北海道は低気圧の通過に伴って、雨や雪が降り、内陸部は雪が降るでしょう。
日本中の心を揺さぶってきた一人の俳優がいる。
今年81歳。
演じてきたのはまっすぐに生きる男。
・ほら見てみろ!・ほら!勇さん!ほら!何だか分かる!?・ハンカチよ!ほらちゃんとあったじゃないの!
(鳴き声)ウォー!寡黙にして圧倒的な存在感。
だがその素顔は厚いベールに包まれてきた。
去年秋に始まった6年ぶりの映画撮影。
高倉が異例の密着取材を受け入れた。
飾らない素顔。
知られざる覚悟。
用意!スタート!
(主題歌)死んでもらうぜ。
八甲田を一気に踏破する!俳優生活56年。
時代を超える伝説。
自分に課した生き方がある。
孤独を貫く信念。
映画俳優・高倉健。
その知られざる素顔に密着!高倉が主演する映画の撮影は去年秋小さな港で行われていた。
おはようございます。
高倉の車が到着するのはいつも最後だ。
素顔の高倉は意外にも話し好き。
冗談も飛ばす。
高倉は俳優の色に合わせて作品が作られる数少ない存在。
ほとんどの作品で主役を演じてきた。
今もハリウッドなどからの出演オファーは引きも切らないが心から納得する仕事に出会うまで高倉は動かない。
今回演じるのは妻に先立たれた刑務所の指導技官。
妻の遺言に導かれ頑なな生き方を変えていく男の役だ。
作業指導を願います。
・よし。
わらび手と本体の間に隙間ができてしまいます。
見せてごらん。
はい。
ここをもうちょっとうまく削ればいいんじゃないか。
(風鈴の音)亡くなった妻は2通の遺言状を残していた。
1通は自分の骨を故郷長崎の海にまいてほしいというもの。
ふるさとの海に散骨してほしいっていうふうに書いてあった。
そうされるんですか?一度その海を見ておきたいんだよ。
そしてもう1通は長崎で受け取る事になっていた。
妻は自分に何を伝えたかったのか迷いながら長崎へ向かう。
量が多いですから先どうぞ。
いえいえとんでもない。
主任が倉島さんを見込んだ勘がすごいって話です。
やがて出会いの中で人生で本当に大切なものに気付かされていく。
撮影に臨む高倉のスタンスは独特だ。
現場ではほとんど座らない。
ロケ地の散策も積極的に行う。
その地域を題材にした小説も丹念に読むという。
この日は地元の墓地を回っていた。
10月。
映画の撮影は佳境を迎えようとしていた。
この日撮影するのは町外れの写真館で偶然妻の昔の姿を目にする場面。
その時沸き上がる心の内をどう表現するか。
高倉の真骨頂は最小限のセリフで思いを感じさせる演技。
何より大切にするのは自分の心をよぎる本当の気持ち。
込み上げる思いが本物ならおのずとにじみ出ると高倉は考える。
現場の空気スタッフの緊張感。
そこに身をさらしながら集中力を高めていく。
本番を演じるのは基本的に一度だけ。
準備が整った。
偶然目にする妻の写真にどんな思いが込み上げるのか。
セリフはひと言しかない。
ありがとう。
(降旗)ボールド!一気に演じきった。
(降旗)はいOK。
(スタッフ)OKです!ありがとう。
(スタッフ)はい本番。
用意…スタート!テクニックを排し現場に心をさらして込み上げるものを感じる。
飾り気のない演技を高倉は貫いてきた。
撮影の合間高倉は地元の人やスタッフに声をかけて過ごす。
この日撮影を見学に来た中学生が集まっていた。
(中学生たち)ありがとうございます!高倉には人の人生を演じる俳優として肝に銘じている事がある。
27番!にしちが通る水戸街道ってんだ。
下に〜下に!若い頃の高倉は持ち前の気性を生かして仁侠ものなど荒っぽい役柄を演じていた。
死んでもらうぜ。
しかし次第に自分の持ち分を全うする男を演じるようになる。
雪の八甲田で…。
会いました。
おめえも鉄道員だべ。
幹部の1人だべ。
やる事がいっぱいあるんじゃねえのか。
それはお父さん鉄道員だもん。
しかたないっしょ。
役を演じその役に生き方を教わる。
そんな俳優生活を50年以上続けてきた。
撮影のない日。
高倉が欠かさず通う場所がある。
お待ちしておりました。
都内の理髪店だ。
この店の個室は高倉専用になっている。
高倉の映画の髪形は40年来ずっとここで生まれてきた。
仕事がある時もない時も高倉はここにほとんど毎日通う。
部屋には高倉の私物も置かれている。
プライベートをさらけ出せる場所は決して多くはない。
映画の撮影は一日に何度も集中する事を求められる過酷な現場。
心と体を最高の状態に保っておくのは簡単な事ではない。
そのために高倉さんは細心の注意を払ってきた。
高倉さんは意外にもお酒を飲まない。
タバコも30年以上前にやめた。
高倉さんの朝食はナッツがたっぷり入ったシリアルにヨーグルトをかけたものだ。
朝しっかり食べたあとは夜まで食べ物はほとんど口にしない。
本当は甘い物も大好きだが我慢する。
そして体力を維持するためのウォーキングを欠かさない。
大事なアイテムがある。
(笑い声)しかし高倉さんが最も気を砕くのは心をいつも感じやすい状態にしておく事。
台本に秘密がある。
実は台本の終わりに特別なものが貼られている。
東北の被災地の写真と詩が2つ。
今見たって俺なんか力出てくるもんね。
こんなちっちゃい子がこれ自分が飲むだけじゃなくてきっと誰かに飲ませるために持って帰るんだって想像させるじゃない。
そしてこれは高倉さんがいつも持ち歩いている本。
山本周五郎の小説に登場する男たちの生き方がまとめられたものだ。
厳しい境遇を耐え忍ぶその姿に力をもらうという。
(高倉)「火を放たれたら手で揉み消そう石を投げられたら体で受けよう斬られたら傷の手当てをするだけどんな場合にもかれらの挑戦に応じてはならないある限りの力で耐え忍び耐えぬくのだ『樅ノ木は残った』」。
実在でも架空でも人の生き方から力をもらい糧にする。
高倉さんはそうやって自分を奮い立たせてきた。
(笑い声)
(笑い声)じゃあね。
(綾瀬)はい。
お先に失礼します。
お疲れさま。
この日撮影の合間の事。
共演の綾瀬はるかさんと雑談が始まった。
話は意外な方向に進んだ。
(スタッフ)お待たせしました。
よろしくお願いします。
用意スタート!俳優として50年以上を過ごしてきた高倉さん。
幾多の役柄に思いを重ねて生きてきた。
しかしその陰で俳優という仕事に深い葛藤も抱えてきた。
高倉さんは1つの作品を終える度人前から姿を消す。
その期間は時に数年にも及ぶ。
俳優・高倉健。
その歩みをたどる。
高倉さんの生まれは北九州。
かつて炭鉱で栄えた中間市だ。
本名小田剛一。
昭和6年生まれ。
父は鉱山で働く男たちのまとめ役だった。
炭鉱の町特有の荒々しい気風が当時町を覆っていた。
その中でも高倉さんの家は裕福だった。
海外を渡り歩く貿易商になる事を夢みていた。
しかし東京の大学を卒業した高倉さんはつまずく。
大手企業へ就職が決まりかけたがサラリーマンをする気になれない。
故郷に一度は戻ったものの家出同然で再び上京やむなく仕事の口を探した。
つてを頼りに芸能事務所のマネージャーに志願すると居合わせた映画会社の重役に俳優へと誘われる。
食べるためやるしかなかった。
初めてのカメラテスト。
その恥ずかしさを高倉さんは忘れられない。
演技などやった事もないど素人。
何をやっても仲間の失笑を買った。
ところが僅かひと月半後思わぬチャンスが転がり込む。
その容姿を買われいきなり主演を命じられたのだ。
卑怯者!それが伝統ある沖縄武術家の言う言葉か!以後8年必死で演技を学んだ。
そして30代半ばでついに当たり役を引き当てる。
渡世人のケンカならこんなひでえ仕打ちしてもいいのかよ!不条理な仕打ちに耐えて復讐を果たす仁侠もの。
そちらさんが秩父の親分さんですか?更に「網走番外地」シリーズが爆発的なヒットになる。
高倉さんはすさまじいペースで撮影に駆り立てられるようになる。
1年で10本以上映画を撮りきる過酷なスケジュール。
似たようなストーリーを何本も撮った。
はいOK!次第に疲れ果て演技に熱を込められなくなった。
そんなある日。
自分の映画が上映されている劇場をのぞき衝撃を受ける。
スクリーンに向かってかけ声が飛ぶ。
気持ちが入らなかったシーンでも観客は熱狂していた。
自分がしている事は何なのか。
一つの思いが消えなくなった。
45歳の時高倉さんは決断を下す。
仕事を保証してくれる映画会社を辞めフリーになった。
高倉さんは決めていた。
内容もギャラもスタッフも納得できる映画だけを選ぶ。
そのかわり最も厳しい環境で俳優として自分を磨く。
出演を決めたのは映画「八甲田山」。
これより八甲田を一気に踏破する!進め!氷点下20度。
吹雪の中の進軍を体当たりで演じる。
日本映画史上最も過酷と言われたこの映画のために3年間他の仕事を全て断った。
(吹雪の音)その母さんも父さんより先に死んでしまった。
そして数々の名優に接しその立ち居振る舞いを学んだ。
その教えは演技のテクニックというようななまやさしいものではなかった。
僕はどうしても…。
例えば映画「海峡」で共演した笠智衆さんの姿。
強烈な教えが突き刺さってきた。
役を生き自らの生き方も磨くのが俳優という商売。
「高倉健」はどう生きるのか問われている気がした。
以後自らにどんな生き方を課してきたのか高倉さんは語ろうとしない。
でも一つだけはっきりしている事がある。
自分である以上に「高倉健」であろうとしてきた事。
それはだからねえ…。
母親が亡くなったその日は映画「あ・うん」の撮影中だった。
お前たち夫婦が駆け落ちしたと間違えられたんか!東京からいきなり亭主が…。
悲しみはおくびにも出さず軽妙な男を演じきった。
俳優になって56年。
「映画の中で人生を送る」と言われる高倉さん。
今こんな思いで俳優という仕事に向き合っている。
そういう事なんじゃないのかな。
分かんないそれも監督に聞いて。
11月。
映画の撮影は終盤にさしかかっていた。
東京のスタジオに平戸の食堂の様子が再現されている。
女房が死んでからこれが届きました。
どうして…生きてるうちに言わなかったんだろう女房にとって自分は何だったんだろうって。
今回の映画は心の動きを丹念に作り上げるため撮影もストーリーの順序どおりに行われる。
高倉は主人公の悩みを共有しながら撮影に臨んでいた。
再び長崎に入った。
ここからラストシーンにかけて高倉演じる英二には大きな展開が待っている。
自分が生きる道を変えようと決意が固まっていく。
何なんだろうね。
英二は妻の骨を海にまいたあと長く勤めてきた刑務所の仕事を辞めると決める。
上に用意ばしましたけん。
いえいえ。
妻の故郷への旅で人々と触れた事がきっかけだ。
倉島さんと一緒に飲もうや。
えっ?そっとしておいてやらんね。
全く気の利かんとやけん。
そこで英二はつつましく生きてきた人々がある悲しい犯罪を隠している事を知る。
英二は自分の職をかけてそれを見逃す。
男が仕事をかけてまで旅先の人に肩入れするのは普通の事ではない。
その決意がどう生まれるのか高倉は糸口を探そうとしていた。
妻の故郷に設定された長崎平戸。
その意味を考え続ける。
いえいえ。
乗ってない。
高倉はこの町に漂う独特の物悲しさを気にしていた。
江戸時代ヨーロッパとの貿易の窓口となった平戸では人知れず悲しい別れや宗教の対立が生まれてきた。
この町で海を相手に紡がれてきた暮らしを想像する。
ああなるほど…。
仕事を辞めると決めるシーンの撮影まで残り僅か。
高倉は決意に至る何かをつかみかけていた。
その日の夜の事だった。
散骨のために船を出してくれた漁師にお礼を伝えるシーン。
地元の漁師との最後の会話だ。
相手役の漁師を演じるのは大滝秀治87歳。
高倉が尊敬するベテランだ。
じゃあお願いします。
用意…スタート!本番前のテスト。
大浦さん。
お世話になりました。
おいおい!油代だけもろうとけ。
・は〜い!この時高倉の表情が変わった。
(降旗)はい。
(スタッフ)はいカット!そして本番。
用意…スタート!大浦さん。
お世話になりました。
おいおい!油代だけもろうとけ。
・はい。
久しぶりにきれいな海ば見た。
(降旗)はい。
(スタッフ)カット!
(スタッフの声)高倉は泣いていた。
お疲れさまでした。
ありがとうございました。
ありがとう。
ありがとう。
お疲れさまでした。
本気で大滝の演技に向き合った時高倉の心をよぎったものは何だったのか。
翌日。
高倉は晴れ晴れとしていた。
(降旗)本番。
用意…スタート。
仕事を辞めると決め退職願を出すシーン。
映画の中の英二からも迷いが消えていた。
え〜実景班は実景に行きます。
平戸での撮影も終わり共演者も少しずつ引き揚げていく。
役の中の人生とも撮影を通して出会ってきた人とも別れる時が近づいてくる。
ありがとうございます。
高倉は今回の作品で出会った一人一人と最後の時を共にする。
もうさみしい。
さみしいですね。
・早引きしてきたのか!ほんとかよ。
今年81歳を迎えた高倉。
どうしても頭から消せない思いが募る。
そして撮影も最後の朝を迎えた。
(音楽)高倉は好みの曲を聴きながら静かに出番を待っていた。
いいとこ選ぶよね。
残すはラストシーンのみ。
(スタッフ)おはようございます。
(スタッフ)おはようございます。
(高倉)おはようございます。
通算205本目の映画最後のセリフに臨む。
(スタッフ)本番スタンバイ!
(スタッフ)はい本番いきます!用意…スタート。
自分は今日…ハトになりました。
(降旗)はい。
(スタッフ)はいカット!
(拍手)
(拍手)全ての撮影が終わった。
(一同)お疲れさまでした!
(主題歌)今年4月。
映画の完成試写会に高倉が現れた。
(拍手)難しいね。
あの…生業だと思いますけどね。
プロフェッショナルというのは生業だと思いますね。
以上です。
心の声「曲がり角を曲がった先に何があるのかは分からないの」。
2014/11/24(月) 13:05〜14:20
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「高倉健スペシャル」[解][字][再]
「幸福の黄色いハンカチ」、「鉄道員」などで、日本中の心を震わせてきた高倉健が、異例の密着取材を許可。演技の秘密と謎のプライベートに迫る73分を緊急アンコール!!
詳細情報
番組内容
「幸福の黄色いハンカチ」「鉄道員」などで、日本中の心を震わせてきた高倉健。数々の伝説を身にまとう高倉が、最後の映画となった「あなたへ」の撮影現場で、異例の密着取材を許可した。寡黙な演技が生みだされる瞬間にカメラが肉はく。知られざる素顔…。さらに、独自の健康法や行きつけの床屋さんでの様子、心の支えにしている本など、プライベートの秘密も一部公開。高倉健の仕事の流儀に迫るスペシャル版を追悼アンコール!!
出演者
【出演】高倉健,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
キーワード1
高倉健
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映画 – その他
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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