佐吉が差配人となってから住人が次々といなくなる鉄瓶長屋
(平四郎)ああ〜!
(小平次)旦那〜!
そこに何か悪だくみがあるのではとうたぐった平四郎は幼なじみの隠密廻り同心井英之介や岡っ引きの政五郎の手を借りて佐吉の生い立ちや湊屋総右衛門を目の敵と狙う岡っ引きの仁平の存在などを知ったのであった
(烏の鳴き声)ああ〜!
(鳴き声)う〜ん!う〜ん!
(小平次)井筒山。
ああ〜!
(志乃)朝から張り切っておいでのようでございましたが。
あっこれか?人間腰の備えが肝心だ。
また痛めたんじゃお役目に差し支えるからな。
これでも本所深川見廻り方町方の旦那だ。
それはそうでございましょうが…。
何だ?いつからそのようにお役目に精進なされるようになったのかと思いまして。
ああ?お役目は気楽が一番だといつもおっしゃってるではありませんか。
そうか?あれはいつでしたか。
そうそう今のお役目を仰せつかった頃の事です。
ため息交じりに当時のお役目だった諸式調掛りの方がよほど気楽でましだと確かにおっしゃいました。
言った?はい。
「諸式調掛りとはそれほどよいお役目なのですか?」とお尋ねしたら「それはそうだ。
海千山千の札差を相手にせねばならない北町とは違って我が南町は野菜や魚の値段の見張りをしておればよいだけだから気楽な事この上ない。
その上食い物の事がよく分かる」。
そういやぁあのお役目を15年勤め上げた時生涯このままでよいって思ったもんだ。
うんそんな事言ったかもしれねえな。
見習いの頃の高積み見廻りも似たようなもんだった。
あれも材木や商家の積み荷が乱雑になってはいないか町を見回りゃよかったからな。
そうでした。
嫁に入った頃「ざっかけない話町に出てぶらぶらしてりゃいいんだ」と伺った事がございます。
だが…次のお役目が…。
町火消し人足検め。
あれはひどかった…。
(鐘)火事とけんかは江戸の花とはいうものの火を見て気が立った町火消し同士のけんかにやじ馬まで加わって大騒ぎだ。
おかげで1年の間に2度も火事場でぶっ倒れて戸板で運ばれた。
人には向き不向きがございます。
それ上役にも言われた。
ですからあまり張り切り過ぎるとまたどなたかの下敷きになって腰を痛めてしまいます。
あっ…。
はいどうぞ。
ですから私はお徳さんの事なんかひと言も…。
いいって気にしてねえよ。
旦那〜。
おや旦那。
お久しぶりでございます。
腰はもう本調子のようでございますね。
おうよ。
おっ相撲でも取るか?よっ!よっ!え〜やめときましょう。
旦那みたいに腰痛めたら年寄りは寝たきりになっちまう。
ああそりゃそうだ。
ありがとよ。
また来るよ。
ご苦労さんです。
お徳のやつ店開けてるぜ。
昨日までは…。
(おくめ)はいお待ち。
おっありがとよ。
はい毎度。
あら旦那。
ここんとこお見限りだったじゃないですか。
見回り怠けちゃ駄目ですよ。
ああ代わりに小平次をよこしただろう。
ところで何やってんだお前。
見て分かんなきゃ言っても分からないってね。
店番に決まってるじゃないですか。
お徳はどうした?幸庵先生んとこ。
起きられるようになったのか。
よかったな。
何言ってるんですか。
お徳さんならとっくのとうに起きてましたよ。
いいかい?あんたは春なんか売らなくたってやってこれたはずなんだ!煮売りだろうが仕立物だろうが青物売りだって何だって。
そうさ!何だってできたはずなのにそれをしないで春を売ってたのはあんたが怠け者だからなんだ!そんな怠け者に商売物の鍋を触らせる訳にはいかないんだよ。
そうだよ。
私ゃ春ひさいで金稼いでた女郎上がりの女だよ。
お徳さんの言うとおり私ゃ怠け者さ。
手前で言うんだから間違いない。
けどね私だってお徳さんみたいに重い物持ったり寝ないで働いたりするのが嫌だったんだからしょうがないじゃないか。
それでもこんな私でもさ心配なんだよお徳さんの体。
床上げしたってまだ本物じゃないんだからさだから…。
余計なお世話だよ。
もうクソカスみたいに言いながらしかたなしに幸庵先生んとこに行ったって訳。
かわいげがないよ本当。
まあそう言うな。
けどお前は人がいいなあ。
あんまり面白くはないけどね。
ただ…。
うん?旦那。
お徳さん私がいなくなったら寂しいと思うよ。
ああしょってるんじゃないんだよ。
加吉さんが亡くなってからこっち独り身だったお徳さんが日がな一日私と一緒にいたんだ。
きっとさみしがるよお徳さん。
そう思うとさ朝起きるとまっつぐここに来ちまってるんですよ。
それでどなられてちゃ割に合わねえな。
本当だ。
フフフハハハ。
世の中の人間がみんなお前みてえだったら御番所も要らねえな。
何言ってんのさ。
世の中の女がみ〜んな私みたいだったら千代田のお城がひっくり返っちまうよ。
ハッハッハッなるほどな。
旦那。
ようお徳。
床上げ済んでよかったな。
旦那ご心配おかけしました。
旦那の方こそもう…。
ああ〜。
そりゃよかった。
もう旦那には迷惑かけちまって申し訳ないなってもうずっと…。
いやよせって。
俺よりおくめがよくやってる。
そうですねえ。
まあ私もすっかりこの人には世話になっちまって。
何言ってんだよお徳さん。
けどだけど私はやっぱりあんたみたいな女大っ嫌いだ!お徳…。
大っ嫌いだから借りを作っておく訳にはいかない。
そんなこっちゃあ鉄瓶長屋のお徳さんの名が廃るってまあそう道々思いながら来たとこなんですよ。
えっ何?おい…。
おくめさん。
はい!?あんただっていつまでも体売って世渡りしていく訳にはいかないはずだ!あんな商売ばばあになったらおしまいさ。
男だってばばあのあんたなんか相手になんかしやしない!そんなこたぁ百も承知二百も合点のはずだ。
だから何さ。
だからね世話になったお礼に私はあんたに煮物屋のいろはを仕込んでやろうと思ったのさ!鉄瓶長屋のお徳さん秘伝の煮物だ。
永代橋渡ってでも買いに来るお客だっている煮物だよ。
そのコツを教えてやろうってんだ。
ありがたく思いな!旦那。
えっ?それと長屋の衆。
(一同)へい。
みんなが証人だ。
今日からこの人は私の弟子だからね。
いいね?そいつはいいや。
なあ。
(佐吉)そうでしたか。
そりゃあよかった。
お徳の気持ちおくめも分かったようだ。
あの2人ならうまくやってけますよ。
お前も仲に入って大骨を折ったかいがあったってもんだ。
・
(佐吉)長屋の人たちがうまくいきゃあ俺はいいんです。
差配人はつらいねえ…か?こいつは?ああ。
こまごまとした修繕が途切れなくありますからね。
夏前には井戸さらいもしないとなりませんし。
月々どのくらい金が出ていくのか調べてるんです。
後に来る人のためにもちゃんとしておかないと。
後に来る?俺はつなぎの差配人ですから。
そうか。
そんなふうに考えてる訳か。
…えっ?実はなお前には悪いと思ったがちょいとお前の事を調べさせてもらった。
平四郎は湊屋総右衛門の女房おふじと亭主の暴力から湊屋に転がり込んできた姪で佐吉の母親の葵との仲がこじれ葵が佐吉を置いて湊屋を出奔した事。
岡っ引きの仁平と総右衛門の過去のいきさつなど調べた事を洗いざらい話した
(仁平)湊屋には店子を追い出したい事情があるんだ。
それが何なのか必ず突き止めてやる。
俺はお前の事は心配してねえ。
ただ仁平の事は気になるからな。
お気遣いありがたい事です。
湊屋の旦那も仁平親分の事についちゃあ用心してましたから。
総右衛門も仁平の怖さを知ってるって訳だ。
承知しておられます。
「承知しておられます」か。
…えっ?総右衛門はお前の大叔父なんだろう?水くせえんじゃねえか?子どもの頃には一つ屋根の下で仲良くしてた間柄じゃねえか。
昔は昔今は今です。
堅いね随分。
それほどよくしてくれた旦那を俺のおふくろは裏切りました。
許されない事です。
そうか?おふくろさんは総右衛門の事を信用していたからお前を残して飛び出したんじゃねえのかい?旦那らしいや。
あ?旦那なら腹が立たないのかな。
困っているところを拾って養ってやっていた姪にガキ押しつけられて後足で砂引っ掛けられたんです。
おいおい穏やかな言い方じゃねえな。
旦那のお調べはほんの少し足りません。
…足りない?俺のおふくろは湊屋を飛び出す時にお店の金を盗んでます。
しかも湊屋の旦那が将来を見込んでいた若い手代と手に手を取って駆け落ちしたんです。
本当か?俺のおふくろは恩知らずでさもしい男好きの女でした。
ですからおふくろがいなくなったあとおかみさんには随分つらく当たられました。
当たり前ですよ。
本当ならおかみさんにたたき出されたって文句が言えなかったんですから。
総右衛門のかみさんのおふじだな?ですが湊屋の旦那がとりなして下さり俺は植木職人として自分の口くらい自分で養えるようになりました。
だからこそほとぼりが冷めて鉄瓶長屋の差配人のなり手が見つかるまでなんとか頑張ってくれないかと言われた時せめてもの恩返し一も二もなく引き受けたんです。
なのに次から次と店子をしくじっちまって…。
けどな佐吉例の八助たちの壺信心だが2年ほど前上方から湊屋に伝わったって話がある。
えっ…。
今じゃ誰も覚えてないようだが…。
となるとだ八助たちの壺信心騒ぎを湊屋が仕掛けたとは考えられねえか?…で仁平もそれを知って食らいついてきた。
どうだ?そいつは旦那の思い過ごしですよ。
第一湊屋の旦那にここの店子たちを追い出す訳なんてありゃしません。
もしあったとしてもそんな遠回しな手を使う必要なんかないんじゃありませんか?まあまあそう言われりゃそうなんだ。
けどな…。
数日後の事
(みすず)おじさん。
聞きたい事があるのですけど。
へっ?また家移りかい。
おじさん!
(弓之助)ではおくめさんが煮売り屋として独り立ちでもしたらそのうち家移りして別の場所で商いを始める事になるのでしょうか。
そうか。
煮売り屋は2軒も要らねえな。
という事は佐吉さんはまた一人店子を失う事になります。
うへぇ〜。
(弓之助)あれ?どうした?
(一同)し〜っ!し〜っ!何だ旦那じゃないか。
「何だ」ってご挨拶だな。
一体どうしたってんだよ。
佐吉がどうかしたのか?お客が来てるんですよ。
それがね旦那…。
うるさいわね!そんなに見物したければ入ってくれば?あ…八丁堀の旦那ですか?ああ。
佐吉。
八丁堀の旦那がお見えになったわよ!そんなに私が誰か知りたいなら教えてあげる。
私みすず。
湊屋の娘よ。
(ざわめき)うへぇ〜!旦那が南町の井筒の旦那でございますね?ああそうだ。
(長助)ゆ〜みさん。
はい。
えっ?あっちょちょ…。
ところであんた1人で来なすったのかい?ええそうです。
それが何か?ああいや別に叱ろうってんじゃないんだ。
水を一杯もらいてえんだが中入れてくれるか?あらどうぞ。
てな訳なら私たちも引き揚げようよ。
お嬢さんとんだ失礼をば致しました。
あっ大変!俺たちも行こうか。
そうだね。
(みすず)つまんないの。
お嬢さん…。
ああ〜。
それでお嬢さん佐吉に何の用があって来なすった?ただ会いに来たんでございます。
一遍会ってみたかったから。
旦那。
お嬢さんは俺をからかいにお見えになったようで。
そんな事はないわ。
私は人をたばかったりは致しません。
お隣よろしい?ああ。
ああ〜!ああ…。
これだからお一人で出歩くのは危ないんです。
ありがとう。
ああ〜やになっちゃう。
せっかく気取ってたのに。
ブブッ…。
もうそんなに笑わないで下さいまし。
お嬢さんはこれがないと何にも見えないんです。
そうか。
あんた近目か。
そうなんです。
8つの時からずっとかけていて。
そのために長崎まで行ったんですから。
えっ長崎ですか?そうなの。
そりゃ偉えもんだ。
旦那感心してちゃいけません。
今頃湊屋では青くなってお嬢さんを捜してるに決まってます。
まだ平気よ。
おもんは私が踊りの稽古をしてるって思ってるんだから。
お供の女中かい?おもんはいつも私を送り届けるとお稽古が済むまで用足しに回るんです。
だからその隙に駕籠屋さんに小粒を渡してここまでとっととやって来たって訳なんです。
だからって早く帰るにこした事はありません。
まだ来たばっかりじゃない。
まあまあまあ…じゃあこうしよう。
小平次。
これからお前は湊屋に走るんだ。
それでなお嬢さんは無事だから踊りの稽古は休んじまったが今どこにいるかは分からなくても必ず帰るから心配はいらねえ。
鉄瓶長屋にいるって言ってもらってもちっとも構いません。
だからそのとおりに言ってちょうだい。
うへぇ〜。
困るんだよな〜。
どうして?いいじゃない佐吉が困る事なんか何にもないのよ?・甘い〜!甘い!うん?弓之助長助甘酒好きか?はい!大好きです!おいらも好〜き。
私も大好き!佐吉と行ってこい。
暑い時は固練りの甘酒に限る。
長屋のみんなにも俺のおごりだ。
振る舞ってやれ。
はい!けど旦那…。
ああいいから行ってこい。
甘い甘酒!
(佐吉)甘酒屋さ〜ん!はいよ!井筒の旦那が甘酒を振る舞ってくれますよ〜!井筒の旦那が甘酒を振る舞ってくれます。
本当かい?甘酒を振る舞ってくれますよ。
さてとこの旦那に教えてくれお嬢さん。
あんたここに本当は何をしに来た?ですから本当に佐吉に会いに来たかっただけです。
うちではお父っつぁんもおっ母さんもしょっちゅう佐吉の事を話してるから。
しょっちゅう…。
それは差配人の久兵衛が姿をくらましてから後釜に佐吉がやって来てからこっちの事かい?先から話は出てたけれど佐吉のおっ母さんがうちのお父っつぁんの姪なんでしょ?葵さんって人でうちのおっ母さんと仲が悪くておっ母さんが追い出したような形になったって。
誰から聞いたんだい?お父っつぁんが。
ああ…じかに話を聞いた訳じゃないけど昔話を聞きかじったのを集めるとそんなふうになるんです。
お店の手代とその葵さんが駆け落ちをしたって話は聞いた事ないかね?…ありません。
そうなのですか?ああいやいやなきゃいいんだ。
今の話は忘れてくれ。
何で佐吉はあんな事を…。
どうにもこんがらがってきちまったなあ。
(みすず)私お父っつぁんもおっ母さんも大嫌いなんです。
うん…。
うん?何て言った?今。
お父っつぁんは私をよそ様に贈る人形みたいに思ってるしおっ母さんは私の事葵さんに似てるからって憎んでる。
あんた葵さんに似てるのかい?らしいんです。
お父っつぁんも言ってたし久兵衛だってそう言ってました。
久兵衛が?そうかい。
あんたが葵さんとね。
そんなこんなで私もう湊屋にいたくないんです。
西国に嫁に行く話だってお父っつぁんが勝手に決めた話だし。
本当は嫁になんか行きたくありません。
そうは言ってもなあ。
私の気持ちなんてほったらかし。
本当お父っつぁんもおっ母さんも大っ嫌い!だから私2人ともぎゃふんと言わせてやろうと思って。
旦那それで私佐吉に会いに来たんです。
あ?どういう意味かな?佐吉の事確かめて気に入ったら私ここにお嫁に来ようと思って。
佐吉に私をお嫁にしてもらおうと思って。
し〜っ!あっ甘酒?あっいやそれ俺が飲んだ…。
あ…。
うわっおいしい!・よいしょ!はいよっ!
(総右衛門)みすずのいたずら好きにも困ったもんだ。
だがまあ好き勝手できるのも今のうちだからね。
では…。
よろしくお願いしますといくらか握らせてお帰り願えばいいだろう。
承知致しました。
へえ〜。
じゃあ向こうの番頭は驚かなかったんだな。
縁談がまとまってるんだから勝手になすっても構わないと。
まあそんな事を…へい。
そんな事を平気で言うのは房吉だわ。
房吉?お店の事じゃなくてお父っつぁんの御用だけを言いつかる男なんです。
あの男は好かない。
以前佐吉さんの事でやって来たあのほら番頭です。
あのな…。
はい?ああ〜あいつか。
(烏の鳴き声)
(長助)おいで〜おいで〜。
烏を飼ってるの?官九郎っていうんです。
面白い!やっぱり今日は思い切ってやって来てみてよかったわ。
佐吉の事をかわいがって下さる井筒の旦那にもお会いできたし。
弓之助さんや長助さんたちとも知り合えたもの。
はい!は〜い!けど旦那。
こんなにお引き止めしてしまってお役目に差し支えるんじゃありません?俺か?いいんだ。
どのみち気合い入れて見回りしてる訳じゃねえんだから。
(みすず)はい?いいかい?お嬢さん。
例えば俺が見回りに出て止める事ができる争い事なら誰でも止められる。
ひっくり返してその場にいたやつらがみんな止められないもめ事なら俺がいたってどうしようもねえ。
だから俺はいたっていなくたって同じって事だ。
井筒様って本当に面白いお役人様だわ。
ねっ佐吉。
あっあ…。
ち…近いです。
私また来ます。
佐吉の事も本当に好きになっちゃったみたいだもの。
よっ!えっほえっほ…。
何だか急に寂しくなりましたね叔父上。
ああ。
でどうする?佐吉。
えっ?あのお嬢さんを嫁にするか?からかっちゃいけませんよ旦那。
いやあの子はその気だぜ。
縁談が嫌だからお前と駆け落ちしようって事じゃねえのか?なあ?えっあっいや私にはねえ…。
アハハエヘヘ…。
えっほえっほえっほ…。
旦那。
湊屋のお嬢さんは俺にとって主人筋のお嬢さんみたいなもんなんです。
そこまでへりくだる事はねえだろう。
お前だって湊屋の身内だ。
お前の事だって湊屋では話に出てるとあの娘は言ってた。
二親が気にする佐吉って男がどんな野郎なのか確かめに現れるぐらいしょっちゅうにな。
湊屋さんは俺の事じゃなくて鉄瓶長屋が心配なんですよ。
そもそも俺をここによこしたのは失敗だったと思ってるかもしれません。
おいおい…。
しかたありませんよ。
俺はあんなおふくろの子ですから。
あんなってどういう事ですか?佐吉はなおふくろさんが湊屋から金を持って逃げた上に手代と駆け落ちしたって言うんだよ。
その話どなたに聞いたのですか?当時佐吉さんは私より小さかったんでしょ?弓之助の言うとおりだ。
俺も不思議でならねえ。
佐吉。
お前その話誰に吹き込まれた?吹き込まれた?妙なおっしゃりようですね。
だってよ俺が調べた限りそんな話は出てきてねえ。
だから旦那のお調べは…。
言っとくが調べたのは俺じゃねえ。
隠密廻りだ。
隠密廻り?連中はな調べろと言ったら湊屋総右衛門の使っている厠の落とし紙の値段まで調べてくるぜ。
その隠密廻りがだお前が10歳の年の秋葵が置き手紙を残して湊屋を出たって話以上の事は拾ってこなかったんだ。
それは湊屋の守りが堅いからです。
駆け落ちなんて外聞のいい話じゃありませんから。
どうかねえ?隠密廻りが拾ってきた葵が湊屋を出た訳は2つだ。
おふじにいびり出されたってうわさといまひとつはよそに男ができたからってうわさだ。
佐吉よ。
湊屋の守りが堅いならこんなうわさだって出てくるはずがねえんじゃねえのか?どのみち外聞のいい話じゃねえぜ。
けど手代と駆け落ちする話よりはましでしょう。
だがみすずはおっ母さんと葵の折り合いが悪かったんだと言ってた。
つまりそう聞いてるって事だ。
聞きかじっただけの話ですよ。
当てになんかできやしない。
あっあの…。
何だ?佐吉さんはどうしておっ母さんが金を盗んで手代と逃げたかって話にそんなにしがみつくんですか?坊ちゃん俺は別にしがみついてる訳じゃあ…。
だったら聞こう。
(佐吉)何です?お前の言うとおりだとすればだ奉公人たちが気付いてるはずだ。
昨日までいた手代が急にいなくなったんだからな。
葵と手代が駆け落ちするくらいの間柄なら奉公人たちの誰かは知ってたはずだ感づいてたはずだ。
それをどう丸め込んだんだ?奉公人にとっては主人の言う事は全部正しいんです。
そんな事旦那だってお分かりでしょう!?そうかいそうかい。
佐吉。
何です?だったらその手代の名前を聞かせろ。
何て名前だ?どんな男だ?…松太郎っていって当時確か25歳の…。
よしだったら調べてみようじゃねえか。
旦那よしましょうよ。
ここで俺と旦那が言い合ったってしかたがねえ。
20年近く前のどうでもいい話なんですから。
どうでもよくなんかねえ。
こういう事はちゃんとしといた方がいいんだ。
でなきゃ今の暮らしに影を落とす事になる。
現に今のお前はそうなってるじゃねえか。
お前は頭もいいし気性もいい。
そんな一人前の男のくせにおふくろさんの事ではうじうじとしちまってまっつぐ前を見ようともしねえ。
旦那…。
しまいまで話は聞け。
いいか?湊屋の息子たちは親父の後を継ぐ器じゃねえと専らのうわさだ。
だったらお前がみすずと一緒になったっていいんだ。
子どもの頃のお前は跡継ぎ同然の扱いを受けてたんだからな。
そんな…夢みたいな話。
夢なんかじゃねえ。
あのみすずだって湊屋の男連中に愛想が尽きたからお前に会いに来たんだ。
あの娘は本気だ。
もうやめてくれ!すいません旦那に向かって。
気にするな。
俺は年中無礼講の男だ。
にいさ〜ん。
何でもねえよ。
寝てな。
平気ですよ。
旦那俺はおふくろの事をずっと…ずっとひどい…恩知らずだと教えられてきました。
だから俺は…おふくろみたいないい加減な人間だけにはなるまい。
なっちゃならねえと…。
恩を仇で返すような人間にだけはなっちゃならねえって…。
そう思って生きてきたんです。
だから…だから…。
一体全体誰なんでしょうか?何が?佐吉さんにおっ母さんである葵さんが金を盗んで手代と逃げたなんて話を吹き込んだ人は。
あ…。
佐吉さんが湊屋さんに負い目を感じて「はいはい」と何でも指図を受け入れるようなそんな人生を歩ませようと仕込んだ。
…という事ですよね?許せません!そのような事。
バカ野郎。
えっ?ガキのくせにしたり顔で何か言ってるんじゃねえ!
(雷鳴)あっ。
(すすり泣き)こりゃ来るな。
おい…。
私は…私は…。
負ぶされ。
俺はこういう話が好きじゃねえんだ!人に鼻っ面を振り回されるほどやな人生はねえ!佐吉の人生を弄ぶ野郎がいる事に勝手に腹を立てたもんでな!すまんお前が悪いんじゃねえんだ!うわ〜!にいさ〜ん!大丈夫。
大丈夫。
お前には俺がついてる。
なっ?ああ〜もう全くもう…。
ちょっと貸してごらんよ。
えっ?いいかい?ほらこうやんだよ。
ちょっとどいてごらん。
難しいねえ。
そうかい?やるだろ?そしたらここから…。
ほら優しくこれでいいんだよ。
はい焼いとくれ。
あんた落っこっちまうよ。
こっちだよ。
ああ〜。
お徳さん。
何さ?ありがとね。
ヘッ何言ってんだい。
お父っつぁんは知ってるんでしょ?私が佐吉の所に行った事を。
(おふじ)お前佐吉の所に行ったのかい?
(みすず)そうよ。
いい人だったわ。
私お嫁になってもいいと思ったもの。
(おふじ)なんて事をお言いだい。
あんたは嫁入り先が決まってるんじゃないか。
いいかい?佐吉はねあの女の子どもなんだよ。
何考えてるか分かりゃしないんだよ。
よしなさい。
顔が似てると思ったら気性まであの女に似てきて…。
よせと言ってます。
(雷鳴)困ったもんだ。
みすず。
何?井筒様はどんなお方だった?ヘックシュッ!あ〜。
お風邪でも召しましたか?ああ〜ずぶぬれになっちまったからな。
弓之助平気か?あ…はい平気です。
今夜は泊まっていけ。
いえ私は…。
お徳の下敷きになった事を女房殿に話したのはお前だろう。
泊まってけ。
・どうかなさいました?弓之助が今夜は泊まっていくそうだ。
河合屋から使いが来たらそう言って帰してやれ。
よいのですか?弓之助。
いえ私は…。
いいから男同士一緒に寝ようぜ今夜は。
でもその…え〜。
寝小便なら平気だ。
うへぇ〜。
俺はぬれたって構わない。
叔父上…。
・ああ〜!・やりやがった!置いとくよ。
ごちそうさま。
どうもありがとうございました。
はいいらっしゃいませ。
おい!はい!いらっしゃいませ。
茶を1杯くんな。
はいお茶1杯!へい茶1杯な!ありがとうございました。
ここに置くよ。
どうぞお気を付けて。
あっいらっしゃいませ。
茶もらおうか。
茶。
茶1杯だ!
この日を境に鉄瓶長屋を巡る物語は風雲急を告げる。
平四郎は考えていた。
珍しく考えていた。
面倒極まりないあれこれの行き着く先はどこなのか
どうした?豆腐屋さんが家移りする事に。
あ〜あ何だってこう辛気くせえ話ばっかり続くかねえ!佐吉さんの事ですよ。
あれはろくでもない男なんだよ。
久兵衛はこれから何が起こるかを全て知っていてお徳を操ったって事だ。
何十年も前の恨みをいつまでも引きずるなんて芸当はなまはんかな根性でできる事じゃねえ。
鬼ごっこは必ず終わる!フランスが誇る世界遺産モン・サン・ミシェル。
2014/11/26(水) 01:40〜02:25
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら(6)「過去から迫る闇」[解][字][再]
宮部みゆきの傑作時代劇人情ミステリーをドラマ化。江戸深川の鉄瓶長屋から次々と店子が姿を消してゆく。この不可解な事件を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎が暴いてゆく。
詳細情報
番組内容
佐吉(風間俊介)は、母・葵(佐藤江梨子)の失踪は、湊屋の手代との駆け落ちの末であると信じ、そのことに強い負い目を抱いていた。ある日、湊屋総右衛門の娘・みすずが長屋に押しかけてくる。西国の大名に嫁入りが決まっているみすずは佐吉を気に入るが、佐吉は主人筋の娘だと取り合わない。佐吉の湊屋に対する卑屈な態度に、何者かに生きる道を仕込まれたと感じた平四郎(岸谷五朗)は珍しく怒りをあらわにするのだった。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,加部亜門,秋野太作,志賀廣太郎,松坂慶子,六平直政,須藤理彩,音尾琢真,鶴見辰吾,佐藤江梨子,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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