広島の中心部から車でおよそ1時間半の小さな山里。
お年寄りばかりが取り残されたようなこの集落に1人の若者が飛び込んだ。
カフェを営みながら「この山里にこそ都会には無い可能性がある」と発信しようとしている。
(佐藤)これからの新しい世の中のあり方っていうのが逆にこういった田舎から作れるんじゃないかなと。
新しいモデルというかそういったのを作りたいなと思って。
初めての土地での慣れない仕事。
悪戦苦闘の毎日。
田舎暮らしに賭けた若者の人生デザインとは!?中国山地の山々に囲まれた…ここに古い木造家屋を改装したカフェがある。
ちょっとおしゃれなこのカフェを今年4月から営んでいるのが今回の主人公佐藤亮太さん29歳。
半年ほど前この土地が気に入って移住してきた。
午前11時カフェオープン!しかしお客さんは来ない。
あ〜。
あ〜気持ちがいい。
のんびりしてていいけど大丈夫?農作業を終えた地元のおじいちゃんたちがやって来た。
竹本さんちょっとお酒が今日足りなくてちょっとこんだけしかないんですけど大丈夫ですか?切らしちゃって買ってきますよこの後。
(竹本)うん。
仕事の後の1杯うまいよね〜!お客さんは1日20人ほど。
地元の人以外にも口コミやインターネットで評判を知ってやって来る人もいる。
「おいで」って言ってるおじいちゃん。
「おいでおいで」って。
行きます。
うん。
・「別れることはつらいけど」おじいちゃん気を付けて帰ってね。
佐藤さんが暮らす上多田地区。
おはようございます。
住民はおよそ100人。
その7割が75歳を超えているいわゆる限界集落だ。
今渡辺さん92?
(渡辺)3です。
93か。
ええ。
この山里には独り暮らしのお年寄りも多い。
干しましょうか?竿どこですか?持ってきましょうか。
(渡辺)あそこ…。
あれ?佐藤さんは時間があると近所を回りこうして声をかける。
(渡辺)掛けるけえええです。
大丈夫?ハハハ…。
ええ。
大丈夫。
お願いします。
(渡辺)お願いします。
ええ。
言いますね。
ハハハ。
はい。
ぜひぜひ。
佐藤さんの仕事はカフェだけではない。
この土地で自分が出来る事を見つけさまざまな挑戦を始めている。
これが田んぼですね。
耕作放棄地を利用した米や野菜作りもその1つだ。
今年なんで5月ぐらいから貸して頂いて。
はい。
もう本当に見よう見まねでやってる感じですね。
あんな感じでした5月のタイミングは。
(取材者)あの奥ですか?奥の今そこが草ボウボウになってると思うんですけど。
あそこまでいかないですけどそれぐらい草がいっぱい生えてて。
高齢化が進むこの山里では農地の半分以上が耕作放棄地になっている。
有り余る土地とおいしい水。
この山里にはうまい米や野菜を作る材料がそろっている。
そういう視点で見ると本当に財産しかないなと。
そういう意味では本当に面白い場所だなあと思いますね。
さてこちらはカフェの厨房。
佐藤さんと一緒に働いているのは妻の英美さんだ。
主にメニューを考え料理を作っている。
厨房では佐藤さんは英美さんのサポート役。
もともと田舎でカフェを開くのが夢だった英美さん。
飲食店で働き料理の腕を磨いてきた。
お待たせしました。
先にだんご汁のお客様。
最も混み合うランチタイム。
街から来たお客さんでいっぱいだ。
(笑い声)そうです!オクラのごまあえ。
ハハハ。
切り干し大根と。
料理には地元で採れたお米や野菜がたっぷりと使われている。
おいしい。
フフフ…。
食事からも山里の魅力を感じてほしいと佐藤さんは考えている。
ここは2回目です。
おいしい空気の中でおいしい物を食べれるだけで来たくなります。
田舎もこういうとこなんで何か似たような帰ったような気持ちになります。
お客さんがいない時佐藤さんはカフェの2階に上がる。
一見物置のような雑然としたこの場所が…。
パソコンが得意な佐藤さんの秘密基地だ。
佐藤さんが目指しているのは都会と田舎の交流の場を作る事。
インターネットが重要な役割を果たしている。
この日呼びかけたのは稲刈りへの協力。
体験型のイベントにして盛り上げようと考えている。
こういう環境というのはやっぱりたくさんの人に感じてもらいながら日本に昔からあったいい人のつながりというものをこういった所から発信をできたらいいなと思っているんですけど。
佐藤さんは大学を卒業後福島にあるサッカーのクラブチームに就職。
スポーツを通じた地域の活性化を夢見ていた。
そのころ英美さんとの交際がスタート。
ところが東日本大震災が発生。
大きな決断を迫られる。
放射能という問題があって自分の身の健康もそうだしこれから生まれてくる子どもの事も考えるともう出ざるをえないなってもうそれしか最終的には選択肢なくなったなという。
震災から半年後2人は福島から離れる事を決断。
友人を頼って広島市に移って来た。
イベントを運営する仕事を転々としていた。
そんな時「村をもう一度元気にしたい」と動き出した上多田地区の事を知る。
さまざまな催しに参加し手伝う中で人々の熱意と温かさに触れた事が移住の決め手となった。
そのうちの町内会の9割の人が「来るよ」と言われて実際に9割の方がいらっしゃったんですけど。
9割と言っても8人中7人みたいな感じなんでまあまあ9割は9割なんですけど。
おもてなしの心だったりとか助け合いの心っていうのがもともとあるからこそ見ず知らずの若者を受け入れて歓迎会を開いてくれるってのはなかなかないんじゃないかなと思って。
そういったところで本当にいいとこだなと感じましたね。
こちらが佐藤さんの一週間スケジュール。
カフェの営業は週5日。
それ以外に地域の魅力を発信するNPOの仕事など休みなく働いている。
上多田地区を売り込むイベントを企画する事も大切な仕事。
かかしも大好きおいしいお米いかがでしょうか?この日は街のショッピングセンターで地元で採れた新米の試食販売を行った。
寒暖の差が激しくきれいな水で育った米の味は格別!佐藤さんは自身が感じた味の違いを1人でも多くの人に知ってもらおうと1日中呼びかけていた。
10月のある週末。
山里に若者たちの元気な声が響いた。
佐藤さんの呼びかけで集まった稲刈り体験の参加者だ。
こうしたイベントを通して若者たちに田舎暮らしの面白さを知ってもらいたいと思っている。
佐藤さん長い棒を取り出したけど何を始めるの?実は刈り取った稲を天日で乾かす「はで干し」に挑戦しようというのだ。
ところが…。
(棒を打ち込む音)困っていると近所のお年寄りが助けに来てくれた。
(白井)こうやって。
ありがとうございます。
また1人散歩中のお年寄りが助っ人として参加。
自然な形で若者とお年寄りの交流が生まれてるね。
(白井)好きですか。
(男性)はい。
ハハハハ。
ええ。
なるほど…。
都会の若者と田舎のお年寄りが話しをする機会は少ない。
こうした触れ合いの積み重ねがお互いを知るきっかけになればいいと佐藤さんは思っている。
ええもんですのお。
やっぱり元気をもらいますよ。
佐藤さんがおいでになられてからあれから結構若い人と話す事が多いようになりましたよ。
ありがとうございます!助かりました〜。
(若者たち)ありがとうございます。
いや〜終わってよかったです日が暮れる前に。
はい。
佐藤さん夫婦は空き家になっていた家を借りて暮らしている。
家計を預かるのは妻の英美さん。
慣れない田舎暮らしで不安な事も多いが何とかやりくりしてきた。
(英美)フフフフ…。
何て怒られるの?
(2人の笑い声)「男は夢を語り女は現実を見る」って感じだね。
(英美)私は突っ走ってないんですけど何か何ですかね…主人が走ってたところについていった感じですかね。
巻き込まれたというか。
ハハハ…。
やってみてやっぱり大変さっていうのを体で実感するという事はすごい大切だと思うのでまあどんどん突っ走っていいんじゃないかなと思いますね。
まあ突っ走るというか挑戦ですかね。
う〜ん。
収入はカフェの売り上げとNPOの給料などを合わせて月およそ20万円。
一方支出の内訳はガソリン代など燃料費が3万円家賃と光熱費食費を合わせた生活費は僅か4万円だ!その安さの秘密とは…。
(女性)おはようございます。
(2人)おはようございま〜す。
カフェにやって来たのは近所のお年寄り。
こうしてさまざまな食べ物を届けてくれるのだ。
おはようございます。
いつも自分で育てた花や果物を持ってきてくれるのは沖野のおばあちゃん。
(英美)ありがとうございます。
こんなにいっぱい。
2人の事を息子や娘のようにかわいがっている。
(沖野)食べてみ今採ってきた。
うわ〜イチジクめっちゃ好き。
カラスの方が先に採る。
(3人の笑い声)後で食べよう。
(杉原)あの〜山芋の山芋の。
こちらの杉原さんも山里ならではの食べ物をよく持って来てくれる。
おいしそう。
(杉原)おいしいよ。
塩湯がきでもいいし。
(英美)はい。
私はねこの人らが好きなんです。
遠いとこからねこんな田舎の山の中の所へ来てもらってるから。
まあ少しでも手助けになって順調にお店の方もいくようになったらねいいかな〜と思って。
う〜ん優しさがしみる…ね佐藤さん。
台風が接近。
カフェは臨時休業だ。
佐藤さんが向かったのは先日みんなで稲刈りした田んぼ。
干した稲は大丈夫かなあ?雨を吸った稲の重さで支柱が倒れ干した稲は水浸しになっていた。
水に浸かったままでは味が落ちカフェで出せなくなってしまう。
一刻も早く水から引き上げ乾かさなくてはならない。
…っていう気もしなくもないので。
まあ…。
まあ…自然を相手にしたこの土地での暮らしはそんなに甘くはない。
まさに試行錯誤の連続だ。
佐藤さんが夫婦でこの町に移り住んで半年あまり。
この日2人は近所の晩ごはんに招待された。
呼びかけたのは比較的年齢が近い白井智明さん。
鍋をつつき酒でも飲みながらゆっくり話そうというのだ。
多少は変化してきてるんですかね?上多田も。
(智明)今まで僕らがやってこなかった事っていうかできなかった事を今ちょっとずつでもやってもらってるじゃないですか。
一生懸命佐藤さんはやりよるけど一部の人だけしか分かってないような。
佐藤さんが1人で突っ走るんじゃなしにおじいちゃんおばあちゃんを先頭に立たせてもいいんじゃないの?って。
みんなに広めていったらまだ助けてくれるんじゃないか…と思う。
助けてもらうじゃないですか。
(智明)うん。
今現在でも結構助けてもらってる事ってめちゃくちゃあるんですよ。
それをやってもらい過ぎて「どうしよう」と思うんです。
すぐすぐ返さんでもいいんですよ。
別に。
「じゃあ今日やってもらったけえ今月中に返さにゃいけん」って思ったら絶対田舎って住めないよ。
焦らずじっくりとそして末永くこの山里で暮らしてほしい。
地元の人たちみんなの願いだ。
新しい1日が始まった。
カフェに出勤。
いつも花を届けてくれる沖野のおばあちゃんがやって来た。
(沖野)英美ちゃ〜ん。
・
(英美)は〜い。
カフェが一段と華やかになるね。
ありがとうございます。
えっ!?本当!
(英美)はい。
まあいつ?えっと…今3か月で。
沖野のおばあちゃん本当にうれしそう!よかったじゃん。
ありがとうございます。
(沖野)無理をしんちゃんな。
流産しちゃやれんじゃなあ。
ね。
(英美)そうですね。
楽しみですね。
ほうよほうよ…ハハハ!ありがとうございます。
この山里で子どもが生まれるのはなんと十数年ぶりだって!そりゃあおばあちゃん喜ぶ訳だ。
少しは恩返しになったかな。
ありがとうございます。
は〜い。
さよなら〜。
喜びを分かち合える人がいる。
佐藤さん夫婦もしっかり村の一員になったようだ。
台風が去った後佐藤さんは倒れた稲を干し直す事にした。
自分で田植えをし初めて収穫した稲だ。
もちろん地元の人たちも手伝いに来てくれた。
まだまだ頼りないところはたくさんあるけれど田舎と都会をつなぐという夢に向かって佐藤亮太29歳日々前進だね。
自分がどこにいるか分かんないみたいな感じと比べたら僕はこういった生き方の方が好きですし本当の意味で地に足をつけるというのはまさにこの地面と共に生きるっていうのは多分人間の原点だろうなと思うので。
この土地にしっかり根を張ってやるという意味ではすごく僕の人生の中でもすごくいいきっかけをもらっているなと思います。
2014/11/17(月) 19:25〜19:50
NHKEテレ1大阪
人生デザイン U−29「カフェ経営者」[字]
広島市湯来町上多田地区。住民のほとんどが65歳以上という“限界集落”で、カフェを営む佐藤亮太さん。妻の英美さんと協力しながら、田舎の魅力に触れる日々を描く。
詳細情報
番組内容
広島市湯来町の上多田地区。住民はわずか100人、そのほとんどが65歳以上という“限界集落”だ。そこでカフェを営む佐藤亮太さん(29)が、今回の主人公。東日本大震災の後、妻の英美さんと福島県から移住してきた。カフェの売りは、田舎ならではのおいしい水で育った米や野菜をふんだんに使ったランチプレート。週末には、町から多くの人が訪れる。山里に理想のライフスタイルを描き、歩み始めた佐藤さんの日々を見つめる。
出演者
【語り】Mummy−D
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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