本所深川見廻り方同心井筒平四郎が通う鉄瓶長屋では店子の家移りが相次ぐ中差配人の佐吉の努力もむなしくおかしな壺信心にかぶれた八助一家とほかの2家族までもが姿を消してしまう。
さすがに事件の影を感じ取った平四郎は幼なじみの隠密廻り同心井英之介に地主湊屋総右衛門を探らせる事にした
(烏の鳴き声)
(平四郎)ああ〜!
(鳴き声)
(何やら唱える声)
(佐吉)俺は一体何のためにここにいるんだろう…。
「だったら俺は何でここにいるんだろう」。
あなたどうかなさいました?うん?ああいや何でもない。
う〜ん…。
うん?どうした?お嫌いでしたでしょう?ぬか漬け。
(せきこみ)よほど心にかかる事がおありなのですね。
いやなにしばらく食わねえうちに味が変わってやしねえかと思ってな。
いかがでした?まずいよ。
相変わらずまずい。
大体何だってお前は俺がこう嫌いな物をちょくちょく出すのかね。
ご心配なく。
あなたが召し上がらなくても後で私が頂きますから。
お前はぬか漬けと俺とどっちの味方なんだ?決まってるじゃありませんか。
おいおいおしまばあさんまで家移りだと?へえ。
八王子の娘夫婦ん所に行きました。
前から腰の具合も悪かったみたいで。
「だったら俺は何でここにいるんだろう」か。
この前言ってただろう日陰の幽霊みてえな顔して。
言いましたっけねそんな事。
俺には確かにそう聞こえたんだがな。
すいませんあの時はすっかりうろたえちまって。
何にも覚えてないんです。
(お徳)結構な話じゃないですか。
娘夫婦が面倒見てくれんだから。
それが本当なら結構なんだがなぁ。
八百富を振り出しにお律善治郎八助一家に籠屋と納豆屋。
今度はおしまばあさんまで。
これだけ次々にいなくなられちゃなあ…。
平気な顔をして見せちゃあいるが佐吉も…。
あ?あ〜!ああ〜!イデデデ…。
(小平次)旦那〜!佐吉を呼べ。
佐吉…あと医者だ。
医者医者。
へい。
おいお徳。
お徳おい。
(佐吉)旦那お徳さんは!?おお手ぇ貸してくれ。
よいしょ。
旦那。
座敷へ上げるぞ。
(3人)せ〜の!よいしょ!
(腰が鳴る音)あ〜!ちょっと旦那何やってるんですか。
(腰が鳴る音)腰…。
えっ?腰…。
旦那…。
それでは行ってらっしゃいませ。
(総右衛門)よろしく頼む。
回想
(仁平)何でわざわざ鉄瓶長屋なんぞに越そうってんだ?あん?何か裏があるんだろう。
先生早く。
早く!よいしょよいしょ。
先生!どうしたんだ?うん…う〜ん…。
しっ!心配ない。
疲れがたまって倒れただけだろう。
しばらく養生すれば大丈夫だ。
(おくめ)お徳さん!お徳さん!大丈夫かい?今幸庵先生に診てもらったところで。
そうかい。
それじゃあ私が看病するよ。
佐吉さんはお湯沸かして。
ああ…へい。
はいはい。
幸庵先生はお見立てが済んだらさっさとどく。
では次は井筒の旦那をと。
腰が…。
(小平次)旦那。
(幸庵)どれどれ診てしんぜよう。
イタタタタ…。
この忙しい時に旦那はそこで何やってるんです?あっ痛い痛い痛い…。
我慢しなさい。
大の男が情けない声出すんじゃない。
イタタタ…痛い痛い痛い…。
あらお徳さん目が覚めたんだね。
痛い痛い痛い…。
うう〜。
(幸庵)ただのぎっくり腰だよ。
お徳さんあんた果報者だよ。
井筒の旦那ったらさあんたを助けようとして腰くじいちまったんだって。
あ…。
(小平次)あっう〜。
(弓之助)おはようございます。
あっ坊ちゃん。
フッ…。
おはようございます。
フフフッ…。
どうかなさいましたか?いえいえ何でも…フフフフッ。
あっ叔父上はどちらに?あっそれが何とも一大事でして…。
う〜…。
ぎっくり腰ですか…。
何でも子どもを抱き上げようとした拍子に腰にグキッと来たのだそうですよ。
え?あっ…。
え?ねっ。
お気を付けて下さいね。
もうお年なのですから。
そろそろ手習いの刻限だろう。
子どもらが待ってるぞ。
はいはい。
後は頼みますよ。
はい。
行ってらっしゃいませ。
…で本当のところは何があったのですか?えっ?それはさすがに叔母上には申し上げにくいですね。
あれ?お前今笑っただろう?えっ?いや笑った笑った。
ああ〜いえいえいえ…とんでもない。
それでは佐吉さんがお徳さんの看病を?いやおくめのやつが面倒見てるよ。
あれで案外お徳と気が合うのかもしれねえ。
そうかもしれませんね。
お二人とも優しいお人ですし。
いや何と言っても叔父上の大切なご友人ですからはい。
お前は時々返事に困るような事を言いだすな。
大人同士のご友人ってのはこれでなかなか難しいんだよ。
そうなのですか?でも叔父上のご友人はみんな気持ちのいい方ばかりですが。
いやそれはだなだから…。
まあいいや。
とにかくお前も叔母上には黙っててくれ。
男と男の約束だ。
いいな?はい!先生さようなら。
さようなら。
先生さようなら。
はいさようなら。
はいさようなら気を付けて帰るのですよ!はいさようなら。
先生さようなら。
はいさようなら。
はいさようなら。
さようなら。
あっ!ごめんなさい。
とんだ粗相を。
(子ども)あっあめだ!いえいえこちらこそ。
ごめんなすって。
おおあめ要るかい?おいしそう。
見せて見せて。
まるで手妻でも見たようでしたわ。
いつの間にか風呂敷包みの中に書状が入っておりました。
黒豆は本当に手妻を使うのさ。
黒豆?確かあなたと仲良しだった井様の事ですね。
本当だかわいい。
お母さんに似てる。
いや〜しかし何だなあいつ。
字だけは子どもの頃から下手くそなまんまだな。
イテテテテ…。
大丈夫ですか?それでは私は幸庵先生の所にお薬を頂きに参ります。
ああ〜帰りに大福でも買ってきてくれ。
大福買ってきてくれ。
はいはい。
もう本当に子どもみたい。
行ってらっしゃいませ。
はい。
ああ黒豆っていうのは南町奉行所の隠密廻り同心でな俺など足元にも及ばんくらい切れる男なんだ。
隠密廻り。
佐吉はいるかい?
(長助)うわ…。
どちらさんですか?佐賀町の仁平ってもんだ。
こいつがなちょいと聞きてえ事があるんだよ。
この長屋おかしな事になってるって専らの評判だぜ。
なあ差配人の佐吉さんよどういう訳で次々に店子をしくじってるんだろうねぇ。
それは…。
それとも何かい?お前が何か仕組んでるんじゃねえのか?湊屋に頼まれてよ!何の話ですか?あっしは何も…。
すっとぼけるのも大概にしろい。
湊屋は何をたくらんでる?店子を追い出してよ何をしようとしてやがるんだよ!知りませんよ。
あっしはただ久兵衛さんの代わりが見つかるまでつなぎで差配人をやれって言われてるだけなんで。
へえそうかい。
何も知らねえかいヘヘッ。
まあそれもいいやな。
いずれ尻尾をつかんでやるさ。
そん時ゃなお前だけじゃねえ。
このガキも一緒にしょっ引いてやる!この子は関わりない!知るかバカ野郎。
手前や湊屋と関わったやつらは一人残らずただじゃおかねえ!まあとりあえずあの井筒ってぼんくら同心にも聞いてみるさ。
楽しみに待ってるんだな。
うっ…。
(笑い声)「佐吉の母親の名は葵といいます。
葵は湊屋総右衛門の姪で20年前に幼い佐吉を連れて湊屋に転がり込んできました」。
(英之介)「乱暴者の亭主から逃げ出してきた葵親子に総右衛門はいたく同情し家族同然に扱ったそうです」。
大変だったね。
「そのころ総右衛門と妻のおふじの間には長男と次男がおりましたが総右衛門は実の子よりも佐吉をかわいがりそのせいもあってかおふじと葵は犬猿の仲だったといいます」。
こりゃあ確かにおふじは面白くねえやな。
そもそもが格式ばった料理屋の箱入り娘だ。
実家のご威光と女房としての誇りってもんがあらあ。
総右衛門に取り入ってぬくぬくと暮らす葵と実の子をさておいてかわいがられる佐吉。
おふじにしてみりゃどうしても許せなかったって訳だなぁ。
あ…ただいま戻りました。
ああ〜ご苦労だったな。
どうだった?はい中村様はくれぐれも大事にするようにと。
しばらくは奉行所に出仕せずともよいとの事です。
まあいてもいなくても同じだからな。
あっ悪いがな足を洗ったら腰さすってくんねえか?ブブッ…はいすぐに参ります。
今笑ってないか?おい小平次おいこの野郎。
(舌打ち)え〜っと「それから3年後。
葵は幼い佐吉を1人残して湊屋から忽然と姿を消した」。
「葵が消えた事情ですがおふじにいびり出されたという話と男と駆け落ちしたという話が残っています。
湊屋の中では駆け落ち話を信じる者が多いようですが本当のところは誰ひとり知らぬようです。
その後佐吉はおふじの指図で植木屋へ奉公に出されました。
総右衛門も従うしかなかったようです」。
佐吉は子どもの頃からこういう苦労をしてきたんだな。
「以来佐吉は湊屋と関わる事なくその2年後に湊屋夫婦の間に末娘みすずが生まれた」か。
大層なべっぴんですよ。
まるでおひな様のようで。
見た事あんのか?へいへいちょいと前に。
母親のおふじの娘時分より器量よしだって評判です。
ふ〜ん…。
まあ聞いた話だが総右衛門は成り上がり者には珍しく自分より身分の低い女を拾い上げて遊ぶ癖があるらしい。
何でも別れる時にはさきざきの暮らしが成り立つようにそれ相応の金をやり後腐れのないように計らうそうです。
とにかく湊屋の子どもたちにゃあ顔も知らねえ異母兄弟姉妹がごろごろいるって事だ。
という事は江戸中に湊屋さんのお子さんが?そのうちの一人は黒豆が見つけたみたいだがな。
「王子の七滝近くの」…。
(英之介)「茶店の小女でおみつという娘がいます。
この娘も湊屋の落としだねでふたつきほど前に偶然みすずと出会ったらしいのですが」…。
姉さんですよね?おお〜怖ぇ〜。
気の強ぇ娘だぜ〜。
母親譲りかね?叔父上これは…。
うん?何?「念のため一度そのおみつの顔を見に出かけてみました。
すると…」。
(烏の鳴き声)官九郎!
(烏の鳴き声)どうしたの?官九郎。
(鳴き声)ちょっと待っててね。
おいおい何だってここで官九郎が出てくる?俺は黒豆に烏の事なんぞひと言も言ってないぞ。
だとするともしかして佐吉さんとおみつさんは官九郎を通じて手紙のやり取りをしているのでは?手紙ってお前…。
軍記物で読んだ事がある。
鳩の足に文を結わえつけて飛ばすと相手にちゃ〜んと届くらしい。
それよりも気に入らねえ事が書いてある。
やっぱり例の八助の壺信心の火元は湊屋らしい。
2年ほど前に上方から伝わって湊屋以外の俵物問屋でも一時かぶれる者が出て往生したらしい。
それはおかしいですよね。
ああ〜…。
総右衛門のやつはなから壺信心の事を知ってたくせに佐吉には「店子の作り話だから気にするな」なんて事を言ってやがる。
一体湊屋さんは何を考えてるんでしょう?さてねえ。
まあ黒豆が八助の行方を追ってるからな。
やつが見つかりゃ何か分かるかもしれねえ。
おいおい…。
え〜…何だと?
(腰が鳴る音)イデ…腰また来た腰。
これちょっと読んで。
久兵衛さんが…鉄瓶長屋の近くに!?「それを見かけた隣町の差配人は本当に久兵衛かどうか確信が持てずいたずらに騒ぎになるのを恐れて黙っていたそうです」。
こりゃあおくめが見たってのも久兵衛本人に間違いなさそうだな。
はい。
もしかしたら久兵衛さんこそが全ての謎を解く鍵なのかもしれません。
謎ねえ…。
面倒くせえな。
頭がこんがらがっちまう。
(烏の鳴き声)イテテテテ…。
(烏の鳴き声)うわ…。
(鳴き声)お前官九郎か?えっ…。
えっ?
(鳴き声)叔父上あれを。
ほら…。
(弓之助)え…。
本当かよ。
(飛び去っていく音)「岡っ引き仁平親分急ぎ参る」。
仁平?ああ〜!おっ…。
旦那おとぼけはなしにしましょうや。
例の鉄瓶長屋の一件もう目串はついてなさるんでしょう?目串も竹串もあれはお前店子が出てっただけの事だろう。
・お上が出張るような事じゃねえや。
あっしはそうは思わねえ。
こいつは裏で湊屋が糸を引いたに違いありませんや。
湊屋が?そうです。
あの総右衛門ってのはとんだ食わせ者だ。
野郎が何かたくらんで店子を追い出そうとしてやがるんですよ。
そりゃいくら何でもとっぴすぎやしねえか?考えてみておくんなさい。
次々に店子が出ていくのはあの佐吉って若造が来てからです。
野郎が湊屋に因果を含められて陰であれこれ仕組んでるに違いねえ。
佐吉は一生懸命やってるぜ。
ハハハハッ旦那は本当に人がいいや。
植木屋の下職がいきなり差配人ですぜ?いくら湊屋の遠縁だって触れ込みでもおかしいじゃありませんか。
そもそもが駆け落ちした母親に捨てられた野良犬みてえな野郎だ。
金さえ積まれりゃ何でもやりまさあ。
…で?俺にどうしろって言うんだい?ヘッヘッヘッ旦那に手柄を挙げて頂きたいと思いましてね。
どうでしょう?この一件あっしに預からせて頂けませんかね?待ちなよ。
自分から店子を追い出す地主がいるかね?ですからねそこに何か裏があるんですよ。
考え過ぎじゃねえか?それに出ていくだけじゃなくて家移りしてくる者もいるだろう?おくめみてえに。
ケッあんなもん人間の数には入りませんや。
旦那は総右衛門がどれだけあこぎな野郎かご存じないんだ。
あの善人面の下に性悪な鬼が隠れてるんでさあ。
おかしな勘ぐりはやめときな。
それに俺は腰が痛えんだよ。
イテテテテ…。
じゃあ旦那は本当に何もご存じないんですね?ご存じないね。
けれどあっしはそうはいかねえ。
必ず事の次第を突き止めて湊屋の化けの皮を剥がしてやる。
お前そんなに湊屋が嫌いなのかい?…いやそんな事は。
それとも何か?よっぽど恨みでもあるのか?とんでもねえ。
ごめんなすって。
何だか毒気に当てられちまったな。
それにしてもおかしな雲行きになってきやがったな。
いやしかし叔父上壺信心の出どころが湊屋さんなら今の話もまんざら的外れとは思えません。
う〜ん…八助たちは湊屋に壺信心にはまったふりして長屋を立ち退くよう因果を含められた。
立ち退き先も湊屋が世話してやりゃあ嫌とは言うまい。
それだけじゃねえ。
権吉を博打に引き込んだのも長助に実の父親の善治郎が鉄瓶長屋にいると吹き込んだのも湊屋の手の者だったとしたら…。
湊屋が何かをたくらんで店子をこっそり長屋から追い出そうとしている…か。
だとしてもそれを裏付ける証拠がありません。
仁平親分には何か心当たりがあるんでしょうか?どうだかな〜?アイタッ何だか腰ばかりか頭まで痛くなってきやがった。
ああ〜…。
(友兵衛)それはねショウガの味だな。
それから3日後。
なんとか歩けるようになった平四郎は鉄瓶長屋を訪れた
旦那もう腰はよろしいんで?商売繁盛で何よりだな。
うん?こりゃあおしまばあさんの家移り原因はお前じゃねえのか?こうやって商売敵になるもんだからよう。
とととと…とんでもねえ。
あっしはそんな…。
冗談だよ。
駄菓子屋が潰れちゃあ近所の子どもらがかわいそうだ。
せいぜい稼ぎな。
へ…へい。
うん?何だ?ああ〜うん。
すいません官九郎にあんな文を持たせたりして。
ここに来る前に湊屋の旦那からも言われてたんです。
仁平という岡っ引きには用心しろと。
それに悪いうわさも聞いてましたし。
悪いうわさねえ。
まあ察しはつくよ。
世の中の人間を丸ごとひっくくって伝馬町にぶち込まねえと気が済まねえってな目つきだからな。
重箱の隅つついて罪人を出すって専らのうわさです。
…で?その仁平がお前には何を言いに来た?俺が続けて店子をしくじってるのはどういう訳かと。
「湊屋に頼まれてわざとやってる」とでも言ったか?俺にははっきりそう言いやがったぜ。
湊屋には店子を追い出したい訳が何かあるんだとさ。
まああまり気にすんな。
よいしょ。
あら旦那。
おお。
お見舞いに来てくれたのかい?なに見回りついでにな。
どうだい?お徳の具合は。
おあいにくさま。
今は寝てるんだよ。
何なら起こしてこようか?ああいいよいいよ。
寝かせといてやれ。
洗濯かい?お徳さんひどく寝汗かくんだよ。
そりゃあんまりいい事じゃねえな。
でもごはん食べるようになったからね。
一安心さ。
ああああ。
あっ旦那腰はどう?ああもう大丈夫だ。
アハッよかったねえ。
腰がいかれちゃあ男はね立つもんも立たないよ。
お前はそういう事言うからお徳に嫌われんだ。
・
(おくめ)そうかもしれないね。
アハハハッ。
私ったらまあ…。
・それじゃあまた来るよ。
お徳の事よろしく頼むぜ。
・
(おくめ)ああ旦那。
ちょいと待っとくれ。
(戸が開く音)
(物音)
(戸が閉じる音)その杖短いだろう?こっちの方がいいんじゃない?ああこいつはいいや。
どっかで見たような棒だな。
お徳さんちのしんばり棒。
ああ…。
持ってきちゃ駄目だろう。
あっそういえば旦那例の嫌らしい岡っ引きさあ。
仁平かい。
また何か言ってきたのかい。
あいつまたこの辺うろついてるんだよ。
この前は湊屋の旦那のあとつけてたんだ。
湊屋…。
結局そこへ行き着くか。
ああっ!何だやっぱり起きてたんじゃないのか。
何の話だい?私ゃ今起きたとこだ。
フンッ。
せっかく井筒の旦那がお見舞いに来たってのにさ。
顔ぐらい見せてやりゃいいじゃないのさ。
うるさいね。
あっ?ひょっとして恥ずかしかったのかい?フンッ。
たまにゃ素直になったって罰は当たらないだろうにさ。
回想
(英之介)湊屋は大商人です。
よほど大金の絡んだ事でもない限り悪だくみはできませんよ?湊屋という看板よりむしろ家の事情なのではないかと。
店子を追い出して湊屋にどんな得があるってんだ?何が目的であんなおおぎょうな事を…。
叔父上そんなに気になるのでしたらひとつ昔の事を調べてみてはいかがでしょう?調べるったってどうやって…。
何やってんの?
(弓之助)いやあれですあれです。
あっ!あのおでこさんか。
あっいやそれは駄目だ。
この前は行きがかり上助けてもらったが政五郎に改めて頼む訳にゃあ…。
それなら私一人で行ってまいります。
あっでも子どもだけでは相手にしてもらえないかもしれません。
小平次は無理だぞ。
うちは親父の代から岡っ引きを使わねえ。
承知するはずがねえや。
でしたら叔母上が手習いからお帰りになったらお願いしましょう。
あっでも何と説明したらいいかな〜?あれこれ聞かれたらつい口が滑って叔父上のぎっくり腰の真相もうっかりしゃべってしまうかもしれないなあ。
いや〜困ったな〜どうしようかな〜。
いやおお待て待て待て待て。
何言いだすんだお前。
じゃあご一緒に…。
え〜?
ここは岡っ引きの政五郎の住まいで1階は女房のお紺が切り盛りするそば屋となっている。
江戸の岡っ引きは大概お上の御用以外になりわいを持っているのが常だった
いらっしゃいまし。
ああ…。
うちの亭主がいつもお世話になっております。
あ…ちょいとお前さん。
旦那は確か今日で9回目。
先月10日の昼過ぎに若い女の方と…。
(せきばらい)
(おでこ)2人連れでおいで頂いて以来のご来店。
(政五郎)おいどうしたい?お前さん。
ああこれはこれは井筒の旦那。
弓之助坊ちゃんも。
ああいやいや…ちょいとな近くを通りかかったんだが…。
弓之助のやつがどうしてもって言うんでな。
あっそうだ叔父上ものはついでと言いますから政五郎親分にあの事を相談してみてはいかがでしょう?お前何を言ってる…。
何かお困り事でも?ああいやいやあのいやその…。
アハハ…。
いらっしゃいませ。
うん。
おでこ。
旦那がお尋ねだ。
佐賀町の仁平と築地の湊屋の旦那の因縁について何か話を聞いてるかい?あい。
たんとあります。
そりゃもう因縁のてんこ盛り。
30年前萬屋という紙問屋に奉公した湊屋総右衛門は新たに茶問屋を任されて大繁盛へと導きました。
これが面白くないのが元からの紙屋の奉公人。
やがてお店は2つに割れ茶問屋側の頭は総右衛門。
対する紙問屋側の頭こそ生え抜きの手代の仁平でござんした。
仁平が。
(おでこ)あい。
この仁平とにかく底意地が悪い。
目上にはこびへつらい目下の者はいじめる責めるおとしめる。
はあ〜いるんだよなそういうやつはどこにでも。
(おでこ)ついには紙問屋側の奉公人たちも仁平を見限って総右衛門につき…。
仁平だけが爪はじきにされてしまった。
意地になった仁平は前にも増して因業なまねを繰り返しますます嫌われていきました。
そしてとうとう総右衛門は4人の奉公人と謀って仁平を罠にはめたんでござんす。
大番頭専用の秘密の大福帳をこっそり手に入れた総右衛門が悪事をたくらんでいるといううわさをわざと流しそれを知った仁平が勇んで主人にご注進に及んだところが肝心要の大福帳は総右衛門があらかじめ用意した真っ赤な偽物。
哀れ仁平は面目丸潰れ。
これは何かの間違いです!だますつもりか!
(おでこ)さすがにいづらくなった仁平は程なくお店を飛び出し姿をくらましたそうです。
なるほどな〜。
しかしそんな昔の話をいまだに根に持ってるとは執念深いやつだぜ。
恐れ入ったね。
その後の仁平は暮らしも荒れてしくじり続きでしまいにはとうとうお縄を受けるはめに。
つまり仁平が岡っ引きになったのは一度自分も罪人に身を落として…というよくあるあれか。
叔父上どういう事ですか?坊ちゃんお恥ずかしい話ですが大概の岡っ引きは一度罪人となったあげく回り回って今度は悪党を捕まえる側になる。
「蛇の道は蛇」「毒を以て毒を制する」ってやつで。
それでは行ってらっしゃいまし。
・
(政五郎)仁平のやつは罪人を見つけて引っ立てる事が人を罪に落とす事が楽しくてしかたねえ。
そういうやつなんです。
気を付けてな。
ありがとう!湊屋には店子を追い出したい事情があるんだ。
それが何なのか必ず突き止めてやる。
悲しいもんだな人間てのは。
それで?仁平は自分を罠にはめた連中の一人一人のそのあとをたどって昔の恨みを晴らしました。
意趣返し…ですか。
総右衛門と共に仁平をだました4人の奉公人は誰ひとりまともに暮らしちゃおりやせん。
身代を無くして貧乏のどん底に突き落とされたり罪に落とされ獄死したり子どもを亡くした者や女房に逃げられた者もおります。
ほら死んだんだよ。
ハッハッハッハッハッ!それがみんな仁平の仕業だってのかい。
いえ仁平の手柄でございますよ。
という事は仁平親分にとって残るは本丸湊屋総右衛門ただ一人。
…という事ですね。
黒豆の言ったとおりだな。
この一件の鍵は湊屋の家の事情の中にあり…か。
それが鉄瓶長屋の一件にどう関わってくるのか…。
旦那差し出がましいようですがもしお手伝いできる事がありましたらいつでも言っておくんなさい。
ありがたいが早々お前さんの手を煩わす訳にもいかねえや。
まあいよいよの時には頼むかもしれねえがな。
ええ。
おでこもありがとよ。
また何かの時には頼むぜ。
あい!恐ろしいもんだな。
人の執念てのはよ。
お前はどうだい?怖くはねえか?怖いです。
でもそれ以上に真実を知りたいのです。
真実か。
真実ねえ…。
グリグリグリグリ…。
あっちょっと…。
湊屋総右衛門と妻そして佐吉親子との過去の因縁。
更に仁平の黒い執念が絡み合いもつれた糸の先には一体何があるのだろうか。
のんきな平四郎もさすがに一抹の不安に駆られるのであった
どうした?
(一同)し〜っ。
あんたここに本当は何をしに来た?私をお嫁にしてもらおうと思って。
女心が分からないよ本当。
この人は私の弟子だからね!また家移りかい。
ちょいとお前の事を調べさせてもらった。
俺のおふくろはお店の金を盗んでます。
お前その話誰に吹き込まれた?妙なおっしゃりようですね。
人に鼻っ面を振り回されるほどやな人生はねえ。
今日まずご覧頂きたいのはこちらのイカ!実は…。
2014/11/19(水) 01:25〜02:10
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら(5)「恨(うら)みを持つ者」[解][字][再]
宮部みゆきの傑作時代劇人情ミステリーをドラマ化。江戸深川の鉄瓶長屋から次々と店子が姿を消してゆく。この不可解な事件を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎が暴いてゆく。
詳細情報
番組内容
辻井英之介(音尾琢真)の調べによると、佐吉(風間俊介)は、湊屋総右衛門(鶴見辰吾)の姪・葵(佐藤江梨子)の一人息子であり、総右衛門はその母子を随分とかわいがっていたとのことだった。しかし、総右衛門の妻・おふじ(遊井亮子)は当然そのことを快く思っていなかった。それからしばらくして葵は失踪。鉄瓶長屋との関係は不明のまま。そのうち総右衛門の動きを探る岡っ引きの仁平(六平直政)が事態をより複雑にしてしまう
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,加部亜門,秋野太作,志賀廣太郎,松坂慶子,六平直政,須藤理彩,大杉漣,音尾琢真,鶴見辰吾,佐藤江梨子,遊井亮子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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