クローズアップ現代「“ギャンブル依存症” 明らかになる病の実態」 2014.11.18


ギャンブル依存症の30代の男性。
1000万円以上つぎ込んでもなおギャンブルがやめられません。

ことし、ギャンブル依存の疑いがある人が500万人を超えると見られることが初めて明らかになりました。
依存症になると脳の機能が低下し自分の意志ではギャンブルをやめられなくなります。
今や治療されるべき精神疾患との認識が広がっています。
ギャンブル依存症は本人にとどまらず家族をも巻き込みます。

そこで今、医療の現場では依存症の進行を食い止めるため本人だけではなくその家族に焦点を当てたケアが重視されています。

ようやく本格的な治療対象として捉えられ始めたギャンブル依存症。
きょうは深刻化を防ぐための対策を考えます。

こんばんは。
クローズアップ現代です。
ギャンブル、賭博は刑法で禁じられていますが競馬、競輪ボートレース、オートレースは公営ギャンブルとして認められ射幸性が強いパチンコも法律では、レジャー・遊技として全国各地にあります。
さらに、カジノを備えた統合型リゾート構想が成長戦略の一つとして打ち出されています。
カジノを解禁すべきか否か賛否が分かれる中、ことし8月厚生労働省の研究班はギャンブル依存の疑いがある人が推計で536万人いると初めて発表しました。
全国4000人余りに行った面接調査からの試算で、内訳はご覧のように男性が438万人女性が98万人。
男性では成人のおよそ12人に1人になります。
ギャンブル依存症とはギャンブルをやめなければならないと分かっていても、やめられない。
1人のギャンブル依存症患者の周辺では、8人から10人が精神的、経済的な被害に遭うといわれ家族や周囲を巻き込み苦境に追い込むことが少なくありません。
ギャンブルをやめられないのは本人の意志が弱いからと見なされがちでしたがアメリカでは精神疾患の診断基準が、19年ぶりに改定され、ギャンブル依存は薬物やアルコールと同じ依存症だと位置づけられ明確な診断基準も整えられました。
…などです。
治療すべき精神疾患と認定されたギャンブル依存症。
ギャンブルという行動をやめられずに苦しむ患者と巻き込まれた家族の実態からご覧ください。

ギャンブル依存症の専門病棟がある福岡県の病院です。
入院中の患者Aさんです。
これまで、ギャンブルをやめようとしては失敗を繰り返してきました。
2か月間治療に専念していますが時折、落ち着きがなくなり不眠に悩まされるといいます。

Aさんがパチンコを始めたのは大学に通っていた20歳のころ。
就職後もやめられず、同僚から借金を繰り返すようになります。
返済を、そのつど肩代わりしてきたのがAさんの両親でした。
Aさんはさまざまな理由を言い立てては両親からお金を引き出していました。

うそに気付いた両親はお金を渡すのをやめAさんも入院治療を受けるなどパチンコをやめる努力をします。
しかし、衝動が収まらなかったAさん。
家財道具を勝手に質屋に入れて換金しパチンコの資金にし始めます。

Aさんは、もはや自分が異常な行動を取っていることが分からなくなっていました。
自宅に居づらくなり家を飛び出してしまいます。

入院していたAさんは退院後、再び働き始め少しずつ親に借金を返しています。
同じ悩みを抱える自助グループの仲間と共に回復を目指していますが再発の不安と闘っています。
いったんギャンブルにのめり込むとなぜやめられなくなるのか。
右側の画像は、一般の人の脳が周囲の刺激に対し赤く活発に活動している様子を示しています。
一方、左側の依存症患者の脳では活動が低下しています。
ギャンブルにだけ過剰に反応するようになり脳の機能のバランスが崩れてしまったのです。

本人の資質の問題とされがちだったギャンブル依存症。
これを精神疾患と捉え本格的な治療を訴えてきたのが精神科医の森山成彬さんです。

森山さんは9年前正確な実態を知ろうと患者100人に対して日本で初めてのギャンブル依存症の調査を行いました。
平均的な姿は20歳でギャンブルを始め28歳で依存症の兆候である借金をし始めます。
ところが、病院で受診したのは10年余りあとの39歳。
周囲の人が、依存症の兆候にいち早く気付き本人に治療を受けさせることが重要ですが見過ごされているのが実態です。
依存症患者がつぎ込んだ金額は平均1293万円。
中には1億円を超えてもなおやめられない人もいました。

本人だけでなく家族も巻き込むギャンブル依存症。
追いつめられた父親が依存症の30代の息子を殺害するという事件が起きました。
父親の弁護士によれば年金生活を送っていた父親はこのまま息子の金の無心が続けば将来の蓄えがなくなると不安を覚え衝動的に犯行に及んだと語ったといいます。
息子は地元の自助グループに通い回復を目指していました。
同じギャンブル依存症で悩む仲間たちと、体験を正直に語り合います。
これまで他人には話せなかった借金で親に迷惑をかけた話をする仲間の姿を息子は治療の励みにしていました。

そんな中母親が体調を崩し、入院。
1人で息子を支えることになった父親は孤立感を深めていたといいます。

父親は息子を殺害したあと遺書を書き自殺を図ろうとしましたが死にきれず車で夜の街をさまよっていたところを警察に発見されました。

今夜は精神科医で、数多くのギャンブル依存症の方々の診断、治療に当たってこられました、北海道立精神保健福祉センター所長の、田辺等さんをお迎えしています。
本人の意志の問題では片づけられない脳の変化ということも分かってきました。
具体的にどう、脳は変化してしまうんですか?
ギャンブルで勝った体験が、強烈に脳の記憶に刻印されてしまうんですね。
そのために、繰り返しその刺激を求めていくと。
ギャンブルで勝ったときの体験がイメージされて、それが強烈な欲求になってくると。
結果として、ほかの娯楽や、ほかのゲームでの快感というものがあまり感じられなくなって、そういうギャンブルに、特異的に反応するような、脳の機能変化が起きてくるんですね。
多くの患者さんを治療されていますけれども、具体的にどんな方々がギャンブル依存症に陥るんでしょうか?
8割方は、ごく平凡なサラリーマン、公務員、主婦、大学生、あるいは年金生活者です。
ギャンブルの問題が始まるまでは、ごくごく普通に生活を営んでいた人が8割方で、2割方には、少しうつのような方もいらっしゃいます。
ですが、ほとんどの方は、このギャンブルの問題が始まるまでは、ごく平凡な主婦であったり、サラリーマンであった。
ですから私のところに相談に来たご家族が、こんなふうなギャンブル依存症なんて病気はなかなか認められない、先生の言うことは信じられない、だけども私の妻が、お金を持ち出して、パチンコやスロットをやって、たくさんの借金を作って帰ってくる。
それがだめだと言って、立ち直ると約束しても、まだ陰で隠れてやっている、あげくの果てにほかの人の玉にまで手をつけようとする、そんなようなことを説明するのには、これはギャンブルの病気になったと受け入れるしかないと、そんなふうにおっしゃるんですね。
もちろん、息子さんの場合でも、大学生の息子が、高校まではスポーツも学業も、それから生徒会の役員もやってた。
なんであれが、うちの息子なんだろうというような、そういうこともあるんですね、そのぐらい病前は普通の方が多いです。
実際には、そのギャンブル依存症が見過ごされがち。
本人がなかなか病気だと気が付かないと同時に、今のリポートにありましたのが、家族が抱え込んでしまう、それが発見を遅らせ、治療を遅らせることになるんですか?
家族だったら、なんとか家族の力の中で解決して、そして、それを本人に深く反省してもらって、再出発してもらいたいと思いますよね。
ですから、借金だったら早く返して、もう二度とするなよというふうに肩代わりしてしまうと。
しかしそれは、問題を先送りしてしまうことになるんですね。
ご本人もそこは反省するんですが、ギャンブルに反応しやすくなっている、その脳の体質のようなものは変わりませんので、何かのきっかけでまたやりたくなるんです。
そうすると、問題がまた再燃してくると。
家族は疲れきってしまって、本当にそこで家族自身がいろいろな精神的な悩みを抱えたり、パニック障害、強迫性障害なんていう病気を持つ場合もあるんですね。
そうすると家族全体、そして本人の生活なども、壊れていくと、崩壊したりするということもあるんですか?
そうですね。
そのことでうそをついたり、お金を持ち出して失踪したり、責任を取って、死のうと思ったりというようなことも起きてきます。
なかなか、そこに至らないと先生のところにも来ないということですけれども、ですので、今、お伝えしてますように、本人だけでなく、家族にも、深刻な影響をもたらすギャンブル依存症ですけれども、今、治療の鍵として注目されているのが、家族へのアプローチです。

ギャンブル依存の人の家族を対象とした長崎の自助グループです。
ギャンブルにのめり込む身内とどう接すればいいのか。
月に2回開かれるミーティングでその悩みや苦しみを語り分かち合っています。

この会を立ち上げたBさんです。
数百万円に上る息子の借金を肩代わりしたび重なる金の要求におびえて警察に通報したこともあったといいます。
しかしBさんは息子への接し方を変えたことでギャンブル依存症の回復につなげることができました。

Bさんが考え方を変えるきっかけになったのが8年前に訪れた精神科でした。
この病院ではギャンブル依存症患者を抱える家族を対象にケアを行ってきました。
担当した医師は、息子ではなく抑うつ状態だったBさんを入院させ治療することにしたのです。

治療に加え、Bさんと息子の距離を取らせることも医師のねらいでした。
入院中、一日に何度も息子から金を無心する電話がかかってきましたが応じないよう指示しました。
さらに、治療の一環としてBさんはグループミーティングに参加。
患者とその家族の経験談を聞く中で、Bさんは自分が息子の回復を遠ざけていたことに気付かされたのです。

退院後、Bさんはある決断をします。
自宅を売却して新たな住まいに移り住み息子とは一切会わないことにしました。
あえて経済的な援助ができないようにしたのです。

Bさんの息子です。
親元を離れ、1人で暮らさざるをえなくなりました。

親の金に頼れなくなったことでパチンコ漬けの生活が変わりようやく治療に取り組むようになりました。

お母さんが息子を助けないことで、息子さんは回復の道を歩み始めたという例でしたけれども、やはり家族が変わることが近道なんですか?
そうですね。
家族が自分の力でなんとかしようということをやめてですね、ギャンブルということの問題は、病気であり、責任は本人に返すという態度を取ることが、非常にきっかけになります。
そうすることで、親御さんたちは、病気なんだということを知ることで、どうして強く向き合えるようになるんですか?
病気だからこそ、回復する可能性があるということを、相談された先生とか、相談者からきちっと説明を受けると、少し整理がつきますね。
それから家族自身が、ほかの家族の方と会えるような、ギャマノンというグループがあるんですけれども、そういう家族当事者の会に行くと、同じような体験をして、立ち直った家族を見ることができます。
そうしますと、家族は、これは自分が勝手にとらわれていたことであり、問題の責任は本人に返すほうが、結果はいいんだということを学習して、家族は少しすっきりして、心強くなれるわけです。

本人がどうやって気付けるのか、自助グループの参加というのが、大きな手がかりとなるわけですが、そこでどんな変化が起きるんですか?
本人は、同じ体験をしたグループの中で、自分は最初話せなくても、ほかの人の体験を聞くことによって、だんだんと自分の行動を、内省を深めていきます。
いかにギャンブルでうそをつき、周囲の人との人間関係を悪くしたか、そして、自己中心的なお金の使い方になっていたか、あるいは父親として、母親として、あるいは子どもとしての役割を果たせなかったか、そういうことを学習していきます。
そして、ギャンブルがなくても実は、トマトのポット150円を育てて、幸せになれるとか、2人で温泉に行くのに、本当に僅かなお金しかかからないんだとか、そういうことを学習して、ギャンブルのない人生を幸せに生きることで、うそのない生活とは、こんなにも安心して生きていけるのかという、人生の生き直しを学んでいくんですね。

推計で536万人がギャンブル依存症の疑いというふうな推計がことし出ましたけれどもなかなか発見されない、なかなか本人も気付かない、そして、家族が抱え込んでいるケースが多いのではないかと思われるんですけれども、本人の背中をまず、どうやって押しますか?
そうですね、家族は1人で悩まないで、もう1人のご家族、あるいはご家族でなくても、とても信頼できる友人、そういう方とこのギャンブルに実は問題あるんだと、私の家庭にはということをお話されて、インターネットとか書籍とか、情報を検索されたらいいと思うんです。
そこの中で、身近な所で、地元で行ける、依存症を治療している病院やクリニック、それから私どもがやっている精神保健福祉センターの相談、こういった所にまず相談に出かけてください。
そして、そのご家族の問題がギャンブルの病気という問題であるかどうかということをしっかり確かめて、そしてそれから取るべき行動を考えていってください。
今、カジノを解禁すべきか否かと、そういった議論も、賛否を巡る議論が出ているわけですけれども、多くのギャンブル依存の患者の方々を見てこられまして、この議論を進めていくうえで、専門家としては、何を大事に考えながら、議論が進められればというふうに思ってらっしゃいますか?
社会の中で、ギャンブルの依存症者ができるような、仕組みといいますか、そういうギャンブル依存者を作り出すことは、非常に簡単なんですね。
でもそれを回復させる仕組み、あるいは回復させることを支援する人を育てるのは、大変なことなんです。
ですから、依存症というリスクがあるということを知って、予防とか教育、そして、依存症者への対策というものを充足させないといけないと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
神社の境内が100人以上の人であふれていた。
2014/11/18(火) 00:14〜00:40
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“ギャンブル依存症” 明らかになる病の実態」[字][再]

今年の厚生労働省の調査で推計536万人という衝撃的な結果が出た「ギャンブル依存症」。ギャンブルをやめられずに苦しむ患者や家族、悲劇的な事件をもとに病の実相を探る

詳細情報
番組内容
【ゲスト】北海道精神保健福祉センター所長…田辺等,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】北海道精神保健福祉センター所長…田辺等,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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