プロフェッショナル 仕事の流儀「漫画編集者・佐渡島庸平」 2014.12.12


そのために今回の改正ということもあるし、でも同時に、技術者、科学者、研究者のインセンティブを高めていかないといけないということだと思います。
研究開発へのきちっとした投資も必要ですよね。
そうですね。
これもやっぱりちょっと減っているんで、心配なところですね。
国の役割もあると思います。
札幌市内のとある書店。
お世話になります。
コミック担当八島と申します。
佐渡島です。
(2人)よろしくお願いいたします。
その男は店員をプレゼント攻めにしていた。
漫画家オリジナルの色紙に作品の関連DVD。
そしてこの決めゼリフ。
よろしくお願いします。
ありがとうございました。
この男ただのセールスマンではない。
宇宙行くの夢なんだろ。
諦めんなよ。
もし諦めきれるんならそんなもん夢じゃねえ!1,400万部を売り上げアニメにもなったマンガ「宇宙兄弟」。
無名の漫画家の才能を見いだしヒットに結び付けた立て役者。
そしてこのドラマもその男が手がけたマンガが原作。
だからお前らだまされたくなかったら損して負けたくなかったらお前ら勉強しろ!手っとり早い方法を教えてやる。
東大に行け!東大受験という異例のテーマを扱いながら600万部を売り上げた「ドラゴン桜」。
常識破りの営業戦略で驚異のヒットに結び付けた。
佐渡島庸平。
35歳にして出版業界の革命児と言われる男。
その原点は遠く南アフリカで過ごした少年時代。
心揺さぶられた光景があった。
朝7時。
佐渡島庸平はお気に入りのヘッドホンをつけて会社に向かっていた。
(取材者)朝は何聴いてらっしゃるんですか?佐渡島は好きなものにはとことんのめり込む性格だ。
(取材者)スカパラ好きなんですか?7時過ぎ原宿の雑居ビルにある事務所に到着した。
いつも圧倒的な一番乗りだ。
佐渡島は2年前まで都内の大手出版社に勤めていた。
しかし33歳で退社。
今漫画家と直接契約するフリーの編集者として新たな会社を立ち上げている。
そうですね。
ただ…本気の人はもうみんな…。
この日契約している漫画家の一人を訪ねた。
ヒットマンガ「ドラゴン桜」の作者だ。
今佐渡島たちとタッグを組み再び野心的な連載に挑んでいる。
編集者の基本的な仕事は漫画家の伴走者を務める事だ。
日本とアメリカで時差があってもビジネスでも5年とかだろうと思うじゃないですか。
共にストーリーを練り資料やアイデアを提供しながら制作を後押ししていく。
現在連載しているのはエリート中高生の集団が学校の経営資金を投資で稼ぎ出すという異色のストーリー。
中高生が投資に挑むという三田のアイデアに佐渡島たちが金融の最新動向を加え投資の本質に迫る物語に練り上げてきた。
だが佐渡島は単なる漫画家の伴走者にはとどまらない。
生み出された作品をいかに売り込むか。
そこにあらゆる手を駆使する事こそ佐渡島の真骨頂だ。
ここ20年出版不況と重なるようにマンガ雑誌の売り上げは約6割も落ちている。
漫画家の収入に直結する単行本も売り上げは減少。
ゲームなど娯楽が多様化する中でマンガ業界には逆風が吹いている。
その中でヒットを生み出してきた佐渡島。
この日検討していたのはマンガになじみのない層に作品を売り込むための方策だ。

(パソコン)マンガに音声をつけて動画にしアニメファンに興味を持ってもらう作戦を考えていた。
(動画音声)「…ここに誓い入学の言葉とします」。
佐渡島は作品を知らしめるためならあらゆる手を試す。
(佐渡島)それで「インベスターZ」が始まって…。
三田のマンガの認知度を少しでも上げようとこの日は投資家向けセミナーで講演を引き受けた。
お金について調べてると今ってちょうど仮想通貨みたいなものが生まれようとしてるんですねインターネット上で。
更に別の漫画家のためには書店に並べるポスターに工夫を凝らす。
圧倒的に目を引くよう特殊なグラフィック技術を使ってリアルさを追求した。
そして通常営業担当が担う全国の書店回りも行い直接作品のPRに奔走する。
ありがとうございました。
ありがとうございます!何かございましたら…。
はいよろしくお願いします。
ヒットを目指す上での信念がある。
ささいなアイデアでも機敏に実行するために佐渡島は大手出版社を辞めこのベンチャー企業を立ち上げた。
担当するマンガが売れなければ収入はない。
シビアなビジネスだ。
だがものを生み出す仕事。
一筋縄ではいかない。
この日契約している一人の漫画家から迷いを打ち明けられた。
46歳。
キャリア20年のベテランだ。
曽田は今年5月から新作マンガを連載している。
大人向けのファンタジーを目指した作品だ。
主人公は心が優しく争いが苦手な王子ツナシ。
そのツナシが仲間と共にさまざまな敵と戦いながら成長していく姿を描いている。
だがその主人公をどう描くべきなのかここに来て迷いが生じているという。
今回の仕事佐渡島とタッグを組みたいと持ちかけたのは漫画家の曽田の側だった。
曽田の代表作「昴」。
天才的なバレエの才能に恵まれた少女の闘いと成長を描き話題をさらった作品だ。
だがその後自分の作風に行き詰まりを感じ殻を破らねばという危機感に駆られるようになった。
思い切って新たなジャンルに挑戦すると決め手助けを佐渡島に求めた。
連載を始めるまでの1年曽田が考えた提案は佐渡島から容赦なく突き返された。
主人公の描き方に迷いが生じてから1か月が過ぎようとしていた。
毎週の連載は順調に出ているものの曽田の迷いは続いていた。
曽田は主人公ではなくむしろ他のキャラクターを深める事を考えているという情報が入ってきた。
佐渡島は逃げずに主人公を深めるべきだと考えていた。
だがこの日一本の電話すら曽田にかけようとはしなかった。
優れた作品は才能ある人間が自らの責任で描き切った時しか生まれないと佐渡島は信じる。
だからこそ横から口を出し誰の作品か曖昧にする事を絶対に避ける。
間もなく。
曽田からマンガの下描きネームが送られてきた。
すぐに熟読する。
描かれていたのはいやおうなく敵と向き合う中で覚悟を決めていく主人公ツナシの姿。
佐渡島は難所を乗り越えつつあると確信した。
お疲れさまでした。
は〜いありがとうございます。
佐渡島さんは父親の仕事の関係で中学時代を南アフリカで過ごした。
人種隔離政策の撤廃を掲げたマンデラの大統領選挙の時。
「ピースソング」と呼ばれた何気ない曲が人々の団結を深めている姿に強く心を打たれた。
素朴で何気ないものが誰かの心に力を与える。
それがマンガへの思いに重なるのだと佐渡島さんは言う。
佐渡島さんが出版社を目指したのは日本の大学に在学中の事。
世の中に何か発信する仕事がしたいと考えたからだ。
配属されたのはマンガ雑誌。
いきなりあの井上雄彦さんの担当に抜てきされた。
ベストセラー「スラムダンク」を描いた井上さんが剣豪宮本武蔵の生涯に迫るマンガを世に送り出す仕事。
骨太なメッセージを生み出すものづくりの現場に胸が躍った。
ところが…。
ライバル佐々木小次郎を描く局面に入り井上さんの筆は進まなくなる。
自分の作品づくりに深く苦悩する井上さんのアトリエに通う日々。
佐渡島さんは井上さんの創作を必死で後押ししようと思った。
しかし井上さんはついに描き続けられなくなり1年にわたる連載の休止が決まった。
その夜食事の席で井上さんは寂しげにつぶやいた。
(佐渡島)やっぱり「バガボンド」って作品の事を一番考えてるのは自分なんだよなって事を言ったんですよ。
天才たちが自分の作品に命を懸けているマンガの世界。
中途半端な覚悟で創作をサポートしている気になっていた自分がたまらなく恥ずかしかった。
若く経験もない自分は一体何をするべきか。
悩んだ末に浮かんだのは作品を誰よりも理解しその感動を読者に届けるプロになろうという事だった。
そこに全身全霊をささげる事でしか漫画家と同じ土俵では向き合えない。
入社4年目の佐渡島さんは次のマンガの売り込みに全力をかけた。
人々の関心を集めるにはどうしたらいいか。
予備校などの人気講師とのコラボレーションを考え作品を基にした学習参考書を開発。
すると反響が広がり数年でグングン売り上げが伸びた。
「ドラゴン桜」は600万部のヒット。
だがコツをつかんだと思ったのはつかの間の事だった。
続いて担当した「宇宙兄弟」。
一読してヒットを確信し売り込みに力を入れた。
口コミを地道に広げようと美容室400軒に単行本を配るなど次々と手を打った。
しかし次第に手応えが薄くなっていった。
世の中の空気が分からない。
この10年全力を尽くしてきたつもり。
でも何かが決定的に足りないと思った。
そして33歳の時佐渡島さんは会社を辞めた。
退路を断つ事でしか得られない何かにかけようと思った。
この挑戦がどこに行き着くのか先は全く見えない。
でもヒリヒリする緊張感こそ時代と向き合っている証しだと信じている。
この秋佐渡島は新たな挑戦を始めていた。
まだ無名の漫画家を育てサポートする取り組みだ。
雑誌の連載を持っていない若手の中にも才能を感じる者はいる。
会社を挙げて新人の育成と売り込みに取り組んでいる。
漫画家を育てる上での最大の課題は作品を発表する場をどうやって獲得するかだ。
この日大胆な試みを行った。
新人漫画家をサポートするためある金融会社と組み小さな投資ファンドを立ち上げる。
この若者は5年前佐渡島が勤めていた出版社の新人賞に応募してきた28歳。
この漫画家の作品に興味を持った読者に出版を支える投資を呼びかける。
短編集を出版するために必要な資金132万円が読者から集まった。
せ〜の…。
(一同)羽賀〜!こうした埋もれている才能を世に出すのが佐渡島の大きな目標の一つだ。
(拍手)そのために今あるIT企業と共にとっておきの取り組みを立ち上げている。
マンガをインターネットの上で発表し広めていくための新たなツールの開発だ。
出版社からマンガを出すには多額の費用がかかる。
そのため一定以上売れる見込みがなければ実現は難しい。
だがインターネットなら圧倒的に安い値段で作品を世に送り出す事ができる。
このツールの特徴は作品を手軽に試し読みできそれをクリック一つで読者が周りに紹介できる事。
読者の口コミによって無名の作家でも作品を拡散できるチャンスが広がる。
新たなテクノロジーは出版の在り方を大きく変える。
そこに無限の可能性があると佐渡島は考える。
2週間後。
北海道から一人の漫画家が佐渡島を訪ねてきた。
100枚に上る恐竜を描いた漫画原稿の束を持参していた。
何社もの出版社に原稿を持ち込んだが「雑誌のテイストに合わない」とことごとく掲載を断られたという。
その完成度の高さに佐渡島は開発中の書籍販売ツールでこの作品を売り出す事を決断した。
よろしくお願いします。
じゃあよろしくお願いします。
現在54歳。
かつては大手出版社の雑誌で連載を持っていた実力のある漫画家だ。
しかしそれ以降連載が持てず今は貯金を取り崩しながらマンガを描いている。
菅原の突然の来訪から4日後会議で菅原の事が話題に出た。
だが佐渡島たちが開発しているツールはその思いに完全に応えられるまでにはなっていない。
この日議論になったのは画面上でマンガを読む時左のページが先に見えてしまい読みづらくなっている問題だった。
了解です。
一方で佐渡島たちは菅原のマンガを売り出すための準備を急ピッチで進めた。
パソコン作業が苦手な菅原に代わって原稿のスキャンやセリフの写植を手分けして行った。
10月半ば菅原のマンガの発売に向け最後の詰めが行われた。
この作品にいくらの値段をつけるか。
(佐渡島)そうですね。
これで発売に向けての準備が整った。
菅原のマンガを発表する日を迎えた。
佐渡島による最終チェック。
特設サイトが完成。
カラーの表紙も加わって販売できる状態に仕上がっていた。
(佐渡島)じゃあ公開しましょうか。
いよいよ販売開始。
(クリック音)菅原が思いを込めたマンガが世に送り出された。
(取材者)公開されたんですね。
(佐渡島)公開されて…。
(佐渡島)試し読みをすると…。
買う事ができるんですね。
佐渡島は菅原のマンガを一人でも多くの人に試し読みをしてもらおうとツイッターで告知文を投稿する。
20人に増えましたよ。
出版に革命を起こす見果てぬ夢。
地道な一歩を踏み出した。
「届いてる!」って感じが。
その手応えはむちゃくちゃありますけどね。
佐渡島は作者の菅原のもとに発売開始を知らせる。
菅原の声は少しだが明るくなっていた。
時代を駆け抜ける35歳。
見つめているのは未来だけだ。

(佐渡島)これいいんじゃない。
楽しみ楽しみ。

(歓声)2014/12/12(金) 00:41〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「漫画編集者・佐渡島庸平」[解][字][再]

宇宙兄弟、ドラゴン桜などヒット連発、業界の革命児と言われるマンガ編集者・佐渡島庸平(35)。担当する作品が売れなければ収入なし、崖っぷちに自らを追い込む流儀!!

詳細情報
番組内容
出版不況と言われるなか、「宇宙兄弟」、「ドラゴン桜」などのヒットを連発し、業界の革命児と言われるマンガ編集者・佐渡島庸平(35)。大手出版社の安定した職を捨て、担当するマンガが売れなければ収入がないという“崖っぷち”に自らを追い込んだ男の流儀とは?南アフリカで暮らした中学時代の激動、スラムダンクやバガボンドを描いた天才・井上雄彦との日々は何を教えたのか。最新マンガ創作の舞台裏!!
出演者
【出演】マンガ編集者…佐渡島庸平,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
アニメ/特撮 – その他
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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