クローズアップ現代「“最期のとき”を決められない」 2014.11.19


延命治療が2か月以上続く男性。
誰も最期のときを決めることができません。
脳梗塞で倒れたこの男性。
独身で1人暮らし。
頼れる家族もいません。
どこまで延命治療を希望するのか今、本人の意思が確認できない患者が急増しています。
こうした中、医療現場では回復の見込みがない患者の延命治療をどうするのか決められないケースが増えています。
誰もが迎える最期のとき。
人生の終え方を誰が、どうやって決めるのか。
現場からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
回復する見込みがない死を免れない状況になった人生の終末期。
どのように死を迎えるのか。
高度先進医療が進み人工呼吸器や人工心肺などを使えば本人が望む望まないにかかわらず長ければ数年間生き続けることが可能になっています。
死を前にどのように生きるのか。
患者本人の意思に沿った選択をすることが望ましいという考えが広がっています。
厚生労働省や医学会が延命治療についてまとめたガイドラインではどの段階までの延命治療を希望するのか。
終末期の患者や家族に詳細に意思を確認することになっています。
人工呼吸器をつけるのかつけないのか。
人工栄養を入れるのか入れないのか。
さらに心肺停止になったとき蘇生措置を行うのかなどさまざまな延命治療の種類ごと選択肢を示し確認することになっています。
しかし意思を確認しようとしても本人の意識がなかったり本人の言動を常日頃から知っている家族もいないケースも増えていましてガイドラインに沿った判断ができない事態も珍しくありません。
回復する見込みのない一人の人間を前にどこまで延命するのか。
終末期医療の現場ではその人の人生を踏まえその人らしく死を迎えられるよう模索しています。
一人一人の意思を尊重する努力を続ける現場が直面する重い難しい現実をご覧ください。
東京・荒川区。
入院患者の9割以上を高齢者が占める地域の中核病院です。
1人暮らしで頼れる家族のいない患者が増えています。
入院して2か月になる杉田誠二さんです。
重い脳梗塞で、意識はなく回復の見込みはありません。
酸素を吸入し鼻から栄養を入れる延命治療が続いています。
手上げてみて。
全く手を動かしたりすることはできない。
四肢のまひがあります。
ガイドラインでは死期が迫ったときに延命を中止することも選択肢の一つになるケースです。
しかし、それに必要な本人の意思が確認できません。
この病院では患者の意識がある場合は延命治療を希望するのかどうかあらかじめ確認しています。
延命治療にはさまざまな種類や段階があるため項目ごとに細かく同意を取っています。
人工呼吸器をつけてほしいのかほしくないのか。
心肺蘇生をしてほしいのか。
事前に意思を残してもらっています。
五十嵐さん、五十嵐さん。
肺気腫が悪化し意識がない状態の五十嵐敏子さんです。
入院当初、意識があるうちに自分の意思を記していました。
人工呼吸器や心配蘇生など一切の延命治療を拒否していました。
しかし、その決断を家族には伝えていませんでした。
新潟から上京した五十嵐さんは独身で、家政婦として40年余り働き続けました。
実家に迷惑をかけたくないと70歳になってからもヘルパーの仕事をしてきました。
仕事をしていたときの友人です。
五十嵐さんは家族に頼らず1人で生きてきたといいます。
女姉妹4人なのよっていうのを今回、初めて病室で聞いたので、まだ話せるときに。
だから、ああ、女4人なの?って初めてそのとき知ったくらいなので。
本当に敏子さん自身からは田舎の話もしない人でしたね。
でも、もともとはもしかしたら性格的に頑固なとこあったのかもしれないですね。
だから1人で生きていくっていう。
五十嵐さんは病気になっても実家には知らせませんでした。
医療費のことで心配をかけたくないと思ったからです。
2年間、五十嵐さんの相談を受けてきた病院のソーシャルワーカーです。
日々の会話の中で延命治療を受けたくないという思いを感じ取っていました。
十分ここで生きたとおっしゃっていました。
やりたいことは、好きなことはできたとおっしゃってました。
何か延命を希望することで自分のことを人に託すっていうのは敏子さんはきっと希望されないと思うんですよね。
それでも病院は病状が悪化したため新潟の実家に伝えることにしました。
家族が延命を希望するかもしれない。
それも確かめたかったからです。
連絡を受けた82歳の妹が新潟から駆けつけました。
お邪魔します。
お姉ちゃん、山本来たよ。
お姉ちゃん、山本なんだよ。
妹は、本人の意思を尊重し延命治療をしない選択に同意しました。
もう頑張らなくていい。
もうずいぶん頑張ったから、ねぇ。
いいよ、姉ちゃん。
ねぇ、私のために頑張ってくれたんだもんね。
ありがとう、ありがとうね。
ありがとう。
私が病院に着くまで頑張ってくれていた。
妹が繰り返し口にしたのは感謝のことばでした。
ありがとうね、姉ちゃん。
ありがとう。
妹の到着を待つように五十嵐さんは息を引き取りました。
もう泣かないよ、ねぇ。
泣かない、ねぇ。
泣かないよ、ねぇ。
ありがとうね。
泣かない。
ずっと離れ離れで生きてきた姉妹。
30年ぶりの再会が最期のときになりました。
今、病院には、すでに意識がない状態で運び込まれ延命の意思を確認できない高齢の患者が増えています。
重い脳梗塞で意識がなく回復の見込みがないと診断された杉田誠二さんです。
8月下旬、路上で倒れ別の大学病院に救急搬送されました。
そこで救命措置を受けた杉田さん。
この病院に来たときにはすでに酸素吸入器をつけられ意識がありませんでした。
延命を続けるのかどうか病院はガイドラインに沿って家族の意思を確かめることにしました。
杉田さんには都内に暮らす兄がいます。
木村医師は、兄から杉田さんがどのような考えを持っていたのか聞くことにしました。
兄は、延命治療を希望しないと木村医師に伝えました。
杉田さんと兄は何十年も会っていません。
関係は疎遠でした。
その兄の意思で、延命治療をやめてしまってよいのか。
最終的な判断は医療現場に委ねられます。
独身でほかに頼る身内もいない杉田さん。
持ち物は倒れたときに持っていた傘だけです。
杉田さんは、どういう人生を生きてきたのか。
病院では、その手がかりを知ろうとしました。
入院する前に暮らしていたアパートです。
もう帰れないと判断され引き払われていました。
自動車工場などで非正規の仕事を転々としていた杉田さんには親しい友人もいませんでした。
元気だったころを知る大家が杉田さんの人柄を話してくれました。
質素だったね、すごく。
押し入れの中ももうほとんど何もなかったね。
私が扇風機あげましょうかとかテレビだとか何もいらないって言うのね。
だから夏でも扇風機はいらないエアコンも使わない。
そういうふうな真面目な人でしたよ。
とてもいい人でねすごくいい人ですよ、穏やかで。
きれい好きだったし。
それ以上、杉田さんのことは分かりませんでした。
おはようございます。
結局、木村医師は延命治療を続けることにしました。
患者の意思が分からない中でどう尊厳を守るのか。
難しい問いに向き合っています。
杉田さんの延命治療はすでに2か月を超えました。
治療をどこまで続けるのかまだ誰も決められずにいます。
今夜は、高齢者医療に長年携わってこられました、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さんをお迎えしています。
ぬくもりがある、そして、時折まばたきもしている、そこにいらっしゃる1人の患者のことを、最大限考えながら、この人の希望はなんなのか、そのことを考えながら、延命をどこまでをするのか、医療現場に課せられたこの責任っていうのは、あまりにも重いですね。
そうですね。
医療は、とにかくまず助けることっていう形で進歩をしてきて、ここ10年ぐらい、できたら最期のときは、その人がその人らしく、そしてその人がどう思っていたのか、その人に沿った応援をしてあげようっていうふうに変わりだしていて、木村医師の苦渋は、この患者さんがどう思っていたのかを、必死に探してますよね。
だけど、今、なかなか、1人暮らしの方が多くなって、この方が何を考えてたのか、自分の人生の最期はどうあったほうがいいのかが分からない。
そうすると医療現場は本当に悩んで悩んで、木村先生のように優しい方は、ますます、どうしてあげたらいいのか。
結果としては、延命医療を続けてる。
でも、本当に杉田さんにとって、それでよかったのかっていうと、どうかなとかって、また僕も悩むし、僕が主治医だったら、どうしようかとか、あるいは僕が杉田さんだったら、どうしてほしいだろうかなとかって、悩ましいですよね。
多くのこうれいしゃのみとりもされてきた中で、最期までやっぱりありとあらゆる治療をしてほしいっていう方もいらっしゃるでしょうし、いや、そこまで徹底的に延命してほしくないっていう方、まちまちですよね。
すごい大事なことですよね。
厚生労働省の調査やなんかを見ると、7割ぐらいの方は、延命治療をしいて挙げれば、それほどしてほしくないということを言われてるけど、絶対忘れちゃいけないのは、11%近くの方たちが、例えば人工呼吸器をつなげてもらってでも、どんなことがあっても、1回だけの人生だから生き続けたいと思ってる。
その人が、目の前にいる意識のない患者さんが、どっちだったのかって、分かればいいんですけど、分からないときに、どうしてももしかしたらこの11%のほうに入っている方だったら、僕たちが勝手に決めてはいけないよなって、僕たちは苦渋するわけですよね。
でも、もしかしたら希望を、あまり望まない方でも、延命措置を受けている方々も実際には多いと感じられていますか?
そうですね、実際には、本当にその方がどう思ってたか、なかなかはっきりした証拠がないと、きっと望んでなかったんじゃないかなと思いながらも、はっきりした証拠がないと、ついつい医療現場は、決定をできなくて、多くの7割の方たちが、書面でちゃんと書いたほうがいいって言いながら、実際に書面で書いてくださっている方たちは、3%しかいないっていうのが。
僅か3%。
だからこれ、書いておいていただけたらなとか、ご家族がいる方は、ごはん食べながら、ご家族に、俺はこう思うんだって言っておいていただければ、何度も何度も言っておいていただければ、父はよく、ごはん食べながらこう言ってましたって言っていただけると、僕たちもそれで、ずいぶん、その方向で治療していこうっていう指針にはなるんですね。
でも1人暮らしのこの杉田さんのような方だと、皆目分からない。
だから、木村先生の苦渋は大変重いと思います。
今のVTRの五十嵐さんのように、あらかじめ、医療現場とコミュニケーションを取って、ここまでは望む、ここまでは望まないということが分かれば、対応しやすいんでしょうけれども、でも、延命措置をつけて、医療現場に運ばれてこられる方々も多いわけですよね。
そうなんですよね。
それを外すとなると、これまた。
大変ですよ。
救急車で運ばれて来たときは、どんな事情かは分からないから、もうとにかく1秒を争いながら、救命をして、その結果として人工呼吸器につながる。
だけどそのあと、この人はどうも、そういうことを望んでないんじゃないかって分かったときに、もう、一度つながった人工呼吸器の電源を切る、あるいは挿管した管を抜くってことは、医師にとってとってもつらいことです。
ですから、今、医療界はこれから2020年に向けて、多死時代といわれて、たくさんの方たちの死を医療現場で見ていかないといけないわけですけれども、どうしていいのか、本当に皆目、苦しんでいるっていうのが、医療現場の状況だと思います。
臓器移植のケースでも、脳死判定を受けるとき、本当にそうなのか。
例えば、書面で意思表示があったとしても、目の前に、そこでまだ呼吸をしている、人工呼吸器につながれながらでも、している人を目の前にすると、本当にそれを踏み切れないっていうケースもあるだけに、その苦渋っていうか、葛藤の深さっていうのは、計り知れないですよね。
いつも、自分だったら、目の前の患者さんのこの人の身になって、できるだけ治療に当たりたいなと思ってるんだけれども、この人の身になっても、身になっても、なかなかこの人、本当は何を望んでたんだろうかって分からないことがありますよね。
つい自分だったらば、こうなったときは人工呼吸器は置かないでほしいって、僕は書いたり、あるいは胃ろうはできるだけ置かないようにって書いたり、そういうことを僕はしているんだけども、それぞれ人によって違う、その違う人の身にはなっても、なかなか想像がつかないっていうのが現状ですよね。
だからやっぱりその人が、やっぱり言ったり書いたり、できるだけするようにしていくことが、日本のこれからにとっては、すごく大事なんじゃないかって気がしますよね。
今、超党派で尊厳死法案の提出が予定、計画されているんですけれども、医師の責任、延命をやめても医師の責任は問わないという内容なんですけれども、これには賛成されていますか?
医師にとってはとてもありがたい、大切な尊厳死法案だと思いますけども、僕はあまり積極的には賛成はしていません。
悩んでいます。
なんか法律で決めることじゃないんじゃないかなって。
もっと時間をかけながら、できるだけ、命の主人公はその方なもんで、いつかは家族よりも、その人の命だっていうふうに、みんなが、日本全体が広がっていくことが大事で、時間をかけて、3%しか自己決定を書面に書いていないんだけど、もっともっとたくさんの人たちが、少しずつ時間をかけて、自分の命は、最期はこう終わりたいとか、こう生きて、こう終わるんだってことを決めれるような日本になっていくことが大事だから、なんか法律を決めていただくと、一気に進むとは思うんだけど、なんか僕はもうちょっと悩みながら、医療する側と、医療を受ける側とがキャッチボールをしながら、日本流のいい命のしまい方っていうことを考えていくことのほうが大切かなと思っています。
しかし、医師にとっても、目の前の患者を救う、生かすということに、全力を傾けてきた中で、この人の生き方を、どう生きてきたのかということを考えながら、あえて延命をしないっていう、そういった考え方、あるいは取り組み方、姿勢っていうことに、本当に変化できるのか。
その変化していくうえで、あまりにも責任が重いだけに、どうやって決めていくのか、何が求められていますか?
ガイドラインなんかでは、病院の中のいろんな職種の人たちにも集まってもらって、外部からも法律家だとか、宗教家なんかにも参加してもらって、その地域の中で、そういう命の在り方をみんなで議論をして、その事例に関して、どうもこの方に関しては、積極的な治療をしないほうがいいんじゃないかって思ったときに、人工呼吸器から離れても、もしかして、しばらく何日か生きるとすれば、家族はいないんだけど、家族の代わりになるようにみんなで交代で手を握ってあげたりとか、話しかけてあげたりすることによって、もっと違う、これから新しい、命をみんなで支える在り方っていうのも、一つ、選択肢としてはあるんじゃないか。
でも大事なことは、どんなことをしてでも生きたいっていう人がちゃんと生きれる日本がまずあって、なおかつ、無理はしたくないっていう人には、無理をしないでも済むような守り方、サポートのしかたが、多様にできる日本になっていったらいいかなと思いますよね。
なるほど。
本当にその人の意思が尊重される終末期ですね。
きょうはありがとうございました。
2014/11/19(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“最期のとき”を決められない」[字]

親族に頼らずに老後を過ごす独居高齢者が急増する今、“延命治療”の現場で、最期の時を誰が、どう決めるのか、揺れている。現場への取材から、課題を浮き彫りにする。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】諏訪中央病院名誉院長…鎌田實,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】諏訪中央病院名誉院長…鎌田實,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:8953(0x22F9)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: