赤と黒のゲキジョー・浅見光彦51 中央構造帯 2014.12.05


(高島)将門公のたたりだ。
(浅見)銀行員。
(高島)長産銀でずいぶん前から妙な死人が出るのはなぜかね?
(奈緒美)私が将門の末裔だから。
誠一さんは誰に会いに行ったの?
(長橋)将門の脅迫状…。
(浅見)将門のたたりに見立てて殺されたとしたら…。
(浅見)
時は天慶3年西暦940年
京の都の中央政府に反旗を翻し朝敵となった平将門は反逆者謀反人として討ち取られさらし首となった
さらし首のその目はかっと見開ききつく歯がみして怨念と復讐のほむらと化し分断されたわが身の胴体を求めて宙を飛び都大路から生まれ故郷の上総国を目指すも力尽き武蔵国の芝崎村に落下した
平将門怨霊伝説であるが…
東京都千代田区大手町
その昔は武蔵国豊島郡芝崎村と呼ばれ平将門公の首が落ちたとされる伝説の地である
はるか1,000年の時空を越えた今この東京のど真ん中に残る首塚の前に立つと何とも不思議な気分だが…

(奈緒美)浅見君!
(浅見)あっ。
阿部さんわざわざ申し訳ない。
(奈緒美)いいのよここうちの銀行のすぐ裏だから。
同窓会以来だから4年ぶりかしら?
(浅見)かな。
(奈緒美)私の上司の田中次長。
大学の同期の浅見さんです。
(浅見)あっどうも初めまして。
浅見です。
(田中)田中と申します。
阿部君から聞きました今日は平将門の取材だそうで。
ええ。
大手町1丁目2番地。
ここに将門公が祭られているんですよね?
(田中)そうなんですが江戸時代に神田明神に合祀されたと聞いています。
大手町と神田。
将門公がこんなにも身近な所に。
あっあの…カエルと将門公とはどういう関係があるんでしょうか?将門の首が京都から飛んで帰ってきたことから必ず帰る。
左遷になった会社員が元に戻れるようにとか行方不明になった子供が無事に帰れるように奉納したものですね。
はあ…「帰る」に引っ掛けて「カエル」ですか。
何となく愛嬌があるけど本来の将門伝説はおどろおどろしいというか不吉なものですよね。
大正12年の関東大震災の後将門塚に大蔵省の仮庁舎が建てられると大蔵大臣はじめ省の幹部14人が相次いで変死。
(田中)この後もケガ人や不審死が続出してますます将門のたたりといわれるようになったんです。
当時の人の多くはそう信じて盛大な鎮魂祭が行われたそうですね。
お二人がお勤めの日本長期産業銀行は将門塚と隣接していますが何かそういう因縁めいたお話はありますか?「将門のたたりを笑う者は将門のたたりに遭う」入行当時先輩たちからそう言われましたけど。
まあ将門のことなら阿部君の方が。
何といっても茨城の岩井町出身だし。
えっ岩井町!?岩井町といえばあの…将門の聖地じゃないですか。
阿部家は代々醸造業を営む岩井町の旧家だったよな。
祖父で14代目だと。
幼いころ両親をなくした私にとって祖父がたった一人の肉親なの。
その祖父からは阿部家は平将門の末裔だって聞かされて育ちました。
末裔!?とはいってもたくさんある血筋の一つらしくて。
それに私怨霊とか呪いとかそういうのは苦手で。
だから将門のことはあまり考えたことがなかったの。
(田中)そんな阿部君が将門塚の隣で働くことになるとは。
これも何かの縁かな。
ちょっと失礼。
(田中)はいはい。
分かりましたすぐ戻ります。
すいません急な用事ができまして。
ああ。
あっそれは僕が。
取材費ということで。
僕の話なんて取材の足しになってませんよ。
じゃ。
誠実な感じのすてきな方だね。
そうかしら。
田中次長とはその…恋人?あらどうして?このカエル。
(奈緒子)ああ。
相変わらず鋭いのね。
将門の椅子?将門塚にお尻を向けて座るとたたりがあるっていう話聞いたことある?いわゆる都市伝説ってやつだよね。
実はずいぶん前にその椅子に座っていた人が立て続けに2人も亡くなってしまったの。
ホントにたたりとか?いやまさか。
でも銀行は妙な噂を嫌うから誰もその話をしなくなったんだけど…。
何か気になることでも?今その椅子には田中次長…。
誠一さんが座ってるの。
本人も気にしてないみたいだし迷信だとは思うけどやっぱり少し心配で。

(前原)阿部さん。
(前原)いつまで油売ってるの。
お昼もう終わっちゃうわよ。
いけないお局さまだわ。
ああ。
浅見君時間があるなら神田明神もお参りした方がいいわよ。
阿部さん色々とありがとう。
同期のよしみよ。
浅見君また。
再会した彼女は学生時代と変わらない明るい笑顔を見せてくれた
でもこの日以来その笑顔が見られなくなろうとはこのときの僕には思いもよらなかった
ここ神田明神は鎌倉時代の延慶2年平将門公のたたりといわれた天変地異を鎮め魂を慰めるための奉祀が行われた所だ
「体」がなまって「神田」
つまり将門の首と体をつなげるという意味で将門塚の後に神田明神をお参りするのが将門ファンの流れとなっているようだ
(雪江)平将門は桓武天皇の流れをくむ平家一門の出で東国下総にて決起して承平・天慶の乱を起こし自ら親王と称して東国に独立政権を樹立したものの藤原秀郷らによって鎮圧されたと。
わずか数カ月の独立政権だったんですね。
(雪江)そうねしかも将門が敗北したのは身内の裏切りによるものでしたからね。
(雪江)将門の死後の怨念の深さはいかばかりのものだったか。
(雪江)斬られしわが体いずれのところにかある。
首ついで今一戦せん!まるで生きているような将門公の首が夜な夜な大声で叫びもうそれは恐怖しない者はいなかったのよ。
お母さん見ていたようによくご存じですね。
何言ってるの。
有名な『前太平記』の一節ですよ。
光彦だって読んだでしょ?ちゃんと。
ええ。
あっあの実はまだ。
そうねうーんこの近辺で言ったら…。
あそうだ八幡の藪知らずには行きましたか?八幡の…や藪知らず?
(雪江)そううっそうとした森でね。
私も小学生のときに一度遊びに行ったけど将門公ゆかりの地ですよ。
将門公ゆかりの地。
将門公伝説を語るには欠かせない場所ですよここは。
(女性)ちょっとあなた。
(2人)あー!
(前原)阿部さん。
田中次長と連絡ついた?それが携帯も通じなくて。
出張の予定もないし連絡も取れないなんて次長らしくないわね。
(前原)堀江さん。
口紅ちょっと濃いんじゃないかしら。
(晶代)すいません。
そんなに濃いかしら?気にならないけど。
(晶代)でしょ!ホントお局なんだから。
阿部さん。
(奈緒美)はい!総務から至急来るようにって。
(前原)失礼します。
(ドアの開く音)
(中町)ああ前原君。
(奈緒美)あの何か?千葉県警から連絡があった。
田中次長が自殺したらしい。
えっ?
(長橋)38の若さであの長産銀の国際部次長か。
(須藤)前の頭取の秘書をしていたそうなんで相当のエリートですね。
(長橋)うん。

(ノック)部長長産銀の方がいらっしゃいました。
じゃあ現場戻ります。
(長橋)うん。
(長橋)市川南署の長橋です。
ご確認ください。
死因は窒息によるものと思われます。
千葉県市川市の八幡の藪知らず
古くから入ったら二度とは出てこられないといわれた所
平将門の家臣が泥人形になったという伝説もある
あの何かあったんですか?
(男性)首つり自殺ですよ。
まだ若いのにね銀行員ですって。
銀行員…。
《今その椅子には田中次長…誠一さんが座ってるの》すいませんあの違うとは思うんですけど亡くなられたのって長産銀の方ではないですよね?あなたは?ルポライターの浅見といいますが平将門の取材でたまたま。
長産銀の田中さんをご存じなんですか?はい。
えった…田中さん?もしかして田中誠一さん?そうですが…お知り合いの方ですか?あっいや特別親しい間柄という…。
ちょっと署までご同行願えますか。
あっあれちょっと…。
(須藤)お願いします。
いや僕は何も!
(須藤)静かに。

(ノック)・
(須藤)失礼します。
部長ちょっといいですか?
(長橋)うん。
ちょっと失礼。
(長橋)誰だ?
(須藤)ルポライターらしいんですけど突然現場に現れてガイ者の知り合いだと言うので。
調べろ。
(須藤)はい。
阿部さん。
浅見君どうして?将門公ゆかりの地を取材していたらそこで偶然。
実は昨日田中さんとお会いしたんですがとても自殺をするようには見えませんでした。
私もそう思います次長が自殺するなんて。
現場の状況は自殺以外には考えられないです。
首の索状痕の他には外傷もなく争った形跡もありません。
田中さんの昨日の行動ですが…。
確か次長は午後から外出してました。
その後連絡がないので分からないんです。
こちらにも連絡はありませんでした。
阿部さんに田中さんから何か連絡は?連絡はありました。
昨日は私の仕事もあまり遅くならないので一緒に食事をしようと。
東京駅の丸の内口で待ち合わせをして…。
でも急用で来られないと。
その電話があった時間は?8時ごろだったと。
その急用ってのは何だったんですか?
(長橋)阿部さん?何も。
失礼します。
ちょちょちょっとちょっと…。
ちょっいやあの…。
浅見っていったっけ。
あんたにはねちょっと聞きたいことがあるんだよ。
部長!
(長橋)何だ。
あの浅見刑事局長の弟さんらしいです。
えっ浅見ってあの?そうなんです。
警察庁刑事局長浅見殿の弟さんとは知らず大変失礼いたしました。
(須藤)すいませんでした!あっいやいやあの…。
失礼いたしました!
(須藤)すいませんでした!いやもうそんな結構…大丈夫ですあの。
(読経)・
(長橋)浅見さん。
昨日は失礼をいたしました。
ああいえ僕が勝手に首を突っ込んだことですから。
いえいえ。
実はあれから考えましてね。
確かに自殺にしては場所も動機も色々とおかしな点があります。
自殺以外も視野に入れて捜査をすることになりました。

(足音)
(長橋)長産銀のトップの深田頭取です。
先代の大西頭取から引き継いで天下の長産銀のトップに上り詰めたやり手です。
あっどうも。
あの田中さんの足取りなんですが行員からの収穫はありませんでした。
田中さんの急用が何だったのかが気になります。
そちらも捜査中ですそれでは。
(高島)将門公のたたりだ。
あの…。
今「将門公のたたりだ」と。
あっちょっと。
浅見さん?いらしていただけたんですね。
このたびは。
あっあのご老人は?
(前原)さあ存じ上げませんけど。
今将門公のたたりだとつぶやいていたんですけど。
将門?田中さんが座っていたのは将門の椅子ですよね?ええ。
お話伺えませんか?ちょっとここでは。
(前原)次長が亡くなってから将門の椅子のことはかん口令が敷かれてるんです。
かん口令?7年前5階の事業推進部の将門の椅子に座っていた井田部長が自殺されたんです。
それも茨城の将門川で。
しょうもん川?
(前原)「まさかどかわ」と書いて将門川。
その後に将門の椅子についた渡辺課長も病気で亡くなって。
今度の田中さんもその将門の椅子についていたんですね。
そうです。
気の早い人たちがまた将門のたたりだと騒ぎ始めて。
将門のたたり。
銀行の対外的なイメージを損なうから将門のことは誰にも言うなとかん口令が敷かれているんです。
浅見さんこのことは誰にも言わないでくださいね。
あっすいません。
あの夜の田中さんの急用が何だったのか国際部の仕事のことで何か考えられませんか?これは阿部さんも知らないことだと思うんですけど。
次長は頭取から特別な仕事を任されていたみたいなんです。
頭取から…。
次長は大西前頭取の秘書も務めていましたし今の深田頭取からもよく呼び出されていました。
きっと何か特別な仕事を任されていたんだと思うんです。
阿部さん。
つらいだろうけど田中さんのことを聞きたくて。
僕には田中さんが自殺をするような人には見えなかった。
必ず帰ってくるって言ったのに。
(奈緒美)《何これ》《はい》《どんなに忙しくなっても必ず君のところに帰るから》《結婚してもさみしい思いはさせないよ》《結婚?》《今の仕事がひと段落ついたら君とのこと正式にご挨拶に伺おうと思ってるんだけどいいかな》《誠一さん》そんな田中さんが…。
私も自殺したとは考えられなくて。
仕事上のことで何か思い当たることは?田中さんが国際部の仕事の他に何か抱えていたことは?
(長橋)将門の椅子?将門の首塚に尻を向けて座るとたたられるというあれですか?ええ。
(長橋)浅見さん。
悪い冗談を聞かせるためにここまでいらっしゃったわけじゃないですよね?捜査の進捗でしたら須藤の方から説明させますのでご心配には及びません。
でもさすがルポライターさんですよね。
想像力たくましいというか。
こらそういう言い方は失礼だろ!
(須藤)すいません。
いやいやいや言下に否定しようとは思いません。
浅見さんのようなユニークな視点はわれわれにはないものですから。
7年前の井田部長と渡辺課長。
そして今回の田中次長。
3人ともその将門の椅子についていた。
果たしてこれが偶然のことなのかどうか…。
うーん。
(須藤)どうぞ。
しかし井田部長と渡辺課長が亡くなったのは7年前の話ですし。
はあ…。
この将門塚に背を向けて座ると死を招くといわれる将門の椅子
単なる迷信かそれとも…
まず千葉県松戸市の井田部長のお宅を訪ねた
奇麗なお花ですね。
(淑子)主人が好きでしたから。
突然お邪魔して無礼だとは思いますがご主人がお亡くなりになった件でお仕事上何かあったんでしょうか?
(淑子)主人は仕事をうちに持ち込まない人でしたから。
お恥ずかしい話ですがそこまで悩んでると思いませんでした。
遺書にも詳しいことは何も書かれてなかったので。
ご主人が発見されたのは茨城の将門川だそうですが何か思い出のある場所だったんでしょうか?それともう一つご主人のデスクが将門の椅子と呼ばれていたのはご存じですか?主人が亡くなったかなり後でしたけど渡辺課長の奥さまから聞かされました。
2人が死んだのはたたりだって。
あのもし差し支えなければその遺書を拝見させていただけますか?遺書ですか。
(淑子)こちらです。
そういえば田中次長さんも先月来られて同じように見せてくれとおっしゃられて。
えっ田中さんが?失礼します。
「ご迷惑をかけて申し訳ございません」「すべては私自身の判断で行ったことであり命をかけて義務を果たす所存であります」ご主人は何の責任を取ろうとされていたのか。
あっそのことで田中さんは何か言ってましたか?いえ何も。
命をかけて義務を果たす。
次に柏の渡辺課長宅を訪ねた
(英子)主人とは同じ部署で社内結婚だったんですよ。
私は寿退社しましたけど。
どうかお構いなく。
同じ部署でしたらその…。
ご主人がお座りになっていた椅子の噂はご存じですよね?
(英子)ああ主人も気味悪がっていたんですけどまさか本当に死んでしまうなんて。
(英子)心臓発作で倒れたんですけど主治医の舩引先生が来てくれたときにはもう手遅れで。
主治医?ええ長産銀の指定医をされてた方です。
ご近所なのでうちもお世話になっていて。
あの日実家にいた私のところに主人から電話があったんです。
心臓が苦しいって。
それで私から先生のクリニックに連絡したんです。
先生はすぐに来ていただいたみたいなんですけどそのときはもう。
でその舩引先生はどちらに?
(英子)あっ南柏でクリニックを経営されています。
・すいません!はい。
舩引一馬先生はいらっしゃいますか?はあ…。
あっ大先生!
(舩引)うん?お客さまです。
どうもありがとうございました。
はい。
(舩引)君は?浅見といいますが少しお伺いしたいことがありましてお時間よろしいでしょうか?
(舩引)何だね。
長産銀の指定医をされていたそうですね。
(舩引)ずいぶん前の話だな。
大西から頼まれたんでね。
前頭取の大西さんですね。
彼とは戦友で生死を共にした仲だが…で?ああ実は主治医をされていた渡辺課長の死因について詳しく知りたいんですが。
渡辺君の?はいあっ奥さまの英子さんから許可は頂いてます。
うんもうずいぶん前のことだがあのときは確か奥さんから電話があって急いで駆け付けたが予想外に深刻だった。
息は辛うじてあったが意識がもう。
発作の原因は何だと考えられますか?おそらく過剰なストレスが彼の心臓をむしばんだのではないかな。
彼は当時不良債権処理の最前線にいたはずだ。
おまけに彼の上司が自殺した直後でプレッシャーも相当かかっていたのだろう。
さすがに大西には提言したよ。
仕事に命を懸けるのもいいが死んでしまっては元も子もないとね。
さてともうよろしいかな。
ああ大変参考になりました突然申し訳ありませんでした。
命を懸けて仕事をした。
仕事に命を懸ける。
「命をかけて義務を果たす」
(英子)どうしたんですか?そんなに慌てて。
今お水持ってきますから。
あっいやお水は結構ですから。
あの実は井田部長の遺書のことで…。
これ見ていただけますか?その遺書なんですが内容がどうも不自然というかあの故人の遺志が見当たらないというかしゃくし定規というか…。
あの定型文のように思えるんです。
「ご迷惑をかけて申し訳ございません」「すべては私自身の判断で行ったことであり命をかけて義務を果たす所存であります」命をかけて義務を果たす所存?どう思われますか?これ…。
(長橋)債務返済のマニュアル?ええ。
もしもお金が返せなくなったときのために債務者に書かせる覚書のようなものだそうです。
(須藤)ひどいこと書かせますね。
同じ部署だった渡辺課長の奥さまに確認してもらったところこの井田部長の遺書とそのマニュアルがそっくりだそうです。
ということはどういうことですか?そのマニュアルを遺書として誰かが利用した。
さらに田中さんが井田部長宅を訪れてこの遺書を確かめてます。
それは無視できませんな。
井田さんの自殺の状況を死体が発見された常総署に問い合わせたんですが言われてみれば自殺とも他殺とも事故とも取れます。
いやいや井田さんの件は自殺で決着がついてる。
これをひっくり返すとなると事だぞ。
井田さんと田中さん将門の椅子に座っていた2人が将門公ゆかりの地で亡くなった。
将門のたたりに見立てて殺されたとしたら…。
飛躍し過ぎのきらいもありますが遺書に見立てたマニュアルと田中さんの行動が気になります。
2人のこと洗い直しましょう。
(陽一郎)座ると死が訪れる将門の椅子。
事業推進部の井田部長とその部下の渡辺課長。
そして国際部の田中次長。
渡辺課長の病死は偶然だとしても井田部長と田中次長のケースは気になります。
(陽一郎)それぞれの死にまつわる将門か。
それにこのマニュアルとそっくりの遺書。
(陽一郎)いくらマニュアル化の時代でも人生の最後を締めくくるならそれで済ませるということはないだろうな。
僕もそう思いますが…。
あっ井田部長の自殺の背景には長産銀内部の問題があるんじゃないでしょうか。
(陽一郎)有り余る資金の運用。
貸し出し競争に奔走したバブル期の過剰融資と不正融資。
そして金融政策の転換によって生じた巨大な不良債権という墓穴。
その結果倒産する企業が続出したことは言うまでもないが。
でも経営は改善されて正常に戻ったんじゃありませんか。
(陽一郎)いやもっと厄介な問題がくすぶってる。
金融庁の情報によると粉飾決算だ。
これが事実なら長産銀の死命を制しかねない大問題だな。
兄さん田中次長は頭取直轄の特命任務を持っていた可能性があります。
その特命任務と事件とが関係あると?あ…断定はできませんがそれが長産銀の重大機密に関わる任務だとしたら…。
しかし将門の椅子とはな。
銀行という近代的な組織が古色蒼然とした将門伝説におびえてるとしたら不条理この上もないことだが。
1,000年の時を越えて蘇る将門のたたりか。
うーん。
(行員)おはようございます。
(深田)浅見光彦?知らんな。
(中町)どうも死んだ田中次長について調べてるようでして。
頭取に直接面会をと。
(深田)田中次長は自殺したのではなかったのかね。
(深田)だいたいその浅見という男は何者なんだ?田中次長と付き合っていた国際部の阿部奈緒美の友人で警察署刑事局長の弟です。
あの切れ者の弟か。
厄介だな。
田中次長のことであの件がマスコミにでも流れたら金融庁の立ち入り調査にも影響が出ます。
あの件…。
(深田)これか…。
(深田)この将門の脅迫状についてはもう手は打ってあるが念には念を入れた方がいいな。
はい。
すでに。

(ノック)入りなさい。
(前原)失礼いたします。
阿部さんをお連れいたしました。
前原君は下がっていいよ。
はい失礼いたします。
あの重要なお話とは…。
中町君。
私は田中君の将来を買っていた。
それだけに彼の名誉を傷つけたくない。
故人の名誉のためにも墓を掘り返すようなことは避けたいと考えている。
浅見さんのことだよ。
事もあろうに頭取に直接会いたいと言ってきた。
会社としては彼のような存在を野放しにはできない。
品位に関わることだからね。
それは浅見さんにはもう関わるなと。
私が言いたいのは墓を掘り起こすようなことはしてほしくないということだけだ。
当行の行員としての君の良心の問題でもある。
いいね。
二度とは言わん。
ご友人によろしく伝えてほしい。
会う気はないとね。
(前原)阿部さん少し食べないと体に悪いわよ。
阿部さん。
阿部さん僕に何か力になれること…。
(奈緒美)浅見君。
浅見君には関係がないことだから。
阿部さん頭取室に呼ばれて…。
おそらく田中次長のことを浅見さんが色々と調べているからではないかと。
正直銀行は内部に色々問題を抱えていて浅見さんのような人は特に警戒されるんです。
次長が亡くなってからまるで人が変わったように口数も少なくなって。
阿部さん。
力になりたいんだ。
浅見光彦の友人阿部奈緒美の恋人田中誠一が首つり死体で発見された
彼の勤める銀行では7年前から将門の椅子に座る者が次々と不可解な死を遂げている
彼が追っていた将門の正体とは…
そしてその鍵を握る脅迫状の謎とは…
(奈緒美)浅見君の気持ちはうれしいけど。
確かに僕には関係のないことかもしれないし迷惑かもしれない。
でもこのまま田中さんのことをうやむやにはできないししたくない。
(奈緒美)彼のこと愛していたのは確かなの。
でも…。
私には見せない顔が彼にはあって頭取からは墓を掘り返すようなまねはやめろって。
何もなかったらそんなこと言うはずないし。
僕は田中さんが自殺だとは思えない。
それに阿部さんを裏切るような人だとも思えない。
って一度しかお会いしたことがない僕が言っても説得力ないよね。
どれだけ力になれるか分からないけど少しでも阿部さんの気持ちを楽にしたいんだ。
阿部さん。
実は誰にも話せなかったことがあるの。
あの日…。
《もしもし誠一さん?》《来られないって…》《急用…》《残念だけどじゃあ》
(奈緒美)せっかくのデートがふいになって仕方なく1人で帰ろうとしたら…。

(奈緒美)まさかと思ったけど私の祖父だった。
おじいさんと田中さんとはどういう?誠一さんが秘書をしていた大西前頭取と祖父は戦友だけどいやでも…。
それで確かめてみようと…。
(代田)《失礼しました》《急いでるので》お二人の姿はなかった。
誠一さんが死んだのはその後。
おじいさんが田中さんの死と関わりが…。
将門の椅子に座る誠一さんが祖父に会った後八幡の藪知らずで自殺。
何だか彼の死が私に関係してるような気がして。
もしかしたら将門の末裔だから私に近づいたんじゃないかってことまで。
彼が本来の仕事以外に頭取からの仕事をしていたのは何となく分かっていたしそのことで悩んでいたようだったけど…。
でも私にはそんな顔見せないようにしていたし何かもう訳分かんなくなっちゃって。
その後おじいさんと何か話は?祖父に会ってホントのこと聞くのが怖くて。
私の知らない誠一さんのこと知るのが怖くて。
彼のこと信じられなくなるのが怖くて…。
阿部さん会おう!えっ?田中さんのこと信じたいのならおじいさんに会って確かめよう。
平将門の生地とされる坂東市
旧岩井町の将門まつり
毎年恒例のお祭りは郷土愛を象徴している

(幸正)奈緒美。
國王神社。
将門公を祭った神社としては最も有名で正統性があるとされてますね。
(幸正)うん。
天禄3年に将門公の三女如蔵尼が創建されたもんじゃがあんたようご存じじゃのう。
ええ。
今将門公のルポを書いてまして。
(幸正)ほう。
しょうもん様をのう。
ハハハハ。
しょうもん様?
(幸正)ああ。
この辺りでは将門公のことをみんなしょうもん様と呼んどるんじゃ。
ハハハ。
奈緒美何か話があって来たんじゃろ?おじいちゃん私見たの。
(幸正)うん?田中次長…誠一さんと東京駅で一緒にいたでしょ?ああ。
あの日は用があって東京へ出てたんだ。
田中君から電話が入ったんだよ。
それで東京駅で会ったんですね?うんちょうどいい機会だからと言ってね。
どういう用件だったんですか?うん彼が会いたいと言った用件は2つあった。
1つは将門公からの脅迫状についてだ。
将門公からの脅迫状?それは…。
いわゆる長産銀の内部告発とも取れるもんだ。
しかも差出人は平将門公を名乗っておる。
先代の大西頭取とは戦友で長い付き合いだった。
その上しょうもん様を崇拝してるわしこそが…。
そんな疑いを持って調べておったようじゃ。
(田中)《正直に言います》《あなたが頭取宛の将門の脅迫状の送り主平将門の正体ではないかと》《でもそれは誤解でした》
(幸正)《誤解?》《誰と誤解したんだね?》《ようやくその正体が…》《でその将門というのはいったい誰なのかね?》《それをこれから会って確かめます》
(奈緒美)誠一さんは誰に会いに行ったの?
(幸正)東京駅で別れたがそこまでは…。
やっぱり私が将門の末裔だから…。
うん?
(奈緒美)誠一さんは将門を探していたんでしょ?だから私に近づいて。
何を言ってるんだ。
田中さんは将門公ゆかりの地で亡くなりました。
銀行では将門のたたりだという噂まで流れています。
そんな…。
奈緒美さんは何を信じていいのか分からなくなってしまっているんです。
田中君がわしに話したかったもう一つの用件は奈緒美お前とのことだ。
えっ?結婚を認めてほしいと。
《時間がかかるかもしれませんがこの件が落ち着いたら2人であらためてご挨拶に伺います》《奈緒美さんを必ず幸せにします》
(幸正)真っすぐな目でそう言った。
たたりなどしょうもん様はそんなことはせん!
(幸正)時の権力から謀反の反逆児とされたしょうもん様だが本当は民衆を救う正義の勇者だ。
しょうもん様はわが郷土の誇るべき英雄だ。
田中誠一君が正しく生きていたならばたたりが降り掛かるなんてことは絶対にない!
(奈緒美)祖父に私のことを話しに行った誠一さんが自殺なんてするはずがない。
田中さんが確かめに向かった脅迫状の将門。
その将門がいったい何者なのか。
浅見君私ホントのことが知りたい。
どうして誠一さんが死んでしまったのか。
将門の脅迫状…。
すると田中次長はその脅迫状の差出人に会いに行ったってことですか?おそらく。

(須藤)部長!うん?
(須藤)田中次長は事件当夜21時30分に柏駅にいました。
確かか?
(須藤)ええ。
柏駅の防犯カメラに確認されてます。
田中さんは将門の脅迫状の送り主を突き止め柏駅に向かいそこで事件に遭遇した。
でも田中次長の死亡推定時刻は22時すぎ。
死体が発見された市川市の八幡の藪知らずと柏とは20km以上も離れてるんですよ。
何者かが死体を運んでこの木につるした。
将門伝説の地を選んで自殺を装った殺人。
将門の椅子の3人井田さん渡辺さん田中さん。
僕にはこの3人の死が1本の糸でつながっているように思えてならないんです。
1本の糸でつながるって。
井田部長と田中次長の偽装自殺が濃厚になったとしても渡辺課長は病死ですよ?果たして本当に病死かどうか…。
えっ?ああいずれにしても事件の鍵を握っているのは脅迫状の将門だと思われます。
ああありがとう。
(雪江)光彦。
はい。
あなた中央構造帯って知ってるでしょ?中央構造帯?ええもちろん知ってますけど。
(須美子)何ですか?それ。
うん。
関東から九州を縦断してる断層のこと。
でお母さんその中央構造帯が何か?うーんこの中央構造帯のね関東地方の部分とあなたの将門公の史跡と比べてみて。
あっなるほど!将門公の史跡と重なってますねお母さん。
(雪江)そうでしょ?目に見えない中央構造帯とあなたの将門公の史跡とが重なってるって不思議でしょう?ええ。
こうして見ると構造帯の中央には何か巨大な力があってその力に操られているように見えない?巨大な力。
(雪江)うん。
巨大な力に反逆した将門。
巨大な権力。
長産銀に立ち向かう将門…。
(雪江)光彦。
はい。
あなたまさかまた変な事件に首突っ込んでるんじゃないでしょうね?あああっいや…。
いけません!将門公を甘く見てはいけません!怨霊亡霊呪いたたり!
(須美子)奥さま!ちょっとちょっとお…お母さん落ち着いて落ち着いて!将門公があなたの探偵ごっこをお怒りになってあなたにまでたたり…!あっ!ああっ。
お母さん。
(雪江)いけませんいけません!もう絶対にこれ以上はいけません!
(長橋)浅見さんわれわれも一度は調べたんですが…。
ええ。
「陸軍第二十八連隊沼津部隊」「高島又左衛門」「千葉県柏市東」田中次長が下車したのは柏駅。
事件の夜田中さんが会いに行った将門はこの高島さんという可能性も。
ごめんください!・やっ!おう!やっ!・はっ!おう!
(高島)《将門公のたたりだ…》《今将門公のたたりだと?》
(高島)よっ!あっ…。
浅見といいますが高島さんでいらっしゃいますか?ああ。
長産銀の田中次長のことでちょっとお話を…。
國王神社神田明神築土神社…。
将門公ゆかりの地のものですね。
(高島)ハハ。
お若いのにあんた将門公の事跡をご存じか?いやそれほど詳しくはありませんが田中さんとはどういうお付き合いだったんでしょうか?そう彼が大西頭取の秘書だったころに戦友会の名簿づくりを手伝ってもらった。
あっこの写真はその戦友会のものですか?うむ。
陸軍第二十八連隊沼津部隊掛川の十九首塚に集う戦友仲間だ。
掛川の十九首塚?ああ将門公たちの首を埋めたとされる所だがね。
天慶3年のこと都から下向した勅使がその首を京の都に近づけてはならんと命じ掛川の地に葬った。
将門公のたたりを恐れてその地に埋めたという伝説だがね。
戦友会はその伝説の地で行われているんですか?ああことしは今度の土曜日だが年々人数が減ってるよ。
その一番左に写っているのは大西だがその写真を撮って間もなく逝ってしまった。
こちらは阿部幸正さんですね。
おうあんた岩井町の阿部を知っとるのか。
ああ将門公の末裔だと伺いましたが…。
こちらは舩引一馬さんですね。
帝大医学部を卒業された軍医殿だがその方のおかげでわしは命を永らえたようなもんだ。
といいますと?何を調べに来たのかね?田中さんのことで何か思い当たることはありませんか?あれは将門公がたたった自殺じゃないのかな?いやおそらく何者かが仕組んだんじゃないかと。
どうやらあんた将門公のたたりなど信じちゃおらんようだが。
だとしたら長産銀でずいぶん前から妙な死人が出るのはなぜかね?それだけ長産銀が腐りきっているということじゃないか。
その腐敗を正すのが将門公のたたりだというのならまさしくたたりだよ。
将門公の権力への挑戦。
飽くなき正義の霊魂は生きておられる。
高島又左衛門は工務店を経営してたんですが長産銀からの融資の返済に行き詰まって倒産。
工務店の土地と建物は借金のかたに処分されてますね。
銀行とは名ばかりで悪徳高利貸だと同業者に長産銀への恨みつらみをぶちまけてたらしいです。
田中さんが突き止めた将門の正体があの高島さんだとしたら将門を名乗って倒産に追い込まれた恨みを晴らそうとしていた。
動機としてはじゅうぶんなものがありますが…。
高島さんは長産銀の融資返済が原因で倒産に追い込まれたと伺いましたが。
戦友だった大西前頭取から支援のような物はなかったんですか?そんな情実が通用するような甘い世界じゃない。
何が天下の長産銀だ。
あいつらはバブルのときは「借りてくれ借りてくれ」バブルがはじけたら手のひら返しで「返せ返せ」フン。
あいつらのやり口は高利貸以下だ。
戦友なんてものは借金の足しにもならん。
だけど舩引軍医殿は違った。
あの方は一文無しになったこのわしに援助の手を差し伸べてくれた。
軍医殿のおかげで命を永らえたとおっしゃっていましたが戦争中にも何か…。
そう。
昔のことだがね。
昭和20年8月15日。
終戦の詔勅を聴いて自決しようとしたわれわれに舩引軍医殿はこう言われた。
「早まるな!今死ぬのは名誉ある自決とは言えん!」「名誉ある自決とは言えん」「今死ぬのは犬死ににも等しい」「君たちは郷里へ帰ってこの国を立て直す礎になるのだ」軍医殿のお言葉がこの胸を刺した。
われわれは軍医殿と共に十九首塚にお参りし再起を誓った。
十九首塚に将門公の首が埋められたのが8月15日。
将門公たちは19人。
あの大戦で生き残った部隊兵も19名。
魂が震えるようだった。
戦いに敗れた将門公にわが身を重ねての誓いだった。
その後わしは大工から工務店を立ち上げ軍医殿は大西頭取に請われて長産銀の指定医になられた。
それから半世紀にわたって指定医を務めあげられたんですね。
うん。
軍医殿は長産銀の歴史と共に歩んでこられたが無事に引退されクリニックを息子さんに譲られた。
引退…。
あっ。
舩引先生が引退されたのはいつのことですか?ああ。
あれは10年前だったかな。
10年前…。
間違いありませんか?いやそれほどもうろくしちゃおらんよ。
うちの工務店がつぶれた年だから間違いない。
事業推進部の渡辺課長が心臓発作で亡くなったのは7年前
舩引医師の引退は10年前
引退したはずの舩引医師が往診していた
引退してから3年後の往診
・舩引さん。
(舩引)ああ浅見さんだったかな。
はい。
クリニックを訪ねたらこちらだと伺ったもので。
こちらには毎日参拝されているそうですね。
将門公にお会いできるような気がしてね。
将門公…。
この布施弁財天も将門公にゆかりがあるんですか?正式には紅龍山東海寺だが将門公は父親の平良将とこの岩屋にすんでいた赤い龍の間に生まれた子だという伝説がある。
そういう伝説があったんですか。
行く先々に将門伝説があるようで。
今日は何か?クリニックを息子さんに譲ったのは10年前だったそうですね。
ああ…もうそんなにたつか。
長産銀の渡辺課長宅を往診したのは7年前でした。
そのときはもう引退されていたんではありませんか?息子に譲ったといっても時々は手伝っていたからね。
そうあれはちょうど私が居合わせたときの電話だった。
渡辺課長の死亡診断書を書かれたのも舩引先生ですか?うん。
医師免許はそのまま持っていたからね。
(奈緒美)3人の死がつながっている…。
それぞれの死に将門の影が見え隠れする。
将門の伝説を利用した連続殺人に間違いないと思う。
誠一さん…。
監視されてる。
えっ?見ないで。
行こう。
《失礼しました》あの日私にぶつかってきた人。
でも何で…。
阿部さんと田中さんを引き離したかった。
私と?何か用ですか?浅見君。
大丈夫。
おそらくあの男の狙いは僕だ。
事件の夜田中さんの行動もあの男に監視されていた
代田聡。
(陽一郎)企業恐喝の前歴があるマル暴に近い企業ゴロだ。
長産銀との関係が推測されますね。
企業ゴロの窓口は総務だが。
総務部は…。
中町部長。
(陽一郎)問題は深田頭取の関与の有無だな。
光彦。
井田部長と渡辺課長は不正貸し付けと強引な債権回収を指揮しその先頭に立っていたと思われる。
あこぎな取り立てで自殺者が出るほどのものだったらしい。
いわば長産銀の恥部。
しかしその2人が死んだことでその件は闇に葬られその後深田は頭取へと出世した。
もしかして将門の脅迫状はその後も変わらない銀行の不正経営の警告だったのでは?脅迫状の差出人平将門。
田中次長は特命を帯びてそれを調べていた。
そして事件当夜将門に会いに行った。
将門になり得たのは長産銀に対し強い恨みを持つ高島又左衛門。
渡辺課長の死をみとった舩引医師。
それに田中さんと最後に会話をした阿部幸正。
でも決定的な何かが足りないんです。
光彦くれぐれも無茶はするなよ。
はい。
あっまたあなた。
何度もすいません。
大先生はねお参りよ。
ああ今日は先生ではなくて…。
私?はい。
あの舩引先生は引退されてからも診察されることはあるんですか?ないわよ。
息子さん信頼されてるし。
あっでもずいぶん前だけど1回だけ往診に行ったことがあったわね。
1回だけ。
うん。
一緒に行きますって言ったら「ついてくるな」って。
もう珍しくすごいけんまくで怒鳴られちゃったから。
その1回は長産銀の渡辺さんじゃ?いえ…いやこれ以上は言えませんので。
1回だけの往診…。
浅見君?あした掛川でおじいさんたちの戦友会がある。
そこで将門の正体を確かめる。

(幸正)大西は逝ってしまったし19人の仲間はたった三人になってしもうた。
浅見さん。
こんなとこまで何の用かね?脅迫状の送り主に会いに来ました。
浅見さんわきまえてほしい。
ここではそんな話してほしくない。

(奈緒美)おじいちゃん。
奈緒美。
あの日私は将門に会いに行く誠一さんを見失ってしまった。
なぜ彼が死んだのかどうしても真実が知りたいの。
舩引さん。
将門の名をかたった脅迫状。
あれはあなたが送ったものですね?浅見さんあんた何をおっしゃるんだ!?軍医殿を侮辱する気かね!?舩引クリニックの脇に…。
これが落ちてました。
それ誠一さんの…。
あの日田中さんはあなたを尋ねました。
田中さんが会いに行った将門は舩引さんあなただった。
長産銀の度重なる不正。
半世紀もの間指定医を務めあげたあなたはそれを見過ごすことができなかった。
舩引さん僕は刑事ではありません。
ただ真実が知りたいだけです。
話してくれますね?
(舩引)浅見さんあなたが言うように長産銀の不正腐敗は目に余るものがあった。
倒産自殺心中一家離散…。
不正貸し付けによる犠牲者は後を絶たなかった。
私のクリニックの患者からも自殺者が出た。
自殺者…。
木村勇悦。
不動産会社を経営して長産銀からの融資の返済に行き詰まり首をつった。
(舩引)絶望の淵に追いやられてのことだった。
(舩引)通夜のとき…。
(舩引)井田と渡辺が死んだばかりの木村勇悦の生命保険の証書を取り立てに来た。
(舩引)借金の債務回収が仕事とはいえここまでするものかと。
死んだ者の生命保険まで搾り取ろうというのか。
(井田)《お言葉ですが口を挟まないでいただけませんか》
(渡辺)《故人はそのつもりだったんですよ》《何!?》
(井田)《ほら》《木村さんも書いてるでしょう》《「命をかけて義務を果たす所存です」って》《奥さんのためにもこれを返済に充てるつもりだったんですよ》《故人の遺書は尊重しようじゃありませんか》《では》
(舩引)これが優秀なエリート銀行マンの言葉か。
2人から返ってきた言葉にショックを受けて全身の血が逆流するようだった。
夫の後を追うように妻も自殺した。
木村勇悦の妻宏子。
私の娘です。
(舩引)籍には入っていないが私が出征した後恋人が産んだ子供だった。
その女性は空襲で亡くなったが戦後の混乱の中で私はこのことを知らずにいた。
(舩引)服毒自殺だった。
(舩引)父だと名乗ることもできず死んでいった娘…。
(舩引)冷たい亡きがらにしがみついてただただ一晩中泣き明かした。
人間の命よりも金。
それが天下の長産銀のやることか。
(井田)《いちいち同情していてはこの仕事はやれませんよ》《借りたものは返す。
当然でしょう》《フッ。
ボランティアではありませんから》《もう借金で苦しむことはありませんからゆっくり成仏できるようにお伝えしましょう》
(鈴の音)抑えようとしても抑えきれなかった。
まるで将門公の魂が乗り移ったように。
井田部長の死因は頭部の外傷。
落下の際頭を強打して生じたと判断され自殺として処理されました。
「命をかけて義務を果たす所存であります」この遺書は井田部長直筆のマニュアルだったんですね。
あの男はかばんに入れて外回りのとき持ち歩いていた。
結局娘の宏子の生命保険も債務回収に充てられた。
渡辺課長の体調不良の電話はそんなときだった。
私には願ってもないチャンスが巡ってきたように思えた。
《いや助かりました》《先生これでもう一安心です》《うっ…。
先生》《うっ…先生…先生…》《先生…せ…先生…》《先生…》しかし井田部長と渡辺課長が亡くなったことで全ては闇に葬られその後就任した深田頭取によって不正経営はさらに激しくなった。
頼みの綱の大西も死んでしまいもう止める手だてがなくなってしまった。
脅迫状を送ったのも私です。
深田頭取は脅迫状を書いた将門が邪魔だった。
そこで…。
田中さんを内偵として使った。
あの夜田中君は私の家を訪ねてきた。
(田中)《あなたが将門だったんですね》
(田中)《先代の大西頭取の戦友であり長産銀の指定医》《井田部長の遺書に利用したマニュアルの入手》《渡辺課長の死亡診断書》《それができるのはあなたしかいない》《理由はどうあれあなたのした行いは決して許されるものではありません》《でもあなたの怒りは私にも理解できます》《私の怒り…》《私は理想を持って入行しました》《しかし将門を追ってくうちに様々な現実が見えてきました》《長産銀は創業時の理念も忘れ人の命よりも目先の利益を優先する高利貸以下に堕ちてしまった》《亡くなった人たち苦しんでる人たちのためにも私は長産銀を内部告発します》《しかしそんなことをしたら銀行は…》《舩引さん私はあなたから覚悟というものを学びました》《覚悟…》《だが私の行為はただの復讐です》《2人の人を殺し怒りを脅迫状という形でぶちまけただけだ》《分かりました。
自首します》《全てを白日の下にさらし罪を償います》・
(田中)《うっ…》《先生分かっていただきたい》《銀行はつぶれるわけにはいかないんですよ》《私も先生から学びました》《偽装自殺という完全犯罪をね》《あなたがどう騒ごうと田中は自殺となり井田渡辺と共に将門のたたりで死んだとみんなが噂をする》《何も証拠はない。
あなたの記憶以外》《しゃべったらどうなるか分かりますよね》
(舩引)《うっ…》《そのときはあなたのご家族も巻き添えです》《分かりますよね》田中さんの遺体は将門伝説ゆかりの地八幡の藪知らずに運ばれ自殺に見えるよう偽装工作が行われた。
奈緒美!奈緒美大丈夫か!?私は将門公を名乗りながらもなりきれなかった。
奈緒美さんすまない。
私のやったことが結果的に田中君を死に至らしめてしまった。
彼の正しい心を…。
田中君はなこの件が落ち着いたら2人で挨拶に来ると言った。
たとえ銀行と刺し違えても正義を貫いて一から奈緒美と歩きたかったのかもしれんな。
田中さんは亡くなりましたが心は生き続けます。
田中さんの正義を愛し巨大な悪に立ち向かう姿こそが真の将門公の心なのかもしれません。

翌朝舩引医師は身を投げた
彼の遺書は警察に送られた
(中町)おはようございます。
・深田頭取。
(中町)浅見さん。
阿部君。
(深田)君が浅見君か。
将門の椅子と脅迫状の謎が解けました。
(深田)何のことだね?墓を掘り返すことになりますがお聞きになりますか?バカバカしい。
消えたまえ。
警察を呼ぶぞ!あなたが呼ばなくてもそのうちここに殺到することになるでしょう。
先に行ってなさい。
どういう意味だ?あなたたちは将門を利用して田中次長の偽装自殺を演出した。
彼が知ってしまった長産銀の闇を封印するために。
まさか腹心と思っていた田中次長が歯向かうとは思わなかったでしょう。
有能な彼を直属の部下に引き入れたはずが自分たちの悪事を暴くなんて。
田中次長の行動を監視させ組織防衛のために彼を殺害した。
実行犯は中町さんお抱えの代田聡という企業ゴロです。
何を根拠に?舩引一馬さんが遺書に全てを書き残していました。
浅見君といったな。
私には何のことだかさっぱり分からない。
将門の椅子脅迫状。
フフフ。
くだらんざれ言だ。
阿部君。
実に残念だよ。
こんな男に肩入れして恋人の死を汚すようなことを。
彼の死の償いはお二人にもしていただきます。
くだらん!代田聡がけさ逮捕されました。
深田頭取あなたの関与があったかどうかすでに当局が捜査に着手しました。
いずれ真実は明らかになるでしょう。
ご存じですか?将門公の真の姿は逆賊ではなく義憤に駆られた志士だということを。
将門を利用したつもりが逆に将門に討たれてしまったようですね。
彼のこと信じられなくなったときもあったけど違った。
誠一さんは私と生きるために精いっぱい闘ってくれた。
一度離れかけた思いもこうして阿部さんに返ってきた。
田中さんは正義を貫こうとした。
たとえ裏切り者と言われようと。
田中さんは阿部さんが思っていたとおりの誠実な方だった。
ありがとう浅見君。
2014/12/05(金) 21:00〜22:52
関西テレビ1
赤と黒のゲキジョー・浅見光彦51 中央構造帯[字][多]

平将門の呪い?巨大メガバンクに相次ぐ怪死!送られた脅迫状の謎?隠された権力争い…裏切りと金!将門の末裔が背負った哀しき運命とは! 中村俊介 星野真里

詳細情報
番組内容
 平将門の取材で大手町のオフィスビル街を訪れたルポライター浅見光彦(中村俊介)は、大学の同期の阿部奈緒美(星野真里)と彼女の上司・田中誠一(長谷川朝晴)に会う。2人は将門塚史跡に隣接する日本長期産業銀行に勤務していたため、“平将門の祟り”について取材をしていたのだった。2人の話から、奈緒美の出身地が平将門の生地と同じ茨城県岩井町だったこと、銀行には将門像にお尻を向けて座る席・通称“将門の椅子”が
番組内容2
あり、その椅子に座る人が立て続けに2人も亡くなったことを知った浅見は、その都市伝説に興味を示す。そして誠一が先に会社に戻ると、奈緒美は「誠一がその椅子に座っていて少し怖い…」と言う。と、奈緒美を呼び戻す上司の前原ひとみ(洞口依子)の声がして奈緒美は慌てて会社に戻る。
 その夜、帰宅した浅見は、母の雪江(野際陽子)から平将門の歴史を教わる。雪江から千葉にある“八幡の藪知らず”という将門公ゆかりの地
番組内容3
のことを聞いた浅見は、翌日その場所を訪れた。だが、そこで銀行員の若い男が首つり自殺したという情報が…。不安になった浅見は、現場にいた須藤刑事(千賀健永)に詳細を聞こうとするも、逆に疑われてしまい連行されてしまう。
 警察署に着いた浅見は、奈緒美と前原がいるのを目撃。奈緒美と話した浅見は、自殺した男が誠一だと知る。自殺の裏に見え隠れする都市伝説“将門公のたたり”。その真相に名探偵・浅見が挑む!
出演者
中村俊介 
星野真里 
長谷川朝晴 
洞口依子 
千賀健永(Kis−My−Ft2) 
新井康弘 
大高洋夫 
山田明郷 
勝部演之 
長谷川哲夫 
品川徹 
榎木孝明 
野際陽子
スタッフ
【原作】
内田康夫(角川文庫刊) 

【脚本】
峯尾基三 

【企画】
小池秀樹 
加藤達也 

【プロデューサー】
小林浩司(彩の会) 
吉田紀子(彩の会) 
金丸哲也(東映) 

【演出】
柿沼竹生 

【音楽】
渡辺俊幸 

【制作】
フジテレビ 
彩の会

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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