢を取るよう親たちに助言している。

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