サイエンスZERO「青色LEDだけじゃない!ノーベル賞特集」 2014.12.06


もうすぐ…そこでスタジオには物理学賞の天野浩さんをお迎えしました。
おめでとうございます!でもその前に今回は忘れちゃいけないほかの2つ…化学賞と医学・生理学賞を徹底解説します!化学賞は光の限界を超えて小さなものが見える顕微鏡を開発した3人。
100年以上信じられてきた常識を打ち破るための驚きのアイデアが満載です!そして医学・生理学賞は自分がいる場所を知るための脳細胞を発見した3人。
実はこの細胞場所以外にもさまざまな情報を記憶する重要な細胞だったんです!ノーベル賞の大特集です!今回は「ノーベル賞特集」第1弾という事で化学賞と医学・生理学賞を徹底解説しちゃいます。
はい。
まずは化学賞から見ていきましょう。
受賞したのはこの3人です。
この3人。
授賞理由は超解像光学顕微鏡の開発です。
光学顕微鏡というのは昔授業で使ってたやつですよね。
普通の顕微鏡ですね。
光で見る顕微鏡という事ですね。
現場の研究者が生きた細胞みたいなちっちゃなものを見る時に使ってるんですね。
ああ。
今回は非常に解像度の高い方法を開発したって事なんですね。
だけどいいレンズを使って倍率を上げていけばいくらでも小さいものが見えるような…。
…って思いますよね。
ところが光というのは波の性質を持ってる。
…というふうに学校で教わるんですよ。
ああ。
例えば普通の光の場合だと紫色が一番短い。
その波長の半分となると200ナノメーター。
言いかえると5000分の1ミリが限界のはずなんですよ。
はあそうなんですね。
例えば光を発する分子が200ナノメートルより近い距離にいくつも集まりますと光がこのように全部つながって見えます。
一つ一つの分子を見分ける事ができませんよね。
確かに。
この光の法則は19世紀の後半に発見されました。
以来100年以上……というのが常識だった訳なんですね。
ただウイルスとかタンパク質というのは200ナノメーターより小さいんですよ。
なので生物学の方たちはどうしてもこの解像度の限界を突破したいと考えていた。
でも小さいものを見るんだったら以前番組でも取り上げたSACLAとか電子顕微鏡で使えばいいんじゃないですかね。
ただSACLAの場合だと太陽光の1億倍の更に1億倍という強い光を使う訳ですね。
そうでしたね。
細胞が死んじゃうんですね。
…という事で今回の3人が頑張ったという事ですね。
そっか。
まずはシュテファン・ヘルのノーベル賞の授賞理由になった顕微鏡を見ていきましょう。
こちらの研究所には日本に数台しかないというヘルが開発した顕微鏡があります。
それがこちら。
どこまで小さいものが見えるのか?細胞の中にある小さな器官ミトコンドリアをSTEDで観察してみました。
従来の顕微鏡では形が何となく分かる程度でぼんやりとしています。
一方STEDで見た画像はこちら。
真ん中に数百ナノメートル程度の穴が開いているところまでくっきり見えています。
電子顕微鏡でしか見られなかった世界が光学顕微鏡でも正確に見られるようになったんです。
一体どんな仕組みなのでしょうか。
この機械で励起光と合わせて対物レンズを経て試料に照射する。
一体どういう事?ヘルが考えたのは誘導放出を使う方法です。
例えばGFPはある波長の光励起光を当てるとそのエネルギーを吸収。
緑色に光ります。
光っているGFPに別の波長の光STED光を強く当てるとオレンジ色の光を発して一気にエネルギーを失い元の光っていない状態に戻ります。
これが誘導放出という現象です。
ヘルはこの2つをドーナツ状に組み合わせる事にしたのです。
まず励起光を当てて一度GFPを光らせます。
その外側にSTED光をドーナツ状に当てる事で周りの光を消します。
こうすれば光る範囲を200ナノメートルよりはるかに小さくできます。
つまりぼんやりとした光を捉えながらも光源の位置を狭い範囲の中に絞り込めるのです。
この光をサンプル全体に走らせて連続的に測定します。
すると光の限界を超えた超解像の画像が得られるのです。
すごいな。
あのSTED顕微鏡を使うとかなり鮮明に捉える事ができましたね。
やっぱりドーナツにして真ん中だけスポットライトが当たってるような感じにしてそれをスキャナーみたいに全体を動かせば超解像の出来上がりってこのアイデアがすごいですよね。
さあここからは専門家と一緒に見ていきましょう。
15年前あのシュテファン・ヘル博士と同じ研究室で研究した事もある大阪大学の藤田克昌さんです。
あのSTEDでどれぐらい小さなものまで見れるんですか?理論的には限界がありません。
え?ドーナツの光の強さをどんどん大きくしていくと真ん中の光ってる領域というのはどんどん小さくなるんですよね。
なのですごく強い光を使えばすごく小さな領域しか見えなくなる。
ただ強い光を当てると試料が壊れてしまうんですよね。
あ〜なるほど。
なのでそこが今のところは限界で大体30ナノメートルぐらいそこまでは小さくできてます。
え〜。
200ナノメートルが限界といわれてたのが…。
そうです。
このドーナツ状の光っていうのはアイデアは非常に面白いと思うんですがこれを作るのは簡単だったんですか?やはり非常にきれいなドーナツを作らないといけないというのがまずありましてそれをいかに作るかという事。
それからビームが2つ出てきましたよね光が。
それが数十ナノメートルの精度で合わせないといけないんですよ。
いくら合わせてもやっぱりちょっとずつ部品が次第にずれていって…。
なので技術的にも結構難しくてその辺りの調整というかかなり苦労していたみたいです。
かなり複雑な事をやってたんですね。
その根性というかねそれはすばらしいと思います。
先生がヘルさんの研究室に行かれた時はどんな雰囲気でしたか?2000年に彼が発表した初めてきれいな画像がとれたというその実験をするための装置を作ってるところだったんですよ。
僕はそれと違う実験を同じ部屋でやってたんですけども…。
その時には特殊なレーザー光が必要だったんでそれが手に入って非常にうれしそうにこれでうまくいくんだと言って。
へえ〜。
じゃあもうまさに実現する一歩前の時にという事ですか。
はい。
あとのお二人はどんな研究が評価されたんですか?あとの2人はPALMと呼ばれるまた別の超解像顕微鏡の開発に関係してます。
エリック・ベッツィヒがそのPALMという顕微鏡のアイデアを出してそれを実現する基となった研究というのがモーナーさんがやられた研究です。
一般的なGFPでは一度光ってからしばらくするとだんだん光が弱まりついには消えます。
そこにはどんな波長の光を当ててももう光りません。
いわば使い捨てです。
ところがモーナーが発見したGFPは一度光ったあとでもある特定の波長の光を当てると元の状態いわばスタンバイ状態に戻ってくれます。
そこにある別の波長の光を当てると再び光るのです。
モーナーはこのGFPを使う事で光のONOFFを自在に操る技術を確立したのです。
モーナーのこの方法を超解像に発展させたのがエリック・ベッツィヒです。
彼もまた特殊なGFPを使いました。
普通の状態ではどんな波長の光を当てても光りません。
しかしある特定の波長の光を当てるとスタンバイ状態になります。
この手順を踏んだあとだけこのGFPは光るのです。
ベッツィヒの方法ではまずスタンバイさせる光をあえて弱く当てます。
すると一定の割合のGFPだけがスタンバイ状態になります。
この状態で光らせるとスタンバイ状態になっていたGFPだけがまばらに光ります。
ぼんやりとした光それぞれの中心をとる事で光の正確な位置を突き止められます。
一度光ったGFPはそのまま光を強く当てると変性し二度と光らなくなります。
この作業を何度も繰り返し得られた画像を重ね合わせる事で超解像の全体像が映し出されるのです。
そのPALMという方法でとった画像を見て頂きましょう。
大腸菌の細胞内小器官リソソームの画像です。
(竹内)いや〜これは美しいですよね。
くっきり出てますもんね。
細かいところまで拡大してもあんなにちゃんと見れるってすごい。
(竹内)これめちゃめちゃ拡大してませんか?ねえ。
(藤田)これがまさに一番初めに発表した画像なんです。
こんな完成度の高い段階でド〜ンと出しちゃう訳ですか。
そうです。
すごい反響だったんじゃないですか?そうですね。
衝撃的でした。
彼がすごく天才的なとこだと思うんですけど緻密に実験を作り上げてそれで完成するまで発表しないんです。
普通科学者が実績を上げるためには本数勝負とかいうじゃないですか。
たくさん書きますよね普通。
そうじゃないんですね。
彼の研究なんかを見てみるとまさに一つ一つでもインパクトが高ければそれでいいと思うんです。
このPALMのコンセプトというのは1995年に彼が理論だけでアイデア発表したんですね。
その時にはその理論アイデアを実現する事が難しいと思って研究の分野から離れちゃっていなくなっちゃったんですよ。
理論だけ発表して。
はい。
それで論文発表から10年ぐらいたってから点滅制御できるGFPがあるというのを彼がどこかで聞いてきてその時はもう研究分野から離れてましたので彼はよく知っている友人と折半で5万ドル出して自費で研究を始めてしかも場所はその友人のリビングルームで…。
リビングルーム?はい。
装置を作ったんですよ。
わあ!あ〜本当だ。
家で。
リビングですね。
研究所じゃない。
不思議。
よく何かガレージから始まって大企業になっちゃうみたいな話ありますけど…。
リビングルームからノーベル賞です。
(2人)うわ〜!STEDとPALMこれはどっちの方がいいんですか?一長一短があります。
STEDの方はすごく早く画像が作れるんですよね。
動きのある細胞なんかでも見えるんですよ。
でもそのかわりビームを合わせるという機構が複雑なので使う側の技術の修練がだいぶ必要になってくると。
PALMの方は実はすごく普通の顕微鏡でできちゃうんです。
点滅してくれれば。
ああそっか。
それ自体が。
GFPが点滅してくれればそれでいいのであとは画像を重ねるだけです。
これ例えば学校にある顕微鏡でもできるって事ですか?はいできます。
えっ!少しレーザーを追加しないといけないんですけど。
でも基本的には同じタイプです。
じゃあいい事ばかりかと思いきやそうでもないんですか?そうですね。
やはり一つ一つ分子を見ないといけないので時間がかかるんですよね。
やはりSTEDみたいには早くはできない。
あとは光を結構強く当てないといけない。
そうすると光を当てるとやっぱり細胞とか生きたものというのはちょっとずつダメージを受けちゃうので長い間見続けるというのができないんですね。
そうするとやっぱりノーベル賞は取りましたがもうちょっと改良できるという事ですかね。
そうですね。
まだまだこれから挑戦する事はあると思います。
そこでPALMの弱点を克服して長時間生きたままの状態で200ナノメートルより小さい構造を見る手法の開発が進んでいます。
東京大学の浦野泰照さんはPALMの弱点を克服した新しい方法の開発に取り組んでいます。
目指したのは自動的に点滅するような色素の開発です。
注目したのは赤く光るローダミンという色素。
光る状態と光らない状態が自然に入れ代わるようにする事で点滅させるのに成功。
HMSiRと名付けました。
これがHMSiRを加えた時の映像。
まばらに点滅が起こっています。
一瞬一瞬に現れる光。
その中心をとれば光っている点の位置を正確に知る事ができます。
これを重ね合わせる事で超解像の画像を得る事ができます。
従来に比べてこんなに鮮明です。
浦野さんたちが見たのは細胞の骨格を形づくる微小管。
細胞分裂や細胞内の物質の輸送で重要な役割を果たしています。
動画にしたのがこちら。
微小管が伸びていく様子が分かります。
色素が自然に点滅するので強い光は使いません。
そのため生きた細胞を長時間見続ける事ができるようになったのです。
これどうしても物理学のセンスからいくととにかく見るんだ。
見えなければ光を強くしちゃえ。
そういった話になっちゃう訳ですよね。
でも生物が生きたまま観察しないといけない。
そのためには化学の力が入ってくるというのが何かすごく新鮮ですよね。
まさに最先端の科学というのはそういう傾向にあると思うんですよ。
今回も顕微鏡の開発なのにノーベル化学賞ですよね。
そうですよね。
確かに。
普通物理学賞ですよね。
その化学的な発想光らす光らせないというような発想それはやはり必要ですしもちろん装置は物理ですし。
それから先ほどのダメージという事を考えるとこれ生物の話が入ってきますよね。
何かシームレスというんですかね。
もうどれが物理でどれが化学でどれが医学・生理学か分かんない感じですね。
今後超解像光学顕微鏡の開発によってどういった事が更に期待されるんですか?例えば細胞の中にある器官ですね…藤田さんどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
続いては医学・生理学賞。
受賞したのはこの3人です。
モーセルさんたちはですねご夫婦なんですよ。
お〜!夫婦の同時受賞というのは史上4組目だそうです。
へえ〜!さあ授賞理由はこちら。
場所細胞と格子細胞の発見です。
これどんな細胞なんですか?どちらもこれは脳の細胞なんですが場所細胞の方は1971年にジョン・オキーフさんが発見しました。
場所細胞というのはこれは脳の中の記憶をつかさどる海馬にあるんですね。
別の場所に行きますと今度はですね別の場所細胞が活動するという訳なんです。
へえ〜面白い。
この細胞は人間にもあるんですか?あります。
という事は私たち人間もこの場所細胞を使ってるって事ですか?使ってますね。
例えば一度行った事のある場所だとわざわざ地図を見なくてもちゃんと着くじゃないですか。
あ〜。
これは脳の中に地図があるんですよ。
脳の中の地図を作るのにどうもこの場所細胞が役に立ってるらしいんですね。
そうなんですね。
場所細胞の発見から30年以上たった2005年に格子細胞を発見したのがモーセルご夫妻なんですね。
格子細胞があるのは場所細胞がある海馬のお隣。
これは海馬に情報を送る嗅内皮質なんですね。
格子細胞も場所細胞も同じようにある特定の場所にいる時に活動するんですよ。
ああ…えっ場所細胞とは何が違うんですか?場所細胞が特定の1つの場所で活動するのに対して格子細胞はあちこちで同じ細胞が活動するんです。
本当だ場所を移動しても同じ細胞が反応してますね。
そうですよね。
その活動する場所を見ますと一定の間隔で並んでいます。
これを格子状と捉えて格子細胞と呼んでいるんです。
へえ〜。
ここからは専門家の方に伺いましょう。
同志社大学の橋晋さんです。
この格子細胞ってどうしてこんなに不思議な構造になってるんですか?格子細胞は一つの空間に対して間隔が狭いもの広いもの角度が変わったものなどさまざまなものがあるんですね。
そうすると少しずつずれていますのである一点だけ集中的に重なる所が出てくるんですね。
その情報を海馬に送り出す事によって海馬にある場所細胞が正確に位置を決定する事ができるんです。
(2人)へえ〜。
ですから…そうか本来だったら地図上のある点っていうとものすごい精度で決めていかなくちゃいけないけれども非常にまばらな点をいくつか使う事によってそこが特定できちゃうという事ですか。
そうですね。
格子細胞が無くなってしまったらもう場所は同定できないと。
へえ〜。
ロンドンのタクシーの運転手さんたちは海馬が大きいっていうような話を聞いた事あるんですがそれって何か場所細胞がたくさんあるとかそういう事なんですかね?あれはまさしく対応していて海馬でも後部の海馬が大きくなっている。
そこにまさしく場所細胞が多く存在するといわれているんですね。
意識的に増やす事はできるんですか?ロンドンのタクシードライバーの後部海馬が増大したというのはまさにどこからどこに行こうというナビゲーションを毎日繰り返しているので多分必要だから大きくなっているんじゃないかと。
だから場所細胞のようなものは増えていると考えられる訳ですね。
へえ〜。
ここまで場所細胞と格子細胞について見てきました。
場所細胞については場所の認識にとどまらないさまざまな事が分かってきているんです。
橋さんはラットを使った実験で場所細胞の更なる機能を調べています。
ある一つの場所細胞の活動がルートの違いによって変化するかを見る実験です。
ルート

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