日本の話芸 講談「天保水滸伝より 潮来の遊び」 2014.12.06


我々も覚えておきたいですよね。
どうもお話ありがとうございました。
(2人)ありがとうございました。

(テーマ音楽)
(拍手)
(張り扇の音)
(拍手)
(神田紅)ようこそお越し下さいましてありがとうございます。
昔銚子の小川戸という所に酒田屋という大きな質屋さんがございました。
そこの主は元博徒の大親分でしたが年を取って堅気となり質屋を開きましたところが大儲けを致しました。
それは一人息子の留治郎というのが道楽一つするでなしお店大事と一生懸命に働いてくれるからでもございました。
しかしあまりに伜が堅すぎるんで父親はかえって心配を致しました。
「な〜婆さんや家の伜少し堅すぎるな〜」。
「そうですね。
お店の事やっていないというと部屋の中に閉じ籠もって分厚い難しい本ばっかり読んでるんですよ」。
「そうか。
そういう奴に限ってな労症とか労咳とかといって胸の病を患うもんだ。
どうだ?私の若い時分のように遊びを覚えさせたら」。
「冗談じゃありませんよ!私それでさんざんぱら苦労させられたんですからね」。
「ハハハまぁそう言うな。
遊びの1つや2つ知ってねえと店の若い者の心が汲み切れねえ。
まぁ俺に考えがあるから留治郎をここへ呼びなさい」。
「お父っつぁん。
お呼びでございますか?」。
「あ〜留治郎。
明日な吉野屋で寄り合いがあるんだが」。
「はい。
いつもご苦労さまでございます」。
「それがな明日用事ができちまってな行かれねえ事になっちまったんだ。
お前名代として行ってもらいたいんだけどな〜」。
「困りましたね私お酒のほうは頂けませんし第一ああいう所のお集まりはお年寄りの方々ばっかりで私のような若い者はかえってお邪魔じゃないかと思います。
番頭にでも行ってもらったら如何でございましょう?」。
「おいおい。
そんな事言われちゃ困るな〜。
お前は俺の跡取りなんだぞ少しはつきあいというものを知ってもらわなくちゃ困る。
それにな今お前年寄りばっかりと言ったがなそうでもないんだぞ。
小西屋大野屋駿河屋美濃屋といった連中はなお父っつぁんの代わりで若旦那出会いが来てなさる。
あの連中はみんな遊び慣れていなさるからな途中でもってお消えになる」。
「ハア〜?」。
(笑い)「途中でもってお消えになる」。
「透明人間か何かですか?」。
「いや。
そうじゃねえ。
おおかた潮来辺りへ遊びに行かれるんだろうと思う。
でなそのお消えになるのにお前もつきあうんだぞ。
そしてな幾日何十日その方々が流連をしようともお前も一緒にいなくちゃならない。
いいな?そしてなお金が足りなくなれば手紙を寄こせば小僧に届けさせてやるからな。
おっ母さん。
そこのね手文庫にね30両あるだろ?これを明日胴巻きに入れといてやんな。
あのな明日おっ母さんが身なりから金までみんな用意してくれるからなそれを身につけて行くんだ。
何だ?そんな顔をして。
途中で消えないか。
消えないと勘当だ」。
(笑い)ひどい父親があったものでございます。
明くる日銚子観音前の茶屋旅籠吉野屋へ参りました。
確かにお年寄りばっかりのお集りでございました。
型どおりの挨拶が終わりますと座が崩れて宴会という事になるんです。
さぁお銚子が運ばれるお膳が運ばれて参ります。
芸者衆がお引きずりをしながら入って参りまして「お一ついかが?」なんて差してくれるんですけれども留治郎こんな所とにかく初めてなもんですから…。
「はいはいはい。
頂戴致します」。
「アハッハッハッハッハッ。
はいはいはい」。
「ハッハッハッハッ」。
ヒョイッと向こうのほうを見ると若旦那出会いが3人で差しつ差されつしております。
もうこちらはこんな所慣れ切っている連中でございます。
「お一つ参りましょう」。
「アア〜ッすみま…。
オ〜ットットットこぼれますね〜。
いいね〜。
ご返杯と参りましょう」。
「そうですか。
どうもすみません。
オ〜ットットホホホこぼれますよ。
さぁさぁさぁもうそろそろ行こうじゃありませんか」。
「駄目ですよまだ小西屋が来てないじゃありませんか」。
「小西屋?あれねこの間親父に見つかっちゃったとかでね『今日は来れねえかもしれねえ』って言ってましたよ。
ほらあそこに番頭が代わりに来てるでしょ?」。
「そうか。
困ったね。
俺たちは道楽者の四天王って事になってるんだからな三天王ってのは具合が悪いね。
どこかに若い奴はいねえ…。
いるじゃねえかあそこに。
あれ酒田屋の伜じゃねえか?あれに声かけて…」。
「駄目駄目。
あいつはねとにかく頭が固いなんてぇもんじゃない石部金吉金兜叩けばカンカン音がする。
あんな奴に女郎買いの話しようもんなら四書五経の講釈かなんか…。
あっこっちにやって来た。
さぁさ飲んでましょう飲んでましょう。
オットットットット」。
「皆さん方。
大層お話が弾んでいらっしゃるようでございますがこれからどこかにお消えになるというご予定があるかと思います。
どうか私をそこへ連れていって下さいまし」。
「堅くねえじゃねえか。
ええ?」。
(笑い)「俺たちはねそこへ行ったら一晩や二晩じゃないズ〜ッと流連するかもしれないんですよ?お店のほうは大丈夫なんですか?」。
「はい。
幾日何十日家を空けようとも大丈夫な事になっております。
そしてお金が足りなくなれば手紙を出せば親父がちゃんと小僧に言いつけてお金を持ってきてくれる事になってるんです。
皆さん方に連れていって頂かないとなると私は親父に勘当されてしまうんです。
どうか助けると思って連れていって下さいまし」。
「いい親父さんだね〜。
ええ?」。
(笑い)「俺たちの親父と取り替えてもらいたいもんだね〜。
あっそうですか。
分かりました。
じゃあ一緒に参りましょう」。
話がとんとん拍子に決まりました。
2人が表梯子からトントントンと下りる。
あとの2人も裏梯子からトントントンと下りて参ります。
舟を雇って参ります。
利根川をさかのぼって行く潮来の町。
(張り扇の音)ギ〜ッギ〜ッギ〜ッギ〜ッ。
「お客さん方。
そろそろ潮来の町に入って参りますがね潮来はどちらにお着けしたらいいんでございますか?」。
ギ〜ッギ〜ッ。
「船頭。
ちょっと待ってくれ。
駿河屋さん。
今年はお前さんが当番だったね。
お前さんの馴染みは確か鶴屋だったっけ?」。
「そう鶴屋。
鶴屋のね二枚目のね紅梅という花魁が俺の馴染みでね紅梅の紅というのはね紅って書くんだよ」。
(笑い)「紅の字の付く女はみ〜んないい女だよ」。
(笑い)「だらしがねえね。
そういえば鶴屋といやぁひな鶴とかいういい花魁がいると聞いたけどな」。
「ああ〜。
ひな鶴花魁あれはいい花魁だ」。
「そうだね〜吉原に行っても大店のお職間違いなしだ。
入り山形に二つ星松の位の太夫職75匁の玉を売ろうという売れっ妓の花魁になる事間違いないね」。
「そう?じゃあねひな鶴花魁はここでコチンコチンになってるこの初めての留治郎さんに持つ事にしてあとは向こうで相談しようじゃないか。
船頭。
そういう訳だ鶴屋に頼んだぜ」。
「へい。
かしこまりました。
鶴屋さんでございますね?へい」。
ギ〜ッギ〜ッギ〜ッギ〜ッ。
やって参りまして鶴屋に横着けを致します。
「まあ〜まあ〜まあ〜まあ〜まあ〜まあ〜まあ〜ようこそおいで下さいましたいらっしゃいまし。
さぁさぁどうぞお上がり下さいまし。
お客さんですよ〜」。
「いらっしゃ〜い」。
(笑い)階段をトントントントンと上がりますと引き付けという座敷に通されます。
ここで相方の花魁を決める訳でございます。
そこに現れるのは決まって遣り手婆という存在でございます。
(笑い)「いらっしゃい。
あらっ?まあ〜誰かと思ったら駿河屋の若旦那様じゃございませんか。
もう大変なんでございますよ紅梅花魁がお前さんに会えない会えないってねこの間から『寂しい寂しい』と仰ったんでございますよ。
ようこそおいで下さいまして。
あとのお三方はお初会でございますか?」。
「うんそうなんだ。
でねここにコチンコチンになってるこの人ね留治郎さんというんだけどとにかく初めてだからひな鶴取り持ってもらいたいんだけどどうだい?」。
「はいはい。
まあ〜こちら様がひな鶴花魁。
ちょっとお待ち下さい。
あっちょうど今空きましてございます。
よろしゅうございましたね。
あとのお二方はどうなさいます?」。
「あっあとの二人?まぁ適当に見繕って姿形なんぞどうだっていいから」。
「おいおい。
いいかげんにしてもらおうじゃねえか。
形の無えもんなんざよしてもらおうじゃねえか」。
「まあ〜面白い事ばっかり仰って。
はいはい。
では私に万事お任せを」。
さぁそれぞれに相方の花魁が決まりました。
お銚子が運ばれてくる。
そしてお膳が運ばれて参ります。
お引きずりの芸者衆もやって参りましてチャラスチャラカスチャラカチャンチャンワア〜ッワア〜ッという大騒ぎ。
留治郎先程の宴会だって初めての事だったんですけれどもこんな所に連れてこられたのは生まれて初めてでございます。
ましてや隣をヒョイッと見るともう絶世の美女が座っております。
それが「お一ついかが?」なんて言われるもんですから「はいはいはいあっはい」。
「ハッハッハッはいはいはいはいはいはいはいはいは〜いハッハッハッハッハッハ〜ッ」。
こんなお客もめったにいないと思ったんでしょうかかわいいと思ったのかひな鶴花魁ポ〜ンと肩を叩きますと留治郎の手を握って自分の部屋へと入っていったんです。
硬い物は壊れやすいという言葉がございます。
(笑い)こんな所に来て隣に座った女がへちゃむくれだったらもう二度と行くまいと思ったんでしょうけれども絶世の美女が隣に座ったんです。
小野小町か照手姫見ぬ唐土の楊貴妃か普賢菩薩の再来か静御前に袈裟御前はたまた神田紅か。
(笑い)
(拍手)これだけは言っとかないと気が済まない訳でございます。
神田紅のようないい女が座りましたのでこれからもうのべたら通うようになってしまったんです。
お家のお金をそっと持ち出しては番頭の目を盗んで何日も流連をするといった有様でございました。
「婆さん。
伜ちと軟らかくなり過ぎたな」。
(笑い)「当たり前ですよ私がそんなもん覚えさせちゃいけないと言うのを。
あのねそれはいいんですけどねこの間私の手文庫から10両持ち出したんですよ。
どうするんです?お前さん」。
「そうか。
親の物を黙って持ち出しゃやっぱり盗人だ。
よし今日はじっくりとお仕置きをしてやろう。
いいか?お前ゴチャゴチャ言うなよ。
おっ帰ってきたな。
留治郎留治郎こっちへ来い」。
「まあ〜これはお父っつぁんにおっ母さんお目覚めでございましたか。
おはようございます。
おはようございます。
お休みだとばっかり思いまして足を忍ばせて帰ってきた訳でございます。
お父っつぁん。
花魁がよろしく言っておりました」。
(笑い)「ばか野郎誰がよろしく言うんだ。
よく言うな〜。
お前な少しは遊びを覚えさせたらと思ったら何だこのごろはグニャグニャになってるそうじゃないか。
まぁそれもいいがおっ母さんの手文庫から10両持ち出したってぇじゃないか親の物でも黙って持っていきゃ盗人だ。
さぁ今日こう限り遊びをやめろ。
やめなきゃ勘当だ!」。
「お父っつぁん。
申し訳ございません。
勘当勘当なんてそう何回も仰らずとも。
おっ母さん。
本当に申し訳ございませんでした。
実はお断りしようと思ったんですけれどもお休みでございましたのでちょっとお借りした次第です。
でもご安心下さいまし。
10両はそっくり持って帰りましてございます。
それからこれは利子といってはなんでございますがこれで何かお買い下さいまし。
あの〜3両ございます。
お小遣いにして下さいまし。
それからお父っつぁんにはお金じゃ失礼だと思いましたのであの〜いいお酒がございました。
おいしゅうございますよ。
1升徳利口っきり詰めさせましてございます。
これとおつまみもちゃんと用意させましたでございます。
お重にいろいろおいしい物詰めさせましたのでさぁどうぞこれでお召し上がり下さいまし」。
「おかしいじゃねえかええ?10両持っていって13両にこの何だ?つまみ酒どうなってんだ?」。
「ヘヘヘヘまぁ本当にもてる男というのは辛いもんでございますね。
花魁が『この度はどういう首尾で?』と申しましたので『おっ母さんの手文庫から10両持ち出した』と言ったらね『あらっそんな事なさいますと先が続きませんのでどうぞこれはお持ち帰り下さいまし』と返して寄こしたんでございますよ。
それからね何か手紙のような物を一生懸命書いていたんです。
そしたら女の子があっちこっちにパ〜ッとそれを配っておりましてすごいですね〜売れっ妓の花魁というのは。
あっちからもこっちからもお金がどんどんどんどん集まって参りましてお金の山ができたんでございますよ。
それにつまずいてけがしたばかがいる」。
(笑い)「嘘つけ。
お前なかなか色男じゃねえか」。
「ヘッヘッそれもこれもお父っつぁんのおかげでございます。
DNAというものでございますね」。
(笑い)「でお父っつぁんとこうやって膝を突き合わせて話す暇が無かったんでお話できなかったんですけれども実はお父っつぁんにちょうどいいちょっと年増の花魁がいるんですけれどもね名前は紅葉と申しましてね紅の葉っぱと書くんですけれどもね」。
(笑い)「紅さんのお弟子さんにもそういうのがいるんですよ。
ちょっと年はいっておりますけれども気働きのするなかなかいい花魁なんです。
お父っつぁんさえよろしかったら今度ご紹介したいと思います。
お供させて下さいまし」。
「紅葉。
ハハハハ」。
(笑い)「そうか紅の葉っぱと書いて紅葉な〜。
いや〜ここのところ誘ってくれる友達も無くなった。
親父のこの寂しい気持ちを分かってくれるというのはお前が親孝行の証拠だ。
じゃあ一緒に行こう」。
「冗談じゃありませんよ〜」。
お父っつぁんがこんなふうでございますからこれからもう二人親子でもって何回も通うようになったそうでございます。
(笑い)さぁ花魁のほうでございますけれどもいくらなんでもいつもお手紙を書いてお金を集める訳にも参りません。
実はお金を他のお客様から何やかやの理由をつけましてくすねておいてそれを貯めといて大好きな留治郎に使っている。
何の事はない他人の分まで払わされているお客の事を「泳がされているお客」と言うらしいんですね。
(笑い)この泳がされるお客の代表格がここから登場して参ります。
名前をもぐらの新助と申します。
飯岡助五郎の子分といいますから「もぐら」なんていう名前が付いてるぐらいで大した兄ぃさんじゃございませんけれども博打の腕前は大したものでございまして時々大儲けしては腹をポンポン叩きながらこの鶴屋にやって参りましてひな鶴を呼ぶ。
今日しも弥蔵という格好でお腹をポンポン叩きながら大儲けをしたと見えましてやって参ります。
「おう。
ひな鶴いるか?俺だいもぐらもちの奴だい。
お〜い。
ひな鶴いるか?」。
「まあ〜まあ〜まあ〜もぐらの新助親分じゃございませんか。
大変なんでございますよ。
もうひな鶴花魁がね親分の顔が見えないからってもう泣いてらっしゃったんでございますよ」。
(笑い)「すまねえな。
この間なちょっと勘定が足りなかったからちょっと立て引かせたんじゃねえかと思ってな。
その代わり今日は十分に持ってきたからなさぁこの間の埋め合わせをさせてもらおうと思う。
ひな鶴呼んでくれひな鶴呼んでくれ」。
「はいはい。
かしこまりました」。
「いら〜っしゃ〜い」。
(笑い)「花魁ひな鶴花魁。
ちょっと来て下さいましよ」。
「何さ。
今日は大好きな留さんが来てるから用事にしといてって言っといたじゃないの」。
「それがねもぐらの新助親分が来たんですよ。
『この間立て引かせてすまなかった。
その埋め合わせだから』って腹ポンポンポンポン叩いてね相当持ってるようなんですよ。
ね〜ちょっと出てきて下さいましよ」。
「何さ〜。
この間勘定が足りなかったからちょっとばかし埋めてやったらもう色男になった気分でいる。
嫌なんだから。
留さん。
ちょっと待っててちょうだいね」。
好きな留治郎を部屋に待たせましてもう嫌々スリッパ…あっスリッパって言いませんね草履を履いてペタッペタッペタッペタッと階段を上がっていく。
途中からもぐらの新助の顔が見えるやさすがに商売人でございます。
パタパタパタパタパタパタパタパタ。
「あ〜らもぐらの新助親分どうして来て下さらなかったの?寂しかったわ。
この人いや〜んばか〜ん」なんて。
(笑い)首ったまにかじりついて片方の手をこの懐の中にグ〜ッと入れたんです。
どのくらいのお金を持ってるか探った訳でございます。
「あのね親分私芸者衆に義理ができちまったの。
芸者衆呼んでもいいでしょ?朋輩衆呼んでもいいでしょ?」。
「ああいいともいいとも。
この間すまなかったな。
その埋め合わせもある。
この胴巻きぐるみみんな渡すぞ」。
「まあ〜ありがとうございます」。
ばかな男があったものでございまして胴巻きぐるみすっかりと渡してしまいました。
これを持ってひな鶴花魁は下に下りて参ります。
腹っぺこ芸者にお茶っ引き女郎たちがおりましてそれを全部呼び集めます。
「ね〜ね〜ね〜ね〜みんな来てちょうだい来てちょうだい。
いい?上にいるあのもぐらの新助親分ねこの間ちょっとね勘定埋めといてやったら色男になった気分でいやがるんだよ。
だからね今日は存分に泳がすつもりだからそんな棚の上の物に手つけちゃ駄目よ。
どんどん食べてガブガブ飲んでちょうだいよ。
たくさん飲んだり食べたりしてくれなかったら今度から呼んであげないわよ。
分かった?」。
「ありがとうございます〜」。
(笑い)さぁ喜んだのは腹っぺこ芸者にお茶っ引き女郎の連中でございます。
この広い梯子段を四列縦隊になって上って参りました。
「こんばんは」。
「こんばんは」。
「こんばんは」。
「こんばんは〜」。
「何だい?挨拶にメロディーがついてるのか?お〜どんどんどんどん入れ入れ。
来るな来るな〜お〜金魚の糞みたいにどんどんどんどん。
お〜どんどん詰めろ詰めろ詰める詰めろ。
小さくなってそうお膝送りだよ〜」なんてどんどん集まって参りました。
「さぁお三味線を弾きましょう」。
チャラスチャラカスチャラカチャンチャン。
ワ〜ッワア〜ッと騒いでおりますうちにここへお酒がやって来る。
それから若い衆が台の上にお料理を載せて「へい。
お誂えお誂え」と入って参りました。
お三味線なんぞをおっ放り出しますと…。
「待ってたわよ。
こっちに持ってきてちょうだい。
ここにズラ〜ッと並べてちょうだい。
そうよ」。
あっちを突っつきこっちを突っつきガブガブ飲んでムシャムシャ食べてガブガブムシャムシャガブガブムシャムシャ。
「あ〜少しお腹がいっぱいになったわ。
さぁ三味線弾きましょうよ歌いましょうよ」。
・「サ〜サ浮いた浮いた瓢箪ばかりが浮きものか」・「私もこのごろ浮いてきて朝来て昼来て晩に来て」・「そうしてお宿をしくじりなその時ゃ高見の見物だ」・「チャラスチャラカチャンチャン」「ワ〜ッワア〜ッ」。
「へい。
お誂えお誂え」。
「待ってたわよ〜」。
三味線おっ放って。
「ズラ〜ッと並べてちょうだい」。
あっちを突っつきこっちを突っつきガブガブムシャムシャガブガブムシャムシャガブガブムシャムシャ。
「何だい?こいつら」。
(笑い)「餓鬼道から抜け出してきやがったのか?ガツガツ食うな〜。
あっお前何なんだよ?おい。
俺の酒注ぎかけで向こうを向いてガツガツするんじゃねえやい」。
「あ〜ら親分ごめんなさい。
私親分に思い差ししようと思ってたところなの。
もぐちゃん。
思い受けてちょうだい。
さぁどうぞ」。
「あっもぐちゃん。
私の思いも受けてちょうだい。
どうぞ」。
「もぐちゃん。
私のも」。
「もぐちゃん」。
「もぐちゃ〜ん」。
大勢に差されたもんですからもぐらの新助もういい心持ちになってバッタリと倒れますとグ〜グッと高いびきで寝込んでしまいました。
あ〜汗かいた。
(笑い)「花魁。
もう寝ちゃったわよ。
どうします?」。
「もうそこら辺にうっちゃらかしときなさいよ。
さぁみんな部屋に帰った帰った」。
「は〜い」。
奴さんかわいそうにそこに転がしておかれました。
私もお酒を飲んだ時などはそうなんですけれどもグッスリと眠ってるように見えまして夜中にパッと目が覚めますねどういう訳か。
大抵自然現象かもう一つは喉が渇くんですね。
ええ。
しこたま飲んだ日というのは特にそうでございましてこのもぐらの新助もパッと目を覚ましたんです。
「あ〜喉が渇いたな。
おいひな鶴。
水持ってこい。
おうひな鶴。
ワオッワオ〜ッ」。
(笑い)「お客様。
大引け過ぎでございますから静かにお願いを致します」。
「やかましいやい。
ひな鶴呼んでこい。
ええ?これだけの散財をしたんだ。
普通だったらな俺がこうやって寝たらみんなで手車でもって花魁の部屋に連れてってくれてるのが筋ってもんじゃねえか。
呼んでこい。
水持ってこいって早く言ってこ〜い」。
「はいはい。
かしこまりました」。
目が慣れて参りまして周りを見ておりますうちに…。
「何かに取り囲まれてるな〜。
なんだ丼小鉢じゃねえか。
一二三四五六七八九十。
随分食い散らかしやがったな。
何やってんのかな喉が渇いちまったよ。
おう。
ワオ〜ッ」。
誰も来る様子がないので奴さん廊下鳶を決め始めました。
「花魁。
起きて下さいましよひな鶴花魁」。
「何さ〜?」。
「もぐらの新助親分が起きちゃったんですよ。
『ひな鶴水持ってこい。
そう言え』って水持ってこいって騒いでるんですよ。
何とか言って下さいましよ」。
「ええ?水?水だったらね表に利根川が流れてるじゃないか」。
(笑い)「そこに頭から飛び込んでおしまいってそう言っておやり」。
たまたまこの言葉を廊下鳶をしておりました新助が聞いたからたまりません。
「この女ふざけやがって」。
ド〜ン唐紙を蹴っ倒して中に入ってくる。
「ア〜ッ留さん逃げて〜っ」。
二人が手に手をつないで駆け出して参りました。
バタバタバタ〜ッ。
「野郎待ちやがれ〜っ」。
奥の座敷に入ってしまいます。
「ここに入りやがったな。
この野郎出てきやがれ」。
サ〜ッと唐紙を開けますとそこに年の頃35〜36苦み走ったなかなか色の浅黒いいい男がお酒をチビリチビリと飲んでおりました。
「誰でぇ?」。
「あっこれは勢力の親分さんでございましたか」。
「もぐらもちの奴か。
何の用だ?」。
「へえ。
申し訳ございません」。
この時お酒を飲んでおりましたのが笹川の一の子分と言われております勢力富五郎という親分でございました。
もぐらの新助とは全く格が違う大親分でございます。
提灯に釣り鐘義経に向こう脛の違いぐらいある。
(笑い)この人が間に入りましたので目の飛び出るような勘定書きと共に空っぽになった財布を持ってもぐらの新助はねずみ舞いをしていなくなってしまいました。
その後酒田屋さんに留治郎を送り届けてやったところから酒田屋と勢力富五郎は親戚同様のつきあいをするようになった訳でございます。
これは「利根の川風袂に受けて」あの「天保水滸伝」という長い長いお物語の中から「潮来の遊び」と題しました一席これをもって読み終わりと致します。
(拍手)2014/12/06(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 講談「天保水滸伝より 潮来の遊び」[解][字][再]

講談「天保水滸伝より 潮来の遊び」▽神田紅

詳細情報
番組内容
講談「天保水滸伝より 潮来の遊び」 ▽神田紅
出演者
【出演】神田紅

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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