(ラジオの音楽)
(伊沢ローラ)「伊沢ローラのネバーエンド」「暖かい陽気に恵まれた土曜日の午後いかがお過ごしですか?伊沢ローラです」「10年前この番組が始まった日からずっと赤坂のスタジオからお届けしてきた『ネバーエンド』もついに最終回を迎えました」「さて本日最初のお葉書は木下肇さん」「10年前死んでしまいたいと思っていた時ローラさんの声を聞きもう一日だけ生きてみようと思いました」「以来ずっと『ネバーエンド』が心の支えでした」「番組が終わってしまうなんて信じたくありません」「木下さんいつもありがとう」「本日の1曲目は悲しい時でも温かい気持ちになれる曲をお届けします」「チャイコフスキーの『交響曲第5番第3楽章』です」
(チャイコフスキー『交響曲第5番第3楽章』)
(電話)
(木下肇)もしもし木下ですけど。
(角田六郎)「最近では毒キノコは楽に死ねる…なんて噂がありますがそれはおお…おおま…大間違いです」
(佐久間)「先日はお年寄りが誤って口にしてしまう事件が起きましたが…」はい。
(亀山薫)ここ…!そうか…。
「これは初めて公表するのですがその毒キノコは外見が椎茸に似ているため間違って食べてしまったんです」「大変きけ…大変危険なので気を付けたた…だきたい…」「気を付け…ただ…気を付け…た…」ダメだ!課長〜。
原稿読んでるのになんで詰まるんですか。
謎だよ。
緊張ですね。
昨日練習したんですけどねぇ…。
(佐久間)大丈夫ですよ!まだリハーサル始まって10分ですから。
時間はたっぷりあるんでリラックスしてください。
(ローラ)「チャイコフスキーで『交響曲第5番第3楽章』でした」やっぱ課長には荷が重いんじゃないんですか?警視庁を代表してインタビューなんて。
なんすか?ローラだよ。
ローラ?伊沢ローラ!知らないのか?俺大好きなんだよ…。
あぁ癒やされるな〜。
人気DJなんだけどな顔を一切出さないんだよ。
ミステリアスだろう。
そそられるだろう!?声だけ美人だったりして…。
失礼だな。
見た目もそそられるぞ。
見た事あるんですか?ないけど。
わかるんだよ!外見からDJとしてのイメージが限定されるのが嫌なんだそうですよ。
(ローラ)「私も昨日までの寒さですっかり厚着して黒いスカーフまでしてきちゃったんですがこの陽気でさっきジャケットを脱いでしまいました」
(ローラ)「モーツァルトの『フルート協奏曲第1番第2楽章』でした」「フルート協奏曲といえば以前この曲を聴かせて栽培したという椎茸を食べた事があるんですがそれがとっても美味しかったんです」「そういえば最近毒キノコによる自殺が社会問題になってますよねぇ」「あの毒キノコは椎茸に似ているらしいので間違えずによく確かめて食べなくちゃいけませんね」
(ローラ)「10年間続けて参りました『伊沢ローラのネバーエンド』」「いつまでも番組が続くようにとネバーエンド終わりがないという番組名をつけましたがやはり何事にも終わりは訪れます」
(ローラ)「『ネバーエンド』は今回が最終回です」「ラジオの前のあなたのお葉書にお応えする形で私が曲をセレクトしお届けして参りましたが楽しんで頂けたでしょうか」「来週からは全く新しい番組が始まります」「どうぞそちらもお聴き逃しなく…」「それではさようなら」「伊沢ローラでした」
(ラジオの音楽)
(佐久間)こちらです。
(神野志麻子)今後の予定は?落ち着いて落ち着いて…ね。
「気を付けて頂きたい」。
(ローラ)しばらく旅行にでも行こうかと思って…。
(角田)「いただたきたい」「た」が多いんですよ…。
(ローラ)まとまった休みってずっととれなかったでしょう。
ヨーロッパに行ってゆっくり考えて決めようと思うの。
ちょっと!…え?もう一回!か…課長!なんですか?やっぱり…!あんた伊沢ローラだね!?いや〜声でわかったよ〜!あぁ想像どおりの美人だね〜!課長…。
どうだお前!俺の言ったとおりだろう。
はいはい…。
(志麻子)佐久間君!そろそろ本番なんで…。
あぁでも写真…記念写真1枚だけ!いいっすかねぇ…?まぁいいんじゃない?番組も終わった事だし。
すいませんじゃああのすぐ…すぐ終わりますから。
はいいきますよせーのっ!
(カメラのシャッター音)これで…いいんですよね?おい…!何してる!?
(悲鳴)大丈夫ですか?大丈夫ですか!?お前救急車呼んで!はい…!!救急車は?もう呼んだみたいですね。
どうしたんですか?玄関で西田春香さんが刺されたんです。
刺された!?
(警備員)しっかりしてくださいね西田さん!今救急車が来ましたから!おい…刺した奴は!?あっちに。
課長お願いします!おぅ。
大丈夫ですかー?わかりますか?はる…は…春香!
(パトカーのサイレン)
(カメラのシャッター音)
(伊丹憲一)さすが特命係の「カメ山」だな。
犯人を逃がしやがってこののろま!「ウサギ山」にでも改名しろ。
黙って聞いてりゃ…!あっ。
ん?
(角田)俺が呼んだ。
え!?部下の不始末は上司に責任とってもらわないとな。
課長も一緒にいた…。
(杉下右京)ご安心ください。
捜査の邪魔は致しません。
はいはい。
被害者の西田春香さんはこのラジオ局の人気DJだったそうですねぇ。
(芹沢慶二)ええ。
出待ちするファンも多くて。
1時間前から犯人がそこにいたようですが警備の方もあまり気にしなかったようです。
お〜いペラペラしゃべってんじゃねぇよ。
すいません…。
(角田)ストーカーの犯行か。
脅迫状の類が届いてないか調べるぞ。
よーし案内しよう。
こっちだ。
いやいや…課長。
殺しはうちの領分ですから。
何言ってんだよ…!こっちはねぇ断腸の思いでラジオ出演断ったんだ。
ついてこい!すいません…部下の不始末で。
課長から「暇か?」って電話がかかってきましてね。
(車のクラクション)おーい!出るよー。
あの方は?あぁ…。
プロデューサーの佐久間さんです。
亡くなった西田春香さんがDJをしていた番組の担当で私生活でも恋人だったそうです。
(佐久間)確かに…西田は人気がありました。
だから出待ちされる事もよく…。
でも…。
彼女の番組は月曜から金曜の平日の生放送で今日は放送がないんです。
だから今日出社してるって私も知らなくて…。
じゃあ土曜日に出待ちするファンはいなかった?つまり犯人は佐久間さんも知らない情報を把握している熱狂的なファンの可能性もあるわけですね。
熱狂的っていうかもう狂信的なストーカーですよね。
もう一つよろしいでしょうか。
見たところこの建物には出入り口が2つあるようですが…。
正面玄関と関係者出入り口と。
西田春香さんはいつもどちらを?関係者出入り口を。
しかし被害に遭われたのは正面玄関。
どうして今日は正面玄関を使われたのでしょうねぇ。
修理です。
関係者出入り口の自動ドアが故障したんで夜6時からは正面玄関を使うようにと今日になって通達がありました。
西田春香さんですねぇ。
(佐久間)ええ。
うちの局の看板枠をローラさんから引き継ぐんで…。
あいつも…意気込んでたんですけど…。
しかしどうやらストーカーとは限らないようですねぇ。
え?先ほどの佐久間さんの話によれば関係者出入り口のドアが故障して午後6時以降は正面玄関を使うように通達があったのは今日でしたよねぇ。
ええ。
あっ!ええこれ内部情報ですよね。
局内に協力者がいるって事ですか?まぁ可能性ですが。
はいはいはいはい。
あぁここが『ネバーエンド』のスタジオですね。
あっ!右京さん。
伊沢ローラさんいますけど…。
あっすいません…先ほどはどうも。
実は俺こういう者でして。
警視庁特命係の杉下と申します。
亀山です。
『ネバーエンド』終了してしまうのは残念ですね。
土曜の午後にふさわしい落ち着いた音楽と知性を感じさせる語り…。
まるでリッジウェイのハー・マジェスティー・ブレンドを思い出させる素晴らしい番組でしたねぇ。
紅茶にたとえております。
あっ申し訳ない…。
ご本人を目の前にしてこんな事を。
あの…。
犯人はストーカーなんですか?それがですねぇ…。
まぁ実行犯はそうかもしれないんですけども実はラジオ局内に協力者がいる可能性があるんですよ。
協力者?何か心当たりありませんかね。
西田春香さんを恨んでた人物に。
さぁ…。
ちなみにローラさんはご自分の番組を西田春香さんが引き継がれる事に関してどのようなお気持ちだったのでしょう。
恨んではいませんでした。
ただ確かに悔しくはありました。
でも仕方のない事です。
会社の事情もありますから。
会社の事情…ですか。
あっ大丈夫ですか?私たち…。
周囲にライバルだと煽られてたから変に意識しちゃって…。
だからあの子に…なんにもDJとして伝えてあげる事が出来なかった。
ローラさんは番組が終わってしまうのは会社の事情だとおっしゃってましたが…。
(竜崎)ローラさんああ見えてすごく頑固でねぇ。
会社としてプッシュしたい曲もあるのに自分のスタイルに反するからって絶対に番組じゃ流さなかったんで。
今時あんなDJいませんよ。
あっ!今日も最終回なのに「反省会やるからブースで待ってて」って言われてたんですけど…。
確かにローラ本人が番組降板を決めて後継者に春香を指名しました。
私はプロデューサーとして必死にローラを守ろうって上と闘ってたんですけどね…。
ローラも春香なら番組を譲ってもいいって思ったんでしょう。
ではローラさんも喜んであとを任せたと。
まぁそれでも落ち込んでたとは思うんです。
だから慰めるつもりで打ち上げに行こうとした矢先にあの事件が起きてしまって…。
春香ちゃん…残念だったわね。
残念?それで済む問題か!?ごめんなさい…。
言葉を選ぶべきだったわ。
いやこちらこそ…。
あぁ…。
どうかされました?いや…なんでもありません。
事件に関係のある事でしょうか。
佐久間さん?俺が悪いんです。
はい?あぁ神野さん。
お聞きしました佐久間さんとの事。
ご婚約なさっていたそうですね。
でも佐久間さんはそれを破棄して西田春香さんと付き合うようになったと。
志麻子さんが春香ちゃんを恨んでたっていうんですか?あくまで可能性の話ですから…。
志麻子さんはそんな事するわけありません!ローラ…。
確かに…以前は春香に対して恨みはありました。
でも一緒に新番組をやる事に決まってそんな気持ちは吹っ切りました。
失礼します。
タクシー来てます。
すいません!ちょっとお話を伺えますか?いや今ラジオ局で聞いてきたんですけどね神野さん最近も佐久間さんにしつこく復縁を迫ってたらしいんですよ。
従って西田春香さんをよく思ってなかったのは間違いありませんね。
そうですか。
実は僕も気になる事が1つ。
はい。
神野さんのあの発言です。
打ち上げに行こうとした矢先にあの事件になってしまって…。
という事は打ち上げは番組終了直後に行われる予定だったのでしょう。
つまり神野さんはそれに行こうとしていた。
一方竜崎さんによれば放送が終わったら局内で反省会が行われるはずでした。
プロデューサーである神野さんはそれに参加しなくてもよかったのでしょうかねぇ…。
(米沢守)これも写真撮っといて。
はい。
(カメラのシャッター音)どうも。
(米沢)ナイフや衣類に付着していた血液は西田春香さんのものでした。
という事は…。
西田春香殺害犯はその木下っていう自殺男だって事だ。
てめえがあの時ビシッと捕まえてれば死なれずに済んだものを…バカッ!しつけぇなおめえはもう…!あの…ちょっとこちらへ。
はい。
これ木下が立ち上げたサイトなんですが見てくださいほらここ。
「ローラさんのおかげで僕は救われた」「でも番組が終わったら今度こそ自殺してしまいそうだ」あぁ…!西田春香さんではなくローラさんのファンでしたか。
同様の葉書が放送部にも届いてました。
つまりローラさんの熱烈なファンだった木下は番組を奪った西田さんを殺害し自殺。
残る謎は木下がどうやってあの日ラジオ局に西田さんがいた事を知れたのか…ですよね。
ここに電話番号が書いてありますねぇ。
右京さん!ビンゴです〜。
見てください。
あのラジオ局内の公衆電話から木下の家に着信ありです。
しかも事件当日昼の2時6分!2時6分といえばローラさんの番組が始まった直後。
あの音楽が流れている頃ですね。
例の協力者の可能性が高いですね。
高いですね。
西田春香さんを殺害した犯人が自殺体で見つかったのはご存じでしょうか。
ええニュースで見ました。
木下肇って男なんですけどもローラさんの熱狂的なファンだったようです。
(ローラ)え?
(志麻子)あの人が?やはり覚えてらっしゃいましたか。
よく葉書をくれる熱心なリスナーぐらいの認識だったんですが。
まさか…。
でもこの内容「ローラさんの番組が終わったら僕自殺します」随分過激ですよね。
ええ。
でもそれで思いあまって春香ちゃんを襲う結果になるなんて想像もしてなかったんで…。
その点について僕はいささか疑問を抱いています。
もしもローラさんの熱狂的なファンで思いあまって西田春香さんを殺害したのならば自殺はしなかったのじゃあありませんかねぇ。
どうして?西田春香さんがいなくなればローラさんがDJを続投する可能性もあるじゃありませんか。
それを見届けなければ木下の西田春香さん殺害の意味はなくなります。
つまり木下が西田春香さんを殺害した動機は他にあるのではないか…と。
番組は継続されると聞きましたが…。
それはローラに断られました。
え?人間の行動なんて予測出来ないものですよ。
きっと木下さんも衝動的に春香ちゃんを殺したんじゃないですか?で事件後ことの重大さに気付きとっさに自殺。
いえ木下はあらかじめ毒キノコを用意していましたので自殺に関しては計画的だったと思いますよ。
じゃあ殺害も計画的だったんじゃ…。
そこなんですよ…!もしも殺害が計画的だったならば木下は土曜日ではなく西田春香さんが確実にラジオ局に現れる月曜日から金曜日を狙うはずなんです。
つまり殺害は計画的でなく自殺は計画的だった。
そこでここから先は僕の勝手な思いつきです。
仮に木下肇が殺し屋だったとしましょう。
殺し屋!?あくまでも仮説です。
その木下に西田春香を殺して欲しいと依頼した人物がいた。
そして木下はその人物の指示どおりあの日あの時間あの場所へ行き西田春香さんを殺害した。
おかしい…そんな事ありえるの?ですからあくまでも仮説です。
でしたらもうこの辺で。
私たち大事な話をしてるので。
申し訳ないあと3分で終わります。
もしその仮説が正しいとするならば依頼者の特定には少なくとも3つの条件が必要になります。
1つ目木下肇の存在と連絡先を知る人物。
ローラと私たち番組スタッフに絞られますね。
2つ目事件当日2時6分木下に電話をかける事が出来た人物。
電話…。
あの日の2時6分木下の家にこのラジオ局の公衆電話から電話をかけた人物がいるんですよ。
そこでディレクターの竜崎さんに確認しました。
間違いありません。
ちょうど曲が流れてる最中で先に志麻子さんが出てそのあとローラさんが。
なんのために外にお出になったのでしょう。
私はトイレに…。
神野さんは?私は電話がかかってきて。
どなたから?仕事相手です!つまり刑事さんたちは私たちのどちらかが木下さんに電話したとおっしゃりたいんですか。
ご理解が早くてありがたい。
それで最後3つ目の条件は?3つ目はその土曜日西田春香さんがラジオ局にいた事を知りそれを木下肇に知らせる事が出来た人物。
恋人である佐久間さんでさえ知らなかった事実を知っていたのは…誰でしょう。
私は知りませんでした!そうですか。
あっ神野さんは?私だって。
そうですか。
(ため息)なんだお前ら…。
それはこっちのセリフだよ!どけよ!イテッ…。
神野志麻子さんですね。
ええ。
西田春香さん殺害の件についてお伺いしたい事があります。
どうして私が?清掃員の女性が目撃してたんですよ。
ラジオ局内であなたと西田さんが派手に口論しているところを。
間違いありませんね。
それ本気で言ってるの?私を番組から外す?あなたにそんな力あるわけないじゃない。
(西田春香)私はただのお飾りじゃありません。
ローラさんのようにDJとして自分の番組を作らせてもらいます。
私がいなくて新番組を成功させられると思うの?志麻子さんが降りたらぜ〜んぶ佐久間さんにお願いするつもりなんで。
(志麻子)あなたねぇ…!会社に言って春香を抜擢したのは私ですよ。
おとなしくしてればローラ以上のスターにさせてあげたのに…。
(伊丹)それで恩をあだで返されたと感じたあなたは木下を使って西田春香さんを襲わせた。
そんな事してません!あ〜神野さん佐久間さんをとられた事がよっぽど悔しかったんでしょうね…。
あっ右京さんあの…出口こっちですけど。
この公衆電話が木下との接点だったわけですね。
あぁええ。
あっそっか。
どうしました?あっいや今人が出てきたあの部屋でリハーサルしてたんですよ角田課長。
あぁ毒キノコを使った自殺の件でしたね。
2時からずっと。
ローラさんたちのブースはさらにその向こうでしたねぇ。
ええ。
という事は公衆電話まで来るには…この廊下を通らなければなりませんよねぇ。
そのリハーサル室ですがドアは開いてませんでしたか?あぁ…開いてましたね。
なるほど。
大事な事がわかりました。
え?なぜ彼女があんな事を言ったのか。
(ローラの声)「そういえば最近毒キノコによる自殺が社会問題になってますよねぇ」「あの毒キノコは椎茸に似ているらしいので…」これがどうしたんですか?確かに椎茸とおっしゃってますよね?ええそうですけど。
どうして毒キノコの外見が椎茸に似ている事をご存じだったのでしょう。
ニュースでよくやってるでしょ?確かにそうですけどこの番組がオンエアされた日にはまだやってなかったんです。
毒キノコが椎茸に似ている事を警察が公表したのは事件のあった日の翌日つまりローラさんのこの発言のあとなんですよ。
本来ならば事件当日我々の同僚がラジオ出演してその事を公にするはずだったのですが事件が起きてしまったために出演を辞退しました。
ただリハーサルだけは何回も繰り返してました。
事件当日の2時からずっとここから公衆電話があるほうへ向かう途中にあるリハーサル室で。
つまり生放送中のあなたがそれを知るためにはここを出た2時6分頃トイレではなくトイレとは逆の方向にある公衆電話に向かう途中でそのリハーサルを耳にする以外ありません。
その時番組ではチャイコフスキーの『交響曲第5番』が流れていました。
僕聴いてましたから。
曲の長さは6分18秒。
ブースを出て公衆電話へ向かい誰かに何かを頼んで戻ってくるには十分な時間ですねぇ。
木下肇に電話をしたのはあなたですね?ローラさん。
西田春香を殺害するよう依頼しましたね?違います!私…私は…確かに彼に殺して欲しい人がいると頼みました。
でも春香ちゃんを殺して欲しいなんて言ってません。
私は…あの日…私を殺してと頼んだんです。
(ローラの声)この10年人生も恋愛もプライベートも何もかも犠牲にしてただリスナーの方々に素晴らしい音楽と楽しいお話をお届けしようと努力し続けてきました。
(ローラの声)でも番組が終わったら伊沢ローラのこの声は誰にも届かない。
伊沢ローラでなくなった私には何も残らないんです。
(ローラの声)だから伊沢ローラのまま番組終了とともに死のうと考えてました。
そんな時熱心なリスナーだった彼の葉書を見ました。
「ローラさん本番1分前です」
(ローラの声)そして番組が始まる直前に思いついたんです。
「ローラさん?」あっはい。
よろしくお願いします。
チャイコフスキーの『交響曲第5番第3楽章』です。
(チャイコフスキー『交響曲第5番第3楽章』)「私ちょっと電話すぐ戻ってくる」
(竜崎)「えっ?ローラさんも?」あっごめんなさい。
ちょっとお手洗いに…。
(竜崎)「曲6分なんでその間に」ええもちろん。
(角田)その毒キノコは外見が椎茸に似ているため間違って食べてしまったんです。
大変危険なので気を付けたた…だきたい…。
(木下)「あっ…あなたはローラさん?」あなたにお願いがあるの。
(木下)「えっでも今生放送中じゃ…」私を殺して欲しいの。
(木下)えっ!?あなたが私と同じ気持ちで嬉しかった。
番組が終わったら死にたい…私も同じ事考えていた。
だからあなたの手で私を殺してほしいの。
でも…。
こんな事お願い出来るの木下さんあなただけなの。
お願い!あなたの手で…。
(ローラ)「伊沢ローラを終わらせて…」わかりました。
ありがとう。
(ローラの声)そして木下さんは春香ちゃんを私だと間違えて…。
間違えた?素顔の私誰も知らないから。
だから木下さんには服装から髪型まで外見の特徴まできちんと伝えて…。
なのにまさか春香ちゃんが似てる格好してるなんて…。
(泣き声)黙っててすいませんでした。
私の事でこんな事になっちゃうなんて…。
ずっと本当の事言えませんでした。
(宮部たまき)でそういう場合は殺人罪になるんですか?いや〜何しろ殺意がないですからね。
まあ捜査一課では殺人罪以外の罪状で起訴出来ないか検討中みたいですけど。
(亀山美和子)ほんとに死のうなんて思うかなぁ…。
まあそんだけ番組への思いが強いんだよ。
どうだかなぁ?薫ちゃんは美人の涙に弱いからな〜。
お前何勝手に見てんだよ。
ほら!右京さんこの…この美人が伊沢ローラですよね?ええ。
返せよお前。
夫婦でもなやっていい事と悪い事があるんだよ。
なっ?美和子さん。
(美和子)はい?ちょっと携帯よろしいですか?あっはい…。
亀山君この写真はいつ撮ったのでしょう?番組終了直後ですけど。
事件が起きる前ですね?そうですね。
頼まれていた防犯カメラの写真です。
(米沢)これが出社時の2人。
そしてこれが番組終了直後。
これが退社時の2人です。
なるほど。
失礼します。
右京さん確認取れました。
神野さんがジャケットを脱いだのは放送中にコーヒーをこぼしたからだそうです。
やはりそうでしたか。
この写真のおかげで今回の事件のからくりが見えました。
番組継続のオファーを断られてこれからどうなさるおつもりですか?DJを辞めます。
辞めて伊沢絹江に戻ります。
そうですか。
実は今日お時間を頂いたのは伊沢ローラさんに最後にいくつか確認したい事があったからなんです。
(ローラの声)「私も昨日までの寒さですっかり厚着して黒いスカーフまでしてきちゃったんですがこの陽気でさっきジャケットを脱いでしまいました」あなたはこの中で黒いスカーフとおっしゃっていますねぇ。
ですが番組が始まる前つまりラジオ局にお着きになった時には首に巻いていません。
この黒いスカーフは一体どこから出てきたのでしょう?カバンの中に入れて持ち歩いていたんです。
ちなみにそれは今どちらに?家のどこかに…。
あるでしょうねぇ。
しかしこの写真よく見るとこれスカーフじゃないんじゃありませんかねぇ。
急きょストッキングのようなものを代用なさったんじゃありませんか?ちなみにこれストッキングです。
これをこう首に巻くと…。
ああなるほど。
この写真と同じようになりますねぇ。
なぜこのようなものを首に巻いたのでしょう?寒かったんです。
おやおや。
ではなぜジャケットをお脱ぎになったのでしょう?あなたは放送の中で神野さんと同じ格好をする必要があったんじゃありませんか?なんのために…?それは木下に自分と間違えさせて神野さんを狙わせるために。
確かにあなたは「私を殺して」と木下に伝えたかもしれません。
しかしそれは計算どおりだったんです。
木下が人違いするであろう事も含めてすべて。
あなたが本当に殺したかった相手は神野志麻子さんだったんですよ。
チャイコフスキーの『交響曲第5番第3楽章』です。
(携帯電話)神野さんに殺意を抱いたあなたは…。
私を殺してほしいの。
木下にそう懇願した。
目印は白いジャケットよ。
黒いバラのブローチに2つボタンの白いジャケットを着ているのが私。
番組が終わったら正面玄関から出ていくから。
わかりました…。
あなたの容姿はリスナーには知られていない。
ですから神野さんの容姿を克明に説明すれば木下は人違いして神野さんを殺すだろうと考えた。
ですがその後思わぬ事が起きてしまった。
あ〜ダメだ…。
このジャケットもう着れないわ…。
あなたは慌てたはずです。
これでは木下がターゲットを認識出来ない。
その時あなたの目に飛び込んだのは…。
そして木下がラジオをどこかで必ず聴いているはずだと思ったあなたは…マイクに向かってこう言った。
私も昨日までの寒さですっかり厚着して黒いスカーフまでしてきちゃったんですがこの陽気でさっきジャケットを脱いでしまいました。
あくまで神野さんを伊沢ローラと思わせるために。
確かに狙いどおりそれは木下に伝わったようです。
ところが西田春香さんが偶然にも黒いスカーフを巻きあなたの指示した志麻子さんの服装と同じような格好をしていた。
つまりこれは人違い殺人です。
いかがでしょうか?ローラさん。
(志麻子)嘘よ…。
どうしてローラが私を…。
神野さんにお訊きしたい事があります。
事件当日ローラさんと打ち上げに行く予定だったとおっしゃってましたがあれはあなたの発案ですか?いいえ。
ローラに言われて…。
2人きりで打ち上げをしようって。
僕はそれに引っかかっていました。
番組終了後反省会をするつもりでローラさんは局内にとどまっていました。
にもかかわらず打ち上げを理由にラジオ局から先に神野さんを出そうとしていたんです。
正面玄関で待ち構える木下にご自分ではなく神野さんを襲わせるために。
でもローラがどうして?ローラさんをそうさせた理由は恐らく神野さんあなたにあるんじゃありませんか?最初あなたはこうおっしゃいました。
確かにローラ本人が番組降板を決めて後継者に春香を指名しました。
しかしその後は全く逆の事を…。
会社に言って春香を抜擢したのは私ですよ。
神野さんの裏切りが許せなかったんですね?志麻子さん…10年前私の声が素晴らしいってDJの才能を見いだしてくれて厳しく育ててくれてとても感謝してました。
(ローラ)だから素顔を隠せと言われても名前を変えろと言われてもすべて言う事を聞いて頑張ってきた。
その結果多くのリスナーが伊沢ローラを愛してくれた。
すべて志麻子さんのおかげです。
会社から何を言われても番組を続けてこられたのはあなたやリスナーの人たちがいてくれたから。
だからああいうふうに言われた時…。
ごめんなさい。
番組から身を引いてくれない?楽しみにしてくれているリスナーを裏切るんですか?お願い…これ以上私を苦しませないで。
(ローラの声)最初は納得出来るはずもなかった。
(ローラの声)『ネバーエンド』を終わらせるなんて…。
ほんとに自殺を考えるほどつらかった。
それをどうにか耐えていたんです。
どうにか納得しなきゃいけないって。
でもあなたはそれを一瞬に無にした。
私を騙した。
一体何があったんですか?『ネバーエンド』を終わらせたのは会社のためでなく神野さん自身のためだったんです。
何を言ってるの?春香ちゃんと約束したんですよね?私を降板させて番組を持たせるから佐久間さんから手を引けって…。
どうしてリスナーを裏切るような真似をしたんですか?誰から聞いたの?春香?あなたから直接聞いたんです。
私が?知りませんよね…。
私あの事件の1週間前にあなたに電話したんです。
(ローラ)もしもし私ですけど。
(志麻子)「何度も電話してこないでよ」「だから番組の企画は私に任せて」「ローラの後番組だからって変な意識いらないから」「春香ちゃんあなたはDJに徹してくれればいいの」「とにかく約束だけは守るのよ?」「ローラを捨ててあなたを使ってあげるんだから」約束…。
「とぼけないで佐久間と別れるって約束よ」「聞いてるの?春香ちゃん?」あれは春香が…。
春香のほうから佐久間と別れるからローラの番組をって…。
声ですよ…。
どうして私の声を間違えたんですか?10年も一緒に番組を続けてきた誰よりも一緒に長い時間いた私の声を…あなた間違えた。
1週間憎しみを忘れようと思っても忘れられなかった。
そんな時木下さんの葉書を見て思いついたんです。
思いついたって…。
そのために全く罪のない人が1人殺されたんですよ?どうしても許せなかった…。
この10年私はこの声だけで存在してたんです。
それなのにあなた私の声を…伊沢ローラのこの声を間違えた。
私から番組やリスナーを奪ってついには声まで…。
伊沢ローラさんいえ伊沢絹江さん。
結局あなたは愛するリスナーを殺人の道具に使ってしまったんです。
多くのリスナーに愛されたDJ伊沢ローラさんはあなたご自身が永遠に葬ってしまったんです。
私が…伊沢ローラを殺してしまった。
これから始まる伊沢絹江さんの人生は途方もなく過酷で長いものになってしまいましたね。
行きましょうか。
志麻子さんごめんね…。
2014/12/16(火) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒 season7[再][字]
「顔のない女神」
詳細情報
◇出演者
水谷豊・寺脇康文・鈴木砂羽・益戸育江
川原和久・大谷亮介・山中崇史・山西惇・六角精児
【ゲスト】清水美沙・日下由美
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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