NHK大阪ホールの開演前の客席に来ております。
「上方落語の会」いつもすばらしいゲストにお越し頂いておりますが今日のゲストは女優の宮地真緒さんです。
どうぞ。
よろしくお願いします。
このホールは初めてやないんですってね。
初めてではないんですけれどもこうやって客席に来るのは初めてですね。
実は今日の落語会はNHK新人演芸大賞の取った人ばっかりを集めた落語会の。
そこからそれをまた2回に分けて放送するという事になってまして。
まず1997年に大賞を取ったのが桂宗助さんそして2011年に取った桂まん我さんのお二人をお聴き頂くんですが落語はお好きですか?テレビでは何度も見た事はあるんですけれどもこうやって生で見させて頂くのは初めてなので今日はすごく楽しみにしています。
お仕事忘れて楽しんで下さいませ。
では桂まん我さんの「替り目」です。
どうぞ。
(拍手)続きましてまん我の方でおつきあいでございますが落語の方はろくな奴は出てまいりませんな。
褒められた奴は出てこない。
大体決まってるのが相場としまして男の道楽三陀羅煩悩飲む打つ買うなんというのが出てくる訳でございますが…。
芸人なんというのはそこら辺が芸の肥やしになって「それだけやってりゃ」てなもんでございますが時代と共にどんどんそういうのも変わってまいりましてねあんまりそんな事をしてると「上方落語の会」に出してもらえなくなるような時代になってまいります。
楽屋の方も雰囲気が変わってまいりまして客席と一緒で高齢化が進んでございます。
飲む打つ買うがどんどん変わってくるね。
飲むと思ったら当然お酒かと思ったら飲む前にウコン飲んだりなんか致しましてね次の日の体が心配やというね。
打つと思ったら当然博打かなと思ったら膝にヒアルロン酸うったりなんか致しましてもう正座ができないって致命傷やったりしますね。
買うと思ったら女性かなと思ったらそうやないペット買うたりなんか致しましてね犬や猫に癒やされたりなんかして自分が癒やす商売やろ救おうやろと思うんでございますがふだんからいわれのない恥辱を受けながら暮らしてるんで家帰ってペットに「おおきに」みたいな事言うて「頑張ります」みたいな事やってます。
ひどい世界でございますが。
それでも私なんかはこちらの方飲む方は嫌いな方やないです。
全く飲まない方もいらっしゃるでしょうけど私はそんな嫌いな方やない。
飲むと言うてもただ僅かでございますけど一升瓶を横に置かせて頂いてほんの僅かお猪口に2杯か3杯ぐらいしかよう残さん方でございましてねこんなんが言いたさに落語家になってるところがありますが。
まあベロベロに飲む酔ってるなんというのは落語の方にはよく出てまいりますな。
カウンターの方か何かで年の違う年配の人と若い人がえらい意気投合したりなんかしてやっぱりあれは酒ならではでございます。
あんまりぜんざい食べながら意気投合しないもんでね。
「いやにいちゃんあんた若いのに物事よう分かってるなうれしいな」。
「そうやって先輩にいろいろ教えて頂いてありがたいなと思います」。
「そう言うてくれるのがうれしいやないかいな。
よし。
これ出てちょっともう一軒飲みに行こか。
あ〜よそ行くの邪魔くさいうちで飲もう。
すぐそこや。
そこの辻曲がって3軒目わしのうちで飲み直そうか」。
「えっちょっと待ってもらえますか?辻曲がって3軒目は僕のうちやと思いますけどね」。
「わしのうちや!」。
「僕のうち!」。
「た…大将あそこもめてまっせ。
止めてあげた方がええのと違います?」。
「え?ああほっときなはれ。
あれ親子でんねん」。
こんなんまだましでこれよりもっとどんどんエスカレートしてくる。
「酔うたな俺な。
見てみなおい。
あそこにもうお日いさんが出てしもうてる。
ハハッ2人して夜通し飲んでしもたな俺らしいもない」。
「何を言うてんねん。
あれお月さんやないかいな。
夜通しなんか飲む訳ない」。
「お日いさんやろ?」。
「いやお月さんや」。
「お日いさん」。
「分からんやっちゃな。
あっちょうどええわ。
向こうから人来た。
あの人にちょっと尋ねてみよか?すんません。
すいませんちょっとお尋ねしますけどね」。
「何ですかいな?」。
「あいつの方が酔うてるのと違うかえ?」。
「すいませんつかぬ事をお尋ね致しますけどあそこに丸い白いものがポカッと浮かんでますけどねあれは一体お月さんですかな?お日いさんですかな?」。
「ちょっと待ってもらえますか?ははあつらいなあ…。
いやわたいこの町内の者やないさかい分かりまへんわ」。
もう3人ともベロベロやみたいな話でねこう言うとお酒を飲まない人は酒飲みなんかほっとけほっとけ何にも覚えてないしな次の日になったら何か言いますけど私飲むから分かりますけど意外と覚えてるもんでございますよ。
肝心な所は忘れてるんですけどもいらんとこちゃんと覚えてたりなんかする。
たち悪いね酔っ払いというのは。
周りいてる方が心配したりなんかして「見てみなはれあれ。
まっすぐ歩けてまへんがなええ年してね。
あそこまで飲まんでもよろしいのにな。
見てみなはれまっすぐ歩けてまへんがな。
ああいうの何て言うか知ってます?八人歩き言いまんねん。
八人歩き。
『何で?』てあっちへよったり
(四人)こっちへよったり
(四人)合わせて八人歩き言いまんねんほんまにねほんま…あっ!あれ横の溝にはまりまっせ。
どんどんどんどん寄っていってますわ。
気の毒ですけど見ときまひょか。
ほらはまりまっせ。
はまりまっせはまりまっせ!…よけましたな!意外としっかりしてるもんですなあれね。
あっ今度はあかん。
ほら前に溝がある。
あれはまりまっせ。
もうはまったら助けてあげまひょ。
気の毒ですけど見ときまひょ。
ほら行きますよ。
はまりまっせはまりまっせはまりまっせ!」。
「ドブ〜ン!」。
見てる方がはまったりなんかしまして。
酔ってる人はポンと跳び越えたりなんかする。
そこまで飲むとあかんのでしょうけどまあ楽しくやるなんというのは天下太平結構な事なんかも分かりません。
「酒飲みは奴豆腐にさも似たり始め四角であとはグズグズ」なんというのがある。
また「酒を飲む人花ならつぼみ」なんというのがある。
・「今日も〜酒酒明日も酒は〜」「大将ええご機嫌で酔うてはりますな」。
「わしを軍人みたいに呼ぶのは誰や?」。
「俥屋ですねや」。
「あっちへ行き」。
「そんな事言わんと…。
宵からねお客さんが一人もいてまへんねや。
乗ったってもらえまへんか?乗ってもろたら助かりまんねん。
俥屋一人助けると思うて乗ったっとくんなはれ」。
「分かりました。
乗りましょ。
私は乗るつもりはなかった。
けれどもあなたを助けるつもりで乗りましょう。
なぜなら私は慈悲深い男やからね。
何でこんなに私が慈悲深いかと言うと父方の先祖がお釈さんで母方の先祖がキリストやからね。
私は慈悲深い。
乗ってあげましょ」。
「そうですか。
えらいすんまへんな」。
「よっこらっしょと!好きなとこ行き」。
「好きなとこっちゅう訳にはいきまへんが。
どこまででもお供させてもらいますんでどこならどこと言うてもらえまっか?」。
「どこまででも行ってくれんのうれしいな。
ほなこうしようか?叔母はんのとこからこの間手紙が来てたんや。
何や具合が悪いっつってた。
え〜見舞いにこれから叔母はんのとこに行こう」。
「こんな夜中に大丈夫ですか?…で叔母さんのおうちはどちらでございます?」。
「稚内」。
「は?」。
「稚内」。
「いや稚内ってあの…ほ…北海道の稚内でっか?」。
「分かんない」。
「何言うてなはんねん。
北海道までどないして俥で行きまんねん」。
「お前どこまででもお供する言うた」。
「そらそうですけども…そんな事言わんと。
ね?ほなあ〜大将のおうちまで行かせて頂きます」。
「あっそう?うれしいね。
…で一体ここはどこ?」。
「分からんと歩いてまんのかいな。
えらいの乗せたな。
上町でんがな。
もう道々教えてもらいます。
とりあえずまっすぐ行きますさかい」。
「まっすぐ!うれしいなあ!うれしい!いやまっすぐ!それが一番ええな!男というものは自分の目指すべき道をまっすぐ進む!これや!まっすぐ進め〜!」。
「すぐそこに塀がありますけど」。
「跳び越えろ!」。
「難儀な奴乗せたなこれ。
とりあえず行きますさかいな。
よっこらしょっと」。
「止まれ!」。
「何でんねんもう…。
どないしました?」。
「ちょっとすまんけどなそこの長屋のこの左から2軒目の戸ドンドンとたたいてくれる?」。
「こんな夜中に何ですねん?お友達のおうちですか?難儀やなあ…。
分かりました。
このおうちでよろしいんやな?はあはあへえ」。
(戸をたたく音のまね)「こんばんは」。
(戸をたたく音のまね)「こんばんは」。
「はいどなた?」。
「いやどなた言われたらつらいがな!ちょっと大将!中から出てきはりましたで」。
「どちら…。
もう誰やと思たらまた酒に酔うて…ええ?どこで飲んできなはったんや!」。
「え?ちょっと大将これ…これお宅のおうちですか?」。
「私のおうちやったら具合が悪い?」。
「いやわ…悪い事はおまへんけど」。
「俥屋はんえらいすんまへんでしたな。
俥賃払わせてもらいますけどおいくらで?」。
「え〜いくらっちゅわれるとつらいんですなあ…」。
「つらいてうちの人どこから俥乗りましたん?」。
「え?そこの電信柱からそこのゴミ箱まで」。
「あんた何をしてんねんな!」。
「知らんがな。
こいつが乗ったら助かるっちゅうさかい」。
「もう…。
分かりました。
とりあえず迷惑代やと思ってこれ取っといてもらえます?」。
「こんなんもらえまへん。
もらえまへんわ。
ぶっちゃけた話が俥が二回り半ほどしかしてまへんのでこんなんもらえま…」。
「もう…ほんまにえらいすんまへんでしたなあ。
ご迷惑をおかけしてこんな夜中に。
また今度乗せてもらいますんで今日のところはえらいすんまへんでした。
寒いんで今日は気ぃ付けて。
おやすみやす。
えらいすんまへんでした。
もうすんまへん。
おやすみやすおやすみやす」。
「あほかあんたは!」。
「何やねんおい!えらい様子が変わったなお前。
ええ?最前の俥屋には『おやすみやす』とか言うといて…。
あっお前あの俥屋とデキてるな?」。
「あほな事言いなはんな。
早い事うちらへ入んなはれ」。
「入るがな。
誰に遠慮があんねん。
わしのうちやな。
・『目から火の出る所帯はしても』・『火事さえ出さなきゃ水いらず』ちゅうてな。
上手やろ?」。
「やかましいわ!ほんまにもう!早い事おやすみやす!」。
「おやすみま…せん。
ヘヘヘッ。
ちょっとこんな事をしたいね」。
「何をすんねんな?」。
「ちょっと飲みたい」。
「何を飲むねんな」。
「何飲むてガソリン飲んで面白いか?お前。
酒飲むに決まってある」。
「よう言うたわそんな酔っ払って。
今日のところは向こうに床がとってますさかいに早い事寝なはれもう。
何にも飲まんと寝なはれ言うてまっしゃろが。
寝なはれ言うて…寝なはれ!寝なはれ寝なはれ寝なはれ寝なはれ!」。
「か〜っ情けない!情けない。
ああいまだにわしと何年連れ添うてる。
か〜っ酒飲みの扱いが分かってねえ。
あのねお酒飲みというものは外でどれだけ飲んで帰ってきてもうちでちょっと飲みたい。
そこであなたが言う訳ですよ。
ねっ?『お酒というものは外は外うちはうちで味の変わるもんやそうでございますのでうちのお酒も一杯だけお召し上がりになってからお休みなったらどうでございます?』…ってな事を言うてみ?『はあ〜ええ嫁はんやな。
こんな嫁はんに迷惑かけたらいかん!今日は何にも飲まんと寝るわ』となる訳。
そうでしょ?それ何?それ。
『寝なはれ寝なはれ寝なはれ!』。
顔中口にして『寝なはれ寝なはれ!』。
安物の娼妓みたいに寝なはれ寝なはれ抜かすな。
わしは意地でも飲む!」。
「難儀な人やな。
分かりました。
ほな…。
『お酒というものは外は外うちはうちで味の変わるもんやそうでございますのでうちのお酒も一杯だけお召し上がりになってからお休みになったらどうでございます?』」。
「頼まれたらしかたがないな」。
「ペテンやがなあんた!」。
「ええからちょっとだけ飲みたい。
それで1升冷やでええ。
これで湯飲みでええさかいその一升瓶こっち持ってきて。
こっちへ持ってこいっちゅって。
え?いやいやあんたがつがんでもええの。
ちょっとこっちに一升瓶を渡してくれたら…こっちに貸せって言ってんのや!ヘヘッ。
あなたがついだら盛りが悪い。
ヘヘッ。
何が悲しいてね湯飲みの上ちょっとすかされるほど情けのない事はないよ。
これ上手につがなあかんね。
ヘヘッとっとっとっとっとね。
とっとっとっとね。
とととと…ねん!アッハッハッハッ見て見て!上手につげた!盛り上がってある。
アッハッハッハッ!あなたがついだらデコッとなるな。
私がついだらボコッとなる。
上手につげた。
一滴もこぼれてない。
美しい。
ずっと眺めていたい。
芸術や。
ハハハッ!けど飲まなければしかたがない。
ヘヘヘッ。
口からお出迎えってやっちゃ。
ヘヘヘヘヘヘッ」。
「ハッハッハッハッ!結構結構!おい何をバタバタしてんねん。
酒飲んでんねん。
ちょっと酒のアテないのんか?」。
「よう言うてるわこんな夜中に帰ってきて。
もう何にもおまへん」「ヘヘッうそついてるな。
私は知ってます。
あの水屋の戸開けてみ?焼きのりが3枚残ってます。
私は知ってます。
残念。
ちょっと焼きのり出して」。
「そんなもん…あんなもんとうに食うてしもたがな」。
「か〜っ情けない!今また情けない言葉を聞きました。
何ですか?その『食うてしもた』。
ああ情けない…。
『食うてしもた』。
ああ〜。
それが麗しき日本の女性の使う言葉ですか?『食うてしもうた』。
ああ〜情けない!あなたも区役所に行ったら女の方に籍が入ってるんでしょ。
そういう時には三つ指突いて『頂きました』。
何で言われへんねん!」。
「さよか。
分かりました。
焼きのり3枚頂きました。
ごちそうさまでございました」。
「そう。
そうやるとちょっとかわいいかなと思うね。
え〜あの佃煮が残ってたやろ」。
「頂きました。
ごちそうさまでございました。
佃煮みんな頂きました。
えらいすんまへん」。
「あっそう…。
頂いたらしかたがないね。
ならあの〜こうこが…」。
「頂きました。
ごちそうさまでございました。
みんな頂きました。
えらいすんまへん」。
「よく頂くね。
「え〜ほたら…」。
「頂きました。
ごちそうさま」。
「ええ加減にせえよ。
お前何頂いてもええけどほたらぐらい残しといたらどないやお前。
違う…。
違うねんな。
何でも構へんねんな。
その…残り物何でもええねん。
ちょっと出してえな」。
「冷やごはんならおますけど…ちべたいごはん丼に1杯どうぞ」。
「ケンカ売ってんのか?お前。
冷や飯つまんで酒飲める?違う。
違う!分からんかな。
ちょっとつまむもんはないのんかっちゅうてんねん」。
「茶瓶の蓋でもつまんだら?」。
「えらいの嫁はんにもろたぞ。
ほな何か?何か?わしは茶瓶の蓋をちょっとつまんでは酒を飲み酒を飲んでは茶瓶の蓋をちょ…。
何が面白いねんそんな事して!分からんかな。
違う。
ああ何でもええ言うてる。
分かった。
あのその角の…関東煮おでん屋まだ明かりついてたさかいそこ行ってな何でもええお前の好きなもん買うてこい。
わしはあの…大根!味しゅんだやつさえあったら構へん。
お前の好きな芋でもこんにゃくでも卵でも好きなん買うてこい!行ってこいっちゅうんだ。
早い事行ってこいっちゅうて…行ってこいというのに何でうちらへ入ってくる訳?ねえちょっとどこ行くの?え?何で鏡の前座ってんねん。
何をポンポンポンポンはたいてんねんお前。
こんな夜中お前の顔なんか誰も見てへんわもう…。
早い事行ってこい!行ってこいよ〜!ハッハッハッハッ…」。
「また飲んでしまった。
こんなつもりやなかったのにな。
いつもこないなるねん。
あ〜しかし何やな。
うちの嬶もあれ気の毒なもんやな。
あいつと連れ添うて何年になる?1晩としてしらふで帰ってきた事がない。
あいつ酒飲みの世話するために生まれてきたような女や。
気の毒や。
ほんまやで。
口では『行ってこい!あほ!』てな事言うけどね心の中ではちょっとおおきにと思う事もある。
そらそうや。
僅かな稼ぎやりくりしてちゃんと一升瓶こない置いて待っててくれるうれしいなありがたいなと思うけどそれを口に出して言ってはいけません。
なぜなら女というのは増長しよるね。
あいつわしを尻に引こう尻に引こうとしとるさかい隙は見せらんないね。
『お前らこうだってんのじゃい!』とこない言うけど心の中では嬶大明神と手を合わしてる事もあります。
ほんまですよ。
そらそうやなっ?こんな酔っ払い誰ももう相手にしてくれへんわな!あらもうあいつが出ていったらあんなええ嫁の来手はないな。
もっともあいつも今出ていってももうもらい手ないけどな。
ハハッ夫婦ようでけてる。
ほんまやで。
あほボケカス言うてるけどね心の中ではおおきにありがとう…!ほんまにありがとうございます。
ほんまです。
こんな情けない酔っ払いですけどもひとつ今後ともよろしくお願いします!あなたなしでは生きていけ…!お前行かんとそこで聞いてんのか!?おい!早い事行ってこい!行ってこいよあほ〜!皆聞かれてしもた!明日からやりにくうてしゃあない」。
おなじみの酔っ払いのうわさでございます。
(拍手)桂まん我さんの「替り目」でございました。
いかがでした?いや〜面白かったですね。
旦那さんが本音を言ってしまう所がいとおしくなりますよね。
好感度上げるんですあの男は。
というところで後半続きましては桂宗助さんの登場でございます。
宗助さんの出し物は「稲荷俥」です。
どうぞ。
(拍手)え〜ありがとうございます。
代わって私のところも一席ご辛抱のほどを願いますが落語の方にはよくこの狐やとか狸が出てまいりますが昔から狐や狸はいろんなものに化けるとかあるいは人を化かすなんていわれておりますがほんなら動物園にいてる狐は何で逃げへんねやっちゅう人がありますがああいう所にいてる狐というのはあかんのやそうですな。
狐千年にして通力を得るというような言葉がございまして何百年と長生きをした狐やないとそういう力がないんやそうで。
昔はその不思議な力を持った狐というのがいてたんやそうです。
まず天を駆ける天狐という。
地をくぐる狐を地狐という。
風を起こす狐を風狐という。
雲を起こす狐を雲狐という。
汚い狐もあるもんでございますが要は狐はお稲荷さんのお使いやってな事をいいましてよく狐イコールお稲荷さんやと思ってはる方があるんですがこれは間違いでございまして狐というのはお稲荷さんという神さんのお使いお使わしなんですね。
昔の神さんとか仏さんというものにはよくこのお使いというものがありまして弁天さんが蛇を使うてはったりね大黒天がネズミやとか毘沙門天がムカデてな事言いましてねあんなムカデてな恐ろしい虫が使えるのは毘沙門天みたいな怖い顔した神さんやないと使えんやろうと思いますが…。
毘沙門天がこの弁天さんのところに用事があるというので手紙を一本書きましてねムカデを呼んで…。
「これムカデムカデ」。
「へいお呼びでございますか」。
「おおムカデか。
これをな大急ぎで弁天さんのところへ届けてくれるように。
頼んだぞ」。
「かしこまりました」。
よっぽどたってから見てみますとムカデがまだ土間の所でゴソゴソしてるんですな。
「お前まだ行ってへんのかい。
何をしてんねや?」。
「へいわらじ履いとりまんねん」。
(笑い)まことにのどかな話がある訳でございますがムカデがわらじ履きだしたら何時間かかるや分かりませんがね。
そういう神さんにお使いというものがありましてお稲荷さんのお使いがこの狐なんでございますがお稲荷さんといいますと関西で有名なお稲荷さんはやはり京都の伏見稲荷というのが全国的に有名でございますが大阪にもこの有名なお稲荷さんがいくつもございましてね土佐の稲荷やとか玉造稲荷やとかね産湯の稲荷やとか高倉稲荷てな事を言いまして高倉稲荷というのは高津神社。
高津さんの境内の中にお祭りしてあるんやそうで。
ですから昔こんな一口話がございましてね…。
「高倉さんへはどう行きます?」。
「へいこうず〜っと
(高津)行きなはれ」というねよその土地では何のこっちゃさっぱり分からんという小ばなしでございますが昔の大阪でやったらこれは大爆笑の小ばなしやったやないかいなと思うんでございますが…。
さてその高津神社の表門の所に昔はよう人力車が客待ちをしてたんやそうでこら明治時分のお噺でございますが時刻は夜の9時をちょっと回った時分どんよりと曇って今にも降りだしそうな空もよう月も星も出ておりません。
やまぶきといううどん屋の明かりが一つポッとともってるだけ。
人力車が1台止まっておりまして蹴込みに腰を掛けて車夫が客待ちをしてるんですな。
そこへ通りかかりましたのが金縁の眼鏡をかけまして茶の中折れ帽子をかぶります。
地味な和服の上から黒の二重回しを着たというその当時の立派な紳士で。
「おい俥屋」。
「へいへい」。
「いつもはこの辺に5台も6台も人力車が止まって客待ちしてんのに今日はおめえ一人だけかいな?」。
「へいもう宵にはなぎょうさんいてましたんやけどもなもう暇な晩でなあ。
人一人通りゃしまへんねん。
こんなんかなわんちゅうんでなよそへ流しに行ったりもうこんな暇な晩は帰って寝るわちゅうて去んでしまう奴がおったりしてな今わたい一人だけになってまんねん。
ご都合までお供さしてもらいますさかいなどうぞ乗ったっとくんなはれ」。
「うんやってもらおう。
東へやってんか」。
「へいへい東と申しますと?」。
「産湯や」。
「あ〜産湯でっか。
産湯でしたらどうぞご勘弁を」。
「何でやいな?方角が違うのんかい」。
「いえいえ方角は違いやしまへん。
違うたところでついそこでんがなね。
昼間やったら行かしてもらいまんのやが」。
「それは何を言うのやいな。
昼間やったら俥に乗るかいな。
こんな空もようやし夜が更けてるよってに俥に乗ろうちゅうてんねん。
何で行けへん?」。
「怖い」。
「怖い?ふ〜ん。
ほなこのごろあの辺に盗人が出るとか追い剥ぎが出るとかそんな物騒なうわさでも立ってんのんか?」。
「いえいえ盗人は怖い事ないんで。
銭は持ってないしな。
とられるもんちゅうたらこの看板1枚ぐらいのもんでな俥は皆番号が打ってあってお上に届け出がしてあるさかいな潰してばらさなんだら銭になりまへんねんへえ。
手間ばっかりかかってななんぼにもならんのでこんなもん狙う奴はおまへんねん」。
「ほな何が怖い?」。
「あの辺はな産湯のお稲荷さんの近所でっしゃろ。
狐が出まんがな」。
「おい俥屋してて狐が怖いっちゅうのはどういう訳や」。
「俥屋でも牛乳屋でも怖いもんは怖いねん。
あいつは悪さしよりますさかいな道やと思てタ〜ッと走ってたらいつの間にやら池の中へザブザブザブッと突っ込んだりなあ〜ええ場所があるちょっと一服していこうと思って石やと思って腰掛けた途端にドツボへズボ〜ッとはまり込んだりしてなわたいらの仲間ぎょうさんえらい目に遭うてまんねや。
どうぞご勘弁を」。
「そんな事ないて。
わしゃな長年産湯に住んでるけどもなそんな事一遍もあれへんがな。
狐や狸は親類か友達みたいなもんや」。
「いやあんさんはそうか知りまへんけどなわたいは嫌でんねん。
どうぞご勘弁を」。
「しゃあないな。
ほんならな銭で話をしようか。
おめえ産湯楼は知ってるか?」。
「へいへいあの大きな料理屋でんな」。
「そうそうあの産湯楼の角まで20銭でどや?」。
「20銭でっか?こんな暇な晩10銭でもありがたいのにあっこまで20銭出しとくなはるか。
へいほなやらしてもらいます」。
「やってくれるか」。
「へいへいほなどうぞ乗ったっとくなはれ。
足元気ぃ付けとくなはれ。
よっ」。
「ホロはどないしまひょ?」。
「ああ降ってきたらまたかけてもらうよってにな。
このまま行ってんか」。
「ああさよかへい。
ほな梶棒上げまっせ。
よいしょ。
ほなちょっと走らせてもらいますさかいな。
はい!はいこら!」。
「う〜んなかなか威勢のいい俥屋やがなあ。
こんな勢いのええ若い衆が狐が怖いっちゅうのはどういう訳やろな?おい俥屋。
おまはん家はどの辺になんねん?」。
「へえわたいはな高津の四番町でんねん」。
「お〜四番町というたらこの近所やないかいな。
どの辺りになんねや?」。
「へえ高津橋のな北詰を東へ入った所に大浦っちゅう大きな米屋がおまんねん。
そこの前の路地入ってったとこでなその辺で車夫の梅吉ちゅうて聞いてもろたらじきに分かりますわへえ。
昼間やったら少々遠いとこでも安うで行かしてもらいますんでなどうぞ覚えといとくなはれ」。
「ああ覚えとこう。
梅吉つぁんやな。
何かいな?家族はおかみさんと子どもしと3人がないぐらいか?」。
「いえいえ子どもはまだいてやしまへんねん。
嬶と2人暮らしですわ。
まあ家賃入れたら3人がないで」。
「なるほどな。
そら気楽でええな。
おかみさんは何かやってんのんか?」。
「もう暇がおますさかいな家でシャツのボタンつけしたりな帽子のリボンつけしたりと何じゃかんじゃ手仕事してますわいな」。
「いやいやそれでええのじゃ。
亭主が外の車を回し女房がうちらの車を回す。
夫婦は車の両輪のごとし辛抱が金じゃ。
幸せが来るまで頑張れ」。
「えらい面白い人やなあんた。
いや頑張ってますけどもな俥引きではなかなかうだつが上がりまへんわ」。
「いやいやそんな事ないて。
いやしかし見たところおまはんなかなか正直者らしいな」。
「ハハハッ正直だけは請け合いますわへえ。
自分で正直請け合うっちゅうのもけったいな話ですけどもな。
もうわたいの正直だけはな上にあほやとかばかやとかいう字がつきまんねん。
友達もな『正直者の梅や』てな事言うてくれますけどもな何も褒めてる訳やおまへんねん。
皆ばかにしてまんねや」。
「そんな事あるかいな。
正直は宝やと言うやないかいな。
『正直の頭に神宿る』という言葉もあるがな」。
「あきまへんて。
わたいらの頭に宿ってくれんのはなもう貧乏神か風邪の神ぐらいのもんでな損ばっかりしてまんねや」。
「いやいやそんな事ない。
人間正直にしてたらな必ずいつかええ事がある。
正直にしてるとな世の中に怖いもんがない。
大きな顔して道歩けるやろ?それが一番じゃ。
このごろ新聞見てるとな『悪徳車夫』てな言葉が載ってるがなああ俥屋にも悪い奴もおりゃおまはんみたいにええ人…。
おいおいおいだんだん遅なってきたやないかおい。
止まってしもうてどないすんねや!」。
「え〜旦那ぼちぼち向こうにな産湯の森が見えてきましたが…」。
「当たり前やないかい。
産湯へ向こうて走ってんねや森ぐらい見えてくるわいな」。
「この辺りからが物騒でねすんまへんけどこっから降りて歩いてもらわれしまへんやろか」。
「何を言うのやいな。
ついそこやないか。
もう一走り行きんかいな。
お前ほんまに怖がりやな。
おい俥屋。
わしが今ここでギロッと目ぇ向いたらお前びっくりするか?」。
「脅かさんように。
わてほんまに怖がりでんねん。
脅かしたらあきまへん」。
「ハッハッそう怖がるな。
わしゃ人間やないねん」。
「あ…あんさん今何を言いなはった?」。
「そう怖がるなっちゅうねん。
わしゃ人間やない」。
「ああ…余計怖い余計怖い!わたい人間やないお客さん乗したん生まれて初めてですわ。
ほ…ほなあんた一体何さんでんねん?」。
「わしか?わしはな産湯の稲荷のお使いの者じゃ。
今日土佐の石宮まで使いにたっての帰り道お前の俥に乗ってやったんじゃ。
大丈夫じゃ。
わしが乗ってたら誰が悪さをするかい」。
「ああそら理屈やな。
そらこんな人乗してたら狐や狸も悪さはせえへんやろうけど乗してる者が乗してる者やと思うたら気色が悪うてかなわんがな。
それでやな最前『狐や狸は親類か友達や』言うてはったん。
親類どころか正味やがなこの人。
あ〜もうどこ走ってんのやら分からんようになってきた。
旦那産湯楼の角まで来ましたが」。
「よし梶棒を下ろせ。
おい俥屋。
おめえ産湯の稲荷のお使いの者から20銭取るか?」。
「いえもう20銭は結構でございます!どうぞ池とドツボだけはご勘弁を」。
「ハッハッお前はなかなか正直者じゃ。
よし近々必ず福を授けてやるよってにな。
楽しみにしながら待ってえ。
わしが今から俥を降りると本体を現す。
それを見たらお前目が潰れるぞ」。
「アハハッ決して見ぃしまへん。
わて看板かぶって小そうなってますさかいなど…どうぞご退散を。
どうぞご退散を。
もうよろしいか?顔上げまっせ。
顔上げたら『ごめんまだやった』ちゅうのはあきまへんで。
よろしいな?目ぇ開けまっせ」。
「影も形もないがな。
あ〜怖っ!もう帰ろう。
ああ〜ほんまにもう何ちゅう日ぃやろ?今日はな。
ただ働きかいな。
あ〜そういうたらゆうべの夢見が悪かったんやな。
ゆうべ豚と相撲とった夢見たんや。
ゆうべは豚と相撲をとるわ今日は狐に俥乗せるわほんまにわし獣に縁があんねやな。
おい今戻った」。
「まあお帰りやす。
ご苦労さんどしたな。
どやった?今日は」。
「あかん。
もう暇な晩でな人一人通れへんのや。
もう去のかいなと思てたらな高津さんから産湯楼の角まで20銭の客や」。
「まあええ商いやないかいな。
ほんで銭は?」。
「それがないねん」。
「何でやいな?」。
「それがな俥に乗したんが人間やないねん!」。
「何やて?」。
「産湯のお稲荷さんでなお使いの狐や」。
「あほな事言いなはんな。
狐が俥に乗ったりするかいな」。
「狐馬に乗せるちゅう話があるがな。
明治の狐は俥に乗るかも分かれへんがな。
ほんでな『わしが俥から降りたら本体を現す。
それを見たらお前目が潰れる』ちゅうさかいなわしゃ看板かぶって小そうなっててなしばらくして顔上げてみたら影も形もないねん」。
「乗り逃げやがなそれはあんたもう…。
あんたの人のええには程があるで。
そんな事言うては損ばっかりしてんのやさかい。
しゃあない人やな。
もうよろし。
上がんなはれ。
なっ?俥はわたいが片づけといてあげるさかいに」。
「ああすまんけど頼むわ。
もう今日は一遍しか走らなんだけどえらい何やくたびれてもうたわ」。
「ちょっと…ちょっとあんたえらいこっちゃし。
俥ん中に忘れ物がしてあるし」。
「忘れ物?触りなや触りなや!ほかにお客さん乗してへんのやさかいな。
それはな産湯のお稲荷さんの眷族さんが忘れていかはった物や。
触ったりしたら罰が当たるで」。
「ちょっとあんたこれお金やがな。
「十円札で15枚150円入ってはるで!」。
「150円!?正一位稲荷大明神様ありがとうございます!正一位稲荷大明神様ありがとうございます!」。
「あんた何を言うてなはる?」。
「いやそれはな産湯のお稲荷さんからな授かったんや!」。
「何を言うてなはんなあんた。
これは警察へ届け出ないかん」。
「何を言うてる。
届けえでもええ。
『近々福を授けてやる。
楽しみにしながら待ってえ』言うてはったんや。
たちまち福が授かってありがたいがな。
それが証拠に書きつけかなんか置いてあるか?書いたもんでも一緒に入れてあるか?何にもないやろがな。
なっ?きょうびな150円てな大金をなむき出しで持ってる人があるかいな?」。
「いやむき出しやあれへんねがな。
ちゃんとハンカチに包んであんねん」。
「ほれ見てみぃハンカチに包んでそんなとこへポッと置いとくっちゅうのがおかしいがな。
そら授かったんや」。
「けどあんたこのハンカチ何や香水のええ匂いがしてあるで」。
「文明開化の狐は香水ぐらい使うわいな。
疑うたら罰が当たる。
そら授かった授かった。
こういうな喜び事ちゅうのは大勢の人に喜んでもらわんならんさかいなお福分けや。
これからな長屋ずっと回っといで。
『喜び事ができましたんでな皆さんに一杯飲んでもらいます』ちゅうて声かけといで。
三味線弾ける子がいてたやろ。
え?お美代ちゃんか。
あの子に来てもらおうよ。
やっぱり三味線がなかったら場が弾まんよってな。
でなこれから酒屋行ってな酒3升でも5升でもええさかいどんどんどんどん運んできてくれってな。
魚屋もまだ起きてるやろ。
余ってる物何でも構へん。
煮るなと焼くなとしてな料理してどんどん運んできてくれて。
家主さんとこにも寄ってな毛氈や燭台借りといでや!」。
さあ嫁さんも訳も分からずにウロウロしながら外へ飛び出します。
貧乏はしておりましても常の払いがきれいと見えまして酒屋も魚屋もどんどんどんどんと品物を運んでまいります。
そのうちに長屋の連中が集まってまいりまして…。
「こんばんは」。
「こんばんは」。
「こんばんは」。
「こんばんは」。
「さあさあさどうぞこっち上がっとくなれ」。
「何やえらいおめでたい事があったんやそうで」。
「そうでんねんええ。
産湯のお稲荷さんのな眷族さんを俥に乗せて俥賃タダにしたらたちどころにありがたい福を頂きましたんや。
あの床の間見とくなはれ。
お飾りしてまっしゃろ?十円札で15枚150円ちゃんとそろっとりまんねや」。
「そらなあんたがふだんからな正直にしてるさかいそういうおかげを頂けまんのや。
やっぱりお稲荷さんちゅうのは御利益のあるもんでっせ。
私もな伏見さんへ月参りに通ってまんねんけどなちょいちょいありがたいおかげ頂いとりまんねや」。
「さよか。
いや伏見さんもよろしいけどもなたまには産湯さんもひいきにしたげておくんなはれ。
地元ですさかいなちょいちょい間に挟んだっとくなれええ。
まあまあと…とりあえず飲んどくなれ飲んどくなれ。
え?あっお美代ちゃん来てくれたか!太鼓も持ってきてくれた?えらいすまんな。
ほなちょっと調子合わしてんか?ささっみんな飲んどくなれや。
150円なかなか飲みきられへんしまへんさかいな。
え?調子が合うたか!ほんならひとつ陽気に弾いた弾いた!」。
「さあさあグ〜ッとやってグ〜ッとやって!今日は朝までやってもらいますさかいな。
え?あっ私も頂きまんのんで。
へいへいえらいすんまへん。
頂戴します。
へいへい」。
「ほな皆さんな踊るなと歌うなとひとつ陽気に騒いどくなはれや」。
「うわ〜っ」と大騒ぎで。
一方この俥屋をだましたお客の方でございますが…。
「ハッハッ面白かったなあ!ええ?何を言うても信用するもんやさかいとうとう狐になってもうたがな。
けど気の毒な事したな。
まあまあええわ。
家聞いてるさかいな明日かあさってにでも銭の50銭でも届けてやろか。
怒りよるやろ…。
せや!150円!あ〜えらい事した!あれ懐入れてて滑り落としたらいかんと思て大事に手に持ってたのに途中から狐になったもんやさかい神経がそっち行ってもうたんや。
俥ん中へ忘れてきたがな。
どないしよあれ。
あ〜。
こらうかつに警察にも行かれへんでな。
警察へ行ったら乗り逃げがばれてわしが捕まるてなそんなあほな話あるかいな。
あ〜けどあの金がなかったら商いに触るしな。
そや正直者やちゅうてたのを頼りに今から行って謝って返してもらおう。
しょうもない冗談ちゅうのはするもんやないな。
これお稲荷さんの罰が当たったかも分からんで。
ほんまにもう…。
え〜高津橋を渡ってあっ大浦っちゅう米屋ここやな。
ちょっと聞いてみようか。
え〜ちょっとお尋ね致します」。
「へいへいどちらさんで?」。
「あのこの辺にな車夫の梅吉つぁんちゅうお方のおうちはおまへんやろかな?」。
「はあはあ梅やんとこですかいなへい。
それやったらこの前の路地入ってた所あの左側の家ですわへい。
明かりが漏れてまっしゃろ。
今日は何やめでたい事があったちゅうんでな長屋の者が皆集まって飲んでまんねん。
ほれ三味線の音が聞こえてまっしゃろ?」。
「はあはああの家ですか?えらいすんまへん。
派手にやってるなあ。
こらだいぶに減ったやろなあほんまに。
え〜ちょっとお邪魔を致します」。
「へいへいどちらさんで?」。
「あの車夫の梅吉つぁんちゅうお方のおうちはこちらでっしゃろか?」。
「へいへい梅やんとこここです。
あっすんまへん今日はね商売は休みや言うてはりまんのやが」。
「いえそやございませんので。
梅吉つぁんにお会いしてちょっとお願いしたい事がございまんので」。
「ああさよか。
ほなちょっと待っててとくなはれ。
おい梅やん」。
「何やな?」。
「お客さんが見えてるで」。
「今日はな商売休みやさかいなまたあんじょうお願いしますよろしゅう言うといて」。
「いやそれがな何やお目にかかってお願いしたい事がある言うてはんねんけどな」。
「あ〜そうかそうか。
ほなみんなちょっと待って。
え〜こらまあどちらさんで?」。
「先ほどはどうも」。
「うわ〜!正一位稲荷大明神様ありがとうござます!正一位稲荷大明神様!いや皆さん方最前話をしとりましたな産湯のお稲荷さんの眷族さんが自らわざわざお越し下さいました。
お賽銭のご用意お賽銭のご用意を。
まあまあどうぞこっち上がっとくなれ」。
「いえ実は折り入ってあんさんにお願いしたい事がございまんので」。
「いやあんさんのお願い分かってますわ。
赤飯と油揚げ明日の事にしてなまあまあどうぞこっち上がっとくなれ。
グ〜ッと一杯」。
「そんなふうに言われましたらもう穴があったら入りとうございます」。
「えっ穴があったら入りたい?めっそうな!ちゃ〜んとお社を建ててお祭り致しますがな」。
(拍手)桂宗助さんの「稲荷俥」でございました。
いかがでした?いや〜面白かったですね。
落語の途中で生のお囃子を聴けるのは本当にあっ生で見に来たっていう感じがして。
はめもんっていうんですよね。
あの生演奏はうちの売りでございますんで。
すごいよかったです。
また次回もおつきあい願えますか?はい。
(2人)お願いします。
それでは皆さんまた次回。
失礼します。
2014/12/12(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会 ▽「替り目」桂まん我、「稲荷俥」桂宗助[字]
▽「替り目」桂まん我、「稲荷俥」桂宗助▽NHK上方落語の会(26年11月6日)から▽ゲスト:宮地真緒(女優)、ご案内:小佐田定雄
詳細情報
番組内容
桂まん我の「替り目」と桂宗助の「稲荷俥」をお送りする。▽替り目:酒に目のない男、今日もいい気分で帰ってくるが、飲み足らない。嫁はんにもう少し飲ませろと角のおでん屋へ買いにいくように言いつけるのだが…。▽稲荷俥:俥屋の梅吉が高津宮のところで客待ちをしていると一人の紳士が産湯までやってくれという。この男「わしは人間ではなく産湯の稲荷のお使いの者だ」というのだが…。▽ゲスト:宮地真緒▽ご案内:小佐田定雄
出演者
【落語家】桂まん我,桂宗助,【ゲスト】宮地真緒,【案内】小佐田定雄
キーワード1
落語
キーワード2
漫才
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – トークバラエティ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:54128(0xD370)