日の出とともに聞こえてくる竹刀の音。
強豪敬徳高校剣道部の朝稽古だ。
整列!チームを率いる…失礼します!
(部員たち)失礼します!監督の期待に応えようと必死にチームをまとめる。
しかし実は人前に出るのがちょっと苦手。
家族はキャプテンをやっていけるのか心配している。
更に就任早々窮地に立たされる。
分かってる事やっか!自分に足りないものとは?キャプテンのあるべき姿とは?その答えを探し苦悩からはい上がる高校生剣士の姿を追った。
・気持ち込めて…。
・よし!
(拍手)伊万里市にある…今年の高校総体佐賀県大会で優勝。
全国でも名の知れた実力校だ。
監督の吉村剛先生。
就任から10年余りで県内トップレベルにまで育て上げた闘将だ。
1・2年生の新チームがスタートしたこの日キャプテンの指名が行われた。
キャプテン井手太吾。
はい!やっぱりキャプテンとしては全体を見らないかんな。
選ばれたのは2年生の井手太吾くん。
剣道の腕前に加え真面目な性格を買われ指名された。
実は井手くん人前に出るのがあまり得意ではないという。
姿勢を正して。
静座!キャプテンとして13人の部員を束ねていく重い責任を負わされた。
井手くんを含め剣道部の生徒のほとんどは寮生活を送っている。
はい。
親元を離れてまで剣道に打ち込みたいという高い意識を持った仲間たち。
気配りができる井手くんへの信頼は厚い。
小学3年生の時に剣道を始めた井手くん。
次第に相手に勝つ喜びに目覚めていった。
中学では県大会個人で3位になるほど上達しもっと強くなりたいと吉村監督のいる敬徳高校に入学した。
しかしキャプテンに就任後井手くんは部員たちをどうまとめていくかに気を取られていた。
(ホイッスル)腕をしっかり振れ腕を。
(部員たち)はい!
(ホイッスル)一方吉村監督が求めていたのは全く別の事だった。
井手くんにはキャプテンとして自分の意思を積極的に言葉や行動で示すリーダーシップを発揮してほしい。
それが剣士としての成長にもつながると考えていたのだ。
しかし監督はある不安を感じていた。
生徒たちの日々の反省や課題がつづられた剣道日誌。
監督は井手くんが書く内容に物足りなさを感じていた。
井手くんの日誌のページ。
「動きがかたくなっていた」。
「足が止まりがちだった」。
稽古の様子が淡々とした文章でまとめられている。
「悔しい」「うれしい」といった気持ちを素直に表した言葉は見当たらない。
吉村監督は井手くんに自分の殻を破って積極性を身につけてほしいという思いを強くしていた。
監督の不安は現実のものとなった。
9月に行われる公式戦に向け開かれた部内選考会。
上位7人に入らなければ試合には出場できない。
そこである異変が起こっていた。
本来なら部内で上位にいるはずの井手くん。
この日は実力で勝っているはずの相手にも力を発揮できないでいた。
試合時間は4分。
2本先取した時点で勝ちとなる。
積極的に攻めていく事が重要だ。
しかし井手くんは打たれないよう後ろに下がってばかりの消極的な剣道を続けた。
はいそしたら結果発表します。
勝ち点19。
1位山本。
はい!井手くんの名前は呼ばれなかった。
チームを引っ張るはずのキャプテンがまさかのレギュラー落ちだ。
月に1度の稽古が休みの日。
井手くんは武雄市にある自宅に帰った。
両親と姉の4人家族が顔をそろえるのは久しぶりの事。
テーブルには刺身やカニそして井手くんの好物のオムライスが並んだ。
(姉)片づいたなって。
(姉)何て?
(姉)出た!あいつ…。
両親は久しぶりの団らんを喜びつつも息子がキャプテンになった事に不安を感じていた。
いや…真面目だが自分から前に出ようとしない性格がキャプテンに向いていないのではと考えていた。
9月半ば。
井手くんの様子に変化は見られない。
この日井手くんは監督との稽古に臨んだ。
攻め込まれるばかりでなすすべもなく打たれっぱなし。
自分から全く仕掛けられないまま時間だけが過ぎていく。
ちょっと。
はい。
何が足りないんだよ?はい。
行け。
ありがとうございました。
礼!
(部員たち)ありがとうございました!吉村監督は井手くんにたまらず気持ちをぶつけた。
「自分が変わればチームも変わる」。
井手くんはその言葉を正面から受け止めた。
3日後熊本で行われた合同合宿。
井手くんの表情に少し変化が表れていた。
あ〜!・離すなよ!うぅ〜!・離すなよ!うわっ。
・あ〜駄目だ!他校の監督に稽古を申し込んだ井手くん。
自ら積極的に仕掛けていく。
自分より強い相手に対しても恐れず前へ出る姿があった。
この日の剣道日誌に井手くんはこう記していた。
「自分を出していこう」。
10月。
チームにとってこの秋最大の目標となる新人戦が近づいていた。
礼!
(部員たち)お願いします!これから選考会の方を始めます。
試合に出場できるのは7人。
そのメンバーを決める選考会が再び行われた。
今度は負けない。
井手くんは闘志をむき出しにしてガンガン攻める。
どんどん前に出る攻めの剣道で次々と一本を奪っていった。
はい!この日井手くんは誰にも負けなかった。
新人戦の出場権を勝ち取った。
(取材者)気合い入りました?10月26日。
県内24校が参加して行われた新人戦。
井手くんは自らチームを引っ張る決意を胸に試合に臨んだ。
順当に勝ち進んだ敬徳高校。
決勝戦の相手は県内で最大のライバル龍谷高校だ。
礼!チーム7人で争う団体戦。
井手くんの出番が回ってきた。
1勝2敗と負け越した状態。
流れを変えるためにはもう負けられない。
相手は個人戦で準優勝した強敵だ。
始め!赤のたすきが井手くん。
格上の選手相手に一歩もひるまない。
しかし試合中盤相手に先に一本を奪われた。
(歓声と拍手)
(拍手)以前の井手くんなら弱気になってもおかしくない状況だ。
しかし…。
(審判)始め!直後果敢に前へ出た井手くんの一撃が相手の面を捉えた。
自分に打ち勝ち引き分けに持ち込んだ。
結果は準優勝。
しかし井手くんは確かな手応えをつかんでいた。
新人戦の2日後。
体育館にはいつもの稽古の声が響いていた。
次の目標は12月の大会で優勝し全国選抜に出場する事だ。
「己を変えて磨く剣」。
井手くんは今日も前へ出る。
2014/12/15(月) 15:20〜15:46
NHK総合1・神戸
ろーかる直送便 佐賀イズム「己を変えて磨く剣」[字]
佐賀県屈指の強豪、敬徳高校剣道部。自分のあるべき姿に迷い苦しむキャプテンが、監督の厳しく温かい言葉にも導かれ、自分に足りなかったモノを見つけて己を変えてゆく。
詳細情報
番組内容
佐賀県屈指の強豪、敬徳高校剣道部。新しく選ばれたキャプテンは真面目だがやや消極的な性格だ。自分の役割についてあれこれ思惑ううち、本業の剣道がスランプに陥ってしまった。しかし、出口を見失って煮え切らない日々を送る彼を、監督の厳しくも温かい言葉が救う。自分に足りないモノ、キャプテンの在るべき姿を見つめ直し、這い上がるため必死に己を変えようともがき奮闘する、高校生剣士の苦悩と成長の日々を追う。
出演者
【出演】井手太吾,吉村剛,【ナレーション】西田優史
ジャンル :
ニュース/報道 – ローカル・地域
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
趣味/教育 – 中学生・高校生
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