北海道のある一戸建て住宅。
家のあるじは去年6月に亡くなりました。
一応見てみて。
残されたのは大量の遺品。
離れて暮らす娘は1年以上手をつけられずにいました。
家族に代わって遺品を片づける人がいます。
捨てられてしまうものの中から大切な思い出につながる品を見つけ出します。
亡くなった父が大事に残していた写真。
やだやだやだやだ…恥ずかしい。
退職する時職場の同僚から贈られた感謝の言葉。
遺品から父親が家族のために必死に生きた時代がよみがえります。
そしてようやく遺族に本当の別れが訪れました。
核家族化そして高齢化が進む日本。
今遺品を整理できずにいる家族が増えています。
遺族に寄り添い故人の生きた証しを届ける。
遺品整理士の日々を追いました。
北海道千歳市。
3年前ここに一つの協会が設立されました。
お電話ありがとうございます。
遺品整理士認定協会でございます。
全国で初めて遺品整理士の民間資格をつくった遺品整理士認定協会です。
通信講座で遺品の取り扱い方遺族への向き合い方などを教えています。
協会が北海道で立ち上がったのには理由があります。
それは全国平均よりも速いペースで進む核家族化と高齢化です。
北海道で子供と同居している65歳以上の高齢者の割合は全国平均を大きく下回る30.9%。
鹿児島大阪に次いで全国で3番目の低さです。
子供が進学や就職などで実家を離れ本州に移り住む事が多い北海道。
親が亡くなった時遺品の整理ができずに困る家族が増えています。
こうした状況を受け協会は家族に代わって遺品を整理する専門家の養成が必要だと考えました。
協会が認定した遺品整理士は6,000人に上ります。
大切なものと処分するものを仕分ける遺品の整理。
最近はゴミの分別が細かくなり遺族自身の手で行う事がより難しくなっています。
遺品整理士はゴミ処理やリサイクルの知識も生かして遺品を引き取ります。
その中で遺族にとって思い出につながる大切なものを見つけ出していくのです。
たとえ処分するものであっても手荒く扱う事はしません。
料金は一戸建ての家でおよそ30万円。
依頼は年々増えています。
ほんとありがとうございます。
うれしいです。
35万人が暮らす北海道第二の都市旭川市。
ここに一人で遺品整理の仕事を始めた男性がいます。
去年5月遺品整理士の資格を取得しました。
(鳴き声)この日は2年間放置された家の整理。
部屋には大量のゴミに加えペットの毛やフンが散乱。
異臭を放っていました。
たまらず外に出てしまいました。
木村さんは去年まで葬儀会社に勤めていました。
長年葬儀で多くの遺族と触れ合う中気付いた事がありました。
それは葬儀を終えて家に戻った遺族が大量の遺品の整理に困っていた事でした。
そんな時遺品整理の仕事を知りました。
2か月間通信講座で勉強し資格を取得。
葬儀会社を辞めて独立し60件近い遺品整理を行ってきました。
10月中旬。
木村さんに新たな遺品整理の依頼が舞い込みました。
向かったのは旭川近郊にある2階建ての一軒家。
依頼者は去年6月に85歳の父親を亡くした佐藤和子さんです。
和子さんは車で20分ほど離れた隣町に住んでいます。
しかし1年以上遺品の整理ができずにいました。
結婚して20年余り。
仕事で忙しい夫に自分の実家の遺品整理は頼みづらかったといいます。
子供は3人いますが全員北海道を離れ東京の学校に進学しています。
子供の学費などもあり費用はなるべく抑えたいという和子さん。
木村さんはこうしたケースが多いため依頼者の負担を少しでも減らす工夫をしています。
お邪魔します。
木村さんが呼んだのはリサイクル業者です。
どうもお世話になります。
どういったものを?使える電化製品や家具をリサイクルに回せばゴミを減らす事ができます。
更にリサイクルによる買い取り金額は遺品整理の費用から差し引きます。
ありがとうございました。
遺品の整理を決意した和子さん。
作業は3週間後に決まりました。
遺族に寄り添いながら遺品を整理したいと考えている木村さん。
その思いを強くした出来事がありました。
それは今年の夏誰にもみとられずに亡くなった人の遺品整理です。
(聞き手)これは今どういう状態なんですか?木村さんはこの時の遺品整理で遺族から深く感謝されました。
依頼したのは…旭川から50キロ離れた新十津川町で郵便局長をしています。
ただいま。
妻と2人暮らしの千葉さん。
亡くなったのは妻みゆきさんの兄でした。
アパートで病死しているところを発見されました。
遺品を整理した木村さんが見つけたものがあります。
高橋さんが乗っていた愛車のカギ。
そこにはさまざまな思い出が詰まっていました。
実の兄のように慕っていた2歳年上の高橋さん。
出会ったのは27年前でした。
当時高橋さんは北海道に工場を持つ大手自動車メーカーに勤めていました。
広大な北海道に造られたテストコース。
高橋さんはここで車の性能を試すテストドライバーをしていました。
あらゆる新車を運転し性能に詳しかった兄。
若かった千葉さんは車談義をするのが楽しみでした。
そのころ高橋さんが購入したのが自ら耐久テストに関わったこの車。
しかし高橋さんが勤めていた自動車メーカーは販売不振で人員削減に踏み切ります。
高橋さんは退職を余儀なくされ家族と連絡が途絶えがちになっていきます。
ここ数年は仕事に就かず愛車は去年4月に手放していました。
それでも車のカギだけは手放さなかった兄。
それを木村さんが遺品の中から見つけだしてくれたのです。
木村さんが見つけた兄の生きた証し。
家族の忘れかけていた思い出をよみがえらせました。
今木村さんのように通信講座で学び遺品整理士になる人が増えています。
ただ実際の仕事では孤独死の現場の清掃など経験のない事態に直面する事が少なくありません。
遺品整理士認定協会では定期的に講習会を開き実践的なノウハウと心構えを教えています。
過酷な現場の多い遺品整理士。
それでも遺族の役に立つ事にやりがいを感じています。
先月12日。
遺品整理士の木村庸平さんは3週間前に見積もりをした家に向かっていました。
父親の遺品に1年以上手をつけられなかった一人娘からの依頼。
木村さんは思い出の残る品を何か見つけてあげたいと意気込んでいました。
あ無理に積まんでもいいよ。
今回は知り合いの清掃会社から応援をもらい3日間かけて作業する事にしました。
遺品整理初日。
木村さんが取りかかったのは父親が使っていた部屋です。
まず取り出したのはスーツ。
小さな遺品も見逃しません。
机の上には町の歴史が記された本。
父親は町役場の職員でした。
もともと町の礎を築いた開拓者の2代目。
戦後の地域の発展を担ってきました。
書斎の引き出しからノートが出てきました。
挟まれていたのはページいっぱいの文章。
知り合いの葬儀で読み上げる弔辞でした。
きちょうめんな性格がうかがえます。
作業を始めて3時間。
部屋の奥から写真が出てきました。
(木村)ちゃんとそういう写真系はとってらっしゃった。
和子さんの成人式の写真。
一緒に結婚式の写真も出てきました。
父が大切に保管していた一人娘の晴れ姿。
父との日々がよみがえります。
子供の頃は近寄り難かった父。
和子さんが嫁ぐ日父が流した涙を思い出しました。
思いがけない写真との再会。
幸せだった父と娘の時間を思い出しました。
遺品整理2日目。
あっそうそうカーペットもね。
うん持ってって。
いい?父親の寝室の整理を始めた木村さん。
大切なものがまだ残っているはずだと感じていました。
まず出てきたのは飲みかけのウイスキーのボトル。
木村さんは押し入れの奥を更に探ります。
よいしょ。
しまってあった麻雀パイ。
木村さんはこの麻雀パイにも家族の思い出が刻まれているのではと感じました。
父親が駆け抜けた戦後の北海道。
国内最大のエネルギー資源だった石炭産業が活況を呈し戦後復興の原動力となった時代でした。
炭鉱に程近いこの一帯は全国有数の穀倉地帯でもありました。
町は活気にあふれ人口は今の3倍を誇っていました。
そして昭和47年父親は町の中心部にマイホームを建てました。
週末には役場の同僚を自宅に招いて麻雀をしていた父。
その光景を一人娘の和子さんはよく覚えています。
父親は麻雀大会の優勝トロフィーも大切に保管していました。
更に職場での父の姿が目に浮かぶものが見つかりました。
39年間役場に勤め最後は町の幹部になった父親。
退職する時80人の全職員が送別会を開いてくれました。
押し入れの奥からはその時同僚から贈られた感謝の言葉が出てきました。
「務め務めて三十九年自転車姿はりりしくも通い通った役場まで汗と涙の物語」。
「健康一番大切に長生きしてよねお父さん。
ほんとにほんとにご苦労さん」。
遺品から見えてきたのは家族や職場が深くつながっていた懐かしい時代。
遺族は遺品を見る度にその光景をよみがえらせる事ができます。
故人の生きた証しは思い出として残り続けます。
3日目別れの時がやって来ました。
1年以上手がつけられなかった遺品の整理。
多くが運び出され処分されていきます。
一つ一つ片づいていく部屋。
遺品の一部は娘が持ち帰る事にしました。
その中に麻雀パイもありました。
実はこの麻雀パイにはもう一つ大切な思い出がありました。
亡くなった父親は3人の孫と麻雀卓を囲むのが夢でした。
それが去年実現したのです。
孫と3回勝負しそのうち2回勝った父親。
夢が実現してから間もなくがんが見つかり入院。
2か月後に息を引き取りました。
全ての片づけが終わり空っぽになった家。
いや…自分の力だけでは最後の区切りがつけられない遺族。
誰かが寄り添い手を差し伸べる事で少しずつ前へ進む事ができます。
どうもお世話になりましてありがとうございました。
お気をつけて。
ありがとうございます。
ああ全然。
すいません。
はい。
ほんとに助かりました。
ありがとうございました。
どうもすいません。
お世話になりました。
お気をつけて。
ありがとうございます。
じゃあすいません。
失礼いたします。
木村さんが遺品整理士になって2回目の冬。
雪に覆われる町のどこかでまだ遺品の整理ができずに困っている人がいると木村さんは考えています。
遺品が語りかけるもの。
それは家族でさえ忘れかけていた時代の記憶です。
過去の記憶をなかった事にしないために遺品整理士は生きた証しを探し続けます。
2014/12/16(火) 00:47〜01:30
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「“生きた証”を届ける〜北海道 遺品整理士の日々〜」[字]
孤独死が増加する中で“遺品整理士”を目指す人が増えている。遺品の中から家族との失われた思い出を見つけ出す遺品整理士。無縁社会と呼ばれる現代に何を問いかけるのか。
詳細情報
番組内容
誰にもみとられずに亡くなる孤独死が増加する中で“遺品整理士”を目指す人が増えている。北海道旭川市で去年、遺品整理士となった木村庸平さん(35)。故人の生き様や思い出が残る遺品を丁寧に仕分け、遺族とつなげようとしている。孤独死の現場はゴミが散乱していたり、腐敗していたりと過酷。それでも必死に遺族の心に寄り添おうとしている。無縁社会と呼ばれる現代に正面から向き合おうとする遺品整理士の姿を見つめる。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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