「私クロオウチュウ。
全身黒ずくめでかっこいいでしょ」。
「来た来た。
ほら見てあそこの子おいしそうなもの食べてるわよ」。
(鳴き声)「私たちこうやって人様の獲物を失敬するのが得意なの」。
人呼んで「砂漠の大ドロボウ」。
鳥たちからも獲物を頂き!クロオウチュウが暮らすのはアフリカ南部乾燥した荒野が広がるカラハリ砂漠。
この大ドロボウさぞや嫌われ者と思いきや意外!周りにはたくさんの生きものたちが集まります。
実は人気者なんです。
一体どうして?ある時は大ドロボウ。
またある時は人気者。
今日は2つの顔を持つ不思議な鳥クロオウチュウの秘密に迫ります。
(テーマ音楽)8月。
南半球のカラハリ砂漠は冬の真っただ中です。
朝晩の気温は零度近くにまで下がります。
地面が暖まり始めると巣穴から顔を出すのはミーアキャット。
カラハリ砂漠ではおなじみの生きものです。
2本足で立ち上がるお決まりのポーズ。
体の大きさは30センチほどです。
次々と出てきます。
ミーアキャットは家族で暮らしているんです。
まずはひなたぼっこ。
朝日を浴びて冷えた体を温めます。
それから食事に出かけます。
地面を掘って昆虫やトカゲサソリなどの小動物を探します。
草むらから顔をのぞかせたのはオオミミギツネ。
名前どおりの大きな耳が特徴です。
本来は夜行性ですがこの時期だけは昼間も動き回って獲物を探します。
厳しい寒さに加え乾燥もピークに達する真冬。
オオミミギツネやミーアキャットにとってはつらい季節です。
獲物となる小動物は数が少ない上に地面や草むらの陰であまり動きません。
食べ物探しが一番大変な時期なんです。
鳥の群れがやって来ました。
シャカイハタオリ。
この鳥も地面で昆虫などを探します。
そんなシャカイハタオリを見下ろして悠然とたたずむ黒い鳥がいます。
今日の主人公クロオウチュウです。
頭から尾の先までは25センチほど。
見晴らしのいい場所が大好き。
おや2羽います。
こちらには3羽。
こうして一緒にいるのは家族です。
おなかの羽毛が白っぽいのは子ども。
もうすぐ生後1年になる若鳥でしょうか。
生まれて1年の間は親鳥と一緒に過ごします。
夫婦と若鳥合わせて4羽ほどの家族がおよそ800メートル四方の縄張りで暮らします。
この草原のクロオウチュウは研究のため足輪がつけられています。
詳しい調査からとっても変わった暮らしぶりが明らかになってきたんです。
さて食事中のシャカイハタオリたちを枝から見下ろすクロオウチュウ。
何をしているんでしょうか。
クロオウチュウが一声鳴くとシャカイハタオリが飛び立ちました。
入れ代わるように地面に降りたクロオウチュウ。
枝に戻ると…。
昆虫を食べています。
どうやってとったんでしょう?もう一度見てみましょう。
クロオウチュウが枝から急降下してきます。
驚いて飛び立つシャカイハタオリ。
するとクロオウチュウは群れが食事をしていた草むらに突っ込みます。
シャカイハタオリが見つけ出した獲物を横取りしたんです。
クロオウチュウは他の生きものから獲物を奪うのが得意なんです。
時には少々荒っぽいこともします。
草むらを飛ぶクロオウチュウ。
下で何かが動いています。
マミジロスズメハタオリ。
草むらで獲物を探していたんです。
この鳥クロオウチュウと同じくらいの体つきです。
あれ?追いかけ合いが始まりました。
どうしたんでしょうか。
戻ってきたクロオウチュウ。
昆虫をくわえています。
相手の獲物を横取りしたんです。
一体どうやったんでしょう?マミジロスズメハタオリの後をぴったり追跡するクロオウチュウ。
追いつきました。
この瞬間に獲物を奪い取ったんです。
見事な空中チェイス。
こんな離れ業ができるのはクロオウチュウの優れた飛行能力のおかげです。
体と同じくらいある長〜い尾羽に秘密があります。
急な方向転換もお手のもの。
尾羽がかじの役割を果たして素早く曲がれるんです。
こうして空中を自由自在に飛ぶことができます。
クロオウチュウが横取りを狙うのは小鳥だけではありません。
ミーアキャットです。
大人の体重はクロオウチュウの10倍以上。
脅かしたり力ずくで奪ったりできる相手ではありません。
小さな子どもが走ってきました。
家族から獲物をもらっています。
クロオウチュウの狙いはこんな子どもたち。
草むらから何かとりました。
トカゲです。
子どもの獲物を横取りしたんです。
子どものミーアキャットは大人よりも警戒心が弱いうえに獲物を食べるのに手間も時間もかかります。
もたついて地面に置いたりする一瞬の隙を見逃さないんです。
獲物を奪う見事なワザの数々。
クロオウチュウはこうして20種類ほどの生きものから獲物を横取りし厳しい冬を耐えているんです。
ちょっと待った!あヒゲじいやっぱり来ちゃいましたか。
はい。
何が「見事なワザ」ですか。
はっきり言ってただのドロボウでしょ。
なんで自分で獲物をとらないんですかね?まあまあ落ち着いて下さい。
獲物を横取りするのは冬の間だけです。
冬だけ?そうなんです。
他の季節はちゃんとこんなふうに狩りをします。
ほらすごいでしょ。
え…いやすごいって速すぎて分かりませんが。
では超スローモーションでもう一度。
獲物はガなどの飛んでいる昆虫です。
狙いを定めて…。
あ〜逃げられちゃいましたぞ。
大丈夫です。
尾羽をいっぱいに広げて急旋回。
おお〜こりゃすごい。
見事なアクロバット飛行だ。
でしょ?そして今度こそ獲物をしっかり見定めてほらキャッチしました。
これわずか0.03秒の出来事。
名ハンターなんですよ。
う〜ん確かに。
でも名ハンターならなおさら冬だって自分でとればいいじゃないですか。
それが冬はこのワザでとれるような飛んでいる昆虫がいないから駄目なんです。
それにクロオウチュウは地面の獲物を探すのが苦手なんですよ。
えどうして?ほら長い尾羽が邪魔そうですよね。
飛ぶのに便利な尾羽ですが地面を動くにはかえって邪魔。
素早く動き回ったり地面を掘ったりするのは苦手なんです。
それで地面で獲物を探す他の生きものから失敬するわけなんです。
はあ〜。
クロオウチュウだけにごクロウチュウ…なんちゃってね。
(せき払い)ウッウン。
あいやでも冬だけっていったって獲物を奪っていたら嫌がってみんな逃げちゃったりしないんですかね?いえいえそれが違うんですよ。
証拠をご覧に入れましょう。
クロオウチュウが飛んでいますよね。
あはいはいはい。
するとシャカイハタオリの群れがついていくんです。
え?あ〜ホントだ。
あ〜クロオウチュウの周りに降りてきましたぞ。
はい。
クロオウチュウは嫌われ者どころか人気者なんです。
えなんで?その理由はこの後お見せします。
ズルッ。
ヒントを1つだけお教えしましょう。
それは鳴き声です。
え鳴き声?一体どういうこと?うわ〜気になりますなぁ。
早く早く教えて〜!この日もクロオウチュウは食べ物を求めてミーアキャットの家族の近くに来ていました。
いつものようにひたすら地面を掘って獲物を探すミーアキャット。
クロオウチュウは高い枝の上でスタンバイ中です。
あっ小さな子どもが食べ物をもらいました。
またこの子どもが狙われてしまうんでしょうか。
(鳴き声)突然走りだしたミーアキャット。
どうしたんでしょうか。
見上げる先にムナグロチュウヒワシ。
子どもを狙う危険な天敵です。
クロオウチュウの鳴き声のおかげで無事に逃げることができたんです。
(鳴き声)この「チーチー」という声は天敵が来た事を家族に知らせる警戒の声。
クロオウチュウはいつも見晴らしのいい枝先にいるのでいち早く危険に気付くことができます。
ミーアキャットにとって危険を知らせてくれるありがたい存在なんです。
シャカイハタオリの場合クロオウチュウを更に頼りにしています。
体が小さいので特に天敵に狙われやすいんです。
食べ物探しに夢中になり気付くのが遅れればこんなふうに餌食になってしまいます。
隠れる場所のない砂漠。
命を守るためにクロオウチュウの警戒の声が欠かせないんです。
だから少しくらい獲物を盗まれてもわざわざクロオウチュウの近くに集まります。
小さな生きものたちにとってクロオウチュウは命を守ってくれる頼もしい「用心棒」だったんです。
第2章ではタカにアタック!用心棒クロオウチュウがますます大活躍します。
その一方で盗みのワザもエスカレート。
不思議な声でミーアキャットをだましちゃいます。
人間の世界で「用心棒」といえばピンチの時助けてくれる頼もしい存在。
自然界のそんな用心棒たちをご紹介しましょう。
まずはこちら。
海の人気者カクレクマノミ。
イソギンチャクに隠れて暮らしています。
大きな魚がやって来ました。
あっイソギンチャクを食べています。
するとカクレクマノミ自分より何倍も大きい相手に立ち向かいます。
イソギンチャクにとってかわいくて勇ましい用心棒です。
お次の用心棒はプレーリードッグ。
アメリカの大草原でたくさんの家族が集まって暮らしています。
ウサギがやって来ましたよ。
ここに草を食べに集まる生きものたちはプレーリードッグをとっても頼りにしているんです。
(鳴き声)キャンキャン。
突然鋭い声!恐ろしい天敵コヨーテがやって来たことを知らせたんです。
(鳴き声)キャンキャン。
ウサギは近くのプレーリードッグの巣穴へ逃げ込みます。
(鳴き声)キャ〜ン。
今度は安全になったことを知らせる声。
アフターケアまでばっちりですね!東アフリカの大草原。
弱肉強食の厳しい世界にも用心棒がいます。
シマウマです。
いつもはヌーの大群を利用して天敵から身を隠しています。
ほら意外に目立たないでしょ?忍び足で茂みを歩くのはチーターです。
警戒心が強いシマウマが真っ先に気付きました。
あっチーターを追いかけ始めました。
気性が荒いんです。
まさに心強い用心棒。
ヌーたちは大助かり。
生存競争の厳しい自然界。
いろんな用心棒がいるんですね。
冬の寒さがピークを迎えたカラハリ砂漠。
気温は氷点下まで下がりました。
クロオウチュウが吐く息も真っ白。
寒そうですね。
この日ミーアキャットの家族が動きだしたのは日の出から3時間以上もたってから。
クロオウチュウが後を追います。
やって来たのは親子です。
寒さが深まるにつれ食べ物を手に入れるのは更に難しくなっています。
こんな日は秘策があります。
突然鳴き始めます。
この声天敵が来たことを知らせる警戒の声でしたね。
慌てて逃げるミーアキャット。
でも天敵なんて見当たりません。
その時です。
ミーアキャットが食事をしていた場所からクロオウチュウが何か拾いました。
あれ?大きなヤモリを捕まえています。
ミーアキャットが落とした獲物を拾ったんです。
実は先ほどの声はミーアキャットをだますための偽の警戒の声だったんです。
食事中のミーアキャットが大きな獲物を発見。
するとクロオウチュウは天敵がいないのに警戒の声で鳴きます。
声を聞き慌てて逃げるミーアキャット。
その時獲物を落としてくれればしめたもの。
この方法なら体が大きい大人のミーアキャットからでも獲物を横取りできます。
クロオウチュウの盗みのワザ。
更に奥の手があるんです。
あっ今度は大きなサソリを見つけました。
すると…。
(鳴き声)さっきとは違う鳴き声。
一目散に逃げるミーアキャット。
またしてもクロオウチュウの盗みは大成功。
まんまと大物を手に入れました。
この鳴き方。
実はある生きもののモノマネです。
何かというと…。
そうミーアキャットです。
なんとミーアキャット自身の警戒の声をまねしたんです。
(鳴き声)ワンワン。
これはそっくり。
だまされちゃうのも無理ありません。
ほう!こりゃすごい。
そうでしょ。
でもちょっと待った。
うん?これってうそをついているってことですよね。
毎回こんなことをやっていたらそのうちうそだってばれちゃうんじゃないですか?いやいや。
それがなかなかばれないんです。
えそうなの?まずはこちら聞いて下さい。
こりゃまた全然違う鳴き方ですな。
これはムクドリの仲間のまねです。
へえ〜。
こちらはブッポウソウの仲間。
あ〜いろいろありますな。
はい。
これらは他の鳥の警戒の声をまねしたもの。
まねする鳥の種類は分かっているだけでも18種もあるんですよ。
へえ〜そんなにモノマネできるんだ。
そうなんです。
1種類の警戒の声だけを使っているとそのうち偽物であることに相手が気付く恐れがあります。
でもそこにいろんな鳥の声を交ぜて使うと相手は「違う鳥が鳴いている」と思うためうそだと気付かれにくいんです。
あなるほど。
この方法でミーアキャットだけでなく他の鳥たちからも獲物を横取りします。
これほどたくさんのモノマネを操り獲物を奪うことができる鳥は世界でもクロオウチュウだけなんですよ。
う〜んでもどんなに巧妙でもうそはやっぱりうそでしょ。
そのうち信用されなくなっちゃいますよ。
いいえ大丈夫。
クロオウチュウはうそをつく冬の間も本物の警戒を怠りません。
だからその信用は揺るがないんです。
へえ〜なるほどね。
クロオウチュウしたたかですな。
用心棒としての「人望」を利用するとはこりゃまた恐れ入りました。
ある日用心棒クロオウチュウの真骨頂とも言える姿を目撃しました。
突然上空に現れたタカ。
翼を広げると1メートルもある恐ろしい天敵です。
(鳴き声)声を聞いて飛び立つシャカイハタオリ。
タカは少し離れた木の上から様子をうかがっています。
おや?クロオウチュウが近くへやって来ました。
何をしようというんでしょうか?頭の上を飛んでいます。
あっ!蹴りました。
縄張りに入ってきた天敵に先に攻撃を仕掛け追い払うんです。
抜群の飛行能力を持つクロオウチュウならではの大胆な作戦です。
タカはたまらず退散。
辺りには再び平穏が戻ります。
いざという時は体を張って強敵を撃退するクロオウチュウ。
砂漠の生きものたちの頼もしい用心棒です。
ようやく冬の寒さが緩み始めました。
青空に円を描くように飛ぶクロオウチュウの姿。
獲物の昆虫が増え自力で狩りができるようになってきたんです。
あっミーアキャットの脇で鳴いているクロオウチュウがいます。
(鳴き声)おなかが白いこの鳥若鳥です。
まだ自分の力では十分に狩りのできない若鳥。
ミーアキャットから食べ物を奪おうと覚えたモノマネをひたすら試しているようです。
(鳴き声)でもミーアキャットの反応はいまひとつですね。
しかたなく自分で食べ物を探そうと地面に降りると…。
近づいてきた子どもにびっくり!今度は地面の穴から出てきたミーアキャットにまたびっくり!まだまだ修業が必要ですね。
若鳥が親鳥のそばへやって来ました。
ところが…。
親鳥が体当たり。
追い払われてしまいました。
どうしたんでしょうか?親鳥を見つけました。
夫婦そろっています。
次の子育ての準備が始まっているんです。
若鳥は独り立ちしなければならない時期なんです。
それからしばらくのこと。
1羽で過ごす若鳥に出会いました。
草むらでミーアキャットと鉢合わせしてももう驚くこともありません。
たくましく独り立ちの第一歩を踏み出しています。
次の冬に向けてモノマネの練習は続きます。
(鳴き声)高度な盗みのワザはそう簡単には身につかないんです。
(鳴き声)チーチーチーチー。
あっ天敵を知らせる警戒の声。
盗みのワザはまだまだですが用心棒としての腕前はもう一人前です。
アフリカカラハリ砂漠に生きるクロオウチュウ。
用心棒として生きものたちの信頼を勝ち取り困った時はその生きものたちに助けられて命をつないでいました。
厳しい大自然が生んだたくましい生き方です。
2014/12/14(日) 19:20〜19:50
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「なぜか人気者!砂漠のドロボウ鳥」[字]
カラハリ砂漠に暮らす鳥、クロオウチュウ。他の生きものから食べものを盗む「ドロボウ鳥」だ。それなのに、この鳥のまわりには様々な生きものが集まってくる。一体なぜか?
詳細情報
番組内容
アフリカのカラハリ砂漠に暮らす鳥、クロオウチュウ。寒さで獲物が乏しくなる冬、他の鳥やミーアキャットなどから獲物を盗むドロボウを繰り返す。さぞや嫌われ者かと思いきや、この鳥の周りにはたくさんの生きものたちが集まる。一体なぜなのか?実はクロオウチュウ、砂漠の生きものたちにとって、命を守ってくれる頼もしい用心棒でもあるのだ。泥棒と用心棒、2つの顔を持つ不思議な鳥・クロオウチュウの秘密に迫る。歌:平原綾香
出演者
【語り】首藤奈知子,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
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