歌手の和田アキ子さん。
そして落語家の桂歌丸さん。
2人が今、闘っている病気とは。
それは肺の機能が低下し呼吸が困難になる病気COPDです。
主な原因はたばこの煙などに含まれる有害な微粒子。
ことし、世界3位の死因になっていることが明らかになりました。
今、中国でも患者が急増。
PM2.5など大気汚染でさらに拡大するのではないかと懸念されています。
拡大する新たな脅威COPD。
その実態に迫ります。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
今夜お伝えしますCOPD・慢性閉塞性肺疾患という病気の恐ろしさは本人も気が付かないうちにじわじわと進行することです。
せきがよく出る、息切れがする同年代の人と歩くと遅れるなどが初期症状です。
ご覧のように健康な人でも年齢とともに呼吸機能が低下していきます。
肺が次第に侵されるCOPDを放っておくと呼吸機能が著しく低下していきます。
座っていても息切れするようになり呼吸困難のため酸素吸入器が手放せなくなり重症化すると、寝たきり死に至る可能性もあります。
国内では530万人がこの病気にかかっている可能性がありますが実際に治療を受けているのは僅か22万人。
多くの人が病気に気が付いていないか正しく診断されていないと見られます。
COPDの認知度はまだまだ低く3割程度にとどまっているのです。
もともとは慢性気管支炎と肺気腫と2つの別々の病気でした。
同じ呼吸器の病で併発することが多いため2001年に1つの呼び名になったのです。
WHO・世界保健機関のデータでは心臓病や脳卒中に続き世界第3位の死因になったことが明らかになっていまして患者数は世界的に増えています。
発症するリスクが特に高いのが20年以上の喫煙歴のある人です。
見過ごされやすく60歳を過ぎたころから重症化する傾向があります。
早期発見しそして同年代の健康な人に近い生活を送るためにはどんな治療が必要なのでしょうか。
初めにCOPDの実態からご覧ください。
おはようございます。
落語家の桂歌丸さん、78歳。
5年前にCOPDと診断されました。
数メートル歩くだけで息切れするため高座までは車いすで向かいます。
先生の顔がだんだんタカオに見えてきた。
およしよ、気持ちが悪いな。
熱演1時間。
息苦しさが限界に達します。
酸素吸入器を使ってようやく治まりました。
やっぱりこれだけ入ってると調子もちょっと張っちゃいますからね。
若いころから50年以上たばこを吸っていた歌丸さん。
体の異変に気付いたのは10年ほど前。
最初は、かぜに似た症状でした。
専門医の診断でCOPDと分かったのはそれから5年以上、あとのこと。
症状はさらに進んでいました。
なぜ、たばこがCOPDを引き起こすのか。
原因は、煙に含まれる100分の1ミリにも満たない有害な微粒子です。
微粒子が肺の中に入ると気管支が刺激され、炎症を起こし空気が通る気道が狭くなります。
また微粒子は、気管支の先にある肺胞にも影響を及ぼします。
肺胞の内部では肺胞壁と呼ばれる場所で酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換が行われています。
微粒子によってこの肺胞壁が破壊されガス交換ができなくなります。
ひとたび破壊された肺機能は元には戻りません。
強い息切れや呼吸困難に至るのです。
このCOPD診断で分かったときには進行しているケースが少なくありません。
失礼します。
お忙しいところすみませんね。
都内の呼吸器専門病院を訪れた73歳の男性です。
CT画像を見ると男性の肺は広範囲に破壊され肺機能が正常な人の3割に低下していました。
男性はこれまで別の病院でレントゲンの検査を受けたことがありました。
しかし、初期のCOPDはレントゲンでは見落とされることが多いといいます。
COPDには本人の自覚がないまま忘れたころに発症する恐ろしさもあります。
小野寺寿枝子さんです。
2年前、胸の痛みを訴えて訪れた病院で初期のCOPDと診断されました。
今までたばこを吸ったことがなかった小野寺さん。
医師からは亡くなった夫のたばこが原因ではないかと指摘されました。
夫の死去からすでに10年がたっていました。
今、小野寺さんは専門医のもとで治療を受けています。
狭くなった気管支を薬によって広げ症状を抑えています。
さらに今、たばこに加え新たな微粒子の脅威が迫っています。
PM2.5による大気汚染です。
今月初め中国で開かれた呼吸器学会で専門家が危機感を表明しました。
すでにCOPDの患者が4000万人いるといわれる中国。
PM2.5の深刻化とともに患者が増え続けています。
専門医は、PM2.5がたばこによるCOPDの潜在患者の症状を悪化させているためだと見ています。
今夜は、日本呼吸器学会理事で、北海道大学大学院教授、西村正治さんをお迎えしています。
診断をされたときには、すでに重症化している、あるいは正しい診断がされない、それほど気が付きにくい病なんでしょうか?
おっしゃるとおりだと思います。
せき、たんとはいいましても、例えば、たばこを吸ってる方は、もともと、せき、たんが多かれ少なかれあるんですね。
その状態と、じゃあ、病気になったときのCOPDとうんとこう違いがあるかというと、あまりないんです。
そこに境界はないですから、自然と病気になっていくには、そこが気付かれにくいことが一つ。
もう一つは、息切れがとても大事な病気ですけれども、この息切れも、基本的には年を取ってから起こってきますので、皆さん、自分が年のせいで、階段を上れないんじゃないか、あるいは速く走れないんじゃないかと思ってしまう、そのために病気に気付きにくいということが、非常にこの病気の気付かない特徴の一つだと思います。
今のVTRで、ガス交換ができなくなる。
あるいは気道が狭くなる。
しかし、せきが多く出たり、あるいは息切れするような病気としては、ぜんそくなどもあるかと思うんですけれども、実際に肺のどの部分でどんなことが起きているんですか?
この病気は、基本的に肺の末しょうで起こる病気です。
末しょうという意味は、肺は気管があって、気管支があってどんどん枝分かれして、その先に、空気の袋である肺胞があります。
先ほど説明がありましたように、肺胞の壁が壊れるというのが、一つですね。
これは肺気腫と呼ばれるようです。
もう一つは空気の通り道の病気なんですけれども、ぜんそくはこういう比較的、太い気道の病気で、こういう所が炎症を起こして、気道が収縮する、それがぜんそくであるのに対して、この病気はもっと末しょう、つまり枝分かれ、ずっと枝分かれしてから、起こる、我々、細気管支と呼んでおります抹しょう気道と呼ぶんですけれども、そういう所の病変として、気道が狭くなる、分泌物が増える、結果として、肺が息を吐くときに、気道が潰れやすくなる、そういったことが起こります。
ですから肺の末しょうの病気だというふうにご理解いただければと思います。
多くの患者さんの治療にも当たってらっしゃるわけですけれども、一番患者さんが訴えられる苦しみっていうのは、どんなところなんですか?
これは基本的に、労作時息切れといいまして、静かにしているとき、安静にしてると、相当病気が進んでも平気なんです。
ところが、階段を上ったり、あるいは駆けたり、急いだり、急ぎ足で歩いたりすると、息切れを感じます。
どうしてかというと、先ほど言いましたように、肺の抹しょうの病気のために、息を吐こうとしても、勢いよく吐けない。
吐けないだけじゃなくて、空気がそもそも出ていかないという現象が起こります。
空気が出ていかない。
そうなんです。
なぜですか?
それは、末しょうの気道が、息を吐こうとしたとき、特に勢いよく吐こうとすればするほど、その気道が潰れちゃうんです。
そのために、こういう末しょうの気道が潰れちゃうために、その先にある空気の袋の肺胞からの空気が出ていかないという現象が起きる。
これがこの病気の一番大事な特徴で、イメージしたときに、息を普通に吐いて息を吸うのでは問題ないんですけれども、途中まで吐いて、息を吸おうとすると、なんとなく苦しいイメージがありますよね。
それと同じようなことが起こる。
吐ききれない?
そうです。
そういうことが肺の中で起こっているために、息切れが起こる。
ですからこの病気の一番の特徴は、せき、たんと並んで、息切れ、特に体を動かしたときの息が特徴です。
どうやってこのCOPDかどうかというのを診断されるんですか?
これはレントゲン写真でも、病気が進むとある程度、特に呼吸器の先生であれば、推定することはできます。
ところが、病気が比較的軽いうちは、肺の働きを調べる検査法をやらないと、やはりこの病気は診断ができません。
呼吸器の?
そうです。
私ども、スパイロメトリーという検査があるんですけれども、大きく息を吸っといて、勢いよく吐き出す、この検査が、この病気の、疾患の診断のためには、大変重要です。
具体的に何を見てるんですか?肺活量ですか?
スパイロメトリーというのは、大きく2つの指標を見ています。
一つは、おっしゃったように肺活量ですね。
これは肺がどのぐらい大きいか、どのぐらい大きく吸ったり吐いたりできるかです。
もう一つは吐く勢い。
この吐く息を、どういう指標で調べてるかというと、最初の1秒間でどれだけ吐き出せるかです。
最初の1秒間に、はーって吐いたときに、その1秒で吐いた量を1秒量といいます。
その1秒量を肺活量で割った値が1秒率です。
これがこの病気の診断するうえで、大変大事な指標です。
何パーセント吐き出せることができれば大丈夫なんですか?
普通、健康な方ですと、少なくとも70%以上は最初の1秒間で肺活量の70%以上の空気を吐き出すことができます。
それが70%以下になってしまう。
特に診断基準としては、気管支拡張薬を使ったうえで、この検査をやって、70%以下であれば、この病気というふうに、普通は診断します。
そして、自分が喫煙者でなくても、受動喫煙や環境によって、起きる可能性もあるということですか?小野寺さんのように。
先ほどの例にもありますように、間接喫煙というのは大変重要です。
例えば職場ですとか、あるいは自宅でも、たばこ吸ってる方がたくさんいらっしゃる部屋の中には、たくさんの煙がありますから、そういうものでも実際病気になるということが分かっていますし、日本でも、かつては今の中国のように、大気汚染が非常に深刻な時代がありましたから、そういうものの影響というのは、今でも残っている可能性があります。
さあ、どうやってこの病気を早期発見し、そして同年代の健康な方と、同様な生活を送り続けることができるのか。
その治療の在り方、ご覧いただきましょう。
今月、COPDの予防を呼びかける日に合わせある取り組みが行われました。
もっともっと吸って…いっぱい吸って吸って一気にはい、頑張って頑張って頑張ってやめない、やめない、やめない…。
100人を超える市民が専用の機械で肺機能を測定。
肺年齢を割り出します。
頑張れ、頑張れ、頑張れまだまだ、まだですよ。
肺年齢63歳ですね。
それでね肺年齢、高いのもありますし。
正常な人の場合は吸った空気を最初の1秒間でほとんど吐き出します。
これに対しCOPDの疑いがある人はすべて吐き出すまでに長い時間がかかり、最初の1秒間では70%に届きません。
毎日40本たばこを吸っていたこの男性。
もっと吸って、もっと吸ってもっと吸って。
吐く。
ふーっ、どんどん吐くどんどん吐く…、まだですよ。
吐き出した空気の量は36.8%。
肺年齢は95歳でした。
その後、男性は初期のCOPDであることが判明しました。
測定会を行った吹田市民病院の辻文生医師です。
去年は、700人余りを検査し1割を超える人にCOPDの疑いがあることを発見。
治療につなげてきました。
どうぞ。
失礼します。
COPDだと分かったときどう症状の悪化を食い止め日常生活を維持していけばいいのか。
医師のアドバイスを受けながら取り組んでいる人がいます。
長野達人さん、70歳です。
2年前、階段を上るにも息切れが激しくなりCOPDと診断されました。
それまで呼吸が苦しくなるため運動を避けていた長野さん。
このままでは体力が低下し数年で寝たきりになると言われました。
よーい、スタート。
毎日20本吸っていたたばこをやめ、始めたのが運動時の呼吸トレーニングです。
口をすぼめゆっくりと息を吐き出すことで呼吸が楽になるといいます。
長く長く、しっかりふーって吐いて。
長野さんのようなCOPDの患者は呼吸するだけで普通の人の10倍以上のエネルギーを消費します。
いただきます。
そのため欠かせないのが食事療法です。
長野さんは1日2500から3000キロカロリーをとるよう医師から指導されています。
同年代の1.5倍です。
こうした治療を続けて2年。
今では週3回、スポーツジムで汗を流すまでになりました。
肺の症状は変わっていませんが息切れすることは少なくなったといいます。
今の長野さんですけど、呼吸トレーニングを行ったり、しっかり食べたり、そして、運動して、お薬も服用されているということなんですけれども、こうした現状を維持する、なるべく健康な方と同じような生活できるようにするため、一番の鍵はなんですか?
1つは、たばこをやめられた、2つ目が薬物療法ですね、3つ目が今、まさにそうであったように、体を動かすことなんです。
この病気はかつては、静かに、息が苦しいですから、家で静かにしてなさいという指導をしたんですけれども、今は全く考え方が逆で、むしろ体を動かすことによって、食欲も出る、食欲も出ることによって、体の衰弱、維持することになります。
この病気の場合、なぜ、たくさん食べなければならないかというと、呼吸をするのにエネルギーを使うんです。
普通、息を吸ったり吐いたりするときは、そんなにたくさんのエネルギーを使わないんですけれども、この病気の場合には、息を吐くときに力がいりますから、そのためにエネルギーを使う、その分、食べることによって、そして運動することによって、カバーしなきゃならない、そういうことです。
悪循環に入らないようにするということですけれども、COPD、こちらをご覧いただきたいんですけれども、日本の死因の第9位ですけれども、高齢化社会の中で、これからCOPDで亡くなる方は増えると見ていらっしゃいますか?
基本的には、この病気は高齢者が起こる病気ですし、かつての日本の高い喫煙率を考えますとですね、今、仮にやめたとしても、高齢とともに、病気が起こる可能性があるんですよね。
ですから、COPDの死因も増えるだろうと思います。
ただ、それと同時に、もう一つ大変大事なポイントは、今、出ているように、日本では今、肺炎の死因が第3位です。
これも圧倒的に高齢者なんです。
この背景に、COPDが隠れて、診断されてないであるだろうということは、多くの呼吸器の先生が感じていることであります。
その点からも、COPDを早く見つけるということが重要です。
その早期発見ですけれども、早期発見すると、症状の悪化を食い止められるんですか?
そのとおりです。
この病気は、壊れてしまった肺を戻すことはできません。
しかしながら、先ほど申し上げたような薬物治療、運動療法、栄養療法、さまざまな治療を駆使することで、今出ているように、COPDによって起こる肺の機能の低下を、ある程度、抑えることができます。
そのことがとても大事です。
しかもそれは、早ければ早いほど抑えることができますから、早期発見がいかに大事かということを、改めて申し上げたいと思います。
ちょっと喫煙をしていたとか、周りの環境で吸ってしまったんではないかという方には、早く診断を受けてほしいと?
そうですね、ちょっとでも気になることがあれば、やはりスパイロメトリーといって、先ほど申し上げような検査をぜひ受けていただきたいというふうに思います。
2014/11/27(木) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「忍び寄る病〜COPDの脅威〜」[字][再]
長年タバコの煙などの有害な微粒子を吸うことで発症するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。潜在患者は530万人と言われる。早期発見し症状の悪化を食い止めるには何が必要か
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本呼吸器学会理事・北海道大学大学院教授…西村正治,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本呼吸器学会理事・北海道大学大学院教授…西村正治,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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