今年夏岐阜県の山奥に突如としてトンネルが現れました。
これは道路や鉄道のためのトンネルではありません。
何やら巨大な装置が次々に運び込まれています。
実はここでノーベル賞級の研究が始まろうとしているんです!彼らが狙っているのは…。
何でもかの有名なアインシュタインが100年前にその存在を予言した重力の波なんだそうです。
いまだにその存在はとらえられていません。
しかし1世紀の時を経て観測技術が大幅に向上。
世界中の研究機関が重力波の初観測に向けてしのぎを削っています。
観測できればノーベル賞間違いなしとまでいわれる重力波。
その正体に迫ります!観測成功したらノーベル賞間違いなしって相当すごいですよね。
重力波はアインシュタインの予言以来物理学者の100年来の夢なんですよ。
じゃあ早速聞きますが重力波って何なんですか?波が出る…。
例えばですが僕がこうやってグルグルグルと手を回します。
はい。
するとここで重力波が発生してるんですよ。
今発生してるんですか?何も感じないですね。
僕のこの腕を回したぐらいでは発生する重力波非常に小さいのでこれは検出できないんですね。
という事で重力波を検出するためには宇宙で起きているかなり特別な現象が必要ですよ。
ではどのような現象が大きな重力波を出せるのか。
その代表的なものを見てみましょう。
何か2つの星がグルグル回ってますね。
これは連星中性子星といいます。
中性子星というのは…なのでめちゃめちゃ高密度なんですよ。
なので重力が非常に強い。
ちょっと分かりにくいかもしれないですがこの番組30分見てくれたらバッチリ分かりますから。
はい。
まずは重力の話といえばこれですよね。
あっリンゴ!ニュートンですね。
ここで奈央ちゃんに質問です。
はい。
あっ落ちてきた。
このリンゴはどうして落ちたんでしょう?これは17世紀のアイザック・ニュートンが提唱した…習ったの覚えてます。
ところがですね…えっどうしてですか?ニュートンさんの理論は非常にいい理論なんですが重力を完璧に説明した訳じゃなかったんですね。
完璧には説明していない?そこで必要になるのがアインシュタインが打ち出した重力の概念と彼の方程式なんですね。
それではアインシュタインが打ち出した重力の概念とは何だったのでしょうか。
1916年世界に衝撃を与える重力の理論が登場します。
あの一般相対性理論です。
アインシュタインはこの中で重力について全く新しい概念を提示しました。
その意味は一般相対性理論の方程式に記されています。
右辺はエネルギーや物質を表し左辺は時間と空間が合わさった時空のゆがみを表しています。
つまり質量やエネルギーがあると時空がゆがむ。
例えば太陽と地球で考えてみた時ニュートン力学では太陽と地球はお互いに引き合っていると考えられていました。
これに対して大きな質量のある天体が時空をゆがめるというのがアインシュタインの理論です。
重力で引き寄せられるというよりもゆがんだ時空のくぼみに落ち込む。
これが重力の正体。
地球のように太陽を回る天体は遠心力で釣り合いをとりながらそのくぼみに沿って動いているというのです。
つまり地球は太陽から引っ張る力を直接に受けるのではなく太陽がゆがめた時空の影響を受ける。
これがアインシュタインの考えた重力の理論なのです。
重力っていうのは時空のゆがみって事なんですね。
でもそもそも時空って何なんですか?我々は空間って3次元と思ってますxyzで。
アインシュタインはそれに…4次元…。
これはつまり時間と空間が密接につながっていて切り離せないという事に気付いたからなんですね。
なので時間と空間まとめて時空っていうんですよ。
はあ〜なるほど。
でもアインシュタインはニュートンとはちょっと違う解釈をしただけですけどもそれでも大きな違いが出てくるんですか?それが重力波と密接に関係するんですよ。
そうなんですか。
その足りなかった部分…速さ…。
ええ。
そこを考えると重力波というのが出てくるんですよ。
え〜?でも重力は伝わるのに時間かかるんですか?アインシュタインはねそう考えたんですよ。
はあ…。
そうなんですよ。
この考え方重力波を考える上でとても重要なのでちょっと思考実験をしてみましょう。
仮にですが今この瞬間…確かに重力が消えてしまったので引っ張られなくなるという事で…あれ?太陽が消えた瞬間重力がなくなるから…だから太陽が消えた事はまだ分かってないという事ですよね。
アインシュタインは最初に作った相対性理論で光も時間をかけて伝わるという事を主張したんですね。
なので今回も同じように重力も時間をかけて伝わると考えた訳です。
重力と光が同じ速さで伝わればつじつま合いませんか?そうですね。
ですからこの思考実験で言いますと…そう。
全く同時という事になります。
じゃあ本当に重力が伝わるのにも時間がかかるっていうのがポイントだったんですね。
そうですね。
そして更にアインシュタインは…えっ式を使って予言した?はい。
こちらのボードで解説してもらいましょう。
これがですねかの有名なアインシュタイン方程式です。
左側が時空のゆがみで右側がエネルギーと物質ですよね。
そうですね。
基本的には左辺が幾何学。
時間と空間のゆがみですね。
そしてこちら右辺がエネルギーを表すという事です。
上に書いてある小さい文字は何ですか?学校でベクトルって教わりましたよね。
ありましたね。
x成分とかy成分…。
はいはい。
あれです。
ただし時間が入ってくるんでtxyzだから4つあるじゃないですか。
(2人)16個。
そう。
16個成分があるんですよ。
だからこの方程式は実際には1個じゃなくて16個の方程式。
gμνは何ですか?それがこのgμνなんですよ。
それじゃここから今日の本題である重力波を導くとこにいってみましょうか。
それではこの数式を少し変形してみましょう。
連星中性子星の所から重力波が放出されましたというとこはいいんですがそれが地球までずっとやって来るでしょう?物はない。
もう何もないのでこの物質由来の項はゼロ。
何もありませんという事でゼロと置きます。
次にこのgμνを分解します。
このηっていうのはギリシャ語です。
ηの部分っていうのが平らな空間。
だからものさしの長さが固定されて決まってるんですよ。
そしてこれhですけどもこれはそれにちょっとだけズレがあるっていうふうに分解するんですよ。
ズレがある…。
完全に平らな空間っていうのはそのままじゃないですか。
でもそこにちょっとしたズレがあると何かが起きそうだなという事でこの部分に注目するっていう。
このgμνを元の方程式に代入します。
そしてガチャガチャ〜ッと15分ぐらい計算するとおおまかですけどもこんな格好になるんですね。
だいぶ変わりましたね。
完全に平らな状況からのズレh。
このhμνがAμνのsinという形で出てくるんですよ。
これ最終的な解ですね。
sinって何でしたっけ?何か三角関数で…。
ちょっとあんまり覚えてないんですけども。
分かりました。
じゃあこれの形を今出しますから。
これは縦軸がこの時空のさざ波の変化ですね。
そしてこれが横軸が時間。
つまり時間とともにsin変化する。
波の形だ。
そうなんですよ。
あ〜。
こうやってアインシュタイン方程式から何にもない時空を伝わる重力波。
これが導かれるって事なんですね。
数式からこの波の形が分かるってすごいですね。
そう。
だからアインシュタイン方程式からこれが出てくる訳だからこれね多分あるはずなんですよ。
(2人)へえ〜。
ではアインシュタインが数式から導き出したという一般相対性理論の世界を見てみましょう。
ここでは空間は弾性で連続的という性質を持っています。
一体どういう事なのか。
まずは弾性。
これはつまりバネのような性質を持つという事。
この弾性があるため空間は伸びたり縮んだりする事ができます。
重い天体がやって来ると…空間は縮みエネルギーを蓄えます。
天体が去ると…空間はバネのように元に戻ろうとしその勢いで振動します。
これだけだと空間の一部分の伸び縮みにすぎませんが空間は連続的でもあります。
つまりつながっているのでこの跳ね上がりは隣の空間にも伝わります。
これが重力の波です。
空間は弾性で連続的という2つの特徴から重力つまり空間のゆがみは波として伝わっていく。
これがアインシュタインの考えた重力波なのです。
ああ重力波何となく分かってきました。
だけどそもそも弾性で連続的な空間相対性理論の空間それが正しいという証拠はあるんですか?アインシュタインが最初に理論を発表した時も空間がゆがむって意味分かんないよっていうふうには言われちゃったんですね。
ただその後重力レンズという現象が発見されて証明されたんですよ。
重力レンズ?空間が重力によってゆがむという事はそこを通る光も曲げられるんです。
すると本来なら天体に隠れて見えない位置にあるはずの光が地球に届く事があるんですね。
この現象が実際に地球で観測されたのでアインシュタインの相対性理論は正しいと認められたんです。
なるほど。
光が曲がっていたから空間が曲がっているというのは納得できますね。
そうですね。
そうですね。
ここからは専門家の方に伺いましょう。
東京大学宇宙線研究所の梶田隆章さんです。
重力波がいまだにとらえられてないというのはどうしてなんですか?重力波というのはとても小さい空間のゆがみなので我々が観測できるような重力波というものは宇宙のどこかでものすごく巨大な重力のイベントが起こらないと観測できないんです。
巨大な重力のイベント?連星中性子星のあれはだんだん時間がたつとお互いの周りがだんだん近くなってきて最後に合体します。
このような本当に巨大な重力のイベントが起こらないと我々には観測できないというふうに思っています。
そういったものはそんな頻繁に起こらないんですか?なかなか起こりません。
例えば我々の銀河で考えてみます。
この大きさは大体直径で10万光年くらい。
10万光年…。
はい。
10万年に1回はちょっとそれは観測できないですよね。
実際アインシュタイン自身もこの重力波というのは観測できないんじゃないかと思ってたぐらいですから。
じゃあ一体どうすればいいんでしょうか?我々の銀河だけを見ていたんでは駄目で…でも遠くを見るという事は…実際このような事をずっとやってきて例えばアメリカでLIGOという大きい観測装置を作って大体10年くらい前から観測してきたんですけども…へえ〜。
そうするとたくさんの銀河がありますので…そういうレベルまで来ました。
何か10万年に比べたら現実的にはなったけどそれでもまだちょっとね…。
そうですね。
そこで今我々は…この装置では大体…それはかなりチャンスが増えましたね。
それではそのKAGRAが重力波をとらえる仕組み見ていきましょう。
岐阜県の神岡鉱山に建設中のKAGRA。
L字型に3キロずつ延びたトンネルを利用して重力波をとらえようという装置です。
トンネルに設置されるのはレーザー光線が通る真空パイプ。
発射されたレーザー光はまずビームスプリッターで2方向に分割されます。
パイプの先端にあるのは鏡。
分割された光はこの反射鏡で跳ね返り合流地点に戻ってきます。
通常であれば分割された2つのレーザー光は波がぴったり重なります。
すると光は打ち消し合い消えてしまいます。
これを干渉といいます。
ふだんは光は検出されないのです。
しかしここに重力波が到達すると変化が表れます。
非常に面白い動きをします。
ですから2方向に分けてその差を見ようという。
重力波が到達して一方の空間が伸びた時実はそれに直角な方向は縮むという性質があります。
もし重力波が来て空間のゆがみが発生した場合片方の経路は伸びもう片方は縮みます。
すると2つの波を重ねても僅かなズレが生じきれいに打ち消し合う事ができません。
このズレが光となって検出されるのです。
このレーザー光の経路は長ければ長いほど2つの波のズレが出やすくなります。
このようにして極めて小さい重力波の影響を検出するのです。
つまり空間のゆがみをレーザーで測るみたいな事なんですか?そうです。
この方法というのは原理的には非常にいい方法で…このレーザー干渉計という仕組みが世界でトップの理由なんですか?このレーザー干渉計の仕組みそのものは世界のみんなが共通でアメリカでもやってるしドイツでもやってる。
イタリアでもやってるというそういうものです。
でもどうしてほかの国は観測できなかったんですか?揺れ…。
従ってどれだけ揺れ対策ノイズ対策ができるか。
これが測定器の感度を決めるものすごく重要なものになっています。
ノイズ対策の鍵となるのは重力波測定器を設置する場所です。
こちらは重力波測定技術の確立のために15年前に建設された…東京の多摩地区に作られましたが町の雑音が意外にも大きい事が分かりました。
アメリカやヨーロッパのレーザー干渉計もノイズに悩まされています。
人里離れた場所に建設されたにもかかわらず地表に僅かな揺れがあるために現在の感度にとどまっているのです。
地上には人間の活動による振動があふれています。
更に風や雨などの自然現象も実は僅かに地表を揺らしているんです。
その対策としてKAGRAは地表から深さ200メートル以上の地下に建設されています。
これはKAGRAの建設地の振動をTAMA300と比較したデータです。
緑の線2本分小さくなっています。
振動を2桁100分の1程度に下げられる見込みです。
更にこれだけではありません。
もう一つの対策を試作機で見せてもらいました。
レーザーを効率よく反射させるためのミラーです。
実はレーザー光はその距離を稼ぐためにミラーを追加して何百回も往復させます。
このミラーにも工夫がなされています。
ミラーを冷やす?四六時中レーザーを当て続けるミラーは熱を持ち僅かに揺らいでしまいます。
そこでKAGRAではミラーの冷却技術を独自に開発しました。
ミラーは熱をよく伝えるサファイアで作られています。
サファイア性のワイヤーも取り付け熱を効率よく逃がす事で冷却します。
その温度はマイナス250℃。
これによってミラーのゆらぎも常温の10分の1にまで抑える事が可能になりました。
地下という場所とミラーの冷却技術。
2つの武器でKAGRAは世界最先端の重力波望遠鏡へと躍り出る計画なのです。
すごいささいな事でも影響受けちゃうんですね。
ええ。
このKAGRAはどれぐらい小さなゆがみまで観測できるんですか?うわ〜。
そこまでできたら重力波観測する事できそうですね。
ええ。
まあ我々としては来年の暮れに…KAGRAの性能が断トツなんですか?いいえ。
アメリカやヨーロッパでも今レーザー干渉計といわれるこの装置を大改造していまして同じ頃に同じような感度で観測をしようというふうにアメリカヨーロッパでも頑張っています。
へえ〜。
それやっぱり最初に観測したところがノーベル賞取るんですかね?それは分かんないですけどもでも一方でもちろん競争もしてるんですけども協力もしながらやっています。
恐らく…そういうような話なんですね。
ふ〜ん。
そうやってもう一度重力波ありましたってなったらお役御免というか役目を終えちゃいそうな気が…。
いいえ。
とんでもないです。
これからこの装置を使って世界的に協力してほかの装置ではできない新しい天文学をやろうと考えています。
見えないですよね。
これ例えばですけど…本当に宇宙が誕生した瞬間にあるんですけども…なるほど。
そうです。
これすごいですね。
全く質の違う天文学がスタートするというふうに思っているんでもうワクワクしてます。
梶田さんどうもありがとうございました。
どうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2014/11/22(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「時空のさざ波“重力波”をとらえよ!」[字][再]
アインシュタインが提唱してから100年のときをこえ、はじめて直接証明されようとしている重力波。いま物理学で最もホットなトピックスを非常にわかりやすく解説します。
詳細情報
番組内容
100年前にアインシュタインが一般相対性理論の中でその存在を予言した重力波が、1世紀の時を経てはじめてとらえられようとしている。その先頭に立とうとするのが、日本で建設中の重力波望遠鏡KAGRAだ。しかし、重力波は相対性理論が前提のため、普通の感覚ではとらえがたい。そこで竹内薫が重力波について懇切丁寧に解説する。科学ファンのみなさん、重力波の検出前に、その理論についておさえておきませんか?
出演者
【ゲスト】東京大学宇宙線研究所所長…梶田隆章,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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