8月広島市でちょっと珍しい公演がありました。
障害のある人ない人がペアを組み車いすダンスを踊るのです。
今年で18年目を迎えたあるクラブの定期公演です。
激しいステップあり流れるような優雅な動きあり。
皆で力を合わせて舞台を作り上げます。
その中に特別な思いを持って挑む女性がいました。
(佐々木)頑張ろうね。
泣きそうになる。
(「乙女の祈り」)「きれいな衣装を着て踊りたい」。
夢をかなえた女性の一夏です。
(せみの声)
(「小さな世界」)広島車いすダンスくらぶは週に3回市の福祉センターで練習をしています。
生まれながらに障害のある人や不慮の事故で車いすの生活になった人など。
17人の車いすダンサーがいます。
(「オペラ座の怪人」)ダンスは障害者と健常者がペアになって踊ります。
障害の種類や重さはさまざま。
それぞれに合わせて振り付けが考えられています。
「明日がある」やったら駄目よ。
クラブの代表を務める…障害者が社会とつながる場を作りたいとこのクラブを立ち上げました。
皆さんの笑顔がね車いすの人の笑顔がねとてもすてきだなあと思えるようになって。
(谷本)まあ社交的にはなったかもしれんですね。
社交的には。
老人ホームとかでやっぱりお年寄りとか喜んでくれるので。
「俺ってええ事しとるな」って思ったですもんね。
やっぱり何でもね自分が楽しい事しよう思いよったら挑戦せにゃ駄目です。
ねえ障害者じゃいうても。
だから動けない人たちでもいっぱい来よってですけどね。
いや皆顔がいいもん。
楽しんどっとんじゃから。
(「花」)この日は8月の公演に向けた練習が行われていました。
実はメンバーのほとんどがこのクラブでダンスを始めました。
「踊る時はいつも笑顔で」。
それがここのポリシーです。
互い違いのところの前。
(山下)互い違いのところの前のシーン何か変だよ。
そのクラブの中でもひときわ笑顔が輝く女性がいます。
由佳さんは脳性まひのため腕があまり動かせません。
車いすを操作するのはパートナーの役割。
ちょっと力が…。
4年目の今年は初めてクラッシック音楽に挑戦します。
ハハハッ衣装か。
ドレスが着たかったんだもんね。
そうよね。
いつも何か着慣れない着物を着せてみたりとか。
着せられて。
由佳さんは月曜から金曜まで福祉作業所で働いています。
午後5時仕事を終えて自宅に帰ってきました。
由佳さんの部屋は玄関から一番近い場所にあります。
ほとんどの時間寝転んだままで過ごします。
座ったままの姿勢が続くと背中に疲れがたまるのです。
そしてここからは一番楽しみにしている時間。
大好きなアイドルのDVD鑑賞です。
見たいものを選んで再生するまで全てが手の届く所にあります。
由佳さん一体どんなアイドルが好きなんですか?キムタクは苦手です。
あの人は…由佳さんは平成3年11月生まれ。
脳性まひで運動機能に重い障害が残りました。
小さい頃の夢はアイドルになる事。
きれいな衣装とダンスに憧れました。
でもおしゃれというよりは…障害があるためきれいな服を着て踊るなんて無理。
諦めかけていた時兄の影響で知った車いすダンスに由佳さんは引き付けられます。
しかし現実には大きな壁がありました。
周りの人たちのようにうまく踊れない。
由佳さんは深く落ち込みます。
そんな由佳さんに魔法の言葉をかけてくれた男性がいます。
元ダンスクラブの副会長…今藤さんは甘いマスクとキレのあるダンスで観客を引き付つけるクラブのスターでした。
落ち込んだ由佳さんに今藤さんは一つのアドバイスをくれます。
ところがその今藤さんが去年大腸がんでこの世を去りました。
40歳という若さでした。
今藤さんが褒めてくれた笑顔を精いっぱい出したい。
由佳さんは特別な思いで今年の舞台に挑む事にしました。
車いすダンスを始めてから由佳さんの腕の動く範囲は広くなりました。
今日私の仕事です。
心も強くなったと家族は言います。
スローなもんやから作るの。
ほかにやる事は?
(母)もう出来たかな?由佳さんの思いを全力で受け止めようとしているパートナーがいます。
ペアを組んで4年になる佐々木幸江さんです。
(「乙女の祈り」)曲はテクラ・バダジェフスカの「乙女の祈り」。
大好きな人のもとへ飛んでいきたい乙女心を表現します。
どう滑らかに踊るか。
指を握る位置まで細かく話し合います。
手の先半分。
手の半分からだよ。
ここのしわ?違う違う。
ダンスをしている瞬間は何か手助けをしてるとかそういうなのではないので…対等なので。
由佳ちゃんも自分ができる事を最大限やってるし。
対等に一緒にものを作っていくというのがすごい私の中では大事にしたい事。
佐々木さんは広島市内の准看護学校で働いています。
車いすダンスとの出会いは教え子を襲った不幸な事故でした。
9年前に出場した駅伝大会で教え子が脳梗塞で倒れたのです。
障害が残った教え子と一緒に始めたのが車いすダンスでした。
まあ責任感じてても何も解決はしないし前に進まないので。
それも感じながら新たなスタートが彼女とできればいいんだと思ってそれでダンスを始めました。
やがて教え子はクラブを離れ社会の中で強く生きる道を選びます。
しかし佐々木さんはその後も車いすダンスを続けました。
忙しい合間にほっと息をつける居心地のよさを感じていたのです。
生きづらさに関してはどちらも同じ…どちらがどうのこうのじゃなくて同じものという捉え方の中でまあ…私が私でできる事をさせてもらっているっていう。
自分が…自分自身の魂というか心が喜んでるみたいな。
定期公演の本番を2日後に控えたこの日。
こんにちは。
いらっしゃい。
由佳さんと最後の練習です。
本番用の衣装合わせ。
青い鳥を思わせるデザインは由佳さんの花嫁姿をイメージしました。
由佳さんの特別な思いが込められた舞台。
ところが…。
思うように2人の息が合いません。
ううん大丈夫。
でもついていける。
車いすを回転させる力加減。
そして動き出しと止まる瞬間の力の入れ具合がなかなか合わないのです。
ちょっと…そうですね。
今ちょっと離れ過ぎて行き過ぎましたね。
ピタッと止まらんかった。
舞台を締めくくる最後もうまくそろいません。
思うように練習ができなかった理由。
その一つが8月に広島を襲った未曽有の土砂災害でした。
泥に埋まった被災地で佐々木さんは復興の手伝いに汗を流していました。
この日は泥水が浸水した同僚の家の片づけです。
花咲かじいさんになったみたい。
その方がいいわ。
土砂災害の影響で学校の授業が変更になるなど想定外の事態に追われていたのです。
こんにちは。
練習場では廊下で特訓する2人の姿がありました。
こうやってやる時は。
公演でやる時も…。
回転するところの力加減の確認です。
やっぱり遠心力かかるけん…ああそうなんじゃ。
ふだんが分かっとるけん。
どうすれば由佳さんが気持ちよく踊れるか。
本番が近づくにつれて佐々木さんの焦りは膨らみ続けていました。
そんな張り詰めた心を癒やしてくれたムードメーカーがいます。
大ちゃんの愛称で親しまれている…大ちゃんは25歳の時に起きたオートバイの事故で左半身に障害が残りました。
ムードメーカーの大ちゃんが私に「乙女の祈り」って佐々木さんの雰囲気にものすごくぴったりだからすごい佐々木さんらしさが出てるからすごくいいよって言ってくれて。
何かもう本当にその言葉で昨日泣きそうになったんですけど。
そういう何か…すごい私の不安ていうかいいんだろうかなって思うようなところにさりげなくすっとそんな言葉をかけてくれたりとかするんですよね。
何か直球で入ってくる感覚がすごくあってそこですご〜く救われる自分があってそういう優しさっていうのはものすごいもらってる。
それは普通の社会生活の中にはない何か本当に人間的な基本的な温かさみたいなのがすごくあって。
それはすごい私にとってはいい空間自分が自分を取り戻せるいい時間を作ってくれているなというのは感じてます。
本番に向けて最後の通し稽古が始まりました。
見せ場の一つ由佳さんが佐々木さんから遠ざかっていくシーンです。
両手を大きく広げて羽ばたいていく心を表現します。
由佳さんが表現できる笑顔と手の動き。
1センチでも高く。
上がる上がる。
さっきな電話しながら踊ってたからね。
由佳さんの気持ちを前向きにさせたのはあの今藤さんの厳しさです。
笑顔を褒めてくれた今藤さんはより強く生きる事を由佳さんに望んでいました。
9回目を迎えた定期公演。
チケットは完売です。
公演は2時間。
15のプログラムが組まれています。
(拍手)
(拍手と歓声)みんな最高の笑顔で踊ります。
今泣いとるん?いや。
大丈夫?大丈夫。
今はね不安なんよ。
そうよねどうなるんか。
見とる感じ結構広いんじゃけどステージが。
立つとね狭くなる感じがするんよね。
客席そして天国の今藤さんに届けたい笑顔のダンス。
(「乙女の祈り」)何度も繰り返した一番の見せ場。
滑らかに気持ちよく踊る2人のダンスです。
(拍手)公演終了後。
思わぬ人が2人を待ち構えていました。
(昇)由佳ちゃんお盆にはあれよねちょっと失礼してから…。
私こそごめんなさい。
去年亡くなった副会長今藤浩さんの父昇さんです。
すみません何か。
やっぱり…「由佳の笑顔は100点」。
その言葉を胸に踊った魂の車いすダンス。
ありがとうございます。
舞台のあとに夢をかなえた女性の最高の笑顔がありました。
2014/12/24(水) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「乙女の祈り〜魂を込めた車いすダンス〜」[字][再]
“アイドルになりたい”物心ついたころから抱き続けた夢に向かってダンスの練習を続ける車いすダンサー。失望の中で、ある先輩ダンサーの言葉が彼女の心を勇気づける。
詳細情報
番組内容
脳性まひの山下由佳さん(22)には、物心ついたころから抱き続けてきた夢がある。それはアイドルのようにきれいな衣装を着て踊りたいという、かなえたくともかなえられない夢だ。そんな由佳さんがある日、車いすダンスに出会った。私も踊りたいと門をたたいたものの、まわりの障がい者のようにうまく踊れない由佳さんは落ち込んでしまう。だが、先輩ダンサーの言葉で、由佳さんの心は勇気づけられる。
出演者
【語り】平野貴大
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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