昔3人の兄弟がいた。
父親が亡くなると3人はわずかな財産を分けた。
末っ子の男がもらったのは数枚の小銭。
それを懐に男は家を出た。
こいつ!え〜い!え〜い!ほらほら!ほらほら。
ほ〜れほれほれ。
おいネズミをいじめるな。
坊主これでネズミをわしに譲ってくれ。
わ〜いいいよ。
行こう行こう。
そら…もう人のそばに来るんじゃないぞ。
よほどおそろしかったのかネズミはじっとしたまま動かない。
ここに入るか?いつでも出ていっていいからな。
やがて分かれ道に来た。
チュチュチュ〜。
こっちへ行っても山ばかりで何もないぞ。
チュ〜。
こっちがいいか?チュ〜。
まぁ急ぐこともねえか。
やってきたのはハスの葉を抱えた女。
あぁっ!あぁっ!お〜っと待て待て!わっ…あ〜っ!フゥ…。
ありがとうございます。
山の池で育ったハスは高く売れるんです。
これお礼に。
いや売り物をもらうわけにはいかん。
どうぞもらってください。
そうかい?じゃあありがたくいただくだ。
やっと山を抜けたと思ったら…。
フゥ〜。
やれ雨宿りしていくか。
笹団子を町や村で売り歩く男だった。
春に摘んだヨモギで女房がこしらえた自慢の笹団子でのう。
これでくるめば雨に濡れずにすむ。
ハハハ…わしはこれでいいって。
おかげで助かったわいこれは礼だ。
いいのかい?ありがとうよ。
気いつけてな。
ありがたくいただくだ。
雨があがったときはもう夕暮れ。
男は古びたお堂でひと晩過ごそうと考えた。
ご馳走だぞ。
腹いっぱい食べろ。
チュ〜チュ〜。
ん?チュ〜。
ところがネズミは笹団子に見向きもせず男を外へ連れ出そうとする。
大きな屋敷の前まで来るとネズミは…。
チュ〜チュ〜。
お…おい!う〜ん…よわったのう。
どうかしただか?う〜んそれがのう…。
屋敷の主人は重い病だった。
その主人が急に笹団子を食べたいと言いだした。
しかし笹団子の材料となるヨモギがどの家にも残っていなかった。
ほれ。
え?笹団子だ差し上げます。
こりゃ闇夜に提灯願ったりじゃ。
すまんがひと晩泊めさせてもらえんか?いいとも。
さぁ入った入った。
《夜露がしのげて夕飯にもありつけた》ありがたい。
笹団子を口にした主人は不思議なことに翌朝には起きられるまでに回復した。
きっと立派なお人に違いない。
ぜひ我が家の跡継ぎになっていただきたいものじゃ。
ところが…。
う〜ん。
男の貧しい身なりを見て主人は難しい注文をつけた。
(咳払い)裏の竹林の竹を明日切り出す。
日暮れまでに3寸の太さの竹3,000本に印をつけたら屋敷の跡継ぎに迎えよう。
このひもを竹に結ぶのじゃ。
はぁ…。
はぁ…。
太さ3寸か。
だが竹林は広く3,000本は多い。
男はとうとう疲れ果て眠ってしまった。
(寝息)おやおや。
どれ。
こ…これは!なんとたくさんのネズミが残りの竹にひもを結わえた。
太さ3寸3,000本にひもの印がありました。
う〜ん。
約束じゃ。
跡継ぎに…。
待ってくだせえ。
跡継ぎにしていただくわけにはいきません。
へ?ななんと言うた?わしは屋敷の跡継ぎにしてもらうようなことは何ひとつしておりません。
そして男は今までのことを正直に話した。
うん?お話は聞いておりました。
妻となるならあなたのような正直なお人と決めておりました。
どうか私を妻にしてください。
娘の言うとおりじゃ。
わしからも頼む。
男は竹林のそばに小さな家を建て妻となった娘と竹の世話に明け暮れた。
遠回りの山道を選んだネズミ。
男にはネズミが回り道をさせて幸を授けてくれたように思えたのだった。
やがて男は本家をしのぐ屋敷を構えるまでになったという。
昔むかし海辺の小さな村に浦島太郎という貧しい漁師の若者がおりました。
両親を早くに亡くした太郎はその日一日を生きることが精いっぱいの暮らしでした。
太郎どん今日は釣れたかい?
(太郎)さっぱりじゃった。
このままじゃおいらが干物になるしかねえ。
そんな太郎の夢はいつか大海原に漕ぎ出して異国の地を見ることでした。
おりゃおりゃ。
は〜。
へ〜。
(太郎)おぉウミガメの子か。
おい何するんじゃ。
今日からおらが飼うんじゃ。
バカ言うな。
そいつはおっかあのところへ帰ろうとしてるんじゃ。
ほれ行かせてやれ。
せっかく見つけたのに。
ほれ行け。
(子供たち)わ〜い。
それから何日かして太郎が漁に出た日のことです。
ん?お前いつかの…。
こんなところでうろちょろしてたらダメだろう。
おっかあには会えたのか?あ〜っ!この間は我が子を助けていただいてありがとうございました。
無事帰れたようで何よりじゃ。
今日は竜宮城の乙姫様から子供を助けていただいたお礼にぜひ太郎様をお連れするようにと仰せつかって参りました。
竜宮城!?海の底にある美しい宮殿でございます。
どうぞ私の背中にお乗りください。
(乙姫)お待ちしておりました。
(太郎)乙姫様?はい。
子ガメを助けていただいてありがとうございました。
どうぞこちらへ。
〜
(笑い声)ここでは昼も夜も上も下もまるで区別がつかない…。
遊び疲れたのでございましょう。
ぐっすりお休みなさいませ。
(話し声)はっ!どうかなさいましたか?いえ…。
竜宮城へ来た太郎は毎日おもしろおかしく暮らしていましたがいつしかそれも飽きてしまいました。
え!?故郷に戻りたい?
(太郎)おら村にいて代わり映えのしねえ毎日に飽き飽きしてたがそれがどんなに大事なものかわかったんだ。
竜宮城での暮らしはお気に召しませんでしたか?いやここはおらが憧れていた異国以上に夢のような世界だった。
ではなぜ…。
村の暮らしが懐かしいんだ。
わかりました。
(乙姫)この玉手箱をお持ちください。
玉手箱?楽しい思い出の詰まった箱です。
けれども決してひもをほどいてはなりません。
乙姫様のことは決して忘れません。
竜宮城をあとにしてあれほど恋しかった故郷に戻った太郎でしたが…。
村はすっかり様変わりしどこへ行っても太郎が知った顔はありません。
太郎は自分のことを覚えている者はいないか村中をたずね歩きました。
するとただ一人昔のことを知るおばあさんがいました。
ある日漁に出たきり二度と戻らん男がおった。
たしか太郎という名前じゃった。
おらがその太郎だ。
村のもんはみんなどこへ行ったんじゃ?何を言うておる?太郎がいなくなったのは今から100年以上も前の話じゃ。
いったいどれだけの時間が過ぎたんじゃ?乙姫:楽しい思い出の詰まった箱です。
けれども決してひもをほどいてはなりません楽しい思い出。
うわぁ!玉手箱を開けた太郎は楽しい思い出も悲しい思い出もすべて忘れてしまいました。
昔山あいの旧家に道楽者の男がいました。
父親の跡を継ぐと昼は寝て暮らし夜はどんちゃん騒ぎ。
夜ごとに取り巻きの遊び仲間を招いては贅沢三昧しておりました。
さぁお運びして。
山あいの沢には河鹿と呼ばれるカエルがすみきれいな鳴き声を響かせます。
けれども誰も河鹿の鳴き声に耳を傾けることはありませんでした。
贅沢は続くはずもなく1年が過ぎた頃から坂を転がるように家は没落。
取り巻きたちは見向きもしなくなり使用人は次々と辞めていきました。
広い田畑を売っても借金は残りました。
なにまだ山が残っとる。
あれを売れば借金を返してまだ釣りがくるわ。
そういえば里の父がヒノキやケヤキの木が多いほど山の価値もあがると言っておりました。
ほぅじゃあ明日にも調べてこよう。
妻の実家は隣町の庄屋。
道楽者の男に生きる知恵を教えてくれたのでした。
この辺りはケヤキかな?ふぁ〜あぁ〜。
あ〜ああ〜っ!おお気がつかれたか?ここは?うぅ…。
かすり傷じゃ心配いらぬ。
爺様が手当てを?世話をかけた。
頼みがあるお願いだ。
山は売らんでくれ。
はぁ?爺様は沢にすむ河鹿たちの長。
人間に姿を変えていたのでした。
山を売れば商人が競って木を切り倒すじゃろ。
そうなれば雨のたびに土は流れ沢を埋め尽くしてしまう。
更にそこに日照りが続けばわしら沢の生き物は全滅する。
このとおりじゃ。
そう言われてもわしにも暮らしがある。
あっ!山を売らねば本当に暮らせぬか?その手の冷たさに男は我に返りました。
あっ!おかしな夢じゃ。
これは!うまい!川面に映る自分の顔を見て昔のことを思い出しました。
自分を育ててくれた今は亡き父と母。
子供の頃清流で遊んだ日々が鮮やかによみがえったのでした。
山を売らねば暮らせぬか?うう…こんなわしでもやり直せるか?よし山は売らぬ。
やり直すんじゃ!山を売らないでお金が返せなかったらいったいどうするんですか?これで山を売るのはしばらく待ってくれぬか。
残りのカネはそのうち。
そのうち?あてはありなさるのか?なんとかする。
頼む頼むこのとおりじゃ。
年の暮れまで待とう。
それ以上は待てぬ。
男は名主に雇われて働き始めました。
そして身を粉にして働く夫にいつしか妻の心も優しくなっていきました。
すまんな。
嫁入り道具のたんすも鏡台もとうとう売ってしもうた。
かまいません。
もうひと息ですね。
里の父が使いの者をよこして届けてくれました。
これで山を売らずにすみます。
河鹿の沢が守れる。
あなたの思いが通じたのです。
あきれた道楽者と見限られて当然のわしに親父さまがこのカネを。
あなたはもう道楽者ではありません。
家に残っているのは売り物にならなかった古い白無地の枕屏風だけ。
(鳴き声)明け方近く冬だというのに河鹿の声が聞こえます。
ああなた!それは清流の沢を守ってくれた男へ河鹿たちが伝えた感謝のしるしでした。
礼を言うのはわしのほうじゃ。
男はいっそうまじめに働きやがて田畑を少しずつ買い戻すまでになっていました。
あれから20年が経ちました。
さあみんな仕事をあがっておくれ。
なんとも心地よい沢じゃのう。
わしもそこで遊びたいものよ。
〜そしてその願いは叶えられたのでした。
2014/12/07(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「ねずみがくれた幸」
「浦島太郎」
「河鹿(かじか)の屏風」
の3本です。お楽しみに!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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