(近松丙吉)命日がくるたびに嫌でも思い出すなあ。
いつまでもあの事件が頭ん中を追っかけてくる。
あいや…お前を責めてるわけじゃないんだ。
(近松春子)分かってますよ。
でも悪い事だけじゃないでしょ。
命日のたびに純一に会えるんだから…。
うん…。
生きてればあの子たちの年頃だな…。
(女子高生の明るい声)美幸また明日ねバイバイ。
(的場美幸)バイバイ。
ただいま!お父さん帰ってるの?お父さん…どうしたの?
(的場陽助)あぁ美幸…。
お母さんは…?どうかしたの…?
(玄関のチャイム)通報されたのはご主人ですか?はい。
ご遺体はどちらに…?美幸よしなさい!〜お母さん…!?〜お母さん!
(お鈴の音)春子お茶淹れてくれ。
はい。
・・あぁ俺が出る。
・はい近松です。
・
(安田刑事)主任!コロシです。
現場は多摩市南野園2−11−2。
ガイ者は的場妙子47歳主婦。
胸を包丁で一突き。
即死です。
分かった。
すぐ行く。
事件ですか?うん。
(割れる音)…着替えは?いい。
ネクタイだけでも…。
(パトカーのサイレン)
(人々の話し声)
(村越係長)山形管理官ご苦労さまです。
(山形)ガイ者は?これがそのゴミ箱に…。
指紋は?詳しい事はまだですがキレイに拭き取られてます。
(安田刑事)あれ?主任。
いきなり喪服ですか?手回しいいなあ。
バカこれはなあ…。
まあいい。
ガイ者は?ああキッチンに…。
ガイ者の着衣は?まだ見つかってません。
外出しようとしたのかな?えぇ帰ってきた時だとも考えられます。
お近さんご苦労さん。
あどうも…。
あぁこれは…あれです。
あのうキッチンは?第1発見者は?ガイ者の夫的場陽助。
山王トレーディングの常務です。
(安田)暴行の跡はないし盗まれた金品もありません。
変質者でも物盗でもないなら痴情のもつれか怨恨ですかね。
少し静かにしてくれんか。
コンタクトか…。
(的場享子)お母さん!?お母さん…。
(村越)発見された時の状況をお聞かせ願えませんか?昼食を食べた後少し気分が悪くなったので1時半頃に社を早退してそれで車で帰ってきたら…。
着いたのは何時頃でしょう?3時頃だったと思います。
(山形)確かですね。
はい。
〜
(山形)1時半に西新宿の会社を出て3時に帰宅された…。
少し時間がかかりすぎるように思いますが…。
〜
(山形)奥さんの妹さんですか?はい。
社を出てすぐ近くの繁華街で見かけて…。
大塚典子といって三鷹に1人で住んでる義理の妹ですが声をかけて自宅に送ってからここに。
あのうこれは何ですか?この人形ですが。
近さん…。
ああ…ドールハウスです。
ドールハウス?ええ。
家内がカルチャーセンターで習ってたものです。
なるほど。
あそれから奥さん家では眼鏡を…?…はぁ?いやご遺体はコンタクトだったので。
近さん…。
使い分けていました。
ああそうですか。
もういいだろ?あこりゃどうも。
(典子)義兄さん…。
義兄さん…姉さんは?今お話した家内の妹です。
あそういえばお向かいの長谷川さんに電話しました。
早退すると家に電話したら家内が出なくて…。
いつもなら家に居る時間なのに妙だなと思いましてね…。
(安田)主任どうかしました?誰が揃えたんだ?え?だからこの靴だよ。
さあ…亭主が揃えたんでは…?初めからこうなってましたよ。
ふ〜ん…。
(長谷川美代子)間違いないです。
2時45分ぐらいでした。
お買い物に出る時ご主人から電話が…。
家の様子を見てほしいって。
それでベランダに出たらいきなり男の方が家から飛び出してきて。
どんな男です?40歳すぎでサングラスをかけボストンバッグを持ってました。
ボストンバッグ…?はい。
顔は…?多分もう一度見れば分かると思いますけど…。
ちょっとベランダを…?どうぞ。
こりゃきついヤマにならずに済みそうですねえ。
湯飲み割りました?ゲンかつぎの。
ホシが割れる…いきなり当たりだ。
その口なんとかならんのか。
ペラペラペラペラ…。
(美幸)お母さん!お母さん!お母さん!いや〜!行っちゃいや!美幸という下の娘です。
清華女学院高等部1年。
名門私立のお嬢様です。
(泣き叫ぶ声)やりきれませんねぇ。
(村越)では司法解剖の結果から。
(浅井刑事)死因は刺創による出血性ショック死。
監察医の所見では傷は心臓に達していてほぼ即死。
従ってホシは正面から一突きで刺したものと思われます。
現場のゴミ箱の包丁と傷口が一致し凶器はその包丁と断定できます。
が指紋は検出されませんでした。
次に死亡推定時刻は現場での検視どおり午後2〜3時です。
次…第1発見者と家族のアリバイ。
第1発見者の的場陽助氏ですが事件当日午後1時頃「食事に出る」と部下に言って社を出た後30分後に電話で早退する旨を伝えています。
その後の行動はガイ者の妹大塚典子も認めているとおり…。
じゃ義兄と会ってなかったら姉は助かっていたかも…?典子は当日勤め先の図書館が休みで新宿へ買い物に出てます。
次に的場享子ですがあの日は頭痛で午前中会社を休んでます。
勤め先は東西銀行本店。
1時頃頭痛が治まり会社に行ってます。
この供述のウラは取れてます。
享子が出かけた時母親の妙子は家に居て変わった様子はなかったということです。
陽助が飯を食った店の特定は?いえそばを食った事しか…。
彼は睡眠導入剤を常用していてブラックアウトを起こしたようです。
陽助の主治医も認めています。
以上です。
何だ?そのブラック…。
アウト。
一時的記憶喪失です。
帰ったら女房のひどい死体が転がってた。
記憶が飛んでも不思議じゃないでしょう。
美幸については派出所の警官の証言どおり問題はないでしょう。
従って向かいの長谷川美代子が目撃したという40歳すぎの男に的を絞って問題ないと考えます。
怨恨痴情のもつれ変質者や通り魔の線も外せません。
前歴者の手口捜査など全力で男の行方を追ってください。
以上。
(一同)はい!どうした?まだ引っ掛かる事でも…?いや…。
私もその男が本ボシだとは思うんですが…。
いろいろ…あの日にかぎって亭主が早退し上の娘も半日会社を休んでいる。
おまけにガイ者の妹も勤めが休みで偶然亭主と出会ってる。
今度ばかりは考えすぎだろ。
見込み捜査は禁物だが本ボシはおそらく決まりだよ。
あぁ…昨日黒木を見かけたよ。
黒木…?あああの黒木ですか?何かの素行調査らしい。
探偵稼業も楽じゃなさそうだった。
黒木か…。
黒木!なぜ辞表なんか書いた!…噂は本当なのか?
(黒木)書いたんじゃない。
書かされたんです。
なんで書いたんだ!もういいんです!近さん…!俺は悔しいですよ!
(自嘲の笑い声)結局…近さんに一歩も近づけなかったなあ的場さんのお宅はとても問題があったとは思えませんわ。
ご主人との仲はどうでした?詳しくは存じませんけど何でもご主人が決められて奥様も頼っておられたから仲はよかったのでは…。
知人:いやまさかあの奥さんにかぎって男の人だなんて…
(店主)お姫様みたいな人で家事も得意じゃなかったようですよ。
でもウチは上得意でね。
ご主人の下着まで出すような人でしたから。
いやありがとうございました。
(ドールハウス店員)ここに通われて1年になりますが的場さんが恨みを買うなんて考えられませんね。
彼女何かに取り憑かれたみたいに夢中でこの作品作ってました。
あのう的場さんこちらに来る時眼鏡かけてました?えっ?あ…あ…。
彼女目が悪かった…?さあ…。
ないない尽くしか。
高級住宅街で豪邸を構える商社の重役とお姫様みたいに世間知らずの女房。
長女は一流大学出の一流企業。
下の娘はお嬢様学校でテニスを嗜んでいらっしゃる。
事件の芽なんてないですよ。
ま愛人がいたとも思えませんね。
なに不自由ない生活だったんです。
どこにそんな必要があります?ねえほんとに…。
主任聞いてます?ん?あ…はい。
どうも…。
お線香をあげさせていただきたいと思いまして…。
そうですか…どうぞ。
刑事さん…どうかしましたか?いや…じゃ失礼します。
(お鈴の音)ほぅ…京都がお好きなんですか?家内の里が京都だったもので…。
あぁそうなんですか。
もう両親はいないんですが折をみては私たち…。
あの日奥さんはお出かけのご予定でしたか?いえそんな事は聞いていませんでしたが…。
しかし拝見すると家の中では眼鏡をしておられる。
ところが外で撮ったものには眼鏡がない。
たしかコンタクトでしたよね?はい。
ご遺体もコンタクトでした。
ご主人も覚えておいででしょう?…そう言われましても。
お前は上にいってなさい。
でも…。
美幸!母は家でも時々コンタクトをしてました。
写真にないのはたまたまだと思います。
ああそうでしたか…。
すみませんトイレを…。
あちょっといいかな?君が帰ってきた時お父さんはもう家に戻ってたんだよね?
(美幸)…はい。
お父さんの靴揃えたの君…?え?そうじゃない…?あそう…。
靴…?はい。
几帳面とは思えない陽助の靴がきちんと揃えられていたんです。
そんな事で亭主を疑えと…?ですが陽助が帰った時まだ妙子は生きていたと考えられないでしょうか。
靴を揃えたのは妙子…あるいはもう1人…いたのかもしれない。
それだけじゃなく妙子は外出しようとしてたフシも…。
遺体にはコンタクトが…。
亭主の報告書です。
的場陽助氏は大学を出ていないにもかかわらず山王トレーディングの常務に上り詰めた指折りのたたき上げです。
性格は明朗快活温厚で人当たりもいい。
家庭も問題はない。
しかし…。
もういいだろ。
どこつっついても亭主には動機も証拠もないんだ。
捜査を混乱させる憶測は慎んでくれよ。
かき回す暇があったら男の足取り追ってくれよ。
手詰まりなんだ。
近松主任お電話です。
黒木さんという方…。
黒木?…ほぅ。
相変わらずだねあの人も…。
もしもし…ん…。
村越さん…まさかあの黒木隆三じゃないでしょうね?ああそこなら分かる。
じゃ…。
村さんちょっと出てきます。
あぁ。
ごぶさたしてます。
近くに来たので久しぶりにお顔を見たくなって。
コーヒー。
はい。
顔…変わったな。
探偵なんて仕事は人のあらを探すような商売ですから。
世間の垢が染みついたんでしょう。
沙織ちゃんの写真まだ持ち歩いてるのか?敵わないなあ近さんには…。
今年で中学です。
早いもんです。
会ってるのかい?いやぁ別れた女房がいい顔しなくて…。
すまない…。
私は今でも君は潔白だと思っている。
内部告発を抑えつけられたうえ身に覚えのない汚名を着せられた。
なのに何もしてやれなかった。
このとおりだ。
よしてください。
昔の恨みを言うため呼んだんじゃないです。
手を上げてください。
大変みたいじゃないですか…?例の重役夫人殺し…どこまで進んでるんです?ホシの目星はついたんですか?やっぱりよくある愛人絡みのヤマですかねえ?そんな事洩らせるはずがないのは百も承知のうえだろう。
なぜ気になる?妙だと思ったよ。
まるで音沙汰なかった君が…。
何つかんでるんだ?近松さん…。
会えて…うれしかったです。
(加奈)どう?まだ戻ってくる気には…?そうか…無理ないわよね。
え…?なんだかとっても不思議な気がしたの。
何が…?お母さんが亡くなられた日偶然美幸のお父さん見かけたの。
お父さん見たって…何時頃?2時前ぐらい…。
私あの日部活お休みしてたから。
駅前に停めてあった車に乗るところだった。
駅前?それは人違いだわ。
だってその時間は新宿か三鷹にいたはずだもの。
叔母と一緒に。
ううん間違いないわ。
あれは美幸のお父さんよ。
えっ?
(ノック)なんだいたのか…。
ただいま。
「おかえり」ぐらい言えないのか。
おかえりなさい…。
典子叔母さんが来てくれてる。
享子が帰ってきたらみんなで食事しよう。
いいね?その事誰かに言った…?ううん…。
その子の勘違いじゃないの?それよりご飯にしようね。
お腹空いちゃった〜。
(典子)みんなのお口に合うかどうか…。
いやぁおいしい。
ほんとに助かります。
珍しいわね「おいしい」だなんて。
いつも黙って食べてるだけで味なんかどうでも…と思ってた。
いつ以来かな?お父さんがそこに座ってるのを見るの。
私を責めてるつもりなのか?あ…いやごめんなさい。
叔母さん…お母さんが死んだ日新宿に行ってたんでしょう?そうよ…。
何買ってたの?美幸よしなさい!どうして?聞いてみただけよ。
よしなさい。
ケンカなんかしたら母さんが悲しむだろう。
お父さん…。
何だ…?私に何か隠してる事ない…?お母さん死んでからみんな何か変だよ!何か私に隠してない?美幸…。
お姉ちゃん本当の事言って。
あぁバカね何隠してるって!?叔母さん!いいかげんにしなさい。
今は食事中だろう。
美幸戻りなさい!美幸ちゃん。
美幸ちゃん…。
ちょっといい?美幸ちゃん。
ごめんなさい。
独りになりたいの…。
美幸ちゃん誤解してるのよ。
誰も隠し事などしてないのよ。
みんなねあなたが心配なの。
ご飯そのままにしておくからいつでも下りてきてね?お母さん…何があったの…?昨日久しぶりに幸江さんから電話があったの。
幸江さんて?熊谷にいる従姉妹の…。
あぁ子供の頃仲よしだったという。
それがねなんだかご主人とよくないみたいで…。
それで頭を冷やしたいからって…家に泊めてもいいですか?そりゃかまわないけどさ。
彼女はいい家に嫁いでたんじゃないの?そうお医者さま。
それで何が不満だ?私もそう思うけどね。
他人からはなに不自由ない生活にみえても本人にはいろいろあるんでは…?いろいろって何だい?たとえばもっと自由になりたいとか。
自由…?でも私はやっぱり羨ましいですけどね。
あ…そうすか…。
会社を出て…三鷹まで送って行き…国立に出てから自宅…。
飯はどこで食ったかは分からん…。
やっぱりここだったか?立ち会ってくれ。
ガイ者の娘さんが見えてる。
母の遺品を整理してたらバッグの中にそれが…。
亡くなったお母さんが通ってらしたところね?はい。
お母さん「人形作り」でしたよね?それがなぜ油絵の先生の…?いやですから少し気になって…。
もしや何かのお役に立つかもと思ったもので…。
(中野)どうもお待たせを…。
少し急ぎの作品がありまして。
(安田)お忙しいところを…。
実はこの名刺の事で伺いました。
この名刺が何か…?カルチャーセンターに通ってた的場妙子さんが持ってまして…。
的場さん?ええ。
あっ…お気の毒でしたねぇ。
いや彼女とは一面識もありません。
彼女は「人形」でしたよねえ。
本当に一面識もないですか?ええ。
そうですか。
その方がこの名刺を…?
(安田)中野は養子で女房の父親が銀座で画廊を経営してましてね。
どうやって口説いたのかこんな小生意気な家に住みやがって。
的場の家に行ってくれ。
え?カルチャーセンターでは…?お前も見ただろ?タンスの中。
あれは本人がしまったとは思えん。
コンタクトの事もそうだ。
妙子はどこかへ出かけようとしてたんだ。
また内部犯行説ですか。
考えすぎですよ。
ちょっとどこ行くんですか?電車で行く。
家内に男…?はあ。
そのような素振りがなかったか…?いくらなんでも失礼じゃないですか!この27年…夫婦で支え合って生きてきたんです。
なんの不自由な思いもさせてこなかった。
この庭にしても私が設計図を引いて家内がそのとおり丹精込めて育ててくれたんです。
家内は心から私に尽くしてくれていたんです。
男なんているはずがない!帰ってください!お母さんに男の人なんて…いるはずないじゃないですか!帰ってください。
お願いします。
彼女とは一面識もありません。
その方がこの名刺を…?やっぱりよくある愛人絡みのヤマですかねえ…だめです。
まるで当たりがきません。
あ〜あ。
ほんとに男なんていたんですかねえ?いや…でもそうか。
探偵が調べに来るくらいだもんなぁ。
何…?あいえね。
興信所の男が何度か的場妙子の周辺を探りに来てるんですよ。
という事はですよ…。
(ノック)
(ノック)黒木…!〜答えちゃくれんか…黒木…。
(大原佐和子)近松さん…。
(大原沙織)ママ…。
泣いてもいい?パパ…パパ…。
(泣きじゃくる声)〜
(佐和子)もっと会わせてあげればよかった…。
黒木のためじゃなく…あの子のために…。
現役の頃…近松さんの話ばかりしていました。
「いつかきっと追いついてみせる」ってそれが口癖でした。
5年前のあの事もそんな気負いがあったのかもしれません。
父親の嫌なところばかり似てきて…。
正義感が強すぎて困っています。
近松さん!何でしょう?私がいけなかったんでしょうか?
(喫茶店のママ)黒木さんなら時々おみえになって商談されてます。
最近どんな相手と会ってたか覚えてませんか?ああそういえば昨日も来てましたよ。
女の子と会ってました。
たしか…テニスラケットを持った女子高生でしたけどね…。
ありがとうございました。
黒木という探偵を知っているね?いいえ…。
何を話したのか教えてくれないかな。
連絡先はなにで知ったのかな?もしかしてお父さんの手帳にでも?16歳だったね?じゃあもう分かると思うけどお父さんがお母さんと男の人との事で調べてもらっていた…そういう事はもう…。
やめてください!聞きたくありません!もういいですか?黒木さんは死んだよ。
殺されたんだ。
ええっ!?それでもまだ話してもらえないだろうか?この男なんですがね…。
間違いありません。
で何をしに?的場さんの事を調べに…。
どうもありがとう。
すみません…たしか的場さんと同じ教室の…。
何かご存じなんですね?的場さんを中野先生に…。
(古川昌子)ドールハウスが終わったら何を習おうかって相談されて…。
それで油絵をお勧めしたんです。
でも…それから何もおっしゃらなかったので油絵はよしたのかな…って思ってたんですけど…。
的場さんが亡くなられた日…実は電話があったんです。
電話?・はい古川です。
・
(妙子)的場です的場妙子です。
ああどうも…。
・中野先生に伝えてほしい事があるんです。
はい?・もう会わないカルチャーセンターにも行かない…って。
どういうことですか?・中野さんとはもう終わりにしたいんです。
・そう伝えてください。
お願いします《中野先生とそんな関係になっていたなんて…》その電話があったのは何時頃ですか?え?あ…たしか2時半を少し回った頃だったと思います。
ゴタゴタに巻き込まれそうな気がしてつい言いそびれてしまって…。
申し訳ありませんでした。
(村越)おお近さんご苦労さん。
お手柄だったな。
長谷川美代子の証言が取れたよ。
目撃した例の男中野に間違いないと…。
これから任意で引っ張る。
黒木のこと聞きました。
あなたが第1発見者だそうで…。
警察を辞めた人間に何の用が…?いや…ただ旧交を温めに行っただけで…。
旧交ねぇ…。
まとにかくご苦労さん。
(山形)中野さん…いいかげんに認めたらどうです?あなたを見たという証言もあるんですよ。
(村越)的場妙子の自宅からあんたの指紋も出てるんだよ。
(ノック)ちょっといいですか?
(囁く声)近さん…あんた隠してたな?黒木の爪から出た繊維片が中野の上着と一致したよ。
えっ!?あの男が黒木を…?事務所から指紋も出た。
近さん…黒木の所に行ったのは事件絡みではないと言ったはずだ。
このヤマに黒木が絡んでいたのを知ってたんだな!?近松さん…処分は追って知らせます。
そのつもりで!俺たちはよそのヤマを解決したってことだ。
(中野)黒木は私を脅したんです。
怖かったんです。
妙子の事が明るみに出たら私はもう…。
そう思って…。
的場妙子との関係を認めるんだな?ええ。
黒木:的場妙子を殺したのは…お前か?ち違う!私じゃない。
私には妻も子もいる。
この女とはただの遊びのつもりだったんだ!遊びか…。
その遊びのせいで女の娘が人生を狂わせたらどうなる!お前がこのことにどう責任を取るかそいつを見届けるまでこの写真のネガは俺が持ってる。
そいつを忘れるな!金か?いくら払えばいい?いくらなら写真を返してくれる!?お帰りください。
返してくれ頼む!写真のネガを返してくれ!帰れ!〜うわっ!!
(揉み合う声)殺すつもりはなかった。
写真を取り戻そうとただその一心で!的場妙子もお前がやったんだな?違います!嘘をつくな!お前がやったんだろう?違う!たしかに…妙子を持て余していたのは事実です。
今も言ったとおり私はほんの遊びのつもりだった。
でも妙子は…本気でした。
妙子:主人と…別れます。
もう1度…自分の人生を生き直してみたいんです。
このまま終わりたくないんです。
いやちょちょっと待ちなさい…。
もう決めたんです。
私には…それしかないんです
(中野)何度もなだめました。
そのうち…黙って家を出るから一緒に来てくれ…そんな事まで言い出して…。
2〜3日の旅行のつもりで私はその申し出に応じました。
旅に出て頭を冷やせば妙子も納得してくれるだろう…そう思って…。
それがあの日のことだったんです。
(中野)あの日は駅前の喫茶店で2時に待ち合わせてました。
そこで落ち合って箱根あたりに行くつもりだったんです。
ところが彼女はなかなか現れなかった。
(浅井)それで家まで押しかけた…。
いや違うんです…。
それは…彼女に呼ばれたからなんです。
はあ?店に妙子から電話がかかってきたんです。
まだ時間がかかるから家に来て待っててくれって…。
妙子さん…中野です。
妙子さん…〜百歩譲ってあなたの言うことを信じたとして妙子の電話は最後の最後であなたの本心に気づいたからじゃ…。
えっ!?2人の事を奥さんに打ち明けるそんな電話じゃなかったのか?それであなたは家まで押しかけたが彼女の決心は固かった。
それで逆上してあんたは家にあった包丁で刺した。
ち違う!あの探偵のことは認めます。
でも妙子を殺したのは私じゃない本当です!中野は認めたんですか?まだだそうだ。
まだ腑に落ちんのか?あ自分は…。
どうにも気になるんです。
娘の享子はなぜいきなり中野の名刺を持って現れたのか…。
それに中野が妙子と待ち合わせていたシナモンという喫茶店のマスターの言葉がどうしても…。
取り乱した様子ではなくすぐに行くと言って電話を切って出て行きましたですから妙子が脅しめいた話を切り出したとは思えないんです。
それと今にして思えば…中野が目撃されたタイミングがよすぎるというのも引っ掛かりますよね…。
おい近さん…お向かいに電話したのは亭主なんだ。
お前さんの言ってることは亭主を疑うことに…。
中野のことを隠していたのが解せない。
黒木に妙子の調査を依頼したのは的場陽助以外に考えられない。
陽助は相手が中野だということを知っていたはずなんです。
それを黒木も疑問に思って私に探りを入れに来たんですよ。
コンタクト…下着だけの遺体…不自然にしまわれたタンスの服…。
中野の言うとおり妙子は家を出るつもりだった…。
それを陽助が気づいて…。
もうよせ。
近さんが言ってるのはただの推論だ。
中野はもう送検されたんだ。
あとは検察に任せるしかない。
村さんやっぱり…。
とにかく最後の報告に行ってくれ。
な頼んだぞ。
〜これはお返ししておきます。
これで家内も…少しは報われるでしょう。
しかしまさか…こんな事していたとは…。
本当にご存じなかった?どういう意味ですか?はい…黒木という探偵は奥さんの素行調査をしていました。
相手が中野だということもつかんでいた。
依頼したのはご家族以外考えられないんですがね。
心外ですね。
この前も言ったはずです…。
私は…家内を信じていたんです。
中野という人が調べさせたんだと思います。
姉と別れたくて…。
姉の弱みを握りたくて…。
そんな気がします。
母は何も出来ない人でした。
私たちを育てて家に閉じこもるだけで…。
あの教室は母にとっては初めて触れた外の世界だったんです。
だから…。
あんな事になるんだったらあの時反対しておけばよかった…。
享子…もういい。
刑事さんこのことは美幸にはしばらく伏せておいてもらえないでしょうか?あの子は母親が大好きでしたし人一倍傷つきやすい性格なんです。
母親に男がいたと知ったらどれだけ傷つくか…。
それを思うと…。
このとおりです。
(典子)私からもお願いいたします。
そんな事隠し通せるはずないじゃない!学校じゃみんなその話ばっかりしてるのよ!私に聞こえてるの分かっててわざと大きな声で…。
美幸…。
でも私はじっと黙って聞いてる…。
だって…お母さんがあんな事したの…もしかしたら…。
美幸ちゃん待って!あなたのお母さんは最後の最後に心を入れ替えたの!あなたたちを捨てられなかったの!別れようとしたのよ。
それを相手の人が…。
もういい!もう誰も信じない!美幸ちゃん!それじゃあ私もこれで…。
あ…忘れてました。
奥さんが亡くなられた日どちらで昼食を?あいや…最後に報告書を書かなきゃいけないものでして。
覚えてませんね。
ここに帰って来たら家内があの状態だったんです。
前後の記憶がないんですよ!ああ…。
ああ…そうですか…。
顔がね…見えないんです。
(典子)え?亡くなったお姉さんがどんな顔をしていたのか…何を考えていたのかまるで見えないんです。
特に不満を漏らしていた様子もないし…ならばどうしてあんな男と…。
ごく普通の人でした。
は…?私にとってはごく普通の姉でした。
普通に優しくて普通に冷たくてどこにでもいるごく普通の姉でした。
だから…普通に寂しかったんだと思います。
実をいうとですね…ご主人のこともご家族のことも何かお互い腫れ物に触っているような感じがしてしようがない。
まともにぶつかり合ったことさえないんじゃないか…。
そんな気がしてならないんです。
もう…大丈夫だと思います。
は?美幸ちゃんが流した涙のぶんだけひとつになってくれると思います。
姉はそのために死んだようなものですから…。
〜
(村越)おい安田…近さん見なかったか?
(安田)西新宿にご出張です。
(村越)なに〜?
(安田)亭主のアリバイまだこだわってるようです。
(木下)あの日は1時半頃電話がかかってきて調子が悪いから早退する…とそれだけでした。
これまでにもそういうことは?いえ初めてですよ。
何しろ精力的な人で俺についてこい…そうやって常務までたたき上げてきた方ですからね。
ご家族の事は何かおっしゃっていませんでしたか?いいえ特には…。
家でも同じようだったんじゃ…。
じゃ〜ん!
(社員)うお〜!
(写真を褒めそやす声)
(木下)ただ…下の娘さんの話になると途端にだらしなくて。
近松さん…お歳は?え?あぁ55歳ですが…。
3つ上ですか…失礼ですが大学は?いえ…。
あぁ私と同じだ。
だったら少しは分かってくれるでしょう。
私らは中途半端な世代でねぇ。
学生運動にも乗り遅れましたしまして私なんか貧しくて大学にも行けないもんだから何を脛かじりが革命ごっこなんかやってるんだ…って白い目で見てましたよ。
だから…働くしかなかった…。
ここの…子会社に就職したんですけどね…。
中近東あたりの砂漠をそれこそ地べたを這いずり回りましたよ。
そんな頃…妙子と会ったんです。
お恥ずかしい話…一目惚れしましてね。
そのあとしばらくしてこの親会社に引き上げられたんです。
もう有頂天でねぇ…。
胸を張って京都の実家に妙子をもらいに行きました。
けど…結婚した後も仕事仕事で留守がちでね。
それじゃあ娘さんたちともあまり…?享子の時も美幸の時も生まれた時は日本にいませんでした。
美幸なんか初めて見たのが3歳の時でした。
それも病気で危ないという知らせを受けてね…。
病気ですか?大病を患いましてね。
でも…帰って来ても何もしてやれることがない。
初めて見た娘が生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでる…。
泣くしかなかった…。
泣いて泣いて…三日三晩一睡もしないで泣き続けました。
お父さんの涙が病気を洗い流したんだろうって医者に笑われましたよ。
そうでしたか…。
美幸のためだったら私は何だってできます。
何だってやりますよ。
刑事さん…。
何を疑ってるのか知りませんが…。
私は…家族を愛しているんです。
それだけは肝に銘じておいてください。
〜この人なんですけどこちらへよく来ませんか?ちょっと見覚えないですね。
そうですかどうも…。
〜《どこのそば屋だ…?それともやっぱり嘘なのか?》〜ええ的場さんならよく存じ上げてますよ。
日替わりの定食をもうそれは楽しみにしてくれましてねぇ。
毎日のように来てくれてたんですよ。
あの…来てくれてた…というのは?ええ…もう半月ほど前に閉めたんです。
これまで何とかやってきましたがめっきり客足が減ってしまって。
それは…いつのことですか?9月の26日です。
その日的場さんは?いいえ…最後でしたからどうしても来ていただきたかったんですが前の日にお別れを言いにみえてくださっただけで…。
明日はどうしても来られないって…。
そんな事おっしゃってました。
陽助のアリバイには根拠がない。
いやもともとアリバイなんてないんです。
13時に会社を出た陽助は飯も食わずに家に帰った。
そうなると死亡推定時刻と合うんですよ。
大塚典子の証言はどうなるんだ?妙子は典子の実の姉なんだよ。
的場が妙子を殺したとして典子がなぜ的場を庇うんだよ。
近さんらしくないぞ。
そこまで人を疑ってどうする?今日はいいから帰って少し休めな…。
〜お母さんがあんな事したの…もしかしたら…。
美幸ちゃんが流した涙のぶんだけひとつになってくれると思います。
姉はそのために死んだようなものですから…もう1本つけて。
はいよ。
いやいいおあいそして。
・
(女の声)もしもし。
俺だ今から帰る。
・あちょっとお待ちください。
・
(春子)もしもし代わりました。
今の…誰だ?・幸江さんよ。
ほら従姉妹の…。
今日東京に着いたの。
そうか…とにかく今から帰る。
あまいったまいった。
ただいま。
お帰りなさい。
事件終わったの?うん?まあな…。
(吉見幸江)ごぶさたしています。
勝手にお邪魔して…。
いえ…さっきはどうも失礼。
いいえ。
昔からよく間違えられたのよ。
姉妹みたいだって…。
姉妹?だって似てないだろ?でも電話だとそっくりみたいなんですよ。
うちの父親なんて何度聞いても同じ声に聞こえるって。
うちの父親も同じこと言ってたわ。
《姉妹…。
同じ声…。
電話の声…。
妙子の電話…》あなた?どうかしたんですか?そうだったのか…。
〜大塚さん男の方は?
(池上愛子)いないと思います。
男の人に臆病なところがあるから。
1度話してくれたことがあって子供の頃お父さんが自殺したとか…。
えっ!?自殺…
(柏木真理子)浮気です。
浮気?お父さんが浮気したあげくに自殺未遂しはって…。
いつの事ですか?高校の頃でしたからもう20年も前になりますかねぇ…。
それからはあんまり口もきかへんようなってしもうて…。
大人は汚い…それを隠そうとしたお姉ちゃんのことも許せへん…って。
隠そうとした?お姉さんが?そのあと典子ちゃん高校を出てすぐ東京へ行かはったんです。
やっぱりお父さんの事が傷になってんのやなあ…って思いました。
〜
(大塚久雄)妙ちゃんと典ちゃんと大きな娘が2人もおって同じ会社の若い女とできてしもうたんですわ兄貴…。
「離婚する…家を出る」って言うてたんやけどみんなから反対されて…。
それで相手の女も身を引いてやっとひと騒動おさまったと思うたその矢先に…包丁で首かき切って…。
急所が外れてどうにか助かったんやけどなあ…。
首を…包丁で…。
あんなおとなしそうな兄貴が…。
だけど…よう考えてみたらこうと思ったら一途なところがあったし…。
典子さんはその事を?そらみんなして隠そうとしましたがな…。
妙ちゃんの旦那ちゅうんが特になあ…。
妙子さんのご主人が…。
典ちゃんは妙ちゃんに輪かけて傷つきやすい子やったさかい…。
そやけどやっぱり隠し通せるもんでもないし…。
見てるのがかわいそうなぐらい心が壊れてましたわ…。
妙ちゃん…娘が2人いてるって聞いてるけどその子らは大丈夫なんかね?えっ?えぇまあなんとか…。
ほうか…。
妙ちゃんが死んだんもやっぱり男絡みか?どうしてそう思うんですか?あの子はおとなしそうやけど父親とよう似たとこがあったからな…。
もしかしたら…と思うただけや。
もしもしああ俺だ。
・
(安田)主任今どこですか!?何かあったのか?・
(安田)的場妙子殺しで中野の不起訴処分が決まりました。
それから的場美幸が行方不明です。
昨日の夕方「これから家出する」と東京駅から友達に電話があってこっちは大騒ぎですよ。
もしもし…聞いてるんですか!?〜〜刑事さん…。
どうしたのかな?この世の終わりみたいな顔をして…。
生きていればね…君と同じ歳だったよ。
君と同じように感じやすい少年になっていたかもしれない。
刑事さんの?うん。
5歳の時死なせてしまってね。
(吐息)できるものなら代わってやりたかった。
君のお母さんも苦しんだに違いない。
簡単に子供を捨てられる親なんてどこにもいないからね。
この間何か言いかけたよね。
できたら聞かせてくれないか…。
私のせいなんです。
お母さんがあんなことしたの全部私のせいなんです。
お洗濯物は?出すものな〜い?ね〜お紅茶冷めるわよ。
美幸ちゃん…。
もういいかげんにしてよっ。
私はお母さんの人形じゃないの。
おままごとの相手じゃないの。
いつまでも子供みたいにもううんざり。
どうしちゃったの?まだ分からないの?いいかげん子離れしてよ。
私のことほっといて。
お願いだからほかの楽しみ見つけてよっ
(美幸)どうかしてたんです私…。
それからあんまり話もできなくなって。
いきなりカルチャーセンターに行くって言いだして…。
だから…。
お母さんがあんなことになったの全部私のせいなんです。
黒木さんに調べてもらったんです。
みんなが私に何か隠してるみたいで…。
母が死んだ日父を見たっていう友達もいたし。
それは何時頃かな?2時前に駅前で1人で車に乗り込むのを見たって。
姉に話しても相手にしてくれなくて。
それで…。
納得できません。
どうして典子叔母さんにアリバイを頼む必要があるんです?取り乱さないで聞いてほしい。
お母さんカルチャーセンターの先生と…愛し合っていた。
そのことはお父さんも知っている。
お父さんはあの日相手と話をつけるためにカルチャーセンターに行ったんだよ。
でも会えなかった。
それであきらめて家へ帰って…お母さんを。
でもそのことは言えなかった。
そこに行ったことが分かればお母さんのことも言わなきゃならなくなる。
それだけはどうしてもできなかったんだ。
君のためだよ。
君が傷つくのを恐れたんだ。
もし私が君の父親でもおそらく同じことをしたと思うそのあくる日黒木さんが殺されたって聞いて…。
もしかしたら母に何か関係してるんじゃないかって…。
そう思うと…。
私知りたいんですっ。
母に何があったのか…。
母の気持を全部知りたいんです。
それで謝りたいんです。
〜〜でも何も分からなかった。
こんな所に来ても〜なんにも見えなかった。
〜〜美幸君…。
〜君は本当は心の強い〜人間だと思う。
〜人を許す強さを持っている〜人間だと思う。
〜〜人を…許す…?〜だからこれだけは〜覚えておいてほしい。
どんなことがあってもお母さんはすべて君を愛してのことだ。
〜お父さんだって〜きっと同じだ。
〜それだけは間違いない。
〜〜一緒に行こうか…?〜ううん…大丈夫です。
〜ありがとうございました。
〜〜そう…じゃあ。
〜はい…はい…では。
お〜近さんご苦労さん。
よく見つけたな〜。
聞いたか?中野の話…。
証拠不十分で立件できなかった。
いや…その前にかわいいお客さん来てるぞ。
(沙織)パパの荷物を片づけていたら出てきたんです。
大事なものかもしれないと思って。
沙織ちゃん。
はい…。
お父さんのこと誇りに思ってほしい。
君のお父さんは立派な人だった。
いろいろ言う人がいるかもしれない。
けれどお父さんは間違ったことは何ひとつしていないっ。
最後までまっすぐな人だった。
君もこのまま前を向いて歩いて行ってほしい。
亡くなったお父さんのためにも…。
(美幸)お母さんは相手の人に殺されたんじゃなかったの?新聞でみたの。
中野って人じゃないって知ってたんでしょう?どうして隠してたの?何で黙ってるの?お母さんがしたことも知ってたんでしょ?お父さんいつだってそうじゃない…。
だからこんなことになったんじゃないっ。
どういう意味だ…?自分でも分かってるでしょう?私たち互いに向き合って話し合ったこと一度もないじゃないっ。
ね…お姉ちゃん言って。
私たちも知らないのよ。
本当よ。
叔母さん…お願い。
もうこれ以上は隠し事しないで。
どうして黙っているの?私もうそんな子供じゃないの。
みんなが思ってるほど弱くないのよっ。
まさか…まさかお父さん?美幸何言いだすのっ。
お姉ちゃん…ねそうなの?美幸違うっ。
違うっ。
いやっ。
そんなの嫌〜っ。
じゃあ陽助が中野の名前を伏せたのは…。
妻と中野との関係を知っていたことが分かれば真っ先に自分が疑われるそう思ったんでしょう。
妙子を殺したのは亭主の陽助です。
中野が言ったとおり妙子は家を出ようとしていた。
それを陽助に知られ。
村さんお願いです。
もう一度だけ洗わせてください。
電話は?妙子が古川昌子にかけた電話は?妹の典子がかけた…私はそう睨んでいます。
近さん何言いだすんだ…。
典子は昔の自分を美幸に重ね合わせていたんです。
美幸にだけはあの時の惨めな思いをさせたくなかった。
それで陽助に協力したんです。
シナモンにかかってきた電話も典子です。
おそらく黒木が家出の計画を知って陽助に伝えた。
それを…いやいやそれだけでも最後に確かめたいんですっ。
分かった近さん。
責任は俺が持つ…。
〜妙子…〜結局何も言えなかったよ。
〜どうすれば〜美幸は…。
〜教えてくれないか…〜妙子…。
〜声…ですか?はい。
ぜひ確かめていただきたい声がありまして。
はい…お待ちください。
典子さんお電話です。
ありがとう。
もしもし代わりました。
大塚です。
・
(典子)もしもしどちら様…?〜〜どうですか?〜〜的場さんかと思いました。
〜
(ノック)美幸…開けてくれないっ?朝から何も食べてないじゃない。
体壊すわよ。
顔だけでも見せて…。
美幸…。
・はいもしもし。
叔母さん助けて。
私もうどうしたらいいか分からないの。
このままだと私たちバラバラになっちゃう…。
うん分かった。
享子ちゃんは何も心配することないのよ…ね。
じゃあね。
〜〜主任…。
〜〜主任…。
大塚典子が来ています。
〜話したいことがあるとか。
〜どうも…。
お話というのは…?申し訳ありませんでした。
私が姉を殺しました。
許せなかったんです。
昔私が父を憎んだように許せなかったんです。
だからどうしても引き止めなきゃって…。
これは先月姉から届いた手紙です。
「典子ちゃんへ。
お姉ちゃんある人と家を出ることにしました。
典子ちゃんにだけは知らせておこうと思って。
(妙子の声)お姉ちゃんその人を愛しています。
その人も私を…。
この1年あまりいろいろともがきました。
きっかけは美幸の言葉でした。
今のままだと何も変わらないということが分かったの…。
だからせめてこの家を出なければ…。
自分の足で歩き出さなければ…。
それが美幸の言葉に対する精一杯の答えだと思ったんです。
落ち着いたらお手紙を書きます。
その時は遠くの町で1人で暮らしているかもしれませんね」姉は気がついていたんです。
中野の本心に。
それでも家を出て行こうとしていました。
そんな姉を私は裏切ってしまったんです。
お姉ちゃん…食べないの?主人に頼まれたのね?何が?お姉ちゃん…。
ちょっと待って。
美幸ちゃんはどうなるの?家を出たらあの子私みたいにこの事を引きずっていくのよっ。
はなしてっ。
開けてっ。
お姉ちゃん…目覚まして…。
本当は分かっているんでしょう?中野って人は…。
お姉ちゃん…。
あんな惨めな思い美幸ちゃんにさせたくないのっ。
間違ってる〜っ?
(ドアが開く音)お姉ちゃん…。
お姉ちゃん…本当にそれでいいの?妙子…。
どこへ行くんだ…。
待ちなさいっ。
はなしてください。
行かせてくださいっ。
お願い。
私は私の人生を生きたいんですっ。
俺の人生…娘たちの人生はどうなる?そうやって私を籠の中に閉じ込めてきたっ。
でもこれ以上あなたの人形になりたくないんです。
これ以上無駄に生きたくないんです。
無駄…?何だっその言い方っ。
無駄とは何だっ。
死に物狂いで働いてやっと築き上げたものを!無駄とは何だっ。
(2時の時報)〜〜お姉ちゃんっ。
〜〜来ないでっ。
〜止めないで…。
〜馬鹿な真似はよせっ。
行かせて〜っ。
〜お願いだから〜っ申し訳ありませんでした。
その後あなたはお姉さんの荷物を片づけ服を脱がせ最後の最後に改心して家族のもとに戻った。
そこで中野に殺された。
そういう状況を作ろうとしたんですね?古川昌子さんとシナモンで待っていた中野に電話をかけたのもあなたですか?お義兄さんの靴を揃えたのもあなたですね?分からないことがあります。
なぜ今になって自首されたんでしょうか?そのまま隠し通せたはずです。
自首しようと思えばもっと早くできた。
なぜ今…?それは…隠し通せないって思ったからです。
やっと謎が解けました。
お姉さんの手にはいくつも傷があったんですがあれはあなたと揉み合った末のものだったんですね…。
あの…何か?お姉さんの手に傷は1つもなかったんです。
このままでいいんですか?典子さんを姉殺しの犯人にしたままであなたは口を噤み続けるおつもりですか?典子さん…私に言ったことがあります。
美幸君が流した涙のぶんあなたの家はひとつにまとまってくれる。
妙子さんはそのために死んだようなものだと…。
彼女はお姉さんの遺志を継いで壊れかけたあなたの家族を救うために罪を被っている。
そうとしか思えないんです。
27年夫婦で支え合って生きてきたと言われました。
その言葉に嘘はないと私は思いたい。
その奥さんのためにももう本当のことを言うべきじゃあないでしょうか。
的場さん…。
近松さん…。
本当のことをお話します。
家内は…。
自殺したんです。
自分で…胸を突いたんです。
(2時の時報)〜
(叫び声と倒れる音)〜〜妙子っ!?〜奥さんの手に傷がなかったのはそういうことだったんですか。
〜黒木さんから家内に男がいると聞いた時は驚きました。
〜〜何が不満なのか…〜まるで分からなかった。
〜しかし…それを〜切り出す勇気はなかった。
〜家内が…家出の決意を〜固めた時もそうでした。
〜ただ…嵐が通り過ぎるのを〜待とうとしただけで…。
〜止めなければ〜よかったんです。
〜〜止めさえしなければ…。
〜ドールハウスを作っていたのは〜あなたでしたか…。
〜〜ドールハウス?家という形にこだわり〜人形だけを押し込め…。
そんな家でみんなが幸せに〜なると思っていたのですか?あなたは正面から家族と裸でぶつかりあうべきだった。
〜そうすれば〜こんなことには…。
美幸君のためなら何でもできるとあなたは言った。
〜そういう気持があるなら〜すべてを話すべきでしたよ。
隠し通すことであなたは〜美幸君を守ったと思った…。
〜けど私にはそう思えない。
何もかも打ち明けてから美幸君を守ってやるべきでした。
〜〜〜
(美幸)お父さん…。
〜美幸…。
お父さん…〜本当なの?〜お母さん私を置いて〜自分で…?〜〜私…捨てられたの?だからみんなそんな思いを美幸にさせたくなかったの。
〜典子叔母さんも美幸のことを思って自首したの。
〜母さんが自殺したなんて私だって信じたくないっ。
〜ひょっとして〜誰かに殺されたのならそのほうが〜美幸の傷が軽くなる…。
〜私たち家族も壊れずにすむそう思って…。
〜〜バカッ!〜お父さんのバカ。
どうして私に…ねっ?〜ねっどうして…。
〜バカ〜ッ。
〜美幸はかけがえのない存在なんです。
私は…これからどうやって美幸と…。
あなたは殺人罪で罪に問われることはないでしょう。
しかし父親として夫として間違いなく罪を犯しました。
その重さをあなた自身がしっかりと受け止めてください。
〜2014/11/22(土) 14:00〜15:55
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商社重役夫人刺殺事件!失意の父に疑惑の1時間…。
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番組内容
東京・多摩の高級住宅街の一軒家で、主婦・的場妙子の刺殺体が発見された。死体は下着姿で胸を刺されており、部屋のごみ箱からは指紋の拭き取られた包丁が見つかる。警察の現場検証では暴行の跡はなく、金品も盗まれた様子はない。第一発見者は被害者の夫・的場陽助。陽助は、会社で昼食をとった後気分が悪くなり、午後1時半に西新宿にある会社を早退していた。
番組内容続き
車で帰宅途中、偶然、妙子の妹・典子と新宿で会い、三鷹の自宅まで典子を送ってから3時頃帰宅し、妻の死体を発見したという。現場に到着した多摩南署のベテラン刑事・近松丙吉は、殺された妙子のタンスを観察し、下着類が洋服と混ざって無造作に押し込まれていることに気付く…。
出演者
伊東四朗、角野卓造、山口いづみ、佐藤B作、美保純 ほか
原作脚本
【原作】東野圭吾
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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