アスリートの魂「野生へ駆けろ トレイルラン 山本健一」 2014.12.18


男は走る。
なぜ山を走るのか。
無心で走ってるとその野生状態になりやすい。
肉体の限界を迎えた時思いも寄らない力が湧いてくるといいます。
山岳地帯を駆け回るトレイルラン。
160キロ以上の距離を昼夜を問わず走るレースが彼の闘いの舞台です。
国際大会で次々入賞。
2年前には日本人として初めて優勝を勝ち取りました。
今35歳。
故障を繰り返してもなお走り続けてきました。
限界を超えて走り続ければ未知なる自分ときっと出会える。
今年山本選手は険しい山や谷が立ち塞がる世界一過酷なレースに初めて挑みました。
次々と訪れる試練。
闘う相手は己自身。
山本選手はどんな走りを見せるのか。
まだ見ぬ自分へ進化しようともがく壮絶な闘いを見つめました。
アルプスを望む山梨県韮崎市。
山本選手のふるさとです。
朝向かったのは市内の工業高校。
いきま〜す。
山本選手はこの学校で9年間体育の教師を務めています。
教師とトレイルランナーの二足の草鞋を履く山本選手。
アマチュアながら世界のトップクラスで活躍する数少ない選手です。
はいやめ〜!授業の合間も体の鍛練は怠りません。
部屋では椅子の代わりにバランスボール。
バランスボール乗ってると常に動いてるじゃないですか。
それが膝とか腰にいいんじゃないかなと思ってバランスボールしてます。
山本選手は山岳部の顧問。
毎日練習を見ています。
坂道ダッシュ。
砂浜坂道ダッシュ。
山で砂浜坂道ダッシュ。
高い山に恵まれた山梨県。
練習場所には事欠きません。
うわ〜!「うわ〜!」とか言ってる。
ファイトファイト!生徒たちとの練習も貴重なトレーニングの時間。
へいへいへいへい!おりゃ〜!はい立つ立つ立つ立つ立つ。
毎回この時は死ぬかと思う。
いやでも苦しいけどこれ楽しいですよみんなでやれば。
大人の意地もありますんで。
そこはやっぱね出さなきゃいけないじゃないですか。
しっかりとした練習ができてると思いますので毎回練習には満足してます。
まあ負けてられないですからね若いもんには。
北アルプスに向かう山本選手の姿がありました。
夏休みを利用した2泊3日の単独合宿です。
今回は長い時間走るというのが最大の目標ですね。
翌朝5時半。
山本選手です。
登山口から1,300メートルの高さを1時間半で駆け上ってきました。
富士山じゃねえか?あれ。
富士山。
いやいやいや富士山見えたよ。
すごいよこれ。
練習でもレースでも山を楽しんで走るのが山本流です。
この日は3,000メートル近い山々を尾根伝いに走り後半は谷を下りたり登ったりして戻ります。
その距離フルマラソン並みの40キロ。
トレイルランに必要なのは急な斜面を走りきる強靱な脚力と酸素が薄くても走り抜く心肺機能の強さです。
山本選手通常の登山だと2日はかかるコースを7時間で戻りました。
イヤッホー!戻ってきた。
戻ってきた。
薬師沢下りて。
「おかしいだろそれ」みたいな。
すごい…。
さてじゃあ行くか。
すごい。
山本選手は5年前初めてトレイルランの国際大会に出場。
走る度に上位に名を連ねてきました。
2年前には日本人として初めて優勝を成し遂げます。
トレイルランとは山岳地帯を走る長距離レース。
中でもトップ選手がしのぎを削るのがおよそ160キロの過酷なレース。
フルマラソンの4倍を昼夜を問わず走ります。
コースは舗装されていない登山道。
急な崖や岩場などが少なくありません。
山本選手の強さは下り坂にあります。
足場の悪い急な下りもトップスピード。
両手を広げてバランスをとり体の軸がぶれません。
このためスピードを落とさずに駆け下りる事ができます。
下りが怖いんじゃなくて下りが楽しい。
怖いと思うと体が動かなくなるんですよね。
絶対に。
力むんで。
そこが楽しいとかこれ最高に面白いなとか難しくて面白いなと思った方が体が反応してくれるんですよ。
これを武器に山本選手は体力に勝る海外勢と対等に渡り合ってきたのです。
幼い頃からかけっこが得意だった山本選手。
遊び場は自宅の裏山でした。
強靱な脚力を生み出したのは中学生時代に考え出したある遊びでした。
これなんですよ。
汚いけど。
こうやってパコーンってやって。
…で向こう見てて。
大体どこ行ったかなって見て。
ゴルフボールを裏山に打ち込みそれを捜して走り回る。
一日中繰り返しました。
普通でしたね。
当たり前の事。
そんな感覚でしたね。
高校時代は山岳部に入部。
20キロの荷物を背負って頂上まで走るレースで高校総体優勝を勝ち取りました。
トレイルランとの出会いは24歳の時。
友人に誘われ国内のレースに参加しました。
距離は走った事もない72キロ。
それでも山を駆け回ってきた山本選手はすぐにその魅力に取りつかれました。
本当それは変態ですよね。
人から言わせると。
きついものが好きっていうね。
でもきつければきつい方がそのあとの喜びが大きいですよね。
間違いなく。
その後過度な走り込みがたたり足に大ケガを負いました。
右膝の半月板を損傷。
手術を3回も繰り返しました。
今山本選手の右膝は曲がっています。
しかしこれほどのケガにもかかわらず走りたいという思いはますます強くなっていきました。
ケガから復帰すると毎年大きな大会に参加していきます。
そしてレース中思いも寄らない体験をします。
すごい岩でもそれ全部平らなんですよね。
感覚的には。
足が痛くても全然痛くなくなるんです。
すごい速く走れるんです。
獣のように。
それを僕は野生の自分と言ってるんですけど。
ゴーゴー!こう…サササッと。
やっぱり状況が…イヤッホー!苦しければ苦しいほど自分の殻を破る事ができる。
山本選手は未知なる自分を求めてより過酷なレースに挑み続けます。
自分の可能性を知りたい。
人間の潜在能力の深さというかそういうものを知りたいなっていうのはありますね。
どこまでいけるのかなっていうのは。
それを追い求めている気がします。
この日山本選手はトレイルランの国内レースに臨みました。
秋に開かれる特別な大会を走りきるためです。
切り立った山や深い谷がいくつも行く手を阻み選手の半分が脱落します。
172キロの難コース。
一歩足を踏み外せば転落しかねない断崖絶壁も待ち受けています。
この大会ならば自分の潜在能力をもっと引き出してくれるかもしれない。
山本選手はこのレースに挑む事を決意しました。
レユニオンを走りきるため山本選手はある事を実戦で試そうとしていました。
スタート!手術をした右膝に負担がかからない新フォーム。
1年をかけて取り組んできました。
ポイントは両足に体重が均等にかかるように走る事です。
レユニオンを想定して急な斜面でも新しいフォームが崩れないように意識します。
ところがレース終盤。
痛みが走ったのはケガをしていない左足でした。
下りで今日は痛みが…。
新しいフォームはまだ身についていませんでした。
やっぱりまだ1か所に負荷がかかってるのかな。
まだまだですね。
一体どこに問題があるのか。
よろしくお願いします。
フォーム改造を指導してくれている水口慶高さんを訪ねました。
水口さん早速問題を探り当てました。
登ってきて。
左足を見ると爪先が外側に流れていました。
手術した右足をかばって左側に余計な力がかかっているのです。
この形で着地すると左の足首に大きな負担がかかり痛みが出てしまいました。
こう来たあとに体幹ごと前にスライドしていって真下に着くっていう…。
体重を左右均等にかけて走るフォームをもう一度確認します。
爪先が外側に流れないように矯正します。
今はちょっとしっかりこれをものにするまでゆっくりやります。
じっくりやります。
このフォームをものにして未知なる自分を手に入れたい。
大会まで2か月です。
こっちもちっちゃいよ。
山本選手は5人家族。
よし。
大きな葉っぱだよ。
3人の娘と一緒に庭で野菜の収穫です。
大きいの取って大きいの。
取れたての野菜で食事を作るのは…食品会社の研究員です。
山本選手を栄養面でサポートしています。
しかし夫が険しい山を走る事には不安もあります。
一つ間違えば事故につながりかねないというのです。
(囲希)健一は絶対にいつも「帰ってくるから」って事を言うのでそれを信じてというか…。
でも危険な所にいる事は確かなのでどこかもしかして何か万が一の事が起こってもしかたないなって事は心の隅にというか心の準備というか何て言うんですかね…ありますね。
(プリンターのアラーム)囲希さんが何か作っていました。
何してるの?トトのね応援のTシャツを作ってるんだよ。
ほらひかりちゃんも載ってるよ。
幼い子どもたちを抱えて海外の大会に行く事はできません。
そこで娘たちの写真をプリントしたTシャツを持っていってもらおうと考えました。
(囲希)誰かな誰かな〜?誰かな誰かな〜?ひかり!
(囲希)え?さっちゃんいた?さっちゃんいたね。
さっちゃんいたね。
気持ちよくゴールしてもらえるっていうのが一番の願いですけどそうは言っても全力を出し過ぎてケガしたりとか無理をしてしまってもあれなのでゆっくり走って気持ちよくゴールして結果もついてきて無事に帰ってきておいしいごはんを食べると。
それがベストですけど。
過酷なレースに臨む山本選手へ家族から精いっぱいの応援です。
無事に帰ってきた姿を見てもらいたいというか。
子どもにも。
それを全力でやる自信はあるし絶対やらなきゃいけないなと思ってる事なのでそれは。
大会2週間前。
3,000メートル近い山を走り込む山本選手の姿がありました。
険しい山がそびえるレユニオンを想定した最後の練習。
走った距離は大会直前にもかかわらず30キロに及びました。
10月23日アフリカ大陸の東に浮かぶレユニオン島。
急しゅんな山を抱くこの島でいよいよ大会が開幕しました。
スタートの時間は午後10時30分。
世界中から2,300人の選手が集まりました。
不眠不休で走り抜く172キロのレースが始まります。
(スタートの掛け声)
(歓声)
(拍手と声援)すごいなここ。
面白い。
すごい。
びっくりした今の所。
山本選手が走るコースです。
海岸線からスタートして2,000メートル以上の山を登り大きな谷を下ります。
そして一番の難関は死の谷です。
直径12キロに及ぶ大きな谷。
その中にある小高い山をいくつも越え最後に1,100メートルの絶壁を一気に登ります。
全行程172キロ。
夜明けも日没も走りながら迎える耐久レースです。
撮影はカメラマン2人が分担して走りながら行いました。
コースには道に迷わないように蛍光塗料が塗られた目印がつけられています。
標高2,100メートル。
天候が急変しました。
ランナーの体温を容赦なく奪います。
しかし山本選手スタート直後の高揚感は衰えません。
夜が明けても快調な走りは続いていました。
はいはいやいやいやいやいやい。
すごいね晴れてるね。
ベリービュー。
ベリービューだよね。
フォーム改造の成果で急斜面でも足の痛みはありませんでした。
スタートから65キロ。
チェックポイントに15位で到着しました。
(拍手)いや〜危なかった。
ここまでめちゃくちゃ楽しい。
楽しい事以外ない。
ジェルは?ジェルいるいる。
何にもない?何もない。
空になりました。
(笑い声)同行したスタッフから走りながらとれる補給食や水を受け取るとすぐに出発。
一等兵行ってきます。
(拍手と声援)休憩を取る事もありませんでした。
(拍手)ところがスタートから10時間急激にペースが落ちました。
襲ったのは激しい睡魔。
滑りやすい岩場を長時間集中して走り続けたため脳が激しく疲労したのです。
午後4時。
山本選手は最大の難所死の谷の中にいました。
ここを抜け出すには目の前の絶壁を1,000メートル以上登らなければなりません。
急しゅんな坂を3時間登り続けた山本選手。
う〜っ!足を進めるのがやっとでした。
う〜っ。
死の谷を越えればあとは下り。
そこで自分の走りを取り戻したいと考えていました。
もうすぐ頂上。
チェックポイントです。
(歓声)はい来い来い来い!
(拍手)死の谷をなんとか乗り越えました。
ここまでで多くの選手がリタイア。
シャツ替えなくていい?シャツもいいです。
どんなレースでもチェックポイントで座る事のなかった山本選手。
初めて倒れ込みました。
こっからはもうバッチリですよ。
こっからもうハイスピードで行っちゃいますよ僕。
行ってらっしゃい。
(拍手)じゃあね頑張ってね!頑張れよ!残りは50キロ。
得意の下りです。
ところが再び夜を迎えた時の事です。
走り続けて24時間。
またも睡魔が襲います。
やがて経験した事のない事態が起こりました。
意識がもうろうとしてスピードを上げる事ができません。
その時でした。
暗闇の向こうに町の明かりが。
残りは僅か5キロ。
このまま野生の自分に出会う事なく終わりたくない。
何かに取りつかれたような走り。
あっ!転んでも走り続ける。
カメラマンがついていけないスピード。
やがて見えなくなりました。
ゴール直前。
(拍手)山本選手です。
残り200メートル。
ゴールを目指します。
(拍手と歓声)29時間4分8位入賞です。
思うように走れなくても走り続けた172キロ。
己と闘い抜きました。
求めていた新しい自分を最後の最後につかんだレースでした。
ちょっと途中うまくいかない部分がありましたね。
でも最後の下り。
あそこの上からの下りなんだけどこれは…いい走りができました。
本当に。
苦しみを越えれば人は進化できる。
山本健一選手は走れる限り限界に挑み続けます。
ありがとうございました!お疲れさまでした。
ありがとう!
(拍手)2014/12/18(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「野生へ駆けろ トレイルラン 山本健一」[字]

山岳を不眠不休で走り続けるトレイルラン。山本健一選手は、欧米選手が上位を占めてきたこの競技で、日本人として初めて優勝した第一人者だ。自らの限界に挑む姿を追う。

詳細情報
番組内容
トレイルランは急しゅんな山岳地帯を24時間以上走り続ける過酷な競技。山本健一選手は一昨年、国際大会で日本人初の優勝を成し遂げた。本職は山梨県の高校教師。何度もケガに見舞われながらも走り続けてきたのは、さらなる自分の可能性を知る喜びがあるからだ。今年、山本選手は世界最難関と言われるフランスのグランド・レイド・レユニオン大会への初参戦を決意した。野生の極限の走りを求めて闘う姿を見つめた。語り:山本耕史
出演者
【語り】山本耕史

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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