ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第一週の選者小島ゆかりさんでございます。
今日もよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
大好きな猫の歌が出ましたね。
捨て猫だったんですけどもう8年以上一緒に暮らしていますから本当に掛けがえのない存在になりました。
誰かって思う事があるんですか?何者なんでしょうね。
神かもしれないと。
本当に癒やしをくれますからね。
今日のゲストをご紹介致しましょう。
お迎え致しましたのは万葉学者で奈良大学文学部教授の上野誠さんです。
ようこそお越し下さいました。
上野さんは「体感する万葉」つまり体で感じる万葉をモットーに「万葉集」や万葉びとの文化などをご専門に研究されていますが最近こういうご本を出されました。
「万葉びとの宴」とありますが宴会ですか?これは。
そうですね。
まあ宴会っていうのはね人生にあと何回楽しい宴会に出られるかって事を考えるとね逆に言うと宴会のために生きてるんじゃないかと思う瞬間もあるんですね。
そうするとやっぱりどうやったら楽しめるか着る物食べる物飲む物踊りもあり歌もあり…例えばこういう衣装を着て宴会をする事もある。
そういう宴会をいかに楽しんだかという事で見るとやっぱり1,300年前も今も昔も変わらないのかなと思いながら書きました。
これは実に楽しい本で私繰り返して読みましたけど「万葉集」の中のさまざまな宴会をまるで先生が仕切っているように面白く書いてあります。
私は仕切りたがり屋ですしやりたがり屋ですからね。
是非皆さん読んで下さい。
楽しくお酒を楽しむとともに政治的な意味合いがあるものもあったり興味深いですよね。
それをどう取り仕切るかっていうのはまさに政治ですよね。
ゲストにはいつも短歌のイメージを短い言葉にして頂いております。
上野さんどうなりましょうか?こういう言葉にしました。
実はある事件がございまして…。
何か楽しい宴会になりそうだな。
後ほどお話をひとつよろしくお願い致します。
それでは今週の入選歌です。
題が「行く」または自由でした。
小島ゆかり選入選九首です。
一首目。
早速上野さんから伺いましょう。
熱いお茶ならば馥郁とした香りが上がってくるでしょ?でもその冷たさを感じてそこに匂ふというのはどういう事なのかという事ともう一つは緑茶でしたら冷まさなければいけないとか濃い方がおいしいとかありますよね。
そうすると「冷たく匂ふ」というのがどういう事かなと思いながら私はその言葉に惹かれました。
まさにこの歌は「冷たく匂ふ」がキーワードでここがすばらしいんですね。
恐らくかつて作者はおばあ様と夏野で遊ばれた思い出があるんだろうと思います。
そして夏野の色彩と緑茶の色とが一首の中で何となく呼応し合ってそして「冷たく匂ふ」を生かしてるんですね。
とてもいい歌だと思いました。
では二首目です。
「一本道は蝶が先」という心のゆとりですよね。
これによって一人の歩き遍路が何か明るくのどかな気分が生まれてくる。
そして全体がまるでゆっくり一本道を行くリズムで作られている。
これもなかなかいい「行く」だなと思いました。
そうですね「蝶が先」ですね。
それでは三首目にまいりましょう。
上野さんどう読まれました?何かね謎があってね探偵がねある事を調べに農家に行ってというような物語を感じたんですがそれが当たってるかどうかは分からないんですが謎があるのではないかと思わせるところが好きです。
本当に面白い鑑賞でねそういう謎も一方にありながらもしかしたら本当にご近所の作者の家のすぐ近くの話かもしれないんですね。
どちらにしても「五、六分」とか「黒犬」とか「農家」とか「側道」こんな名詞がくっきりとこの場面を作り上げている。
描写がくっきりしているんです。
それがいいと思いました。
それでは四首目にまいりましょう。
上野さん。
そうですね人間どこに行くかで優しくなれる時と優しくなれない時があるんですがふっと思って動物園行ってないよな〜そういう優しい心がねこの十数年失われているのかななんて思いながら動物園に行く人の心の和みを感じさせてくれてそれを気付かせてくれたので私大好きな歌ですね。
動物園には多くの人はねゾウを見に行ったりライオンを見に行ったりするんですけどこの作者は優しい眼になる人を見に行くというね。
その動物園という場所の新鮮な捉え方ですかね。
その心は今上野先生おっしゃったとおりだと思います。
動物好きの人たちの眼優しいですよねほんとにね。
さあそれでは五首目です。
お勤めの時には毎日この道を通って通勤をされたんですよね。
ですから「柿の木」「銀杏」とりわけ秋になれば柿の実がなったり銀杏が黄金色に紅葉したりしたと思うんですがその時はそんなに思っていなくても「もう行けぬ」という時になって初めて今ですね木がとても思い出深いまたすばらしいものに特別なものに思えるという事だと思います。
さあでは次六首目です。
これはスケールの大きな歌で不思議な感じがしますよね。
モハーベ砂漠というのはカリフォルニア州のシエラネバダ山脈あの辺りだそうでいろんな鉱物資源があるらしいんですけれども非常に広いらしくて何か聞いた話によると中古飛行機の捨て場所になっていたりとそんなお話もあると。
とにかく広大な所なんですよね。
そうすると「蛇のごと」という迫力のある比喩と音が聞こえないという無音の無韻の感じですよね。
非常に何か不思議なイメージで大きな感じ。
その「行く」ですよね。
それがいいなと思いました。
音も聞こえないほど遠くの列車という事ですよね。
大陸横断鉄道みたいなね。
では七首目にまいりましょう。
上野さんどう読まれましたか?今の時代ね自分の死という事も個性的でありたいと望む人が多くなったわけですよね。
個性的でありたいと望めば望むほどですよその人に思いを寄せる人は一体どうしたらいいのかって事が当然出てくるわけですよね。
その一コマをすくい取ったまさにねこの2〜3年の何かをすくい取ったものじゃないかと思って大好きです。
上野先生は短編小説も書けそうですてきですね。
推理しますね。
真意は分かりませんけど例えばちょっと朝市青空市へ大根を買いに行くようなねそんな感じでこのご夫妻が墓地に行くというような場面と思って読んだりしても面白いなと思うんですね。
「僕もついて行く」この言い方がいいと思います。
さあそれでは八首目です。
ニュースで映る映像というのは顔とか体などは映りませんので僅かに映った腕の部分に水晶の数珠が光ってそこだけに何かその人の存在感とか人間というものを見た。
それが捕らわれていくのに光っているというね。
「朝のニュース」でもよろしいですけど「明日のニュース」と詠んだりすれば音数も合うかと思います。
それではおしまいの歌九首目です。
「モミジバフウ」というのは別名アメリカフウとも言いますけれどもちょっと背の高い木でそして葉の先っぽが分かれていてギザギザなんですね。
ですからこの時紅葉してたかどうかは分かりませんけれども光が当たったりするとキラキラしてそれが「星屑」というような表現を生んだかと思います。
星空の旅を行くようだというような捉え方何か動画のようなですねファンタジックな美しい歌だと思いました。
以上入選九首でした。
それではこの中から小島さんの選んだ特選三首の発表です。
まず三席です。
三席は鋤柄杉太さんの作品です。
二席です。
二席は清水峻さんの作品です。
ではいよいよ一席の発表です。
一席は杉原正美さんの作品です。
この歌はご覧になって分かるかと思うんですが題の「行く」というのが歌の真ん中に入ってきてるんですね。
しかも題と思えないほど自然に入ってきて大変はろばろとした実にいい歌だと思いました。
以上今週の特選でした。
今回ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちら「NHK短歌」のテキストにも掲載されています。
是非テキストもご覧下さい。
では「うた人のことば」です。
ちょうど生活のために初めて社会に出た頃私は放送作家としてそのころ御茶ノ水の辺りをよく歩く事があったもんですからこれもそのころの歌ですけれど。
枯れ葉が散っていくというのは非常にそのころの若い者には心にしみる風景だったんですね。
御茶ノ水辺りというのは学生街の喫茶店がいくつもありました。
本当に駆け抜けすぎた早い30代だったなと思います。
戦争は沸々嫌ですね。
少女時代というのは全部戦争の中だったんですね。
ですから「リボンの長き」というリボンは私の場合は茶色いリボンだったんですけど何か戦争の思い出の向こうにヒラヒラ飛んでいってしまったような自分の少女時代って何だったんだろう?戦争と人間って何なんだろうと子供ながらに考えた時期があったのを思いますね。
それでは続いて「入選への道」のコーナーです。
たくさん頂戴するご投稿歌の中から小島さんが今日一首取り上げて少し手を入れられます。
さあ歌がどうなりますでしょうか?今日はこの歌です。
事実が歌にとてもよく生かされていると思うんですが一つだけ惜しいのは「言う人もいて」というとそういう人もいるよというだけで終わってしまうのでただそこは他ならぬ我が家ですから作者にとってはね。
そんなニュアンスをちょっと出してみました。
こんなふうにしました。
なるほど。
この方がくっきり意味がしみますね。
このバスに乗らないと我が家に帰れませんからね。
入選です。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
さあそれではご投稿のご案内を致しましょう。
さてこの題はどう考えましょう?前後というような読み方あるいは後ろを「後」と読むとかそういう事を自由にお作りになって下さい。
では選者のお話小島ゆかりさんの「うたを読む楽しみ」今日は「世の中を」です。
世の中をああだこうだといろいろいろいろ言ってきた。
言ってみたところではてはてさてはこのはてはどのようになるのだろうか分からないよみたいなそんな歌なんですね。
これは「拾遺和歌集」の中の一首ですから今から1,000年ぐらい前の歌ですけれどももうちっとも古びていない。
今もこんな感じですね。
世の中というのはこの世の事であり世間であり社会でありそしてこの時代には男女の仲まあ恋ですね。
そういう事も言ったんですね。
どんなふうに読み取っても面白いと思います。
一方で無常観というかそういう事を感じる人もあるかと思うんですがそれでも「世の中をかくいひいひのはてはては」って調子がいいので言ってると何となくいい気持ちになってきてまあいいやというような気持ちになっちゃうんですね。
ちょっとみんなで言ってみましょう。
これ朗唱した方が面白い?いい気持ちになりますから。
宴会のようになりますから。
はいではいきますよ。
123…。
宴会になりましたでしょ?そうですね。
しょうがねえよな〜っていう。
もう飲んでます?でもそういう感じですね。
もういいじゃんみたいな。
なるほど。
という事で美酒を傾けるわけですね。
いい感じになったところで上野さんにお話をして頂く事に致しましょう。
ゲストの奈良大学文学部教授上野誠さんでございますが先ほど短歌のイメージを短い言葉にして頂きましたね。
もう一度お見せ下さい。
はい。
先ほど事件があったとおっしゃいましたが…。
初めてヨーロッパに行きまして憧れのドイツのハイデルベルク。
写真もたくさん撮りました。
そしていざ空港を離れるというその時にふと気付いて見るとカメラがない!あら?落とした?落とした。
そうするとまあ考えてみれば素人写真ですしそんなあとから見る事もないんだけれどもその時の喪失感…それがねものがなくなった寂しさではなくって旅の印象も失ってしまったんではないかと思ったんですがしかし立ち直らなければいけませんので俺は万葉学者だと。
万葉学者なんだから1,300年前の人のそういう心を写した写真をたくさん持っているんだからそんな事でクヨクヨしてはいけないと思い直す事にしたのです。
すばらしい。
なるほど。
だから常々「先生も歌を作ってね」って申し上げてるのに。
それが…やっぱり写真だとシャッター押すだけで済みますので。
私カメラなんか持ってないですよ。
万葉は確かに1,000年以上前の本当にその映像が現代に来るわけですものね。
上野さんにせっかくお話を伺うわけですから「万葉集」から一つご紹介頂いてお話をして下さい。
今日は歌垣の歌でお題も「行く」という事ですから歌垣というのは男女が歌をかけ合って好きな相手を探すというカップリング・パーティーみたいなもんなんですね。
今で言うと合コンみたいなものですね。
そういう事が行われる場所っていうのは人と物とお金が行き交う場所で市場が多いんですね。
それが古代の市場で非常に有名なのが椿市という所で。
椿市という所で出会った男女の歌で男は最初こう言うんですね。
これね最初はね何を言ってるかわざと分からないようにしてるんですよね。
特に上の句分からないですよね。
紫色を出すためにはその色を出すために灰を入れるのだがその灰は聞くところによると椿の灰がよいと聞いている。
その椿…ここは椿市だ!「八十のちまた」あっちこちから道が集まっているこのちまたで逢ったあなたは誰?言いたいところは「逢へる児や誰」のここしかないんですね。
「君は誰なの?」というここが意味なんですね。
名前を聞くところしかないんです。
それが大切なんですがでも最初から結婚しましょうとか好きですよとか言うと最初から駄目よと言われるかもしれないので相手が一体何が始まったか分からない体にしてるところに作戦があったのではないかというふうに思うんです。
この時代名前を聞くのは大きな意味があった?名前を聞くという事は何を意味するかというと結婚を意味するので名前を教えた段階で結婚を承諾したという事になるので…。
じゃあすぐに答えるわけにはいかないですよね女としては。
じゃあ女性はどう答えた?女の人はそれに対してこういうふうにね答えるんですね。
「たらちね」は豊かな胸を表してお母さんに係る枕ことばですが「母が呼ぶ名」というのはお母さんしか知らない。
お父さんも知らない。
お父さんも知らないの?お父さんも知らない大切な名前。
これを教えてしまったら結婚するという事になる。
だから平安時代の女性たちもほとんどの実名が伝わらず紫式部清少納言とか言われるのはそのとおりなんですが「母が呼ぶ名を申さめど道行く人を誰と知りてか」ってあなたはね道を行く人でしょ?渡り鳥でしょ?そんなに簡単にはね教えられませんよと言うんですがここのところちょっと秘密がありましてね「たらちねの母が呼ぶ名を申さめど」の「ど」の所を伸ばすと一体そのあとに答えが丸が出るのかバツが出るのか分からないんですよ。
気を持たせてるのね。
「たらちねの母が呼ぶ名を申さめど」一体OKなのか駄目なのか申さめど…。
言おうと思うけど…みたいなね。
そうです。
でもね結局駄目なんですがここでね世の中の男性諸君諦めてはいけないんですよ。
もう一押し?もう一押しですよ。
そういうふうにまず歌が返ってきた。
得点プラスですよ。
次にですね「道行く人を誰と知りてか」という事は会ってから時間が短いのでまだまだ駄目だけどっていう。
つきあってみたらよいかもしれない。
何日も来てよっていう意味があるのでこれはね私から見ると限りなく合格点に近いと思うんですね。
この2人はうまくいったという事になるんですかね?それが分からないのが面白いところです。
今日は万葉学者の上野誠さんに楽しいお話を伺いました。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
小島さん次回もよろしくお願いを致します。
「NHK短歌」時間でございます。
ごきげんよう。
2014/12/07(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「行く」[字]
選者は小島ゆかりさん。ゲストは万葉学者の上野誠さん。最近「万葉びとの宴」という本を出版した上野さん。歌、茶道、華道など日本の芸事の源は宴にあるという。濱中博久
詳細情報
番組内容
選者は小島ゆかりさん。ゲストは万葉学者の上野誠さん。最近「万葉びとの宴」という本を出版した上野さん。歌、茶道、華道など日本の芸事の源は宴(うたげ)にあるという。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】上野誠,小島ゆかり,【司会】濱中博久
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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